第39話 一幕見、零れた話

 古り難し想いなれど不意の焦燥に敵わず。

――――――

―回想―


 それは約二百年前の事。


「どうして!?ラルゴ、貴方が行く必要無い勝手に決めないで!!」

「カノン分かってくれ。幸い頭主になって日が浅い。僕の顔も名前も外には広まってない…行くなら今しかない!これから行く任務、捕まれば国家反逆罪だ。他の誰でもない僕に行かせてくれ。大丈夫きっと生きて戻るよ」


 共に歩いた回廊が赤く染まる夕刻。ラルゴは自ら騎士団へ入団し、潜入すると言った。必死で引き留める妻は現在よりも大分若い。


「娘は、マッチはどうするの!?まだ幼いのよ…。あの子から父親を奪うつもり?!」

「マッチは賢い。分かってくれる」

「側に居てほしいと思ってる!」

「カノン…!」

「!…ごめんなさい…、冷静さを欠いていた。貴方の代わりに頭主として、皆の前に立たねばならないと言うのに…」


 聡い子と言っても二人の娘マッチ・リーズは幼い子供だ。早くに両親の何方かが居なくなれば、その後の人格形成に影響を与えかねないと危惧したカノンは声を上げて説得するがラルゴは頑なに曲げない。何時だって折れるのはカノンなのだ。


「カノンこれだけは言っておく。冷静になると感情を殺す、は同義では無い。僕が居なくとも君はやっていける…」


―回想終了―

―――


「嘘付き」

「嘘付きなのは貴方の方です」

「お婆様、何の事でしょうか。呼び出したのは悪態をつく為ですか?」


 現在軸。会合が行われた部屋に、カノンはラヴィによって呼び出されていた。独り言を聞かれたらしく嫌味な言葉を付け足される。あくまで恍けるカノンにラヴィは椅子に座るよう促した。


「カノンよ。私やゲンに隠し立てしているのでは無いか?」

「まさか。…隠し事する余裕はありません」

「貴方は嘘を付く時、左拳を握る癖がある」

「!癖は早めに指摘してほしいものです…」


「赤子の頃から貴方を見てきた。舞子としての貴方を育てたのも私です。今更隠し通せると思ってはいないでしょう。あの、頑固爺は兎も角私は騙せませんよ」

「お婆様…。私が言葉一つで隠し事を話すとそう思ってませんよね。話す必要が無いから話さないだけです」


 無意識に何度も左拳を握っていた。ラヴィはカノンの舞子としての師であり、彼女の考えなど予想がつく。下手に探らず、呼び出して直球の質問をしたのはカノンが意味の無い嘘はつかないと確信していたから。


 結局、幾ら訊いてもカノンは何も話さずラヴィはカノンを帰らせた。元々忙しい頭主を何時間も引き留めるつもりは無かった。


(問題は山積み…神器に明鏡新星に…そして吟遊詩も…。王族の子が現れたのは…アルコ様の記した吟詠が再び蘇る前兆…と考えて良いものか…)


―――

――――――

―回想―


「正直で助かります。ではお話しましょう。特に王族の子…貴方は知らなくてはならない我等と王家の、永きに渡る因縁を」


 頭主邸が半壊した日、旅人に全てを話した。王族の子は見る見る表情を曇らせるが言葉をオブラートに包む理由にはならなかった。



「神話戦争の勝敗を分けたのは女神様が降臨し、五人の英雄に使命を与えたからと云われています。英雄の力は凄まじく、人間の領域を超えていたとも。…然し真実は違います。星の民が""を生み出したのです」


「……」

「五大、宝玉…」


「五大宝玉とは、女神役の人間を犠牲して得た力の結晶。宝玉は計、五つ生み出されました。そして、集まった五人の強者に宿したのです。その内の一人は、スコアリーズの先祖アルコ・リーズでした。宝玉の力により戦争は終結し、平和が訪れたかに見えました


が、王族との因縁の始まりでもありました。終結後、王族は自らの地位の為に死した英雄から宝玉を回収し秘密裏に行われた言わば、人体実験に関与した者に五大宝玉の全てを秘匿とし他言無用としました。


然し、我等の祖リーズ一族は王族の犯した一線、五大宝玉に関した吟詩を詠いました。同族が宝玉の一因を担い、犠牲となった罪の証を代々継いでいこうと決めたのです。それが吟詩 《星合とユメビト》」


 カノンの目線はただ一つ、王族の子である天音に向けられていた。天音は人体実験や、犠牲と言った王族の罪を体現する言葉を聞く度に膝の上に置かれた両手を握り締め、息を呑んだ。再三言われる想像していた王族とはかけ離れた姿に心拍数の上昇を感じていた。


 カノンからは目を逸らせずに、黙って聞く事しか出来ない自分からは目を逸らす。そんな自分が嫌になるも言い返す事も出来ない。

 天音の様子に皆、気付いていたが話の腰を折ってまで彼女に声を掛ける判断が出来ずにいた。


「王族は当然良く思わず即刻、吟詠の破棄を求めました。リーズ一族にとっての吟詠は、命にも等しい文化…。抵抗するのもまた当然の権利なのです。五大宝玉が一般に広まれば王族、延いては国の統率者である王家の尊厳が危ぶまれると考えた者共がスコアリーズに内戦を仕掛けました。


守るべき民を、王族は万の人間を懐柔し軍を起こさせた。徹底的に王族が内戦に関わった事を外部に漏らさないよう情報操作を怠らずに。…エトワール発祥の地はカラットタウンですが実際に根付いたのはスコアリーズ。

何故エトワール使いが、エトワール技巧師が現在までで少数になってしまったのか、真の理由はお分かりですね。淘汰されたのです。


結果、スコアリーズは 《星合とユメビト》の原詩を奪われました。ただ奪うだけでは飽き足らず、原詩を知る人物…力の無い子供から学識高い老君まで老若男女問わず殺した。王族は穢れた血族です。幾ら抵抗しても無残に殺されるだけ。…次第にスコアリーズの者は一人、また一人と投降しました」


 因縁語りが一区切りつき、カノンは一呼吸置いた。頭主として、スコアリーズの一員として、見え隠れする憤りを隠さず曝け出したのは何も天音への意地悪だけでは無い。王族の闇の部分を知り、向き合ってほしいとの願いも篭めていた。


 穢れた血族、老若男女問わず惨殺した。それが自分の正体で、残忍非道な血筋の下に産まれたのだと突き付けられ天音は遂に下を向いた。握り締めた拳にポタポタと滴る汗は天音が如何に逃げ出したい衝動を抑えているのかが判る。話の本筋は魔鏡と吟遊詩 《眠る願い星》についてだが、本筋を語る前に既に顔色が悪くカノンの言葉を心の中で反芻しては深く沈んだ。


(私は大勢の人間を殺した人達の血が流れてる…穢れた血族の人間……)


「続けます。内戦終結後、遺された人々は吟遊詩を繋ぎ合わせ 《星合とユメビト》に新たな詩を追加した吟遊詩を詠いました。それが 《眠る願い星》です。夫、ラルゴも詩を追加しました…。時は巡り一夜戦争後、国中にとある報せが届きます。そう騎士団の新設です。スコアリーズの者は、原詩を手に入れる事を諦めてはおりません。


ラルゴは新設される騎士団に潜入しました、原詩を求めて。ラルゴのサポートとして数人ほど騎士団に入団させています。ランスも、その一人でした」


「ッ!」

「知らなかった、でしょう」

「あ、…ああ。全くな」

「後ろめたい目的があったとは言え、ラルゴさんは騎士団に居る時充実した時間を送っていた…と話していました」


「良かった。自分の時間を擲ってないか心配でしたので、それを聞いて安心しました…」

「ラルゴさんの事覚えてないの?」

「騎士団に何百人居たと思ってんだ。全員を覚えてる訳ねぇだろ…」

「どうでも良い…。進めてくれ」

「…」


 騎士団の新設と同期のランスの名が飛び出しリオンが反応する。束の間の休息に天音は周りに気付かれないように息を吐き出す。


 リオンの周辺に居た騎士団のメンバーはごく一部であり、総数は三桁を余裕で超えていた。余程の生真面目人間出ない限り全員を認知出来る訳無いのだ。加えて、ラルゴは目立つ行動を避けていたのでリオンが覚えて無いのも無理はない。


 騎士団とは一切関係ないティアナはリオンとリュウシンの会話に微塵も興味を示さず、次を催促した。ティアナ以上に話に興味がないスタファノは一人で呑気に御茶を飲んだり、勝手に出入りしたり、と何故此処に居るのか最早分からなくなってくる。


「スコアリーズの目的は 《星合とユメビト》の原詩を探る事に加え、メトロジア城…又はメトロポリスに眠るであろう魔鏡の解放も目的の一つでした。魔鏡、マコトを映すと伝わっております。真名は明鏡新星、鏡花新星。秘めたる力は底知れず神話戦争でも英雄と遜色無い活躍をしました。


鏡花新星は悔しくも戦時中に力を失い、紛失しました。明鏡新星は力を失ったものの当時のリーズ一族が敵側に渡さぬよう封印に成功し、紛失は免れました。然し、三百年ほど前から霊族の動きが活発し始め、明鏡新星の力を解放しようと試みました。神器を使い封印を解く事には成功しましが肝心の力については無反応。


そこで、ラルゴは魔鏡の記述がなされた文献の調査を第二の目的としました。マコトを映す明鏡新星の力の解放即ち、吟遊詩の原詩が見つかる…と私達は考えました。話は以上です。では…」


―回想終了―

――――――

―――


 それは起きた。エトワール技巧師達の熱烈な圧から無事生き延び、リオン達の居る部屋へ戻ろうとした矢先、天音の耳に轟音が聞こえた。


「っ!今度はなに!?!」


 何かが崩壊した音、丁度頭主邸が半壊した時のような音が響き渡り天音は駆け出した。轟音の現場は天音がたった今戻ろうとした部屋であり駆け付けたものの心配より先に困惑が飛び出す。


「フォルテ怪我はないか」

「へーき。アカメは…大丈夫そうだね」


「なに、が起きて…!?……え!?」

「スッキリした」

「壁が脆かったんだね〜」

「本当に…止めて」


「…?んで壁が壊れてんだ?」


 壁がティアナによって壊されていたのだ。パンパンと手を払い、一息つくティアナと崩壊した壁の、際に座り込むスタファノと直前に飛ばされ地べたに倒れるリュウシンと轟音で目覚め、特に驚きもしないリオンと少し目を離した隙にカオス状態が完成した部屋で其々の反応を見せていた。


 直通した隣の部屋には、自分のペースを崩さないフォルテとアカメ。血気盛んな戦士達と過ごしていれば轟音も日常茶飯事なので、天音のように驚愕や困惑と言った感情は湧き起こらない。それにしたって落ち着き過ぎだ。


「コッチが聞きたい!!なんで壁が、壊れ…ティアナ!壁壊したら駄目でしょ!?!」

「よく分かんねぇけど天音の言う通りだ」


「頭主邸半壊させる人には言われたくないね…!」

「う…」

「…悪い」

「天音ちゃんもリュウシンも怒らない、怒らない!」

「誰の所為だと思ってる…!!」

「誰だろう?」

「スタファノもさ…分かってるでしょ」


 壁を壊した犯人は言わずもがなティアナだ。壁を壊したら駄目!と当たり前の事を言う天音と目が合い、初めて反省の色を見せたティアナ。成長したのかも知れない。


 欠伸がてらリオンも天音に賛同するが、即リュウシンに言い返され立つ瀬がない。スタファノは感情を顕にする皆を落ち着かせようと両手を前後に揺らす。元凶を分かった上でこの調子なので尚、質が悪い。


「旅人さんってのは元気があって良いね」

「フォルテ…て事は隣はアカメさんの部屋だったんだ…大丈夫ですか!?」

「ご心配には及びませんよ」


「…ポーチが光ってるけど?」

「え、本当だ!今度はなに……」

「ポーチと言うよりは中にある物が光ってるようですね」

「そう言えば破片みたいなの拾ってたよね天音?」


「…うん、あった。どうして急に光り出したんだろう……」

「それは、…!」


 見知った声が聞こえ隣に視界を移すと左手を振りながら、ニコニコ顔のフォルテが天音を歓迎していた。満面の笑みの理由は単純で、面白い半分飽きないなぁ半分だ。二人の側に近寄り取り敢えずアカメの無事を確認する。


 ホッと胸を撫で下ろした天音だったが、苦悩は去らない。フォルテが首を傾けながら天音のポーチを不思議そうに見つめる。ポーチの中を手探りで探り、一昨日拾った破片を取り出す。確かに光の出処は破片だが、誰よりも反応を示したのはアカメであった。


「天音さんよく見せてくれませんか?」

「はいっ」

「…間違いない、明鏡新星の欠片だ…!」

「へ?」

「更に光が強くなっていく」


(アカメに破片が共鳴してる…)

「狙われたのは神器じゃないのか?」

「…」

「小耳に挟んだ話聞きたい?」

「聞きたい、けど勝手に聞いても良いのかな」

(スタファノのは小耳じゃないね…)


「俺が許可するよ!舞子の権限で」


 身を乗り出して、天音から破片を受け取る。マジマジと見やる横顔は真剣そのものだが、アカメが破片に触れた途端に朧気だった光量が徐々に眩い光を放ち存在感を現していた。リオンは目の前の現象に既視感を覚える。天音と初めて出会った日に見たペンダントの光と似ていたのだ。


 明鏡新星が四方に散った事をこの場で知っているのは当事者のアカメと舞子の権限を利用したフォルテと小耳に挟みやすいスタファノだけだ。真実を知る為には、ルールや常識に囚われず多少踏み込まなければならない。明らかな職権濫用者の許可を貰い、明鏡新星の一部始終を座ったまま話した。


――― ―――


「……って感じ〜」

「嘘っソプラさんが…!?」

「妙な奴だとは思ってたが…」

(霊族も居ただと…マズいな)

「自分家に罠張って足止めか」


「ソプラは街を捨てた」

(本当にそうなのか…?)


 他人事のように…実際他人事だがスタファノの口調は軽かった。ソプラと霊族と四方に散った明鏡新星、余す事なく話し終えるとスタファノは漸く立ち上がった。

 疑う事を知らない天音はソプラの裏切り行為にショックを受けていたが周りは、すんなり受け入れているようにも思えた。


「警戒するべきなのは霊族とファントム、俺等の居場所が霊族側にでもバレたら…!」

「!」

(ぜってぇ守る…!!)

(…?なんか睨まれてる)

「その事なんだけど…腑に落ちないとは思わないかい?」


「ん?」

「だってそうだろ?幾ら鏡が貴重だからと言ってファントムや霊族が目の前に居る天音を狙わないのは何で?霊族なら尚更狙う筈なのに…」

「なるほどな。ファントムは俺や天音を知らない様子だった」


「今は鏡を探すのが先です。欠片に触れて確信しました。私には四方に散った欠片の場所が判る…!」


 霊族も参戦していると聞き、リオンは心の中で舌打ちをかます。目的は憶測の域を出ないが兎に角、霊族はリオンと天音を生け捕りにしようと迫って来た事実は揺るがない。彼にとっての屈辱は自分が側に居ながら天音を守れず力不足を痛感する事だ。


 リオンの思考回路が狭まる中、リュウシンが冷静な視野で一石を投じた。ソワレとの戦闘中に引き出した言葉を思い起こし、アカメ達に聞こえない声量でヒソヒソ話を始める。


 欠片の光を見つめる赤眼がキラリと光るとアカメは一言、決意を表した。


「破片…欠片の場所が分かるって?!」

「はい。判ると言ってもピンポイントで、とは行きません…。欠片の大まかな場所を感じるだけです」

「…」


?「その話、俺にも詳しく聞かせてもらっていーか?」

「タクトさんと…ひっビワさん!?」

「えー…と何処から突っ込めば良いのか…」

「!壁壊してすみません…!!ほら、ティアナとスタファノも謝って」


「…悪い」

「ゴメンなさーい」

「謝る気ある!?弁償しますので本当にすみませんでした……」


 アカメの突飛な発言に聞き耳を立てていた人物が姿を見せる。人の良さそうな笑みを見せるタクトと破壊された壁面を見ながら顔を引き攣らせているビワ。中々に理解し難い状況だ。一方、リフィトは姿を見せずに部屋の外で腕組みしながら待機していた。


 立場的には自分より上のビワが現れ反射で立ち上がるフォルテ。最初に口を開いたのはリュウシンだった。頭を下げ謝るリュウシンと誠意の欠片もない元凶二人。ティアナは反省しているが素直になるにはまだ時間が掛かるようだ。


「弁償なんて、そんな…落ち着いてください状況がちょっと分からないです」

「アカメさん…鏡の欠片を全部集める事が、出来る。その言葉に嘘はありませんね?」


「……私ならば恐らく明鏡新星を再生も可能です」

「何故かは、さておきビワはアカメさんを信じます。前代未聞の事態、今は猫の手も借りたい。何日必要ですか?」

「この街にある散った欠片はコレを含め全部で四つ…五日以内に集めてみせます!」


 ビワがリュウシンと話している隙にタクトは確認を取った。静かに、されど厳かに問う姿は当に旦那と呼ばれるに相応しい力量を堂々と示していた。アカメもスコアリーズの旦那に気圧されずに正面切って宣言する。


 リュウシンと話している間にも同時にアカメの話を聞いていたビワは彼に向き直ると、安心出来る笑みを捨て真剣な表情で対応を始めた。この切り替えの早さがビワの長所でもある。怪我を鑑みず、行動に移そうとするアカメを見て少しは休息を取ってほしいと思わずにはいられないフォルテであった。


「アカメさんは、怪我の治療に専念してください。場所を示して頂けたら俺かリフィが向かいます」

「そ〜だ!欠片探し手伝うから壁壊したの見逃してよ、ビワさん?」

(オレは手伝わないけど)


「え。…」

「私も手伝いたい!旅人の方がコソコソしてても怪しまれないかもですし?!」

「どーするビワさん、どっちでも構わない」

「〜…。壁がどうして壊れているのか分かりませんが、猫の手借りましょう!」


「俺も参加しよっかな。稽古の休憩時間だけしか手伝えないけど…頑張ろう天音!」

「うんっフォルテ!」

「ティアナ何逃げようとしてるの…?」

「う!…あたしは手伝わな…!」

「手伝う、よね?」

「……チッ」


 自分は面倒なので手伝わない身勝手な提案をするだけするスタファノ。天音は楽しそう、と言う理由で彼の提案に便乗した。彼女なりに前向きに過ごそうと考えたのだ。フォルテも出来る限りアカメには休んで欲しいので、参加を申し出た。フォルテと天音が意気投合して両手でハイタッチをした側でコッソリと動く影が一つ。


 このまま留まっていれば何れ自分も強制参加させられると危機感を覚えたティアナは一歩一歩下がり逃げようとするもリュウシンに即見つかった。元凶が手伝わなくてどうする、と言いたげなリュウシンの圧に負け欠片探しに参加する事になったティアナ。



「欠片探しスタート!」

「おー!」


―――――― ―――


「ギャハハッッ!!!ローグ、その肩の傷どーしたの!?やられたの!?アハッ!!」

「ソワレ自分自身を見つめ直した方が良い。照顧脚下しょうこきゃっかを忘れるな」


 某所。スコアリーズを去った霊族とファントムが集っていた。雰囲気は最悪。特に霊族、アクトの機嫌が悪く彼に楯突いた瞬間死を覚悟しなくてはならない程、近寄難い空気を纏っていた。

 …のだがファントムは特に気にせず、普段と変わらない様子だ。


 ソワレが一番深手を負わされていたがローグの怪我を馬鹿にする程度には元気だった。


「ローグ、神器はどうした?手に入れたのだろう」

「檜扇の間に置かれたエトワールは神器では無かった。が代わりに罠が張り巡らせられていた。偽詐術策以下の陳腐な罠だ。そして、三叉槍は此方に」


「神器〜!モチロン、ボクの物だよね!?」

「属性適正により致し方無く…だ」

「弓箭は何処だ?」

「辿り着く前に靄が晴れた。ソワレ一字一句一部始終を話してもらう…。合図も無しに靄を晴らし、策を白紙に返した理由わけを」


「は?そのネチネチ説教止めろ!!別に関係ないじゃん。そんな事より次は何時行くの」

「時機到来は何れ…」


 待ち切れないとばかりにローグの周りをうろちょろ周回し神器を探す真似をするキャス。悪気は全く無いが無自覚に人を煽る特徴がある。ローグは暗がりの中、光り物を差し出す。

 エトワールにも能力別に適正属性と言うものがあり、簡単に言えばエトワールの能力と一番相性が良い属性を指す。三叉槍は水属性が適合するのでメンバーの中で唯一の水属性であるソワレがローグから奪い取るようにして横槍を入れた。


 三叉槍を前にしてスリスリと満足げなソワレを追い詰めるかの如く、ローグは説明を求めた。キャスは貰う筈だった神器が見当たらずしゅんと落ち込むと、行き場の無い両手を開いたり閉じたり幼稚にも見える行為を繰り返した。


「ケッ。てめぇのエトワールが錆びてるから負けたんじゃねぇの!」

「はぁ?負けてないし。コケラ、そっちこそサボってたんじゃないの!?なんでボクの所に敵が来るんだよ!!ボク好みのエトワールじゃなかったら殺してるとこだった」


「コケラ、ソワレ喧嘩は良さぬか。俺は充実した束の間の熱き勝負をした!オルクとは次も闘いたい」

「誰だよ。ボク、エトワール以外興味無いから」

「てめぇらと組むと失敗する。次はねぇよ!俺は降りる。後は勝手にしとけ」


「コケラ次は全力全開、死闘覚悟で挑め!陽動作戦は終わりだ」

「!…暴れられる時を待ってたぜ」


 コケラの台詞回しは余計な言葉のみで形成されているのかと言う程、嫌味口調だった。言葉の表面しか理解出来ず、受け取れないソワレはコケラの言葉に反論する。口喧嘩だけなら、まだしもファントムの連中が手を出さない訳がない。アクトの逆鱗に触れないかと危惧したローグが止めに入る前にキャスが声を上げた。


 上げたのだが、矢張り自分の事しか考えていないらしい。独りでに殺り合う寸前の二人を止め、熱き勝負の思い出に浸る。キャスの様子を見つめ、馬鹿馬鹿しくなった二人は其々捨て台詞を残した。ローグがコケラに向かって煽り、闘争心を掻き立てた。使える駒は多い方が良いと思考したのだ。


「ククク…」

(明鏡新星を再生してみせろ、オレの為に)


 直前に奪い取った五つ目の欠片を眼前に持ち出し、不敵な笑みを見せるアクト。欠片さえ手元にあればスコアリーズへ再び行く大凡の時期が分かる。今は潜め。


――――― ―――


「シャープさん、ちゃんと食べました?」

「食べた」

「ちゃんと寝ました?」

「寝た」


「準備オーケーです!」


 ハモンの工房にて。モードの準備がせっせと行われていた。フラットは栄養と睡眠の最終確認を行い扉を開けた。モードの最中は集中する為、原則工房へは立ち入り禁止。彼女が部屋を出て扉の開閉音が止んだら合図だ。


 戦士とは微妙に違う職人らしい鍛え上げられた両腕にチューブを躊躇いなく刺す。目的は栄養の補完とアストエネルギーの安定化。

 程なくしてフラットが扉を閉めた。フェスト用エトワール、打刀タイプの仕上げだ。


「行くぜッ〈超法術 モード〉」

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