第3話 激動の門出~我が大学受験と時代の荒波~
部活に色恋に、大いに青春を満喫していた私も、進路を決めるべき高校三年生となる。
父は東京都内にある某私立大学の経済学部へ行けと言い、私も特に何かやりたいこともなかったのでとりあえずそこの大学を受けることにした。
私は野球部や悪い連中との火遊びばかりやっていたわけではなく、勉強もそこそこできる文武両道だったのだ。
授業は不真面目だったし宿題ももっぱら他人にさせていたが、私は試験になるとめっぽう強い。
高得点を挙げるためなら手段を選ばなかったからな。
おかげで学年でも成績は上の下くらいだった。
しかしその成績でも父の勧める某私立大学に入るには厳しいと、進路指導の教師には言われていたから不安だったが、「お前なら大丈夫だ」と父だけは太鼓判を押してくれていた。
父は私の実力を信じてくれていたのだ。
そう、父は分かっている。
私が普段あまり勉強をしないのは、試験で本気を出して着実に成果を上げることができるので、その必要を感じないからなのだ。
しかし、いざ受験当日を迎えて最初の科目は英語であったが、試験に臨んでみると自力で半分しか解答できやしない。
だがそんなことは学校の試験でもしょっちゅうだ。
いつも冷静な私はあせることなく、学校での試験と同じく2.2という持ち前の高い視力を生かして周りの受験生の解答を参考にしたが、この日に限ってどいつもこいつも私の半分も解答できていない役立たずばかり。
カンペを面倒くさがって作ってこなかったのも悔やまれたが、そうこうしているうちに時間だけは着実に過ぎ、解答用紙は壊滅的なまま試験終了。
そうは言っても英語はダメだったが、まだ二科目ある。
だが、他の二科目においても周りの奴らは英語同様役立たずで頼りになりやしない。
全く、大学受験だぞ、ここは!
勉強しないなら試験受けに来るなバカ者どもが!
終わった。
いつもと勝手が違いすぎだ。
この有様ではどう考えても合格できるわけがない。
私はそれまで味わったことがないような絶望を感じたのを覚えている。
だからすっかりあきらめていたが、結果は見事合格。
「だから大丈夫だと言っただろ」
父のその一言で、父はあらかじめ大学側に手を回してくれていたのだと私は悟った。
そうならそうと始めに言ってくれればよいのに。
分かっていりゃあ受験会場からの帰り道で、私の隣に座っていた役立たずの一人を腹いせに成敗することはなかった。
まあとにかく、息子のためならあらゆる手段を行使できる力を持っていた父は本当に偉大な人物だったと重ね重ねだが実感したものだ。
私は今でもこの男の息子であったことを誇らしく思っているし、まさに世の父親の鏡だと言えるだろう。
こうして首尾よく入学したものの、私にとって大学は退屈極まりないところだった。
授業の方は大学の同級生に私の代わりに出席させたり、レポートを代わりにやらせたりしながら難なくこなしていたが、高校と違ってどこか刺激に欠ける気がしていたのだ。
一人暮らしさせてもらっているのをいいことに、私はさっそく同じ大学に通う女学生を二人ほど手籠めにして高校時代以上に女遊びに精力を注ごうと張り切っていたが、なんとなく心の隙間が埋まらない。
そんなこのまま自堕落に青春を浪費しようとしていた私を一気に夢中にさせる事態がその頃の日本では起こりつつあった。
60年安保闘争である。
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