第12話 オイルショックと内助の功~妻の強さが支えた我が出世~
私、飯藤芳三が銀行の融資課課長代理としてバリバリ働いていた昭和48年のこと。
世界はオイルショックの嵐に見舞われ、日本経済もその影響を受けて混乱の只中にあった。
燃料の価格は急騰し、物資の不足が日常の風景となり、人々は生活必需品の確保に奔走していた。
そんな中で、私の妻、幸枝は家庭を守るために奔走する女傑であった。
私が仕事で忙殺されている間、幸枝は家庭のために必要な物資を確保するべく、その強靭な意志と行動力を発揮していた。
ある日のこと、私は銀行での業務に追われていた。
オイルショックの影響で企業からの融資の申し込みが急増し、その審査に追われていたのだ。
私の檄に混乱する部下たちはすくみあがり、上層部からのプレッシャーも日に日に増してゆく。
企業からの接待や裏金の話も、相変わらず私の手の中にあった。
だが、私はそんな状況でも冷静に、そして抜け目なく業務をこなして後は部下に任せていつも七時には帰宅の途についていた。
私は家庭を大事にする男なのだ。
帰宅が九時になったり十時になったりしたのはいつも行く飲み屋へ挨拶がてら一杯か二杯引っ掛ける必要があったからである。
その日も仕事を終えて夜の街をパトロールして帰宅すると、玄関先で見慣れぬ光景が目に飛び込んできた。
妻の幸枝がトイレットペーパーの山を築いているのだ。
「おお、幸枝!これは一体どうしたんだ?」と尋ねると、幸枝は誇らしげにこう答えた。
「オイルショックでみんなが必死こいてトイレットペーパー求めとるなかで、うちは他の主婦を出し抜いてこれだけ確保してきたんやて」
詳しく話を聞くと、幸枝は近所のスーパーで長蛇の列に並び、店の開店と同時に猛ダッシュ。
なんと、他の主婦たちを殴り倒し、トイレットペーパーを手に入れてきたという。
「ウチはウチのやることやっただけだて」と、彼女は涼しい顔で言った。その姿を見て、私は心の底から幸枝を誇りに思った。
しかし、幸枝の活躍はこれだけでは終わらなかった。
ある日は米や砂糖、洗剤といった必需品が軒並み品切れになっていた時、幸枝はまたもやスーパーに出向き、ここでも並外れた女傑ぶりを発揮した。
幸枝は他の主婦たちを押しのけ、必要な物資を次々とカートに詰め込んでいったのだ。
ある主婦が文句を言おうものなら、その場で一喝し、睨みを効かせて黙らせるという有様だったという。
「ウチがやらな、誰がこの家を守るん?」と、幸枝は言い放った。
その強さと決断力には、ただただ感服するばかりであった。
彼女の行動は決して無謀ではなく、全てが計算された上でのものであった。
さすが戦後の岐阜の闇市で効き目が薄い石鹸や体に少々悪く後遺症がややある闇酒を売って財を成した岳父の娘だ。
幸枝の猛女ぶりは家庭内でも発揮され、日常生活においても彼女の影響力は絶大であった。
私が仕事に専念できるのも、全ては幸枝の内助の功あってこそである。
銀行の業務がどれほど過酷であろうと、家庭が安定しているおかげで、私は最高のパフォーマンスを発揮することができた。
オイルショックという困難な時代に、私は仕事での成功を続け、幸枝は家庭を守るために戦った。
私たち夫婦の絆は、そんな状況下でもさらに強くなった。
幸枝の内助の功がなければ、私の成功はあり得なかったと断言できる。
この時代、私たちはそれぞれの場所で最善を尽くし、家庭と仕事の両方で勝利を収めた。
幸枝の女傑ぶりと私の怜悧さが、最強のタッグを形成し、困難な時代を乗り越える力となったのだ。
こうして、私は銀行での地位をさらに固め、幸枝との家庭生活も充実したものとなった。
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