第30話 雅楽の街スコアリーズ

 雅楽の街にて、不協奏でる奏者と出遭う?

――――――



「は…はっ…はくしょん!うぅ…着いたは良いけど服と髪乾かしたい…」

「羽織り預けなきゃよかったかも」

「ほっとけばすぐ乾く。それよりもあたしが来た時より更に街の空気がピリピリしてる…」


「ピリピリもしてるし何だか慌ただしい感じだ。一先ず、リオンとスタファノが来るまで休憩してよっか?」

「で、その二人は今何してるの?!」

「えっと…それは」

「隠し事しなくてもいいじゃん!」


 急げば一日で着く筈のスコアリーズに丸三日掛かり漸く足を踏み入れる。不規則な雨の中、駆け足に風を感じていたので雨に打たれた時の寒気は皆無だが、ぐっしょり濡れた髪と衣服を乾かしたいと思うのは当たり前な乙女心だ。天音は二の腕辺りを擦るとズビビと鼻を啜った。


 ティアナが事前に話していたピリピリとしたスコアリーズの空気は改善されるどころか一層重くなっており、また住人等は慌ただしく喧騒としていた。天音に余計な心配を掛けまいとアスト感知した不穏な足音について押し黙っていたが返って不信感を抱かせてしまった。仕方無しに根負けし、リュウシンは小声で話す。予想通り彼女は見る見る内に表情を曇らせ冷や汗を掻く。


「もしすっごく強い敵だったら…」

「大丈夫だって!リオン達の強さは天音も知ってるだろ?今頃こっちに向かってるよ。それに、敵って決まった訳じゃ無いしね!」

「うん…」

「信じてあげよう」

「…八つ裂きにされてませんように」

「八つ裂き?」


「あのデカい建物は何だ?」

「あれは…スコアリーズの円形舞台だ。街の中心でフェスト、…お祭りの時に使われる舞台…行ってみる?」

「賛成!街の中心ならリオン達とも合流しやすいかも」


「詳しいな。行った事あるのか?」

「行った事は無いよ。でもスコアリーズのフェストなんて大体の人間が知ってる事だ。一度は参加したいお祭り…逆にティアナは知らなかった?行った事あるんでしょ」


「物盗むのに必要ない知識だ」

「あはっ……なるほど」

「はくしょん!」


 青ざめる天音を安心させる為にとびっきりの笑顔で対応する。リュウシン自身は譬え不穏な足音の正体が敵だろうとリオンやスタファノが敗北するなどとは思っていない。信頼し切ってるからこそ笑みを浮かべる事が出来るのだ。


 リュウシンの言葉と笑顔に一先ずは安心し、信じる事に決めた天音は斜め上の方向で心配していた。

 立ち止まっているのも詰まらないので三人は会話しながら街の探索を進め、ふとティアナが前方を指差し訊ねる。


 スコアリーズの中でも一際目立つ建物、円形舞台はフェスト以外には使用されないが住人等にとっては憩いの場であり、円形舞台付近には休憩スペースも設置されている。一度来た割にはスコアリーズに無知なティアナ、何故なら盗賊時代にはフェストは開催されておらず窃盗目的で訪れただけなので知らないのも無理はない。


 三人は円形舞台へ一直線に向かった。

―――


「近くで見ると大きいね…」

「誰か舞台の上に居るぞ」

「…掃除してるのかな」


(あの人、何だか寂しそう…それに何処かで会った事がある……?)

「私ちょっと話し掛けて来る」

「え?」


 円形舞台は遠目に見るより迫力があり、一瞬時が止まったかの様な錯覚に陥るほど美麗であった。一昔前の建物を彷彿させる構造で、悠久の歴史を見る者に感じさせた。木材に似た素材を使用しており開放的でありながらも耐水性はバッチリ。


 舞台上には本来誰も居ない時間帯だが長髪の男性が一人、上手かみて下手しもてを行き来していた。小道具を仕舞ったり箒掛けしたりと、彼は掃除をしているようだが何処か哀愁漂う横顔に天音は一歩舞台上の彼に近付く。


「あの、…」

「?」

「私達何処かで会いました?」

「??」

(しまった…!話し掛け方間違えた〜っ!これじゃ変人だよ!?)


「すみません…。昔の事はよく憶えていないものでして、私の知り合いの方ですか?」

「え!え〜と、そうかも知れません……。でも勘違いの可能性も…、いやでも私は貴方の事を知ってる気がします…」


「天音!」

「知り合いなのか?」

「どうだろう…?」


「此処でフェストが行われると聞いて来たんですが…何時頃開催されますか?」

「ああフェストで此処に…。それは災難でしたね。本日の予定でしたが急遽延期になり皆さん混乱しています」

「延期?どうして…」


 惹かれるものがあった。白髪に赤眼、容姿に類似点が見受けられたからかも知れない。然し確実に天音の心は彼に引き寄せられていた。長らく会えていない友人と再会したような心情を抱き彼女自身も困惑していた。自分と知り合いになれる筈無い、数週間前まで別世界で平和に過ごしていたのだから。


 目元の皺から察するに年齢は天音達より一回りも二回りも上だろう。掃除の手を止め舞台から軽々飛び降りると彼はフェストの延期について話してくれた。


「フェストの見処、と言えば此処で行われる"剣詩舞"なのですが…舞子まいこの一人が直前で怪我をしてしまい延期になったのです」

(理由は他にもありますが…)

「舞子さんが…」

「軽い怪我ですので数日経てば完治します。きっと彼女が回復したらフェストは開催されますよ」


「だから周りがザワついていたんだね」

「あの予言バアさんは延期される事を知っててあたし達を寄越したな」

(やっぱり勘違いなんかじゃない…)

「貴方の名前、訊いても?」


「私ですか?今は"アカメ"と呼ばれてます」

「その言い方、まるで偽名を使ってるみたいだ。あんたの本名は?」

「本名は…と言うか、此処へ流れ着く以前の記憶がすっぽり抜け落ちていて……すっかり忘れてしまったのでしょうね。今の生活が気に入ってるので昔の事はもう良いのです」


 舞子の怪我の心配をする一方で天音の思考は確信へと変わっていく。フェストの見処は、何と言っても剣詩舞、吟剣詩舞であるが聞き慣れない単語より長髪の男性のが気になるようで名を訊く。

 彼の名はアカメ。スコアリーズへ来る以前の一切の記憶が無く、嘸や悲しんでいるかと思いきや今の充実した生活を楽しんでいた。忘却した過去より未知なる未来を楽しむ彼は見掛けによらず明るい性格だ。先程感じた哀愁の横顔は勘違いと見える。


「…私も何だか会った事あるような気がしてきました。名を訊いてもよろしいですか?」

「私は天音、こっちはリュウシン、後ろに居るのがティアナ!私の仲間なの。あと二人居るんだけど…遅れてるみたいで」

「宜しく」

「天音さん、私も純白の髪に見覚えが…」

「?」


?「何してんだ」


 サッと距離を詰めるアカメ。名乗りだけの自己紹介は置いておいて天音の純白の髪色に目を留めた。同色ではあるが若干アカメの髪の方が質が良さそうだ。見定めるように髪に手を伸ばし優しく触れる。抵抗しない彼女の代わりに苦言を呈したのは青髪の彼。


――――――

 数分前の事。天音達より半刻ほど遅れてリオンとスタファノもスコアリーズへ現着した。


「オレ此処嫌いかも〜…。嫌な音が溢れてる。どうせなら楽器の方が良いのに」

「…催事って雰囲気じゃねぇな。さっきの事もある。あんま油断するなよ」


「噂の女の子発見!じゃあね〜」

「…」

「彼女と過ごすからリオンは天音ちゃん達のところに行きな。みんな円形舞台の近くに居るよ」

「それを先に言え」


 スタファノの言う"嫌な音"が何を示す事なのか、リオンには知り得る筈も無いがこれでも一応は元騎士団団長だ。スコアリーズの騒然とした様子だけでなく、住人の顔に負の感情が表れている事に気付く。とてもじゃ無いが今の状況は催事の雰囲気と呼べない。


 エトワールを強奪する為に急襲したならず者の前例もある。何時また襲われるか分からぬ現況で油断は禁物だ。禁物なのだが、常日頃緩く生きているスタファノには関係ない。天音達の居場所を伝えると噂の女の子に会いに颯爽と消えて行った。


 余りの切り替えの早さにリオンは苦笑いするしかない。緊迫した空気が少々、解れたのは良かったと言えるかも知れないが。

 辺りを見渡さなくとも、建物を見た事が無くとも、円形舞台は容易に発見出来た。一刻も速く情報の共有をしたく小走りで円形舞台を目指す。



「ちょっと待ったぁあーっ!」

「!今度は何だ」

「引き止めてすみません。私の話を聴いては頂けないでしょうか!?」

「急いでる。無理だ」

「!?…冷たい事言わないでください!少し私の為に時間を割いてくれませんか!!」

「無理だ。つーか誰なんだ」


 横からリオン目掛けて飛び出した女性が彼の前に立ち塞がり静止と傾聴を要求する。例えば、先程まで一緒に居たスタファノなら傾聴するかは、さておき素直に立ち止まっただろう。然しながら残念な事にスタファノは居ない、であればリオンが天音達との合流を後回しにして彼女の話を聴くメリットは皆無だ。だが、呟いた独り言を拾われ女性は勢いのままに名乗りとあるお願いを申し込んだ。


「私の名前はフラット・フラント…名前はどうでも良いです。この街で見掛けた事ありませんけど旅人の方ですか?是非ともスコアリーズの未来の為に…!何も言わずにエトワールを拝借してもよろしいですか!?」


「また、エトワールか。大事なモンなんだ悪いが貸せない」

「ですよね。エトワールを見ず知らずの相手に渡す愚行をする人はスコアリーズには断じて居ません。ですが私は超絶有名で大人気の…」

(の弟子で見習いで雑用係…)

「です。私の名に免じてエトワールを…ってい、居ない!逃げられた…!!」


 名を訊かれ?初めて自己紹介をしていない事に気付いた彼女はフラット・フラントと名乗る。名前よりも大切なお願いを切羽詰まった表情で並走しながら伝えるも拒否された。彼女がエトワール技巧師と名乗る頃にはリオンは既にフラットが追いつけず、彼女の位置からも見えない場所まで逃げていた。


(必ず見つけなくては…!)


――――――

 そして現在軸。リオンは天音達と合流した。


「何してんだ」

「お仲間さんの様ですね。機嫌を損ねてしまったのなら謝りますが、何もしておりませんよ…」

「?損ねてなんか…」


 妙に馴れ馴れしい男から天音を引っ張り一歩遠ざける。特に機嫌を損ねる要素は見当たらないとリオンは疑問符を浮かべるがアカメは繊細な心の奥底の感情を察知したらしく両手を上げて敵意が無いと証明した。


「リオン!怪我は?!してないよね!」

「リュウシン……話したな?」

「まぁいいじゃん。無事に合流出来た事だしさ」

「怪我は…」

「してない。ほら掠り傷もないだろ」

「スタファノは何処行ったんだ?」

(予想は出来るが)

「女のとこ行った」

「女って…」

(だろうな)


「スタファノも怪我してないよね…?」

「……してない」

「なに今の間…まさか八つ裂きに!?」

「心配すんな。八つ裂きにはなってない」

「に〜は〜?」

「無事だ。無事無事」


 開口一番、天音はリオンの怪我の有無を確認する。ムスッとした表情は心配してるからこそだった。何も言わずに去った怒りも少なからず含まれているようだ。目線を合わせて腕を出せば納得してくれたがスタファノに関して言えば直接会わない限り納得してくれる様子も無かった。


「フフッ仲良しですね」

「お前は…?」

「この人はアカメさんだよ。掃除をしてたんだって。…それでリオン、私アカメさんに会った事あるような気がするんだけど…」

「んな訳無いだろ。国に戻ってから会った事なんか…」

「だよね〜…!」

(夢の中とか?…最近夢見ないけどな…)


 アカメの紹介ついでに天音はリオンにも彼に心当たりが無いかを問い掛けた。メトロジアに来てから大半の時間を一緒に過ごしていたリオンが首を縦に振らなければ自分の勘違いとして天音も納得せざるを得ない。否定されても心残りがあり、余り納得している態度とは言い切れないが。


「リオン少し良いかい?」

「あぁ何だ」

「実は今日開催予定だったフェストが延期されたらしいよ」

「!…"来るフェストに向けて"つー予言は延期込みの話だったのか」


「理由は舞子の怪我、完治すれば直ぐにでもフェストは開催するそうだ」

「怪我で延期…。理由が単純だからこそ何か引っ掛かる…フェストの舞子が重要なのは分かるが控えの奴は居なかったのか?」

「…それは」

「あ〜確かに!普通代役を立てるよね。主役を演じる訳だから」



?「怪我は表向きの理由だからです」


 フェストの主役が舞子ならば必然的に代役や控えの人間が居ても可笑しくは無い。寧ろ、フェストほどの規模で居ない方が違和感を覚える。リオンの鋭い質問に答えたのはたじろぐアカメでは無く新たに現れた男性。


「"ソプラ"さん彼等は外部の人間ですよ?」

「構わない。どうせフェストは有耶無耶になるんだから…」

「表向きってどう言う事だ?」

「舞台の前は目立ちます。僕の家で食事でも摂りながら話そう。案内するよ」

「あ…でもスタファノって言う仲間がまだ来てなくて……」


「スタファノなら何処に居ても話は聞いてそうだけどね」

「よし、奴は置いて行こう」

「その内、ひょっこり現れるだろ」

「皆…スタファノに対して冷たくない?」


 紫色の髪と同色の瞳の持ち主、名はソプラ。前髪が中途半端に伸び正面からでは瞳は見えづらいが合間合間に見える彼の目は透き通った色をしていた。ソプラは一介の旅人達に何故か裏向きの真実を話す為に家に招待する。

 四対一で決定しスタファノを置き去りにする事になったが天音は罪悪感を抱いていた。そんな罪悪感も後に綺麗さっぱり消え去るのだが彼女はまだ知らない。


「と、此処に来た目的を果たし損ねるところだった。アカメ、フォルテの食事の支度をお願い出来る?」

「どうして私に?フォルテに何か…?」

「例の件で体調崩したらしくって元気付ける序でに…と思って」

「それは大変、直ぐに準備します」

「ありがとう、よろしく」


 ふと思い出したように立ち止まりアカメに指示を出すとフォルテなる人物の身の回りの世話を託す。如何なる人物か皆目見当もつかないがアカメがフォルテと仲が良いのは伝わった。


 体調を崩したのなら食事よりも良薬の支度を頼む筈だが…と思い至ったところで自分には関係ないとリオンは口を噤み言葉を呑み込んだ。


――――――

スタファノSide


「どうせ私なんか…」

「噂の女の子はキミかな」

「誰…?」

「オレはスタファノ。そしてコッチはキミに似合う花、グラジオラス…この花は色んな花言葉がある。まるでスコアリーズの様に…キミに似合うのはピンクのグラジオラス。花言葉は"たゆまぬ努力"」


「!私には似合わない…。放っておいて」

「似合うよ。キミのような努力家には」


 彼女の身体に合わせた杖をつき、片足を浮かせる噂の女の子は壁に凭れ掛かり小声で自傷めいた言葉を吐く。ザワザワと揺れる街の声に耳を塞ぎたくなる衝動に駆られるが、その気力も起こらない。


 彼女が次に視線を上げたのは聞き慣れない声と見慣れない人物の影が視界の端を過ぎったから。突然話しかけられ警戒するのは当然、無視して帰宅しようにも足が上手く動かない。杖の使い方に慣れていないからだ。スタファノと名乗る男の目を合わせられず彼女はそっぽ向いて口をついた。


「何方か存じませんが、私の事を知った風に語るのは止めてください…」

「"ルルトア・リーズ"」

「私の名前、…!」

「有名人だから至る所で噂が立ってるよ。頭主様の養子でフェストの舞子。キミが怪我をしなければ通常通り開催してたのにって噂がね〜」


「私には努力を実らせる力すら無い。放っておいて!あなたみたいな才能だけで生きてる人間には分からない」

「オレ才能無いよ〜。なーっんにもね!」

「どうだか、…」


「思い付くものと言えば…一つだけあるよオレの耳、人より遠くまで聞こえるんだ〜」

「やっぱりあるじゃない才能」

「才能だと思う?」

「ええ。まさに天から賜りし力って感じ」


「信じてくれるんだね突拍子も無い話を。ルルトアちゃん優しい〜」

「どっちでも良いから適当に合わせてるだけ。私、帰るからついてこないで」


 努力家と見知らぬ人に呼ばれる筋合いは無い彼女はスタファノを止めようとするも既に彼のペースに押されていた。名乗っていない筈の名を呼ばれ自分の噂話を聞いたと話す。ルルトア・リーズは表情を変えなかった。険しい様相のままに、己の無能さに嘆く。


 否定しないと肯定はイコールでは無い。スタファノの話に付き合うと余計に傷が痛む。関わらない方が賢明だ。適当にあしらい杖を持つ手に力を込めた。


「治してあげようか?」

「は?」

「怪我、治せるよオレはね」

「ふ…本当に才能人間ね。あなたを見てると自分が情けなくなってくる」


「決めるのはルルトアちゃんだ〜」

「…直さなくて良いよ。自分の失敗は自分で解決しないと意味ない。たとえ治したとしてもフェストは開催されない」

「どうして?」


「知らなくても良い裏事情」

「ふ〜ん。でもキミのお義兄さんは裏事情を話すみたいだよ。オレの仲間に」

「…!?何故っ…ソプラ……」

「何故だろうね」

「本当なの?!」

「本当だよ。会いに行ってみる?」

「…」


 去る背中に言葉を投げかけた。引き止める理由は何でも良かったが治癒法術を選択して正解だった。思い通りルルトアは振り向き目を合わせる。才能のある人間を前に、先日失敗した自分が対等に話せる訳無いとルルトアは治癒を拒否した。


 スタファノぐらい軽々しいと当てられた此方が逆に清々しくなり口が緩くなってしまう。少し表情に明るさが戻ったのも束の間、彼の口から義兄の所業を聞き暗くなる。裏事情を一介の旅人に告げる義兄を見過ごせる筈が無かった。嘘かも知れない、然し嘘でなかったら?ルルトアは無言で頷き回答する。


「!なにを…っ」

「コッチのが速く着くよ」

「でも…」

「しっかり掴まっててね。杖も落とさないように握ってて、スコアリーズのお姫様!」

「…」


 ルルトアは純情な乙女だった。スタファノに所謂、お姫様抱っこをされ困惑するが負傷した今の状態では速いのは何方か言うまでもない。頭主の養子であるならば、彼女は姫と呼ばれても仕方無いが姫扱いに慣れていないルルトアは頬の赤みを隠すように無言で頷き、杖を強く握った。


―――――― ―――

フラットSide


(絶対に見つけてみせる…!)

「ナチュラさん聴いてましたか…!?」

「聴いてたよ。エトワール見掛けたって」

「一目見ただけで分かります…あれは、を行った代物。必ず見つけ出して機嫌を直してもらうんです」


「モード…か。そりゃあ貴重だハモンも機嫌直すかもな。俺以上にエトワールに命を懸けてる男だ」

「機嫌直してもらわないと私達が理不尽に責められるんです。まったくもう!いざとなったらスコアリーズの戦士達にも協力要請を出します」


「誰が出すんだ協力要請」

「それは勿論ナチュラさんで…」

「ははっ。冗談は止してくれ…借り作ったら最後、タダ働きさせられるぞ…」


 リオンにまんまと撒かれ、トボトボと帰宅しエトワール技巧師仲間のクリート・ナチュラに事の一部始終を話す。彼なら良案を出してくれると踏んでいたが期待外れだった。加工前の素材を丁寧に磨き上げ良案どころか話を聴いているのかも怪しかった。

 戦士達に協力を要請出来無いのは単に彼等が癖の多い集団だから。一定の繋がりはあれどあくまでビジネス関係止まり、プライベートではお互い別に過ごす事が多い。



「それでも諦めませんから!タダ働きはシャープさんにしてもらいましょ」


 ハモン・シャープの機嫌を直す為、フラットとナチュラは燃え上がる。…主にフラットが。

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