第15話 バブルの狂乱~我が人生の最盛期と危機~

1980年代後半、日本はバブル景気の絶頂期を迎えていた。

土地や株価は青天井に上がり、誰もが豊かさの幻に酔いしれていた時代だ。

そんな狂乱の時代、私、飯藤芳三もまた、その波に乗り、銀行マンとしてのキャリアをさらに高めていった。


バブル時代の日本社会は、まさに「浮かれた時代」そのものだった。

土地の価格は異常に高騰し、街は至る所で再開発が進み、企業の成長は天井知らずの右肩上がり。

銀行はその成長を支えるべく、次々と巨額の融資を行い、私が働く銀行も例外ではなかった。

私のところには毎日のように大口の融資案件が舞い込んできたものだ。


この時期、私は融資課の部長に昇進していた。

部下たちを従え、バブルの恩恵を受けながら、数々の取引を取り仕切っていた人生の最盛期である。

土地を担保にした融資は莫大な利益を生み出し、私の手腕はますます評価されていた。

取引先との接待は毎晩のように行われ、銀座の高級クラブや料亭での豪華な食事が私の日常となっていたくらいである。


「これぞ成功者の証だ」と、私は自分を誇りに思っていた。

周りの人間は私に敬意を払い、私の言葉に耳を傾けた。

私は何でも手に入れることができると信じ、何の疑いもなく自分の道を進んでいた。


そんな中、私が担当した大手不動産会社との取引が転機となった。

彼らは東京の一等地に巨大なオフィスビルを建設する計画を持っており、私の銀行からの巨額の融資を希望していたのだ

私はその案件を即座に引き受け、不動産価格は上がり続けるという信念のもと、大胆な融資を決定し、彼らのプロジェクトを支援した。


しかし、1991年に入り、バブルは突如として弾け、私が信じていたすべてが音を立てて崩れ去る。

土地の価格は急落し、融資先の企業は次々と倒産。

私が手掛けた案件も次々と失敗に終わり、銀行内では非難の声が上がり始める。


これはまずい。

ここで私は一歩先を見据え、状況を冷静に分析する必要があった。

私の責任にされるのは間違いない。

もちろん、私自身の責任を認めるなど、もってのほかだ。

私の決断はあくまで正しかったのだから。

しかし、何かしらの「手入れ」が必要だったのだ。


まず、私は融資の審査過程での書類を慎重に見直した。

次に、部下たちの業務記録を丹念にチェックし始めた。

そして、問題のある箇所を見つけるたびに、それを巧妙に利用する計画を立てた。


ある案件で、部下の一人が提出した報告書に不備があることに気づく。

私はその報告書を即座に引き出し、それを起点にして彼が審査を怠ったとする証拠を集める。

彼が提出した書類を元に、融資のリスクが過小評価されていたことを指摘する資料を作成し、上層部に提出した。


「この案件、実は担当者が重要なリスクを見落としていたようです」と私は穏やかに報告。

「もちろん、私が全体を見ていたわけですが、こうしたミスは業務の一環としてどうしても起こり得るものです」こう言うことで、私は自分の責任を巧みに回避し、部下のミスに全ての責任を転嫁したのだ。


さらに、他の部下たちにも同じ手法を適用した。

彼らの提出した書類や報告書の中から些細なミスを拾い上げ、それを拡大解釈して「未然に防げたはずのリスク」を強調。

これにより、バブル崩壊後の融資失敗の責任を、すべて彼らの怠慢やミスに帰着させることができた。


「問題は現場の管理が不十分だったからだ」と、私は断言。

上層部も、私の冷静で理路整然とした説明に納得せざるを得なかった。

「飯藤部長は状況を的確に捉えている。現場の管理をもっと徹底する必要がある」と、彼らは私の報告を支持した。


その後、数人の部下が懲戒処分を受け、私は何事もなかったかのように、さらなる高みを目指し続けることができた。

私のウルトラCである。

「これで良し」と、私は心の中で呟いた。

バブルが弾けたとはいえ、私の判断は正しかったし、責任は部下たちにある。

私はこれからも、この正しい道を進んでいくだろうと信じていた。

銀行の未来も、私自身の未来も、まだまだ明るいと確信していた。


私、飯藤芳三は、バブル景気という狂乱の時代を駆け抜け、その崩壊による余波を見事に潜り抜けた。

人生最大の危機であったが、私はそれをはねのけた。

失敗が訪れようとも、それは私のせいではなく、他人のせいなのだ。

すべてが崩れ去った今でも、私の信念は揺るがず、それからもその道を突き進んでいったのである。

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