第34話 雨曇り

 雨の気配が誰かを呼ぶ。人の気配を呼ぶ。

――――――

――――――

―――

 頭主邸から出て数日後…。


「平和だね〜」

(あれから何日か経つけど、敵さん全然来ないなぁ…。そんでもって天音ちゃんは大丈夫かな〜)


 カノンが告げた物語に虚偽は無かった。スタファノにとっては思い起こす程の話でも無いのだが、天音にとっては違う。


――――――


「はぁ…」


 薄暗い部屋で灯りも付けずに一人籠もる。窓から射し込む微かな陽光を頼りにポーチに仕舞ってあるペンダントを取り出し、翳す。欲する時に限って頬を撫でる風が凪ぐ。無風状態が余計に心の重圧を厚くさせた。


「何時までもこうしては居られない……」

(分かってる…分かってはいるけど…!)



「天音、入って良いか?」

「っうん…どうぞ」


 薄暗い部屋で良かった。目頭に溜まった大粒を拭った痕が見えなくて本当に良かった。扉を開けリオンを歓迎する。リオンが床に座るので自分も隣にちょこんと座り込む。

 王家の闇、王族とスコアリーズの溝、それらは天音には耐え難い苦痛であった。故に旅仲間は回想しない。彼女も目を逸らす。今はまだ話せはしない。


「…」

「…」

「…」

「…」

「…っごめん、ずっと籠もってばかりで」

「天音」

「迷惑だよね。直ぐに出るから、私はもう大丈夫…気にしないで!」


「大丈夫じゃねぇだろ」

「大丈夫だよ」

「大丈夫なら何日も籠もってない」

「…。今大丈夫になったの。っ!?」

「あー…何だ。あの話聞いてお前が背負い込むのも分かるが、今は何も考えるな」


「私が背負い込まないとリオンが背負い込むでしょリオンにこれ以上の負担は掛けられない。王族が穢れた血族なら私はそれを受け入れるしかない!離してっ!」

「離さねぇ」

「!」


 何を話す訳でも無く、二人は無言のまま暫し時間が流れる。リオンは天音を見てすら無く気まずい空気に耐えかねた天音がポツリと呟く。隣にはリオンが居るので独り言では無くなった。


 大丈夫と自分に言い聞かせるようにして立ち上がり扉の方に向かおうとするも、左手首を握られ身動きが取れない。只管ひたすらに自問自答を繰り返していた天音に何も考えるなは酷だ。大人に成る前の少女時代を生きる彼女が易易と感情コントロールを出来るとは彼女自身も思っていない。


「そう言う嘘は嫌いだ」

「…ごめん」

「お前が、…王族の全部を抱え切れない事なんざ、とうに知ってる。俺は王族じゃねぇから全部は無理だ。けど半分なら持てる。半分なら抱えてられる。だから…その、…重いモン折半すれば万事解決だろ?」


 暗中で左手首に熱が集まる。集まった熱はやがて頬のチークとなり、幼い感情を立ち昇らせた。彼なりの励ましは余りにも真っ直ぐで励まし以上でも以下でも無い言葉が天音を救う。


「ーっ!だ、だったら…!」

「?」

「だったら…リオンが抱えてる重たい物も半分こしたい!」

「……3分の1なら良いぜ」

「ふふっ分かった!ありがと!!」


 裏表の無い言葉だから刺さる。

 真っ直ぐな性格だから刺さる。

 涙目が見える前にさっさと退出しよう。


「私アカメさんの所に行ってくる」

「んで奴のとこ…」

「だって気になるから」

「……は?」

(何処かで会ってなくても多分アカメさんの事を私は知ってる…だから気になる)


 今は思い出さない。前だけを見よう。余裕が出来たらこっそり思い出して頑張ろう。


―――


 庭から部屋の窓を覗く影が一つ、二つ。リュウシンとティアナは心配で見に来たのだ。リオンが無神経な事を言わないか。


「な?態々見に来る必要なっただろ?天音はそんなヤワな女じゃない」

「だね。杞憂で安心した…。でも、別の問題も生まれたかも知れないよね…ハハッ」


「別の問題?」

「無意識怖いなぁ」


 察しの良いリュウシンは気付いていた。無意識の意識は何時頃になるのやら。


――――――

―――

NO Side


「あ〜〜!!!我慢の限界だッ!!残り一人は何時来るんだ!?」

「得手勝手な奴。少しは冷静沈着で在れ」

「だってもう五日は経ってる!!!暴れ足りないんだってば!!」

「七日だ」


「ソワレ、ストレスが溜まっているのだな。発散すると良い。近くにオススメの場所がある!」

「なんだよ。水浴びでもしてたのか?」

「血腥い…。何をしていたキャス?」


「む?血は落としたのだが匂いがまだ残っていたか…。いやぁ失敬!通りすがりに、試し斬りをしてただけさ。健康が一番!身体は隅々まで洗わなくてはな」

「…単独行動をするなと、あれ程……!」

「身体が鈍るのはもっと避けるべきだと思うが?」


 某所。ソワレの単独行動から七日経つも進展が無い状態に落ち着きとは無縁の彼女は、我慢の限界に達していた。そんな彼女にストレス発散を促す人物が現れる。彼は熱血漢のキャス、水浴びでもしていたのかキャスの鮮やかな髪からは水滴がポツポツ滴り落ちる。

 単なる水浴びでは無い、糸目の男性の追及に誤魔化そうとせず悪びれる様子も無く当然のように白状した。


「然し、歯応えが無さ過ぎてこれでは逆に身体が鈍ってしまうな。ハハハッ!」

「俺が相手してやるよ。ゴミクズエトワール構えな!」

「む、望み所だ!ゴミクズでは無いがな」

「またエトワールバカにしたなっ!?!」

「ソワレは黙れ。それとも俺と戦うか?俺は二対一でも良いぜ?」


「止めろ。特にコケラ、此処で力を使うのは少々目立ち過ぎる。自分勝手に動くのも大概に」

「釣れねぇし詰まんねぇ。そんなの知るかよ止めてほしかったら自力で止めてみろよ!」

「地に這いつくばった後に悔悟慙羞かいござんしゅうした所で遅い……」

「何時になくやる気じゃねぇの、ローグ!」

「モチロン、ボクも参戦するから…!!!」


 悪気無い悪意とは恐ろしく、時に人間を惑わせる。キャスに突っかかったのは、悪気有る悪意を吐き出す肥満体型の男コケラだった。


 糸目の男性こと、名をローグ・スキュロスと言う。最初こそ軽く指摘する程度だったのだが、注意では殺る気満々のコケラ達を止める事は出来ぬと判断し力尽くでの制止を選択した。一触即発の彼等を止めたのは、音も無く出現した"彼"だった。



?「やっと着いた。計画は順調かい?」

「「「!!!」」」

(何時の間に…!?)

(全然気付かな…いや気付けなかった)

(チッ。まぐれだ。偶々だ…認めねぇぞ)


「ビューさんお疲れ様です。順風満帆とは行かずとも雨天計画は滞りなく」

「助かる助かる。ワープケイプには厄介な守護者が居てね面倒そうだから態々迂回して来たんだ。序でにポスポロスにも寄って来た」


「ふざけるなッ!ローグ黙ってたな!!?奴が霊族だって事を!」

「…だから何だ」

「知らなかったんだ。へー、どうでもいいけど。そうそうオレは霊族。停戦協定があるからね霊族と星の民は争えない、そんなのはどうでもいいけど。一応従っておこう」


 彼はアクト・ビューネン。正真正銘の霊族であり、一旦はアルカディアに戻ったが此度の計画を実行する為にメトロジアに来たのだ。

 "ワープケイプの厄介な守護者"を回避してワープケイプ外れにある森林を経由し迂回した為、到着に遅れてしまった。


 ソワレ、キャス、コケラの三人は計画に必要な"彼"が霊族だとは聞かされておらずアスト感知で気付き、ソワレがローグを問い質しアクトが適当に回答した。


「でもさ、霊族が戦えないなら星の民同士で殺し合えばいいんだよ。その為の君達、だ。霊族信仰御苦労さん、敬意が足りない奴が混じってるけど」

「だが、霊族が何をしに我らに加担する?エトワールの魅力に気付いたのか?良い事だ我らの狙う神器が手に入れば世界は広がる」


「神器…そう言う事にしておくよ」

「ケッ。はぐらかすな!俺の嫌いなタイプだぜ」

「だったら自力で吐き出させてみなよ。君は何時もそうするんだろう?」

「くっ…!」

「雨を待つってのも面倒臭いな。面倒臭いアスト能力だと思わない?誰だっけ雨役」

「ボクだけど、…」

「見るからに弱そうだ。ククハハッ!!」


 アクトが来てから、瞬く間に此処は彼の独壇場になってしまった。人一人がすっぽりと納まる程度の大きさの木箱に座り、偉そうに足を組む。ローグは彼の登場で終始膝を付き忠誠を誓うかのように頭を垂れる。その他の三人はローグの姿勢を倣うどころか、アクトから離れ警戒態勢を整えた。整えたところで彼等とアクトでは力に差がある為、叶うはずもない。



 降雨の気配まで残り―。


――――――

フォルテSide


『済まなかった。俺がフェスト用だからって理由で強度を考えて無かった。言い訳にすらならねぇよな。次は絶対、完璧なエトワールを造ってみせる』

『そんなっ謝らないでください…!!』


「案外律儀な人だった…」


 気分転換がてらアカメ同伴の散歩を楽しんだ数日前。エトワール技巧師の一人であり、フェスト用エトワールを制作したハモンに呼び止められた矢先、彼が頭を下げた。エトワールに関して律儀に対応するハモンは見ている此方にもエトワールが大好きだと伝わる。


「次は俺の番。しっかりしろフォルテ!」

(今日は最初から最後まで通しだ)


 頬を二、三度叩き己を鼓舞する。離れの稽古場にて、正座のまま姿勢を伸ばし深呼吸を繰り返し精神統一を謀る。フォルテが稽古前に行う前準備の様なもの。少しずつではあるが確実に体調も戻り三日前から稽古を再開したのだ。漸く、通し稽古が出来るまでに心と身体が回復した。



 稽古用のエトワールを抜刀、いざ剣舞を。


――――――

NO Side


(真の鏡、真名を"明鏡新星しんせい"と言う。明鏡の存在を価値を知らぬ愚か者に教える義理は無い。神器など霞むほどの力を秘めた魔鏡…)

「ククク、を引き込んだ甲斐がある。ローグ…少しはやるようだな。撚り子に目を付けた手腕を褒めてやろう」


「至極簡単。扇動に乗るのも早かった」

「スコアリーズに同情の欠片もないけど、哀れだとは思うよ。裏目裏目を出す愚者達」

「ファントムに抜かりはない」


 魔鏡、明鏡新星。知る者は僅か、撚り子の齎した情報でアクトも知り得た。真なる力を求め、ファントムと霊族が蠢く。


――――――

スタファノSide


「この辺かな…?…!ビンゴ。この感じ、良くないパターンだ」


 数日も経てば、街の至る声も落ち着きを取り戻したようでスタファノは木漏れ日の日光浴で穏やかな時を過ごしていた。気になる声も無論聞こえるが態々喧騒とは程遠い場所を選んだだけの事はあり、余り気にならなずに済んでいた。


 微睡みの中、彼は不穏な音を聞く。聞き慣れない不快な機械音が眠りを妨害し、目が覚めた。機械音に関しては全くもって心当たりが無く、初耳の音だったが嫌な予感が機械音と共に心を支配するものだから気になって見に来た次第だ。


「他の場所でも同じ音聞こえるな〜。この形状はポスポロスの技術だったりして」

(どうしようかな〜。リオンは戦士の所だし、天音ちゃんはアカメって人の所だし、ティアナは試し撃ちさせる為に技巧師達に連れて行かれちゃったし、リュウシンは頭主邸に居るし、誰に知らせよう)


「何をしている?」

「ん?怪しい者じゃないよ〜!怪しい物を取り外そうとしてるだけの旅人だって」

「旅人…ランスの知り合いの連れか!勘繰って悪かった。怪しい物とは何だ?」

「これこれ、怪しいでしょ?」

「円盤…こんな所に、か。確かに怪しい事この上ない。どれ俺様が見てやろう」


 円形舞台の普段人目に付かない場所にポツンと円盤状の怪しい物体が一つ置かれていた。いや、設置されていたと言った方が正しいのかも知れない。誰の耳にも聞こえない微小な電波の音を聞いたスタファノだから発見出来たのだ。


 発見したからといってスタファノがそれ以上何かする訳でも無いのは、それまでの彼の性格を鑑みれば明白だ。誰かに知らせた後は先程の場所に戻り日光浴の続きでもするのだろう。然し生憎様、旅のメンバーは直ぐには駆付けられそうに無い。頭を傾かせ悩むスタファノの下にエトワール使いの一人が声を掛けた。


 彼は"リフィト・アーベント"。派手目の装束が目に付く男性で数日前に故意にランスに攻撃を当てさせたのも彼である。


「ポスポロスぽいよね〜」

「ふぅん。エトワールとポスポロスの機械仕掛けの技術を合わせたのだな!面白い!!技巧師に言って俺様のエトワールも改造して貰おう!が…その前にコレは解除するべきだ。時限式か遠隔操作式か何方にしろ、コレはマズい。発動すれば舞台が吹っ飛ぶ」

「やっぱり?」

「よくぞ見つけた。ついでに円盤エトワールの解除に協力しろ。ガーディアン!!」


「オレも〜?女の子に誘われたら協力するけど男だもんなぁ。ヤダな……」

「女など興味ない。あるのは目の前の未知なるエトワールだ!解除したら速攻で持って行くぞ、待ってろ技巧師共」


 リフィトは怪しいエトワールを見るなり、目を輝かせ解析する。解析方法は単純だが、難易度は高めである。円盤を刺激しない程度にアストエネルギーの侵入経路を探り綻びを見つけ次第、微量のアストを流しアスト感知を行う。普段からエトワールを使う人間で無いと微量を見誤り最悪暴発してしまう。エトワール使いだからこそ出来る解析方法だ。


「解除方法分かるの?」

「知らん!だが任せろ。俺様の目に狂いは無い!!」


――――――

天音Side


「昔々の御伽話、未だ人々と霊獣が分かたれてはいなかった遥かなる神話時代の御話」


 アカメの家で彼と間食を交えながら他愛ない小話に花を咲かせていた昼下り、アカメが文字の練習用途として借りた小説を取り出し天音に薦めた。メトロジア王国に住む者なら知らぬ人は居ないと断言出来る程、幼少期の頃から慣れ親しむ小説らしい。


「…霊獣の加護を受けたメトロジアは悠久の大地を手に入れた。繁栄留まらず、益々盛りに乗る。相対の和泉からは無限のエネルギーが生み出され続け人々の安寧を和泉に祈った」


 天音は夢中になって読み進めた。小説の題名は 《女神様と五人の英雄》神話時代の確かに存在した御伽話。



―.アストエネルギーと法術に秀でた者達が、次第に台頭して来た。彼等は霊族と名乗り、王国に危機を齎した。自らの力を過信し国家転覆を図った。神話戦争の始まりである。


―.悪しきは罰する。星の民と霊族が争い、蔓延る戦火。驕る霊族に対抗し星の民は全力で王国を守護した。戦局は一向に変化せず神話戦争は永く続かに視えた。


―.女神様の降臨。霊獣と共に生きる女神様が星の民の庇護として降臨なされた。女神様に宿る五人の子、命を受け戦時を駆けた。


―.五人の英雄。霊族、星の民でさえ恐れ慄く圧倒的な力の差。正に英雄と称号されるに相応しき聖なる力。悪しき霊族は淘汰され星の民が勝利を期した。


―.神話戦争終結。霊族は霊獣の怒りに触れた。大地を割り、海を創り出した霊獣は深い眠りについた。残された霊族は渡り人となり、海の向こう側へと追放されメトロジア王国に再び平穏が訪れた。



「…表紙の女性が女神様?」

(やっぱり宝玉については一切書かれて無かった)

「英雄の名前すら書かれて無いもんね…」


「スコアリーズですら英雄は御先祖様しか知りませんので…仕方無いですよ」

「!アカメさん、小説ありがとうございました。とっても面白かったです…!」

「それはそれは良かった」


「スコアリーズと王族の問題は神話戦争の後…か。真の鏡、明鏡新星は狙われて無いって話になりましたよね?」

「はい…狙われる筈もありません。神器以上に厳重に管理されていますから…。明鏡新星が狙われるとすればスコアリーズ内に内通者が居る証明になります」


「内通者!?みんな良い人だったけどな。気さくで優しくて、内通者なんて居ないと思いたいな。あれ?…アカメさんはどうして明鏡新星の事を知っているんですか?」

「フォルテから教わりました。内緒で」

(えぇ?!フォルテさんって本当にアカメさんに何でも話すんだ。…街の秘密まで話しちゃうんだ……話すかなぁ普通)


 《女神様と五人の英雄》を読み終えた天音の下に、二人用の軽食を乗せたお盆を持ったアカメが扉を開け入室した。お盆には小ぶりの稲荷寿司が三つと稲荷に合う茶が一つ。

 稲荷寿司はアカメの好物らしく三日に一回は食べているらしい。


 フォルテはフェストの舞子なので街の秘密も全て知っているが、何故かアカメにペラペラと話すみたいだ。肉親に似ていると言うのはそれ程フォルテにとって重要な事なのか…。

 話し過ぎるのも流石に悪いと思ったのか、最近は皆に内緒で話すらしい。明鏡新星も神器もアカメが知っていると言う事は天音以外知らない。バレているとは思うが、敢えて口を噤んだ天音だった。


「じゃあ、鏡と神器の管理場所も知ってたり?私達は結局、管理場所までは教えてくれなかったし…」

「知ってます。内緒ですよ?」

「わぁ…」



「明鏡新星はマコトの姿を映すと云われ、また手にした者に絶大な力を与えると云われています。二つある内の一つは完全紛失、もう一つの明鏡新星は力を失い封印されている…」

「不思議な鏡だなぁ」

「故に、魔鏡なのです」


――――――

クリートSide


「…?ナチュラさんが片付け…珍しいですねそれとも何か探し物を?」

「ちょっとな」


 ハモンは工房でフェスト用のエトワールを。フラットは集中するハモンの身の回りの雑用と製造の手伝いを。そして、クリートは自分の工房で何やらガサゴソと道具等の整頓を。

 普段片付けなどせず、散らかすのが得意なクリートが今頃片付けをする。珍しい事もあるものだと彼女は足を止め声を掛けた。


「ちょっとじゃ分からないですよ…」

「騎士長…リオンのエトワールを見て、少し思い当たる節があってな」

「バジル先生の作品でしたよね」

「…バジル先生が此処を出て行くときにな」

「?」

「先生の持ち物を全て処分するように頼まれてたんだ。ただ昔の俺は処分する振りして隠し持って、時々眺めては参考にしてた。何処かに有ったんだ。打刀タイプの資料が」


「リオン君の様子だとエトワールの名前も、知らなそうでしたもんね。決めました!私も手伝いますよ」

「俺よりもハモンの方を手伝ってやれ」

「舐めないでください。何方も手伝えます。伊達に雑用係長くないですから!それに、片付けが苦手なナチュラさんが此処にある山を元通りに戻せると思いませんし」


「ははっ否定出来ない…」

(はぁ〜…雑用の期間だけが長くなってゆく私も自分の工房持ちたい…!)


 軽く見積もっても15Kgはあるだろう袋を軽々と持ち歩くフラット。クリートの近くの床に置いたら若干地面に響き揺れた。

 クリートとハモン、両方の雑用を熟してこその弟子だ。クリートが散らかした物の山を物の種類ごとに仕分けしながら何時までも半人前認定され続ける自分を悔やむのだった。


――――――


「エトワールが勝手に反応した?」

「ああ。ガキの頃から持ってるが最近になって反応し始めたんだ。何か分かるか?」

「そうだな…。エトワールの名前がそのまま法術名になるのがエトワール式法術だから、名前呼んだんじゃない?」


「名前?貰ったときはエトワールとしか言われなかったな…」

「名前知らない限り発動する事は無いと思うけど…。そうか、リオンのは神器級だからエトワールに認められたのかも」

「つまり?」


 疎らな訓練場の休息スペースにリオンとランスが居た。二人は久方ぶりにエトワールを交えた組手を行い、一息ついたところだ。

矢張りエトワールの扱いでは、ランスが一枚上手で中々勝ち星を得られないリオン。天音がアカメに会いに行き、むしゃくしゃした気持ちのまま組手をしていたので雑念入りまくり、勝てないのは当然だ。


 雨中にて現れた敵に訊くより目の前のランスにエトワールについてを訊いた方が良いと判断して、エトワールが勝手に反応する不思議な現象を話した。


 技巧師の眼から見てもエトワール使いの眼から見てもリオンの持つ打刀タイプの必殺武器は最高峰の神器級に位置づけられた。

 ランスの説明はふわふわとしたものでリオンの理解力は追い付かなかったが、二人の下にトサカ頭の男性が現れた。彼は説明の詳細を付け足した。


「俺から説明しよーか」

「"タクト"さん…」

「エトワールの名前は大前提、然し…神器級ともなれば話は別だ。神器を扱うには神器に認められるか、若しくは鍛錬を続け神器に耐えられる力をつける他無い」

「ほぉー…」


「後者はまぁ頑張れって感じだ!前者は違うぞ?神器エトワールには魂が宿ると云われている。魂との邂逅、承認による選別を神器に認められる…って言ってンだ。魂が反応したのかもな」

「そんな怪現象の類だったのか…」

「今気持ち悪いとか思った……?」

「…」

「何か言え!」


 トサカ頭の旦那ことタクト・テンポルノーム。戦士達を束ねるリーダー的存在だ。長らくスコアリーズを支え貢献してきた彼はリオンの打刀タイプより刀身が長い太刀タイプのエトワールを腰に佩用はいようし、もう一方の腰には錫杖タイプのエトワールがキラリと光る。


 一度は聞いた事がある付喪神の御伽話。歳月を重ね大切にされてきた道具には精霊が宿ると言う。リオンにとってはただの怪現象なので特別な感情を抱いたりはしない。寧ろマイナスな感情が出て困るぐらいだ。本当に少しだけ気持ち悪いと思ったり思わなかったりでランスから詰め寄られる。


「エトワールの特訓付き合うぞ」

(それにしても敵は何時来る…?)


――――――

―――


翌日。曇り時々、雨でしょう。

午後から次第に天候が悪化、

霧や靄の発生に御注意を―――。

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