第5話 沸き立つ反骨精神2~我が大学時代の安保闘争~
我々がデモへ初参加したのは6月15日。
日比谷公園に集合し、我々の大学の学生を含めたデモ隊は「安保、反対」「安保、反対」とシュプレヒコールを上げながら国会議事堂へ向かった。
国会議事堂前の周りは安保反対を叫ぶ群衆でぎっしり。
我々の大学の自治会は安保闘争で中心的な役割を果たしている全学連主流派に属していたため、私たちはその全学連の主流派のデモ隊に加わって、国会議事堂の門の前まで行進した。
国会議事堂の門はかたく閉じられてバリケードとしてトラックが駐車し、無数の警官が待ち構えていたが、全学連主流派の学生たちはひるまない。
何と前方の連中は門を破壊して中に突入しようとしているではないか。
こりゃ面白くなってきた!
私はだんだん事態が愉快な方向に向かってきたと興奮したが、一緒に連れてきた中島と澤村は元々デモに乗り気ではなく、帰りたそうなそぶりを見せている。
バカモノどもが、貴様ら主人を置いて逃げる気か?我ら主従死なばもろともだ。
私は後ろから不忠義者二人を交互に小突き回しながら、続々国会議事堂構内になだれ込む学生たちの後に続いた。
警官隊が放水を始めると、私は二人を盾にして水を防ぎ、勇敢に前進。
しかし今度は大勢の警官隊が警棒をふるって学生たちの制圧に乗り出してきたのにはまいった。
三十六計逃げるに如かずだ。
私は殿をさせるために中島を警官隊の方に突き飛ばし、百メートルを十秒台で走る俊足を生かして撤退した。
危ないところであったが、実に血沸き肉躍る冒険だった。
しかし、この頃から情勢を見るに敏だった私はいくら反対しても安保改定は覆らないだろうと判断し、これ以降安保闘争にかかわるのをスッパリやめた。
私は元々竹を割ったような性格で、頭の切り替えが早いのだ。
それにひきかえ串田は何ともあきらめの悪い、女の腐ったような奴だった。
あのデモで樺美智子とかいう東京大学の女学生が死んだから、虐殺に抗議しようとか言って、まだ続けるつもりだったのだ。
冗談じゃない。
そんな会ったこともないような他校の女のためになぜ時間を割いてやらねばならんのだ、知ったことか。
そう答えてやると、私のことを冷血漢だの、仲間を盾にして自分だけ逃げた卑怯者だの言われなき罵詈雑言を浴びせてきよったから鉄拳をくれてやった。
私はボクシングもかじっていたのだ。
先輩だからってあんまりうるさいと許さんぞ。
殿を任せていた中島と、知らない間に姿を消していた澤村は何日かしてから学校に現れた。
情けないことに警察に捕まっていたらしい。
二人とも「飯藤のせいでひどい目に遭った」と盛大に私の陰口を叩いていることが耳に入ってきたので、警察とどっちが怖いかわからせてやろうと思っていたが、中島の方はほどなくして大学を退学してしまった。
警察に捕まったことを知った父親に学校を辞めさせられ、家業の造り酒屋を継がせるために実家の新潟に呼び戻されたと聞く。
澤村は捕まった際に警官に暴行された恨みから学生運動に傾倒、私を目の敵にするようになった串田たち安保バカとつるみ始めたからお仕置きできなくなった。
おかげで新たな授業の代返要員を探さざるを得なくなったのは腹立たしい。
やはり学生は学生らしく、学生運動などのような火遊びをしてはいかん。
私は清く正しい学生生活に復帰した。
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