クウちゃん、はじめてのキャンプに行く
クウちゃんのご飯は、草です。
チモシーという牧草なのですが、うちでは、草と呼んでいます。
乾燥しておりますが、青々としていて、いい香りがします。でも中には、藁のように太くて、かたくて、茶色いのが混ざっていたりします。
クウちゃんは、どうしてなのでしょう?柔らかくておいしそうな草より、その藁が好きなのです。
ひっちゃらげないように、草は、金網のついた入れ物に入れてあるのですが、その藁が欲しくて欲しくて、クウちゃんは、金網と格闘します。
ガリガリガリガリッ
ごんごんごんごんっ
「うるさいよ、クウ」
ガリガリガリガリー
ごんごんごんごおおおん
「クウ、レーズンパンのレーズンだけ、ほじるようなまねしないの」
ガアンガンガアン!!
「クウ!!!」
クウちゃんは、怒られていることは分かります。
だから、ピタッと止まって、お母さん顔色をうかがうように振り向きます。
案の定、口には藁をくわえていました。
「お前は、木枯し紋次郎か」
ポッキーを口だけで食べるように、「ポリポリポリポリ、ポリポリポリポリ」
「お前は、ドカベンのイワキか」
お母さんは、古い人間なので、例えがいちいち古いです。
さて、お兄ちゃんが家に帰ってきたお話しからでした。
びっくりするぐらい太って、目もおかしいし、歩幅は半歩だし、すぐに病院に連れて行って、投薬と静養の毎日です。
お兄ちゃんは、しゃがんで、よくクウを見ていました。手にはレタスを持っています。
でも、クウは警戒態勢を解きません。
「誰だ?こいつ。レタスなんかで騙されないぞ」
クウちゃんは、お兄ちゃんから少し離れた所で、じっとしています。
「クウちゃん」と、お兄ちゃんが呼んでも、「なんで名前知ってんだよ、お前。怖えよ」と、塩対応が続きます。
そんなある日、お父さんが、「クウちゃんも一緒に泊まれるキャンプ場があるから、気晴らしにみんなで行ってみよう」と、言い出しました。
皆で出かけるのは久しぶりです。キャンプ場の風は気持ちよく、木々の匂いが爽やかで、日常から離れ、心が洗われるようです。
この日の為に、お母さんは、クウちゃんに赤いかわいいハーネスを用意していました。
赤いハーネスを身に着けたクウちゃんは、めちゃんこキュートです。
そして、クウちゃんを先頭にみんなでお散歩を楽しみました。
もう戻ろうと歩いていた次の瞬間、突然クウが消えたのです。
「へ?」
クウちゃんは、ふわふわな毛より、思いのほか体は細く、ハーネスから抜け出てしまったのでした。
クウがどこにもいません!
「クウ~~~~~~!」
みんなビックリして大慌て。どうしようどうしよう。野犬に連れ去られたら?大鷲がクウを掴んで飛び去ってしまうかも(たぶん生息はしていないと思いますが)。
みんなで必死に探しまわりました。
そして、木の根元で、はっぱをくわえているクウちゃんを発見!
しかししかしです。いつもは、どてっと寝っ転がっているくせに、こんな時に限ってすばしっこいのなんの。
あっちに逃げ、こっちに逃げ、全く摑まりません。
あのお兄ちゃんが、走り回っています。声をあげて笑っています。
クウとの鬼ごっこは、結局クウの勝利。誰にも摑まりませんでした。え?じゃあ、どうなったのかと思われるでしょう?クウちゃんは、自分でゲージに帰ったのでした。喉が渇いたから。
クウは、「しょうがねえから、今日も遊んでやったぜ」ぐらいに思っていたのでしょうか。
そして、これをきっかけに、お兄ちゃんのレタスも、「しょうがねえから喰ってやるか」と、食べてくれるようになりました。
パク。カリカリカリ。
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