第33話 頭主カノン・リーズ

 詠い、伝い、遺し、受け継がれるは闇。

――――――

ティアナSide


「……話す気になりましたか?」

「奇縁を、あの人は運んで来てくれたようですね。旅人リュウシン」


「リュウシン?何の話だ」

「ごめん。ティアナ、少し黙ってて」

「は!?」

(……何で"こうなった"?一体何の話をしてるんだリュウシンは。予言の内容を話してた筈なのに…こんなとき、あいつ等が居たら…〜〜いや駄目だ百歩譲ってリオンだな)


 ティアナは混乱していた。無理も無い、隣のリュウシンが一人で頭主と話し始めたのだから。彼女は数分前の記憶を思い起こし脳内を整頓しようとした。現在に至るまでの過程を―。


――――――

―回想―


「客間で待ってて。直ぐ呼んでくる」

「ソプラ、ありがとう」

「これも全部、暇潰しだからお礼なんて」


 頭主邸は見た目よりも広くは無く、代わりに色彩華やかな庭園が眼前に広がる。頭主邸の奥に見える六柱屋根が特徴的な家はフェストの舞子の一人、フォルテが住んでいると此処へ来る前にソプラが話していた。


 客間で待たされ数分後、頭主を連れたソプラが扉を開けた。頭主と呼ばれるだけあって、その女性は一切の無駄が無かった。ただ歩くだけで"無駄なき動き"と評すのは、甚だ可笑しいのかも知れないが第一印象は当に"ソレ"だった。


「王族の子と、騎士長は来てないようね」

「!」

(バレてる…)

(ごめん!お義母さんには勝てなかった!)


「訊きたい事があるのですね」

「その前にソプラ、席を外せ」

「次期頭主なのに…ま、いっか」

「ありがとう」


「此方には余り足を留めている時間はありませんので手短にお願いします」

「実は僕達がスコアリーズに来た理由はフェストだけじゃないんです。とある予言を受け取ったからです」

「予言?…アスト能力ですか」

「"フェストが開催されるまでの間、神器を守って真の鏡を開放しろ"と言われて来た。予言の通りに動かされるのも気に入らないが……」


「神器と真の鏡…」

「心当たりがありますね。教えてください。神器とは鏡とは何なのかを」

「守る、と言う事は何かしらがこの街で起こると言っているようなもの…然し、街の事は私共で対処します。話は終わりです。お帰りください」

「「!」」


 事前に知った女頭主の名は"カノン・リーズ"。可愛らしい名前の割にはキツめの言動が目に付く。画面外で旅人の素性を問い詰められたであろうソプラは心の中でごめんと謝り、両手を合わせる。


 予言で来たと頭主以外に知られると少々面倒臭くなりそうなのでティアナはソプラの退出を求めた、と言うより命令した。さして気にしない飄々としたソプラは緩く笑うと、直ぐさま退出した。何処となくスタファノを連想させる緩さにティアナは彼に対し苦手意識を抱いていた。


「頭主様、話して頂けませんか?」

「旅人に話す道理はありません。せめて王族の子か騎士長を連れて来なさい」

「…」


―回想終了―

――――――

ティアナSide


(そうだ…頭主が頑なに神器も鏡とやらも話そうとしなかった。だからあたしはムキになっていた……。そしたら隣でリュウシンが訳分からん事を話し始めて……)


―――

―回想―


「リーズ一族の長は頭主と呼ばれてる。百年前、本来なら頭主は"ラルゴ・リーズ"だった。貴方の夫ですね。ラルゴさんは頭主の地位を捨て、騎士になった。とある目的の為に」

「…何故、…」

「!?リュウシン?」


「何故知っているのか。それは、僕が託されたからです。"吟遊詩とリュート"を」

「リュー…」


 リオンか、天音かを連れて来いと上から目線で物を言う頭主。スコアリーズの長なので、上から目線と言うのは当たり前の態度だがこうも相手にされないと苛つきを覚える。


 文句の一つでも言ってやろうと口を開きかけた時、突如としてリュウシンが真面目な顔でティアナの知らない情報を喋り出す。戸惑う彼女を余所目に一歩身を乗り出した。


 頭主はと言えば、ティアナ同様に戸惑っていたが無知な彼女とは違うタイプの戸惑い方だった。"何故、知ってるか"と言った驚愕に似た戸惑いだ。


―回想終了―

――――――


(リオン達と出会う前は一人旅してたと軽く聞いてはいたが…その時の話か?)


 現在軸。頭主こと、カノンとリュウシンは無言を貫いていた。カノンが口を開くのをリュウシンは待っている。互いに目を逸らさず、柱時計の音だけが時を刻んでいた。


「夫は最後まで使命を全うしたのですね…」

「はい。眠る願い星を詠い続けました。真の鏡も探っていました。ラルゴさんの使命を引き継いで」

「鏡の事、やはり知っていたのですか」

「黙っていた事は謝ります…」


「待て待てリュウシン何なんだ!!あたしに分かるように説明しろ!」

「…分かってる」

「!」


 一人旅をしていた頃のリュウシンを知らないティアナに会話内容が理解出来る筈も無く、彼に状況説明を求め詰め寄る。困惑する彼女を一切見ずに、それ以上の詮索を拒否しようとバッと腕を伸ばす。

 眼前に差し出された腕と無視するリュウシンを交互に見つめ、彼女は遂に切れた。除け者にされた怒りが沸々と沸き起こりリュウシンの胸倉を掴んだ。


「!…何を」

「何を、じゃないだろう!!今のあんたは一人旅をしてるんじゃない!あたし達と旅をしてるんだ!」

「っ!」

「一人で勝手に進めるな」

「…ふっ」

「?」

「アハハッ!そうだよね、…ごめん。ちゃんと話すよ。でも今は頭主様の話を聴かないとね」


「神器とはエトワールの最上位に当たる代物…簡単に言えば一番強い物理的な武器の事。此処スコアリーズには三種類の神器が眠っております。場所までは流石にお教え出来ませんが三種を上げるならば…一つ、弓箭タイプ。一つ、三叉槍さんさそうタイプ。一つ、扇タイプ」

「真の鏡と言うのは…?」


「真の鏡…それは二種ある魔鏡の仮の名。鏡の話と先程の眠る願い星の話をするに当たっては、王族の子にも聴かせなくてはなりません。王家の闇の部分ですので…」

「闇…スコアリーズと王家の溝が深まる原因となった出来事……」

「全ては王家の一方的な所業です。お間違え無きよう」


 蚊帳の外に追い出されたティアナが怒り心頭に発するのも当然だ。他の人間より短気な彼女なら尚更に。真正面で怒りを受け止めさせられたリュウシンは己の身勝手さに気付き独りよがりな態度を改めた。普段の柔らかな笑みを見て正気に戻ったと確信したティアナは掴んだ手を離し、カノンを見やる。


 神器について語る口調は穏やかだったものの真の鏡と吟遊詩、そして王家と連なる単語を語る口調は悲痛に満ちていた。穏やかとは言い難い感情の裏に隠された憤りが見え隠れするカノンは頭主としてでは無く、一人のスコアリーズの住人として話しているようにも見えた。


「夫の目的を話すには順序が必要です」



?「法術…」

?「リオン、待っ!?」

「水龍斬!!」


「「「!!?」」」

「…!……一体何事ですか」


「り、リオン?!」

(っこんな奴に百歩も譲りたくない…!!)


 話も一区切りついたところでカノンはソプラが持ってきた湯呑茶碗に注がれた新緑の薫りを一口啜る。厳格そうに見えた頭主像は仮の姿だと思い始めた瞬間、轟音と共に頭主邸が"半壊した"。直前に、二人の男の声が聞こえたかと思えば次の瞬間には彼等は豪快に瓦礫の中から登場した。


「イッテテ…」

「リオンやってくれたなぁ…!」

「ランスがあんとき避けなかったのが悪いだろ?!」

「あれ避けるの無理でしょ!てか衝突するから破壊するの間違ってると思うよ!?!」

「結果的に軽症で済んだじゃねぇか」

「君さ全然変わってないね僕が馬鹿だった」


「ランス」

「ーっ!頭主様!!…あ〜とと…、ご無事で何よりです。全ての責任はここに居るリオンが受け持ちます当然」

「勝手な事抜かすな!」

「ランス説明しなさい」

「……はい」


 破壊された瞬間に動いたのはカノンだった。流石は皆から慕われる頭主様なだけあって、屋根や障子の破片を懐から取り出した扇で払い落とし被害を最小に抑えた。然し、当の本人である二人の男性…リオンとランスはカノンを歯牙にも掛けず言い争う始末だ。


 やはり頭主は厳格なようで一言名前を呼んだだけでランスは脊髄反射でカノンの前に正座し、頭を下げた。


「あれは僕とリオンが競争しているときの事です…」

「競争、ですか」

「はい。競争です」

「…続けなさい」


――――――

―回想―


「追い付いてきたな。よーしっ」

「!…近道か。上等だ!」


 これでも常識ある二人、人様の迷惑にだけはならないように競争する。一進一退の互角の対戦に先に勝負を仕掛けたのはランスだ。


 態とスピードを落とし、リオンに追い抜かれ油断させる。リオンが自分を追い抜き調子に乗ったところで脇道を進んだ。スコアリーズの地形を知るランスの戦略に一本取られるが負けじと、くるりと向きを変えランスを追いかける。


「迷子になっても知らないよ!」

「天音じゃないんだ。ならねぇよ」

(天音はなるんだ…)


 右へ行ったり左へ行ったり、暫く走り続けていたがランスは違和感に気付く。リオンがスピードを緩めていた。彼はランスに道案内させようとしてる。頭主邸が見えた瞬間に、速度を上げ追い抜こうと画策してるのだ。見え透いた作戦に引っ掛かるランスでは無い。


(ならコッチはどうかな)

(また向きを変えた?)

「!ここは訓練場か…」

「エトワール使い達が訓練する場所さ!ここでなら広々動ける」


「っぶね!」

「妨害するな、なんてルールは無い!」

「こんにゃろ…〈法術 水龍斬〉!!」

「!?…法術使うのは卑怯じゃない!?」

「使うな、なんてルールは無いだろ!」

「だったら僕も…!」


 再び方向転換したランスは頭主邸の位置と正反対に駆けた。罠かと考えたが此処で見失えば大幅にリードを許してしまうので大人しく一定の距離を保ちつつランスの後を追う。


 乱立した家屋が次第に途切れ途切れになり、遂には一切の家屋が見えなくなって開けた場所に出た。騎士長時代の経験から訓練場と瞬時に推測出来たが何故ランスが態々頭主邸から離れて此処まで来たのかは推測し切れなかった。


 先を行くランスが振り返ると、急速に距離を詰めリオン目掛けて蹴りを入れる。血気盛んな騎士団に入団したお陰が、ランスも随分彼等に毒されていた。妨害あり法術使用ありの無茶苦茶な競争ゴングが鳴る。


 ただの競争では無くなったので、妨害工作に無駄に時間を消費し訓練場から一向に進んでいなかった。まるで幼稚な子供、悪戯っ子のような工作の数々に呆れる人すら居ない。


?「お、ランス戻ったかー!」

「オルクさん!戻りましたよ!落ち着いたら練習再開出来ますのでまたお願いします!」

「任せとけ!!」

「居たなランス!これでも喰らえ!」

「その手には乗らんっ!!とりゃ!!」


「僕の槍は砕けないぞ」

「チッ」

「お前がリオンか、聞いてた通りの男だな」

「誰だ?」

「オルクさんだよ。ほら、エピックさんの幼馴染の…」

「そーいや言ってたな」


「エースから聞いてるぞ!!」

「エピックさんが話したんですか…?」

「おう!紙にちゃんと書いてあるぞ!」

(紙に…そこまでして喋りたくないんだ)


 訓練場の簡易休息スペースで豪快に鼾をかき寝転んでいた男、オルク・トーマホックはリオンとランスの喧騒声で目を覚まし起き上がる。欠伸しながら顔に貼り付けてあった紙を見てランスに声をかけた。


 当初の目的は何処へいったのやら。屋根の上から現れたリオンは持ち上げた岩石をランスに向かって投げた。ただでは殺られないのが元騎士団メンバーだ。背負っていた槍を取り出し岩石を破壊する。

 小競り合いの最中、リオンがオルクに気付き屋根から飛び降り近くに寄る。オルクもまたリオンを見て、彼の肩にバシバシ手を置くと人の良さそうな笑みを向けた。


 オルクはエピックと幼馴染であり、唯一彼をエースと渾名で呼ぶ。エピックとは真逆な性格である事は短い付き合いのリオンでも判る。恐らく、一方的にエピックと交流しているのだろう。エピック迷惑そうな顔が容易に想像出来る。


「…」

(今の内に…!)

「僕がついていかなくても良かったですね。紙に書くなら」

「わっはっは!!確かにな」

「でもエピックさんが帰った後に色々合ってですね…」

「リオン居なくなっちまったぞ。エトワールの事訊きたかったのにな!」


「え?!しまっ油断した…!オルクさん僕まだやる事があるので失礼しますっ!」

「お?そうか。じゃ、またなー!…さて折角起きたんだエース!一試合しよーぜ!!」

「…」

「そんな嫌そうな顔すんなよ!エースもガチバトル好きだろ?」

「…、…」

「一試合だけ、な!な!?」


 ソロリソロリ、抜き足差し足忍び足でオルクとの会話に夢中になっているランスを出し抜こうとするリオン。少年時代から全くもって変わっていない性格は良くも悪くも、火種を生みやすかったりする。急いで追いつこうと駆け出すランスを見送ったオルクは後方の叢に居る彼を試合に誘う。


 リオン達が訓練場に現れた瞬時エピックは関わりたく無かったので付近の茂みに隠れ、二人が去るのをジッと待っていたが幼馴染には所在がバレてるようで、呆気なく見つかり引っ張り出された。元気の塊のようなオルクと接する時のエピックは目に見えて憔悴し、心の中で舌打ちの一つでも打ってる事だろう。それでも尚、無理矢理離れないのは彼も試合をしたい気分だったのかも知れない。


「…」

「ん?あっちに何かあるのか?」

「…」

(言わなくて良いか)


?(!ランス…)

「旦那!遠慮は要らん!!俺様の居る方角に思いっ切りぶっ放せ!」

?「嗚呼!」

「フッ」

「っ!ランス避けろ!」

「はっはぁー!今の貴様の実力だと避けられんぞ!!」


「いっ!!?うわぁっ!!!」

「当たった!っし」

「ま〜だ根に持ってンの?」

「気に入らないだけだ!!」


 エピックはこれから起こる出来事を予測出来た。何故なら派手目な男性がランスを見つけてしまったのに気付いたから。今のランスに伝えるには結構声を張らないと届かないので諦めてしまい、背を向けた。


 気に入らないと言う理由だけで旦那と呼ばれたトサカ頭の男性の攻撃を、態と直撃させて喜ぶ。嫌われている訳では無いのでご安心を。極々僅かに相性が良くないだけである。目の敵にする理由を知っている旦那は呆れ、派手目の男性に苦言を呈すも効果無しだ。


「ーっ!?らん、…!!?」

(このままだと頭主邸に…!)

(衝突するぐらいならぶっ壊す!)


「法術…」

「リオン、待っ!?」

「水龍斬!!」


 屋根伝いに駆けるリオンに激突するランス。運悪く空中で衝突事故が起き体勢が崩れ、受け身が取れない、しかも墜落予想地は頭主邸ときた。スコアリーズ出身で無いリオンは頭主邸の破壊に躊躇いが無く、ランスの制止の声を無視し法術を発動させた。


―回想終了―

――――――


「貴方、自覚はあるのですか」

「……すみません」

「…」

「怪我も治ってます!ほら完璧でしょ!?…イタッ!…傷痕を隠す為の包帯です!!」

「ランス下がりなさい」

「はい…」


 言われるまでも無く正座しカノンと向き合うランス。背筋は伸び切り緊張具合が覗える。悪気は無いが百パーセント悪いのはランス達なので肩身が狭そうだ。


 包帯が巻かれた右腕をぐるぐる動かすも傷は完全には癒えてないようで、少々痛そうに右腕を擦り素直に退出する。

 ランスは分かっていた。説教は後々みっちり延々と聞かされる事を。


「騎士長の地位が無くて良かったですね」

「は…はい」

「寧ろ無くなったから余計に伸び伸びとしてしまったのでしょうか?」

「う…」

「今回は特別に損害賠償は請求しませんが次はありませんので。合ったら困りますが」


「リオン…それで天音は?」

「天音…?あ、!」

(忘れてきた…!!)


「天音ここの場所分かるのか?」

「…分かる……だろ。目立つから」

「半壊しましたからね。目立ちますよ」

「!」

「でも良かったリオン達を呼びに行くところだったからさ!」


 もし、今でも騎士団が存在し騎士長だった場合、リオンは凄まじい金額の損害賠償を請求され王家との溝は益々深まっていた事だろう。騎士長で無くて良かったと、心底思ったのは今日が初めてだ。嫌味たっぷりのカノンに言い返せないのは反省している証拠でもある。許す、許さないで言ったらカノンは絶対に許さないと思われる。表情が全てを語っていた。


 エトワールを忘れてきた事は競争途中で気付いたものの天音の存在は今気付いたらしい。

 リオンにとって、"天音の存在"と言うのはまだまだ小さく、気付かねば忘れてしまう程度なのだが…そんな状態も変わり始めている事に彼も天音もまだ気付いていない。


――――――

天音Side


「ま…迷った」

(…いや大丈夫!まだ迷ってない。そう、場所が分からないだけだからっ!場所訊く前に飛び出して行っただけだから!)


「今から工房に戻る?…戻ろうとしたら余計迷いそう……ううん、迷ってない迷ってない!」


 天音は方向音痴。故にガッツリ迷っていた。両手でエトワールを持ち、前後左右に駆け回る。そもそもの頭主邸の場所も知らずに工房から離れたので道に迷うのも方向音痴の人間である証拠だ。


 今の天音は直感で進んでいる為、二択の道を間違えまくっていた。結果、頭主邸からは遠ざかるも彼女は目的地に近付いていると何故か確信していた。

 然し、遠回りはしてみるもので見当外れの確信を修正してくれる"二人の人物"と漸く出会う。


「アカメさーん!」

「おや、天音さん…お一人で何処に?」

「ふぅー…一安心。アカメさん頭主邸の場所って分かりますか!?」


「頭主邸でしたら、あちらの方に。!おや」

「っ今の音なに!?」

「賑やかですね」

「リオンが何かしたのかな…。そんな気がする」


 通りすがりのアカメと再会し、ホッと一安心する天音。ウキウキで駆け寄り、頭主邸へと道を訊いた最中、轟く破壊音。大したリアクションをせず通常運転で済ませるアカメに対し、素直な反応をする乙女。当たり前だ。残念な事にアカメが指差した方向と轟音が聞こえた方向が完全一致してしまっていた。行くしか無い!


「君が旅人さん?」

「へ?」

「俺はフォルテ。宜しく」

「フォル…ああ!フェストの舞子さん!」

「うん。アカメから話は聴いてるよ」

「宜しく!フォルテさん」

「さん付けなんていいよ。…そのエトワールが例の……本当に不思議だ」


「バジル先生って人の作品らしくて…技巧師の人達も吃驚してて…!」

「!道理で…精巧な訳だ」

「フォルテ、そろそろ行くぞ」

「あ、うん。じゃあまた今度…」

「さよなら〜」


 アカメの側からひょっこり現れたフォルテは噂の旅人さんに挨拶し、エトワール見たさに距離を詰める。フェストの舞子だと分かると天音もニッコリ笑顔で立ち話する。結わえた髪と恰好からは位の高そうな身分を感じるがフォルテの少しばかり翳りある笑みからは年相応の青年ぽさが滲み出ていた。

 二人も用事があるらしく、アカメに急かされ会話もままならない内に別れを告げる。


 二人と別れ二、三歩歩いたところで天音はハッとして彼等を呼び止めた。伝えなくてはいけない事項を思い出して良かった。


「アカメさんっ!待って、実は此処だけ…と言う訳じゃないけど……兎に角聞いてほしいお話が…!」



「敵襲…?」

「それはまた大変な」


「完全にそうと決まってはないけど来るかも知れなくて……。多分エトワール狙いで……、神器とか真の鏡とか守らないと!!これから頭主さんのところに行って…その後は、…」

(神器!?)

(真の鏡…!?)


 何故、戦士ではないアカメに話したのか彼女には答えられるような理由など持ち合わせていないだろう。きっと気になる存在だから、デジャヴュを覚ているから話したに過ぎない。


 アカメに屈んでもらいゴニョゴニョと耳打ちし、フォルテも近寄り話を聴く。話し終えた天音は独り言を呟き今度は別れの挨拶も無しに半壊した頭主邸に向かって走り出した。


 天音の独り言はしっかりと、二人に聞こえておりエトワールと縁深いフォルテは神器にスコアリーズの秘密を知るアカメは真の鏡に其々が反応した。


「たとえ敵が来ても俺達は戦えないから何も出来ないねアカメ。…アカメ?」

「…、…」

「おーい…おーい……」


 今にも唸り声を上げそう険しい表情でアカメは物思いに耽る。彼の視界に映るように手を振ってみても反応無し。駄目だこりゃ。


―――――― ―――


「嘘でしょ、本当に壊れてる…」

「天音!こっちこっち!」

「迷わず来れたのか?」

「全然迷ってないよ!完璧カンペキ!」


 頭主邸と特別な名称で呼ばれるほど他と区別化されているスコアリーズの要所。天音が到着した時にはボロボロになっていた。敵襲前に既に壊れていたのだ。入口に突っ立っていたソプラの案内で皆が待つ客間に向かう。障子を開けるのではなく、跨いで。


「貴方が王族の子ですね」

「えっ…!?!違う、王族違うです」

「王族ですね」

「ひっ…!王族、…かも知れない……です」


「あ、俺のエトワール!」

「リオン、…忘れて行ったでしょ。持ってきたよ。手入れ布はポーチに入れとくね」

「さんきゅ」

「大事な物なんでしょ?ちゃんと持ってなきゃ駄目じゃない!」


「!」

「?なに…」

「…別に何でも?」

「??私、変な事言った?」

「さあ?」


 眼光鋭いカノンに王族かと問われ、ボロは出すまいと一度目は精一杯否定するが二度目は無かった。頭主の威厳を培った両眼から逃れるようにリオンの影に隠れる。そっぽ向いていた彼は聞き慣れた金属音に気付き天音の方に振り返った。


 エトワールを受け取る直前で伸ばした手を一瞬止め、エトワールを腰に装着する為に立ち上がったかと思えばぎこちなく目を逸らした。かつての王女との出会いを彷彿させる台詞に彼ばかりが意識する。…どうせ、もう王女は居ないと言うのに。


「あの…」

「話は既に聞き及んでおります。貴方を待つ間に」

「私を待つ間?」

「王族は一人残らず死亡したと思っていましたが生き残りが居たとは……好都合」

「…」


「全てを話す前に確認します…。リオン、誰もが所在を掴めなかった貴方が今頃現れたところを見るに貴方はを抜けたのでしょう?そしてその身にを宿した」

「ーっ…全てお見通しって訳か。頭主様の言う通りあの日俺達は扉を開けた」



「正直で助かります。ではお話しましょう。特に王族の子…貴方は知らなくてはならない我等と王家の永きに渡る因縁を」


――――――

―――

オマケ


「それにしても結局、皆揃ったな」

「確かに。スタファノは居ないけど」

「居るよ〜!んぎゃっ!?」

「スタファノは居ないな」

「あ〜ははっ…」


 スタファノが音も無くバックハグするのでティアナも負けじと怒りを抑え平然と彼を拳で制裁する。空笑いするしか無いリュウシンであった。

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