第7話 夕暮れの宣戦布告、擦れ違う想い
向陽高校には生徒会が存在する。
生徒会が有るのはどの高校でも同じ事で何も変わらないし不思議な所は無い。
だが…もし仮に裏で誰かと……何かしらの組織と繋がっていたら?そんなのは何処かの誰かが考える妄想程度か或いはホラ話でしかない。
もしその話が本当だとしたら…繋がっているその先は恐らくこの世のモノとは思えない何かを抱えている者達の集まりなのかもしれない。
これは悪魔で向陽高校の話である。
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とある日の夕方にそれは突然起きた。
冴月が席から立ち上がった瞬間に突然周囲のクラスメイト達の話し声や、何かしらの動作をしている手付きが止まったのだ。竜弘の声と共に彼女は小さく頷くと黒の法衣を素早く身に纏う。
「冴月、これって……。」
「……遮断法術を誰かが使った。[[rb:アイツ >佐藤 優一]]じゃないでしょうね?」
「彼は僕が説得した、だから大丈夫だと思う…!!」
「だったら何で──ッ!!」
冴月は何かを察し、教室の中央に居た竜弘の方へ駆け寄ると2人の左側の窓が割れた末に彼へ向けて飛んで来た何かを冴月が素手で掴んだ。それは全長約25cm程の大きさをした黒い柄の刃物だった。
「えッ…!?」
「ッ──!!」
冴月がナイフを咄嗟に投げ捨て、無言で法衣の左側から蒼月の本体を取り出し相手を見据える。割れたガラスの先、つまり外に居たのは上下共に黒いスーツを着た何者かで以前見た時と同じ仮面を付けた人物が冴月を見つめていた。
「ほぅ…どうやら反射神経は良いらしい。」
「……お前は?」
「[[rb:魔術師 > ウィザード]]、そう名乗っておこうか。」
彼は冴月の姿を頭から爪先まで見てニヤリと笑った。
「そういうキミはあの時見た焼却者じゃないか…鋭い紅眼、それとその右手に有るのは葬具か……それにしても焼却者達は随分変わったね。キミより歳上の者ばかりだったが…まさか子供まで駆り出す様になるなんて。」
「…どういう意味。」
「文字通りの意味だよ。何せ我々の眷属がキミらの同胞と殺し合いを続け…そしてその多くを僕が僕自身の手で葬って来たのだから。」
彼がそう話した瞬間、冴月の右手が強く蒼月の柄を握り締めた。まるで此方を挑発し誘っているかの様な言動とも取れるそれは聞いていて不快感しか感じない。
[…恐らく奴は信徒だ。魔術師は古来から忌み嫌われる存在……そして凡ゆる法術を利用し数多の焼却者らを殺して来た者。]
「焼却者殺し…ッ!!」
ステュクスの言葉を聞いた冴月から立ち込める殺気が余計に増すと彼女は左手で鞘を引き、右手で柄を握り締めた状態から刃を引き抜くと彼へその刃先差し向けた。
「おや…此処で戦う気かい?止めておいた方が良い、滅茶苦茶になるぞ?」
「……どの口が言う。」
「それよりも…不思議なのはキミの横に居る彼だ。彼は孤立空間の中でも動けるらしい…その様な珍しい存在は死徒や異形者を除いて私は初めて見たよ……。」
「ッ……!」
冴月がチラリと横目で彼を見る。
確かに敵の言う通りで本来の人間は遮断法術による空間途絶状態の中では動けない筈。なのに彼は動ける上に会話も出来る…その事だけは冴月でも解らなかった。自分と彼が至近距離に居るから侵入出来た位の認識でしか考えていなかったからだ。
「ぼ、僕は…別に何とも…そんなに変な事なのか…?」
竜弘は冴月へ向けて問い掛けるが彼女から返事が来る事はなかった。そして沈黙を破るかの様に仮面の男は話始め、冴月も相手の方へ振り返った。
「……ふふふッ、これは面白い事になりそうだ。また会おう…焼却者。楽しみにしているよ…キミと殺し合えるその日をね。」
そして彼は竜弘も少し見て含む様に笑うと姿を消してしまう。冴月も蒼月を鞘へ収めると背を向けたまま法衣を解いて周囲を見回す。幸い、ガラスが割れた程度で他は何とも無かった。もし交戦していたら浩介も有紀も巻き込んでいたかもしれない。
いつの間にか法術は解かれていて、ガラスも直っている上に話し声が周囲からし始めた。
「冴月…僕は……。」
「いつかハッキリさせる…だから今は忘れて。その方が竜弘の為になる。」
冴月は竜弘の声を掻き消す様に強く言い放つと自分の席へ戻り、1人腰掛けた。彼もまた頷くと神妙な主待ちのまま席へ腰掛けるのだった。
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放課後。竜弘は1人で図書館の窓際側に有る本棚をただじっと眺めていた。そこは超常現象や神隠し等の類を纏めた本が有るコーナーで、そこへ並べられた本の帯を見ながら彼は溜め息をつく。
「ダメだ…頭が回らない。何も思い付かないし…考えられない。」
右手で髪を掻き分けた時、ふと脳裏を過ぎったは自分という存在がもしかしたら不可解なモノなのではないかという事。
『死徒は最初に喰らった人間に成代れる。』
冴月があの時自分へ言い放った言葉は今の彼を悩ませるのに相応しかった。実は自分は既に何かしらの形で襲われた末、死徒に喰われた際の成代りなのでは無いかという不穏な考えが過ぎる程。
「僕は死徒なのか……?」
自分の両手を見つめるが何も変わった所はない。
死徒の持つ鉤爪も無いし、ガラスに映る顔も死徒の様な顔している訳でもない。ドアの開く音と共に足音がして振り返ると和歌奈が立っていた。
「葉山君、どうかした?何か顔色悪いけど。」
「平井さんか。大丈夫…何でもないよ。」
微笑むと彼女へそう話した。
和歌奈は自分の図書カードをクラス毎に分けられた木製のケースから取り出して彼の元へ来ると近くで立ち止まった。
「今日は倉本さんと一緒じゃないの?」
「あ、あぁ……ちょっとね。」
「もしかしてケンカでもしたとか?」
「……まぁ、そんな所かな。平井さんは?」
「私は前に借りてた本を返しに来たの。本を読んでるとね、色々勉強になるから。家でも読み過ぎちゃっていつの間にか日付け変わってるなんて事も有るから…ちょっと寝不足気味なんだよね。」
彼女が少し微笑むと竜弘は「成程」と小さく呟いた。
「……平井さんは本が好きなんだね。」
「うん、葉山君は?本とか…好き?」
「僕も本は好きだよ。けど読むのは雑誌か、そこのオカルト本ばっかりだけどね。」
和歌奈へ苦笑いしながらそう話すと彼女はバカにしたりせず、素直にそれを受け入れた。彼女と話していると現実を忘れられる。死徒や異術者の存在等の余計な事を考えなくて済む…そんな気がしていた。
2人は暫くの間、何気無い話で盛り上がると和歌奈
は思い出した様に途中で話を切り上げた。
「あ、いい加減本返さないと。」
「ごめん…長く話し過ぎちゃったみたいで。」
「ううん大丈夫…ねぇ、葉山君?」
彼の前を歩いていた和歌奈が振り返ると
真っ直ぐ竜弘の方を見つめていた。
「……良かったらまた今度2人で話さない?今度はもっと色んな事話したいなって。ダメ…かな?部活だと有紀ちゃんが直ぐ私の事連れて行っちゃうし…それに私、仲の良い友達が少ないから……。」
竜弘は彼女へそう持ち掛けられると彼は頷いた。
「僕で良ければ…付き合うよ。」
「本当?じゃあ…約束。あ、倉本さんだ。」
「え?」
竜弘が和歌奈の見ている方へ視線を向けると廊下に冴月が立っていて、此方を睨む様にじっと見ている。何かを察した和歌奈は彼の方を向いて付け加えた。
「…ケンカしたらちゃんと謝らないとダメだよ?それじゃ、また明日学校でね。」
「あ、うん……また明日。」
和歌奈と別れた竜弘は足元へ置いていた鞄を持って図書館を出ると冴月と合流し立ち止まった。
「……随分楽しそうだったけど。」
「別に…何でもないよ。部活の事を話してただけ。」
「そう……。」
2人の会話はぎこちなく、あまり長くは続かない。
あの楽しく話していた時が嘘みたいに感じられる。
玄関を出て真っ直ぐ校門へ向かって並んで歩いては通りを右へ曲がって更に進む。暫く進んだ先で竜弘から話を切り出した。
「……ねぇ冴月。」
「何?どうかした?」
「…僕は…その…人間なんだよな?」
自然とその単語が口から零れ落ちた。
その答えが知りたかったから…自分は人間なのか、それとも死徒の様な化け物なのか。それが知りたかった。
「…まだ気にしてるの?あの事は気にしなくて良いって言ったじゃない。」
「それでも…気になるんだよ!!僕は人間なんだよな?死徒やあの化け物達とは違うんだよな?どうなんだよ…ハッキリ言ってくれよ!!」
「……。」
冴月は彼を見ながら何も言わず黙って見つめていた。そして彼女は漸くその口を開く。
「…竜弘は人間、死徒なんかじゃない。」
「僕は…本当に僕は…人間なのか……?」
「何度も言わせないで。お前は人間…空間途絶法術に干渉出来る何かを持った特別な存在……今はそうとしか言い様がない。」
竜弘は安堵すると共に彼女へ更に話し掛ける。
「でも…そうじゃないかもしれない……。」
「ッ……。」
しかし、竜弘は何処か悲しそうな表情を浮かべながら冴月へ向けて話を続けた。
「なら、化け物になったら冴月が僕を斬ってくれ。僕はキミの手で斬られるなら…殺されるならそれで良い。きっと後悔しないと思う……だから──」
その瞬間、パンッと乾いた音と共に彼の左頬へ痛みが走る。ゆっくりと振り返ると冴月が平手打ちを繰り出していた。そして竜弘は打たれた頬を手で抑えながら彼女の方を見つめていた。
「何で…何でそんな事言うの…何でそんな事言うのよ!?」
「え……?」
「私が人間だって言った以上、竜弘は人間なの!!それ以上でもそれ以下でも何者でもない!!」
「冴月……。」
冴月はハッキリと言い切ると背を向けて1人歩き出した。それ以外の事は何も言わず、彼女はスタスタと歩いて行くが竜弘は立ち止まったままだった。
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[サツキ。]
「何…言いたい事が有るならハッキリ言って。」
[いや…珍しいと思ってな。御主があの様な言葉を投げ掛けるなど。]
「ッ─!?あ、あれは…別に…そんなつもりじゃ……。」
冴月は1人で夜の通りを歩いていた。
もう人の気配も何も無く、ただ静寂が広がる商店街の道を1人で進む。
[…そんなつもりか。とは言え、あのタツヒロという小僧を除けば御主はロクに誰とも話しておらんだろう?]
「う…ッ……。」
[つまり、御主がアマネ以外の者とマトモに接したのはあの小僧が初めてという訳だ。]
そう指摘された冴月は顔を真っ赤にし俯いてしまった。確かに言われてみれば全て当てはまっているし、何だったら同性の有紀や和歌奈とも必要最低限なやり取りしかしていない気がする。
「べ、別に私は何とも思ってないんだから!あの人間が特別なだけで…ッ!!」
[ほぅ……?それより冴月、来客だ。]
「…ッ…お出ましか。」
立ち止まると前方の黄色い2つの目が闇夜に輝く。
それは死徒ではなく、また別の存在。
黒い毛並みを蓄えた四足の生物の姿はまるで狼、口元には鋭く生え揃った牙が生え揃っている。
冴月を認識するとそれは立ち止まった。
「……死徒の獣型。こんなの初めて見た。」
[所詮は人喰らいの獣…その事実だけは変わらぬ。]
「…さっさと殲滅する。遮断ッ!!」
冴月が法衣を纏った末に法術を発動させ、周囲に結界を張り巡らせる。そして呼び出した蒼月を抜刀し構えた瞬間に瞳の色もまた変化。
闇夜に輝く紅色は目の前の標的を強く睨み付けていた。刀の柄を左右の手で握り締めて身構えた瞬間、黒狼が先に動いて冴月へ駆けて来る。
「グルルルッ……ガァアアッ──!!」
「ッ──!!」
鋭い牙の並んだ口を大きく開いて焼却者の少女を喰らわんとし飛び掛ると距離が縮まった瞬間に冴月は自身の左側へ刀を向けると右手首を振り、斬り払った。
黒い瘴気が噴き上がると共にその獣は地面へ倒れて消えてしまう。その直後に至る所から視線を感じ、見回すと建物の屋根や路地裏等からも似た様な生物がそれぞれ顔を覗かせて来る。
「…1体だけじゃない……未だ居る。」
[用心しろ、仲間を呼ばれれば此方が不利になる。]
「解ってる…さっさと終わらせるッ!!」
今度は冴月から仕掛けては地面を蹴って駆け出すと1体目を擦れ違い様に袈裟斬りし、2体目を腹部への刺突と左側への斬り払いで、背後から飛び掛って来た3体目を左足で回し蹴りした末に怯ませた状態から刀を突き刺し、4体目を正面から一刀両断し斬り裂いた。全て斬り伏せた彼女は一息付くと暗い夜の空を見上げる。
「……漸く終わった。」
[いや…まだだ、本丸が残っている…上から来るぞ!!]
「え…ッ──!?」
冴月はステュクスの呼び掛けに反応し上からの奇襲を素早く防ぐ。そして何かを振り払うと自身の前方へ刀の刃先を差し向けた。
「…お前は?」
「成程…貴様が焼却者か……。」
目の前の何者かは立ち上がると全身は全て真っ黒。
着ているのは恐らくローブ、ボロ切れの様なそれを纏っている何者かはその奇妙な顔で冴月を見ていた。
「顔が…骨…!?」
「クククッ…驚く事はなかろう。死に関われば己が顔など何れ忘れる……。」
背丈は自分よりも大きく、約2mは有るその姿はまさに影を立体化した様な物。長時間見ていると身の毛がよだつ程に気味が悪い。
[死徒や獣を主に扱いし者…屍使い。まさか貴様らまで俗世に惹かれ現れるとはな?]
「私達は生者よりも死者を好む…故に素材が欲しいのだ……新たな死徒を生む為の最高の逸材が…!!」
低い男の声で話した途端、彼は右手を懐へ入れると取り出したのは短刀。それを握り締めると共に冴月へ向けて投擲、彼女は刃を一振しそれを払い除ける。
「そんなモノで倒せるとでも?甘く見られたものね。」
「ならば少々手合わせ願おう…焼却者ッ──!!」
風を切る様な早さから屍使いが再び刃物を数本投擲、それを冴月が刃で左右へ払い除けては間合いを図った末に大きく獲物を振り下ろした。しかし相手はそれを避け、冴月の背後を取ろうとする。
「早いッ!?」
「…幾ら焼却者と言えど未だ小娘。所詮は私の敵ではないッ!!」
擦れ違った際、冴月が左足を軸にし素早く身体を右側へ反転させて振り返ると同時に刀を横へ振り抜いたがそれを避けられてしまう。そして再び刃物が飛んで来ると今度はそれを身体を左右に捻って立て続けに躱した。
「く…ッ、何なのアイツ…さっきからずっと投げてばっかり!!」
[気を抜くな…いつ仕掛けて来るか解らぬ!!]
冴月が構え直すと深呼吸し相手を見据える。
集中しろと言い聞かせていると不意に何かが脳裏を過ぎった。
『冴月……。』
「たつ…ひろ……?」
あの時の彼の顔、寂しそうな表情。
そして消え入りそうな声で自分の名を呼ぶ彼。
あんな顔をした彼を初めて見た。
『僕は人間なんだよな…?はっきり答えてくれよ!!』
あんなに切羽詰まった彼を見たのは初めて。
原因は全て自分にある…彼を不安にさせ、彼を困らせ、彼を……。
[さ…!!さ…つ…!!さ…つ…き!!聞いているのか!?避けろ、サツキッ!!]
「はッ──!?」
「…もう遅いッ──!!」
「っぐあッ──!?」
冴月が防御しようと身構えた瞬間、彼女の腹部を力強く殴り付けたのだ。鈍い痛みと共に吹き飛ばされた彼女の身体はゴロゴロと地面を転がっていく。漸く勢いが無くなって止まると敵の居た方を睨み付ける。
「う…ぐぅ…ッ…ふぅッ…、ふぅうッ…!!」
彼女は身体を起こして立ち上がり、手放してしまった蒼月を拾った瞬間に再び屍使いが彼女へ刃物を片手に強襲を仕掛けて来る。
「その程度か…焼却者ッ!!」
「うるさい…ッ、黙れぇえッ!!」
冴月もまた勢い良く駆け出し、間合いを詰めては刀身を思い切り前へ突き出した。しかしそれは相手の身体へ命中した筈だったが目の前の屍使いは消えてしまった。
「消えた!?」
「此処だ、焼却者よ。」
今度は複数の刃物による投擲が行われ、咄嗟に振り向いて急所を狙った2つは辛うじて弾いたが3つが彼女の左足の太腿、右肩、右脇腹へ突き刺さった。
「う…ッ……!?」
刺さった刃物を左手で引き抜いて投げ捨てると刺された箇所から赤い血が滲む。痛みを堪え、ふらつきながら歯を食い縛って何とか立っていた。
「せ…殲滅…するッ…絶対…絶対に…ッ!!」
「……その意気込みや良し。ならば全力で来るが良い…お前の全力で。」
冴月は両手で柄を握り締め、刀身へ青い炎を纏わせて駆け出すと右側へ刀を向けた状態で更に加速し間合いを詰めようとする。
「やぁあぁあぁぁッ──!!」
「青い炎…完全に人ならざる者を消し去る為の炎。その業火は髪や肉片すら残さぬという……。」
屍使いが正面へ右手の拳を突き出すと彼女へ向けて開き、叫んだ。
「……ヴェイル!!」
解き放たれた何かが冴月を覆い尽くしたかと思えば彼女は刀を落とした末に両膝を付いて地面へ倒れてしまった。身に付けている制服やニーソックスの所々が焼かれた様に焦げてしまい、擦り傷や切り傷だらけのその姿は満身創痍というのに相応しい。
「随分、呆気なかったな…焼却者よ。だが今は殺しはせぬ……我が主がそれを望んでいるのだ。また相まみえようぞ……クククッ。」
彼女を放置した屍使いは暗闇へ消えて行った。
ある意味では命拾いしたというのが正しい。
彼が去った後、雨が降り出すと倒れている彼女の身体を濡らしていった。
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翌日。
この日は雨だったが、竜弘は普段と同じで朝早くから自分の教室へ来るも冴月の姿は何処にも無かった。いつもなら既に来ていても可笑しくはない筈なのだ。
「冴月…今日は居ないんだ…。」
もし彼女が居たら今頃は
『竜弘、早く!!時間が勿体無いんだから!!』
『バカね…一日で強くなれるなら苦労しないわよ。』
『今日は昨日より強めに行くから、そのつもりで。』
とか色々な話をしながら屋上へ向かう。
だが、今日は彼女は居ない。自分が彼女を追い込んでしまったかもしれないからだ。
彼女だって詳しい事は解らない…そう話していたのに。そっと自分の左頬を撫でると思い出してしまう…冴月に頬を打たれた事を。
思い詰めた様な…苦しそうな顔をした彼女の表情が頭から離れない。
「僕はもう…冴月の傍には居られない。今までもそうだ…偶然…偶然が重なって…一緒に居るだけ……たったそれだけだ。」
自分にそう言い聞かせるが何処か腑に落ちない。
そして暫くしてから冴月が不在のまま普段と変わらない学校生活が幕を開けた。
-2人の想いは擦れ違う。-
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