第40話 欠片集め

 黄昏過ぐ時、不意のねつを一欠片が閉ざす。

――――――


「あら、何か光ってる」


 ハモンの工房を出て直ぐの手前、フラットは光り物を発見する。草の根掻き分けて光り物の正体を暴く。


「キレイ…。本体から切り離された一部って感じね。カラット…は使われて無さそう…?そんな事よりも、ナチュラさんは何処に行っちゃったんだろう…工房には居なかったし」


 側面の不自然な欠け具合、傷一つ無い表面、息を呑むほどに美しい細部の文様、仮にも技巧師を名乗ってるだけあって一目見ただけで只の欠片でないと見抜く。然し、欠片の追究よりもクリートの居所の方が気になるようだった。それもその筈、ハモンがモードを行うと事前に連絡を入れたにも関わらず、姿を見せなかったのだから。


 欠片を懐に仕舞い込み、フラットは歩き出した。

―――――― ―――


「ゼェ…ゼェ…」

「全…然、見つからない…アカメ本当に、この近辺にあるの?」

「在る。確実に」


 天音とフォルテが背中合わせで座り込む。二人とも半日中動き回り、激しく息切れる。アカメが感じた欠片の気配は付近の筈だが、何故か見つからない。欠片どころか光り物一つ有りはしないと痺れを切らしたフォルテがアカメに問い掛けるも、返ってくる答えは変わらない。


「オレ、そろそろ戻らないと…」

「そっか…舞子さんの稽古があるもんね」「うん。稽古を怠る訳にはいかないから」「頑張って!私も、もう少しだけ探してみる…!」


「じゃあ天音、アカメまた明日ね」

「またねー」

「日が沈むのは早いな」

「あ〜あ…烏とかだったら欠片直ぐに見つかりそうなのに!」

「カラス?フフッ確かに頼もしいですね…」 「私の出会った烏はとっても頼もしかったですよ!」

「会ってみたいものです。頼もしいカラス」


 予定のない天音とは違い、フォルテには稽古の時間がある。日が沈む前に彼は急いで稽古場に向かった。因みに、怪我をさせる訳にはいかないのでフォルテの行動範囲はわりかし狭い。彼の届かない範囲を天音がカバーしているのだ。


 フォルテが去った後、天音は不意に独り言を呟いた。かつて出会った烏達を思い浮かべながら、欠片集めに邁進する。変わりゆく空を見上げ会ってみたいと話すアカメは何処か儚げに見えた。夕暮れ時は近い。


「よし、休憩終わり!」


――――――

フォルテSide


「君は…!?」

?「来てやったぞフォルテ!」

「ロア!学校はどうしたんだ?それに父さんと一緒に来る筈じゃ……」


 稽古着に着替え稽古場に足を踏み入れる。自分以外には居る筈のない稽古場に先客が居た。仁王立ちで笑みを浮かべる少年の名は、ロア・リッツ。フォルテと同じ茶色系統の髪と同色の瞳の持ち主で、ちょこんと結わえた後ろ髪が愛らしい。


「学校の許可は貰ってる。あの人なら仕事が忙しくて俺だけ先に来たんだ!大変なことになってるなスコアリーズ!」


「色々あったよホントに…」

「聴かせてくれよ」

「稽古が終わったらな」


 ロアはフォルテの親族関係で厳密に言えば兄弟では無いが、二人の様子は正に兄と弟のようだ。学校とは寄宿学校の事で、ロアは見識を広めるようにと薦められ通っている。


 何だか賑やかになりそうな予感だ。 ――――――

天音Side


「結局見つからなかった…」

「変ですね…。絶対在ると思いましたが」「今も感じます?」

「感じますよ」


 日が沈んだ後も暫く二人で探していたのだが一向に欠片は見当たらず帰路を歩く足取りは重い。今も気配を感じると言うが、アカメが察知する距離が不明なので信用度は低い。


?「天音ちゃん、アカメさんも…!丁度良い所に。ナチュラさん見かけなかった?」

「フラットさん、私達ずっと外に居ましたけど見かけませんでしたよ」

「何か合ったのですか?」

「いいえ。ただ、…シャープさんがモードを行ってる最中だってのに姿を見せないから」


「探し物してるって言ってませんでした?てっきり工房に居るもんだと…」

「私もそう思って工房に行ったのにナチュラさん居なかったの。しかも物は出しっぱなしの散らかしっぱなし!」


 トボトボ歩いていると向かい側から早足に左右を見渡すフラットが現れる。彼女は二人に手を振ると早速本題に入った。どうやら大事の時にクリートの姿が見えず、天音達が欠片を探してるのと同時刻に彼を探していたらしい。

 このタイミングで行方不明になる、万が一を想定したアカメの質問は杞憂に終わった。否、正確に言えばフラットから一際強く例の気配を感じた為の感情の上書きであった。


「感じる…」

「?」

「欠片の気配」

「欠片?」

「!フラットさんっ、欠片持ってませんか!?何か珍しい物拾ったとかって…!」「欠片、欠片…ああ!もしかしてコレの事?さっき拾ったの」


「ソレです!」

「ソレは私の大切な物でして…」

「アカメさんのだったんですね……。道理で不思議な感じがするなぁと思ったんです!私には分かりますアカメさん!!コレは一つでは無いでしょう!?オマケに造られてから結構な歳月が経っている…あれ、天音ちゃんもアカメさんも顔が変…?」


「そ、そんな事無いですよ!!」

「…拾ってくださりありがとうございます」


 アカメの零れ落ちた言葉を汲み、天音は核である明鏡新星や鏡と言った単語を使わずにフラットに訊いた。焦って普段より身振り手振りが増えたのは愛嬌だ。

 ドンピシャリ。少し考え込んだフラットは懐から取り出した紙包みを解くと天音達に見せた。間違いない、探し求めた一欠片。一瞬目配せをし、適当な嘘を付いた。真実を話す訳にはいかないがフラットの怒涛の早口には参る。当たらずとも遠からずを地で行く彼女は技巧師としての才があるのは確かだ。


 天音の誤魔化しは余程天然でない限り、騙されることはない。つまり嘘を付くのが下手なのだ。アカメがフラットから欠片を受け取ると彼女はクリートを探す為にその場を後にした。

――――――


「コレが…」

「そう。ここに書いてあるのがバジル先生の造ったエトワール、打刀タイプ」


 休息を取ったお陰もあってか、体調も良好で傷も完全に塞がった。嫌嫌治癒してくれたスタファノにも礼を言わねば。然し何時までも部屋に籠もっていては身体が鈍る。最低限の筋トレは隙を見て行っていたが、そろそろ組手の相手が恋しい。


 ティアナとリュウシンは既に欠片探しに協力しており、自分も壁が崩壊した部屋を出ようとベッドから上半身を起こした瞬間、珍客が現れた。くすんだ紙を数枚携え、エトワールの資料が見つかったとクリートは話す。


「一枚目はエトワールの図面、二枚目は能力別の説明、三枚目以降は製造過程が書かれたものだから軽い目通しで十分だ。こう言う資料ってのは他人が見ても理解出来ないように文字を暗号化するのが普通だがエトワールの持ち主なら読めるだろ」


「嗚呼、読める」

(文字が変わっていく)

(それを聞いて安心した。エトワールは既にリオンを持ち主として認めてる)


「バジル先生がスコアリーズで造った最後のエトワールだ。造った経緯も書かれてる」「コレを親父は受け取ったのか。エトワールの名は……。……?天音、何やってんだ」「!邪魔したら悪いかなって…」

「視界の端にチラチラ映るんだよ」

「ごめん」


 当然ながらバジル先生の弟子だったクリートは暗号の解読方法を知ってるので読めるが、他人は同じように読めはしない。他人でも唯一読める人物が居るとすれば、エトワールの持ち主のみだ。神器級を持つリオンは、今まで扱う方法を知らなかっただけで深層の部分で認められていたらしい、彼の目には文字配列が変わって見えた。承認されたかと言って即扱えるかどうかは別問題だが。


 クリートとリオンが話している最中、お見舞いと言う名の様子見にやってきた天音とアカメは内容までは聞こえないが二人の会話の邪魔をしないように扉の外で待っていた。が然しどうしても気になる天音は空き部屋となった隣から入り崩壊した壁からそっと覗いた。

 遮るものが無いので秒でバレてしまった。


「クリートさん、フラットさんが探してましたよ」

「げっ…フラットに会ったら謝っといてください」

「私は此処に居ます…!!!」

「何時の間に?!」

「はぁはぁ、直感が私を呼んだんです…!!ナチュラさん…せめて居場所を!」

「分かった分かった。悪かったって」

「あと!子供じゃないですから物は片付けましょう?!…シャープさんはモード始めましたので、早く工房に戻ってください!」

「分かった!リオン、読んだか?」


「全部読んだぜ。ほい」

「見返したかったら工房に来てくれ。何時でも歓迎するぞ」


 アカメの一言にクリートが硬直する。雑用係と言ってもフラットは気が強いので時々、頭が上がらない。特に自分に後ろめたい理由がある時は。…噂をすれば影が差す。天音達と一度は別れた彼女だが直感を元に行動し、猛スピードで戻って来た。激しく息切れをしながらクリートに苦言を呈する。

 フラットの小言は的を得ているので言い返す言葉が見つからず、彼女を宥めるしかない情けない技巧師クリート。モードが進行中であると告げられ、途端プロの顔に戻った。ハモンの腕は信じているが不慮の事態を想定して、備えるのが職人の仕事だ。リオンから紙数枚を回収し二人は工房へ戻って行った。


「で、何しに来たんだ?」

「お見舞い!怪我平気?」

「バッチリだ。心配掛けたな」

「良かった…」

「アカメさんも見舞いか?」

「いえいえ、私は天音さんを送り届けたまでです」

「あ、そうだ!リオンさっそく欠片一つ目見つけたよ!明日からリオンも手伝ってね」「気が向いたらな」

「アカメさん…欠片合わさりますか?」

「今出しますね」


 怪我人に会いに行く目的など殆どが見舞いに決まっている。態々訊くのも野暮ったいがリオンは素で言ってる可能性が大きい。少し頬を膨らませ、天音は具合を尋ねた。リオンの両手に視線を移し一安心。関わりが少なく天音の傍に居るアカメには嫌味を含めジト目で対応する。態度の差が明らかだ。

 対して、アカメは態度を全く変えず敬語口調で物理的に見下す。二人の間に流れる空気が若干重くなった気配を察した天音は半ば強引に話題を変えた。ベッド脇に設置された机に欠片を並べてみる。


「?合わさりません…」

「向きが違うのかな」

「貸してみろ」

「壊さないでくださいね」

「フンッ!」

「壊さないでって言ってるのに乱暴な…!」 「合わねぇな」

「合う事には合うのですが、…中々くっ付きませんね」


「リオン、アカメさんアストエネルギーを流し込むと言うのはどうでしょう!?」

「天音、お前…」

「フフフッ」

「俺の言った事の受け売りじゃねぇか…」「うっ。…言った、言われたけど!ちゃんと覚えてるって事が重要なの!」


 欠片の向きを変えたり、位置を変えたりを繰り返したが欠片が合わさる気配が一部たりとも無かった。正解の位置は辛うじて分かるが接着が上手くいかない。

 何を思ったか、リオンは欠片を受け取った。どう見ても難解パズルを颯爽と解くタイプでは無いリオンが知能を使う筈も無く二つの欠片を向かい合わせて、拍子木を鳴らすかの如く勢い任せにカンッと力技を見せた。合わなくて当たり前だ。


 次に案を出したのは天音だ。学校でも無いのに行儀良く挙手してから自慢げに話す彼女に呆れるリオン。かつて自分が彼女に向かってペンダントの扱い方を教えた時に話した内容そのままだ。リオンの事だから忘れていると思った天音だが意外と憶えていたので指摘を受け、恥ずかしそうに見栄を張る。


「試してみましょう」

「…」

「駄目ですね…」

「駄目かぁ…欠片全部揃わないと一つになってくれないのかな」

「頑張りましょう。欠片は残り二つです!」 「はいっ」


「…今日はもう遅い。帰って休んだ方が良いんじゃねぇの」

「…御言葉に甘えて、失礼します」

「アカメさん帰っちゃうの?じゃあ私も」


「ちょい待て」

「っなに?」


 アストエネルギーを欠片に送ると光量は強まるのみで他に変化は無く、提案した本人は盛大に落胆する結果となった。アカメは自分も鼓舞する様に落ち込む天音を励ます。

 リオンの部屋を訪れた際には七割方、日が沈んでいた。夕食時はとっくに過ぎている。含みのある間を持たせ、リオンはアカメに帰宅を勧めた。彼が帰るならばと天音も踵を返した瞬間、リオンに服を引っ張られた。扉の前で不思議そうに振り返るアカメを無言で追い払い二人っきりになる。


 何だ何だと振り返ってリオンの言葉を待った天音だが告げられた一言は予想外で、間の抜けた顔を晒してしまう。


「奴に気をつけろ」

「奴ってアカメさんの事?何で…また」

「杞憂ならそれで良いんだ。だが、さっき奴のアストエネルギーを感知した時、普通の人間とは微妙に違う感じがした」


「普通の人間…この世界に居ないと思うけど大丈夫アカメさんは悪い人じゃない。だって私、アカメさんの事好きだから!」


「……は?」

「はっ。れ、…恋愛的な意味じゃないよ!?アカメさんと居ると何となく落ち着くって言うか…、父性?を感じるって言うか……!!とに、兎に角勘違いしないで…!」


「…おう」

「私もう行くから!」


 天音はアスト感知が出来ないのでアカメがアストエネルギーを使っている最中も特に引っ掛かりを覚えず見守っていたのだが、リオンは違った。通常の星の民との相違点を感じ二人にバレぬよう顔を顰めた。霊族では無いのは確かだが用心に越した事はない。無警戒の天音に一言言い付けると満面の笑みで想定外の返答を返される。


 突然の告白に意図せず低い声で唸るリオン。彼の形相でハッとした天音は誤解を解こうとどぎまぎする。別段リオンを意識した訳では無いが何故か頬が赤らみ出し視線を下げる。


 その場限りの取り繕った態度で切り抜けると天音はササッと部屋を出た。途中、扉に頭をぶつけたが気にする余裕は無かった。



「あ゛ー…」

「びっくり、びっくりしただけだから!」


 部屋の中で髪を掻き上げるリオン。部屋の外で自分に言い聞かせる天音。名付けるには早過ぎる感情未満、気付く前に二人は目を背けた。


――――――


「すっかり夜になったね」

「何であたしが欠片探しなんか…」

(…って言いながらもちゃんと探してる…真面目だねぇ)

「本当にあるのか?」

「アカメさんに訊いて来よっか」


 アカメ、フォルテ、天音チームとティアナ、リュウシンチームに別れて欠片探しを開始したが、前者のチーム同様此方も苦戦していた。ブツブツと文句を言う割には律儀に協力するティアナ。壁を壊した罪の意識があるのか、はたまた真面目なだけか。


 月夜を廻っても欠片は見つからず、流石のティアナも苛々が溜まりリュウシンも疲労の色が見えてきた。事前に訊いた欠片の気配は曖昧で休憩がてら再び訪ねに行こうと提案し概ね同意する。


「あ…」

「ん?」

「欠片、あった」

「なに!?」

「今、ピカッて光ったから分かったんだ……あの隙間の真ん中」

「!そんな所分かる訳無いだろ!!」

「欠片じゃないかも知れないけど…」

「取ってから確認すれば良い!」


 人通りの疎らな街道を抜ける前に、脇道からキラリと存在をアピールする小さな物体が一つ、リュウシンの翠緑色の瞳に映る。

 夜間と言う時間帯のお陰もあってか、光り物は見つかりやすい。脇道と言っても子供でもギリギリ通れない程狭い道幅、家々の隙間だ。分からなくて当然だとティアナの苛々は余計に増殖した。


「僕は向かい側から回ってみるよ」

「ふっっ…!」

「くっっ…!」

「…この家壊して良いか?」

「絶対、駄目」

「埒が明かんぞ」

(何か細長い棒状の物は…)

(意地悪…丁度真ん中に落ちてる)


 家と家の間、ティアナとリュウシンは出来るだけ腕を伸ばし欠片を掴まんと躍起になる。神の悪戯か、気まぐれか、欠片は家同士の真ん中にあり到底取れそうに無い。また、家には窓も付いていないので中から取る事も出来ない。速攻で民家を壊さずリュウシンに訊いたのは良かったが、許可は無理だ。


「!」

?「!!」

「待て!…逃げられた」


 細剣タイプのエトワール、言ってしまえば細長い棒状の物だ。ティアナが使える物が無いか付近を見渡したタイミングでエピックが通りすがる。全てを理解した訳では無いが彼は瞬間的に厄介事に巻き込まれそうだと察し、全力でティアナから逃げ出した。

 逃した魚は大きい。細剣があれば無駄に遠い欠片を引き寄せる事も叶っただろう。逃走した方向を睨みつけ、欠片と向き合う為四つん這いになり暫くの後、頭部に違和感を覚える。


「にゃん」

「ねこ!?」

「へ?」

「どけ!」

「にゃ〜ん」

「猫だ」

「にゃん!」

「良いぞ猫、欠片を此方に」

「にゃ〜」

「〜〜!」

「猫ちゃん…良い子だから欠片を渡してくれないかい?」

「うにゃあ!」

「イッ!?」

「にゃにゃ〜」


 猫乱入。三毛猫がティアナの後頭部に乗り、呑気に毛づくろいを始める。猫は夜行性なので外に野良猫の一匹や二匹、居ても可笑しくないのだが如何せんタイミングが悪い。


 歯牙にもかけない様子は何とも猫らしい。猫好きの人間なら御褒美にも感じる行為を一喝するティアナ。三毛猫は彼女が動いたと同時に、靭やかな胴体を脇道へ滑り込ませる。  

 小ぶりな口で欠片を咥えるとティアナの方向を見つめる。咄嗟に三毛猫を懐柔しようと手を伸ばすが光る夜目をスッと細め高圧的な態度でティアナを見下す。動物の感情など、ぼんやりとしか伝わらないが絶対自分は三毛猫にバカにされたのだと直感し怒筋が浮かび上がる。


 ティアナが駄目なら次はリュウシンだ。三毛猫を怖がらせないように優しい声音でおびき寄せるが猫の機嫌は常にコロコロと変わる。爪を立てリュウシンの顔面に思いっきり切りつけ、大ジャンプで脇道を脱出した。


「追いかけよう!」

「勿論だッ」

「にゃあ〜?」


―――

スタファノSide


「嫌な音…だいぶ減った」

(オレは何がしたかったんだろう)


 静まる夜、独り自問自答を繰り返す。人の気配は無い、人の声は聞こえると言うのに。憂いを帯びた横顔はスタファノ自身も知らぬ表情。


(あのとき知る事が怖かったんじゃない。知った先、未知の世界が怖かったんだ。何時ものように面倒臭くなったら離れてしまえば良い。…それがオレの生き方。離れ難い何て思ってるのはどうして?)

「…!みんな目的があるから?」


「にゃ」

「にゃんこ?足音静かだね〜」

「にゃ〜〜」

「欠片……オレにくれるの?ありがとう〜。けれど危ないから尖った物には近付かない事を勧めるよ。ホラ口開けて…怪我してないか診てあげる」

「んにゃ」


 ゆらゆらり、行ったきり。地に足がつかない彼は自由に旅をする。己の生き方を恥じた事は一度たりとも無い。最近の事、気紛れの旅に転機が訪れかかっていた。羞恥より恐怖が支配する心情に僅かながらに空きスペースが生まれた。ポツンと空いた心に注ぎ込また旅仲間の情景。旅の目的が彼にはまだ無い。 

 暗闇から足音を立てずに近付く影法師。短く鳴いた後、スタファノの足元へ移動し、スリスリと懐く。撫でる為に姿勢を低くすると三毛猫は掌に加えていた欠片を乗せた。


 思いがけないプレゼントに沈んた顔も笑顔になる。とは言え、誤飲したり尖端で傷付いてしまう可能性もゼロではない。スタファノにベットリとくっ付く三毛猫の触診を始めた。


「スタファノ?」

「ティアナ!欠片ならここにあるよ〜」 「うぅ…なんで僕だけ」

「にゃんこに嫌われるような事したんじゃない?」

「してないよ」


「こんな所で何をしてたんだ?」

「にゃんこ撫でてたら忘れちゃった」

「あっそ」

「何はともあれ欠片は見つかった!アカメさんの所へ行こう」

「うにゃ」

「天音ちゃん達も見つけたみたいだよ」 「て事は、…あと一つだ」

「にゃ!」


 三毛猫を追跡中のティアナとリュウシン、二人がスタファノと合流する。三毛猫の傍に居座る彼に疑問を抱きつつも取り敢えず欠片を受け取った。一歩出遅れて三毛猫に近付くリュウシンは顔面に引掻き傷を負っていた。 一箇所では無いところを見るに追跡中に追加で何度か引っ掻かれたのだろう。優男の彼が猫に限らず動物を虐げる行為をする筈ない。

……猫又族の彼女には恨まれているが。


 スタファノの性格は十分理解しているので妙な間合いで逸らかそうとする彼に無理矢理問いただす事をしないティアナ。単に無関心なだけと言う理由もある。スタファノは普段から嘘まみれだが、理由のある嘘を付く時に限って下手になる。本人は知らない事実だ。



 切り替えていこう。天音達も欠片を一つ、リュウシン達も欠片を一つ、手に入れた。既にアカメの手元にある欠片を合わせると三つになる。約束の期限まで後二日。欠片は残り一つ、何だかんだ見つかりそうだ。

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