第28話 予言の導き

 逃げて隠れて追い追われ、導く先の秘事ひめごと

――――――


「じゃあ宜しくね」

「はいっ〈法術 マジック・トリック〉…」


 依頼人は一言伝えると風見殿へと侵入した。少し間を置いてメリーさんも歩を進める。


――――――


「〈法術 水龍斬〉!」

「〈法術 辻風〉!」


 風見殿北の間にて、法術を絡めた組手を行っているリオンとリュウシン。側で見守るのはジャオとリョウとティアナだ。当初、リオンは雛子の手伝いへ行く予定だったが仕上げをかける為ジャオに頼まれ組手に付き合う事にした。広々とした空間と言っても法術の扱いには配慮の必要があり全力の試合では無かったが、それでも有意義な組手となっていた。


 水龍斬の斬撃が迫り辻風で相殺を試みるが全てを相殺し切る事は出来ず、二割方の斬撃を慌てて回避し同時に体勢も整え追撃に備えた。


(やっぱり強い…!)

(阿呆め、態勢を整えるだけで受け身に転じている事に気付け。慎重なのは良い。然し殊戦場に於いては致命傷になりかねんぞ)


「はっ!!〈水龍斬〉!」

「ふっ!…!?」


 法術発動直後に駆け出し距離を詰めるリオンは受け身のリュウシンを体術で崩し再び技を出す。先程よりも至近距離なのでリュウシンは辻風ではなく盾でガードした。……までは良かった、斬り込む直前に防がれると察したリオンは敢えて威力を抑えリュウシンを盾に集中させた。水龍斬を発動したまま一回転し"盾を土台にして"上空に飛び上を取る。


 全ての行動に於いて先手を取られ、技を喰らわんとし何とか回避に成功する。リュウシンを取り逃がしたリオンは背を向けて着地し、隙が生じた。


(!今なら…)

「行け」

(事前に頼んでおいた…態と隙を作ってくれと、そうでも無ければ技出す前に終わってしまう)


(来い)

「〈法術 突風陣〉…!!」

「…っ」


 一点突破の突風陣を発動する。振り返り際に盾を出しガードしたリオンだが、衝撃と共に壁際まで押し込まれ軽く息を吐く。


(1…)

(2…)

(3…!)

「くっ」

(4…動け…!!)


「そこまで!」


 突風陣発動後、秒数を各々が数える。目標は三秒を切る事であり全神経を集中させ身体に動けと命令を下す。二秒が過ぎ三秒になった瞬間リオンが動く。盾をパッと消して前を向いた状態で両足を浮かすと後方の壁を利用し蹴り上がりリュウシンの背後を取る。


 四秒で指先がピクリと反応したが、リオンの手刀がちょんと肩を叩き終了の声が届く。勝者はリオン。負けたリュウシンは五秒が過ぎて広間に寝転んだ。


「だ…だめだ」

「お疲れさん」

「ありがとう…」


「兆候はあったな。その調子だ」

「指先が少し動いただけだよ」

「少し休んだらわたしとリョウの組手を見てしっかりコツを掴め。わたしからは突風陣をリョウからは風の扱いを、見て学ぶんだ」


 寝転ぶリュウシンに労いの言葉と右手を差し伸べ彼を起き上がらせる。わざと隙を作ったとは言え真正面から突風陣を喰らったリオンも疲弊の色を隠し切れていなかった。



?「そうそう。風使いはそのまま修行をね。騎士団長様、久しいなぁ…来ちゃった」

「誰だ!?」

「まさか侵入者…!」

「待てリョウ」


「……あっ!?婆さん…あんときの!!!」

「思い出したかね?」

「知り合いなの!?」

「…昔、予言を一方的に喋って直ぐに居なくなった婆さんだ」

(予言…)


 突如、広間に老婆が現れる。いや、元々老婆はその場に居たのだ。気配を完全に消し口を開いた事で皆が漸く認識したと言った方が正しい。


 真っ先に侵入者と判定し今にも飛びかかろうとするコウを制すジャオ。彼女は老婆の様子に引っ掛かりを覚えていた。老婆は騎士団長様とリオンを呼び、彼の前までゆったり歩くと赤紫色の頭巾を自ら外し素顔を見せた。


 一呼吸ほど間を起き、記憶の中の例の老婆と目の前の老婆が完全一致し老婆に対する警戒を最初に解いた。かつての過去、リオンに88を伝えたあの老婆だ。リオンに思い出され心なしか嬉しそうな老婆と"予言"の単語に反応して顎に手を当て考え込むリュウシン。


「婆さん、…まずはどうやって入ったか教えてくれないか?」

「そうじゃの。私しゃ依頼を出して中へ侵入した。透明になれる彼にな、名前は確か…」

「クリス…」

「そうそう。そんな名前だった。今日中にはゼファロを出るつもりじゃって、そのように警戒なさるな」


「ジャオさん…」

「リョウ、もう一度言う結界を強めておけ」

「今すぐに強めてきます…!」

「ゼファロの地を侵す者は何人たりとも野放しにはしておけん。何用だ」


「ジャオ、それとリョウにも伝えてくれ。この婆さんは敵意なんて無い…言いたい事を言ったら直ぐ消える。警戒を解いても大丈夫だ。ティアナもだ」

「ほほう。格が付いてきたなぁ」

「…分かった。クリスが連れてきたならひとまず悪い奴では無いだろ」


「その言葉、信じよう。何かあれば責任を取ってもらう」

「ああ」


 唯一老婆と知り合いのリオンが場を仕切る。警戒中のジャオとリョウが最優先で知りたい侵入方法を聞き出す。平然と透明化し結界を抜けたと話す老婆にジャオは若干苛立ち気味に結界の強化を指示した。怒られると確信していたリョウは手早く場を離れゼファロの入口まで駆けて行った。


 自分も散々メリーさんの力を利用してきた身で老婆の事をとやかく言える立場ではないしメリーさんの事も信頼しているので警戒態勢を解くティアナと、リョウが去り長代理として気丈に振る舞うジャオは騎士団長としての実績を持つリオンの言葉を信じ矛を収めた。


「あっ…!僕も思い出したよ。突然現れては消える予言者の噂話、…」

「おや、そのような噂話が流れていたとは…噂した人は美人だったと話してたかい?」

「え…いや、そこまで詳しくは聞いてなかったよ。実在するとは思わなかったし」


「順番が回ってきたんだな」

「うんうん。93番目の道標…お主達が行くべき街を伝えに来た」

「行くべき街だと?」

「でーも、その前にこの老婆を捕まえてみよ。捕まえたら話してやっても良い」

「遊んでる暇は無い…と言ったら?」


「お主達は必ず老婆と楽しい楽しい鬼ごっこをする羽目になる。何故なら…!!」

「!?エトワールが…!」

「!クリスだな」

(法術解除…)

「ティアナごめん。依頼だから」

「返せ、この野郎」

「べー」


 リュウシンがまだ一人旅をしていた頃、情報収集の最中に聞いた噂話を思い出す。根も葉もない噂話だと聞き流していた為、 時間を置いて漸く思い出したようだった。


 老婆はリオンを、正確にはリオンの腰元にあるエトワールを指差した瞬間ふわっと独りでに浮かんだ。非常に身に覚えがある光景にティアナは協力者の名を、浮かんだエトワールに向かって叫ぶ。


 法術を解除しメリーさんは姿を現した。彼はエトワールを老婆に渡して隣に並んだ。僅かに罪悪感はあるのか素直に謝るがリオンに対しては反抗的だった。依頼だからと言ったが本人はちょっとした復讐も兼ねていたのかも知れない。


「こんで、鬼ごっこする気になった?」

「秒速で終わらせてやるっ!」

「おおっと待ってね」

「!何時の間に…」

「風使いは不参加願おう。参加しても良いが一回、一瞬だけじゃよ」


「意味が分からん。鬼ごっことやらは、あたし達に何のメリットがある?」

「次の行先が分かる。次なる街はメイプル嬢にとっても重要になるぞ…騎士団長様はやる気みたいじゃ。期限は日没まで!日没までに間に合わなかったらエトワール折っちゃうぞほんじゃま、スタート!!」

「…〈法術 スター・トリック〉」


 エトワールを取り返そうと眼前の老婆に手を伸ばすが瞬きの時間も感じぬほど一瞬で出入口に移動しメリーさんも直ぐさま後を追う。一方的に話し終えると二人はエトワールごと透明化して外に出た。


「どうする?日没までまだ大分、時間はあるけど…」

「あの婆さんならエトワール折りかねん…鬼ごっこに乗るしか無さそうだ。協力してくれるか?」

「する気は無かったが…仕方無い。クリスの透明化は意外と持続時間が短い、狙うならソコだ」


「ジャオはどうする?」

「どうするもこうするも風使いの参加は一瞬のみなのだろう?…ルールを破ればそれこそエトワールは即真っ二つだ。鬼ごっこはそちらで対処してくれ。リュウシンも修行に集中しろ」

「そうなるよね〜」


「なら天音とスタファノに連絡頼む。ティアナ行くぞ!」

「言われなくとも!」


「ジャオさん、たった今戻りました!…ん?何かありました?」

「あった…が、わたし達風使いは修行に専念しなくてはならないらしい」

「ん?」

(大丈夫かな)


 エトワールを奪われてしまえばリオンに拒否権は無い。老婆とメリーさんの後を追いに、リオンとティアナは風見殿を飛び出し丁度のタイミングで出戻ったリョウと擦れ違う。


 異様な空気に触れリョウは恐る恐るジャオに自分が居ない間の出来事を訊く。彼が戻った事で冷静さを取り戻したジャオは修行を再開させた。内心不安げなリュウシンは逸早く、突風陣のインターバルを三秒にまで縮め駆けつけたい所存だった。


 鬼ごっこ、鬼の形相で追う鬼から逃げるごっこ。

――――――


「始まった」

「?」

「天音ちゃんも参加する?鬼ごっこに」

「へ?鬼ごっこ…?」


 本日の雛子の手伝いにはスタファノと天音の二人が来ており接客の仕事に邁進していた。不意に長耳がピクリと反応し作業の手を止め鬼ごっこが始まった事を間接的に知る。


 風見殿での一部始終を当たり前だが、天音は知らないので程なく雛子へ来たリュウシンと共に鬼ごっこの説明をした。


――――――

 メリーさんの法術は二種類あると話す。対象1名を他者から見えなくするマジック・トリックと自分と対象を含めた複数人を透明化させるスター・トリック。メリーさんのみが透明化したい場合も後者を使用する。


「くそッ何処に行きやがった…」

「透明化は精々持って1分だ。クリスはすぐアストエネルギーが切れるから連発はしない筈…居た!」

「見つかっちゃった」


 風見殿を出て直ぐの大通りにて向かい合わせに老婆を探す。ティアナがメリーさんの透明化について説明する最中、大通りから小道に移動する人影を発見する。


 ティアナと目が合うと老婆はメリーさんから離れ大通りを逃走する。メリーさんは小道を進み鈴音を鳴らしながら透明化し隠れた。二手に別れ、何方を追うか。エトワールを所持している老婆に決まっている。


「挟まれたね〜。ピンチピンチ!」

「終わりだ」

「はぁっ!」


「コッチにしよーと!」

「!」

「ぴょーん、くるくる、どーん!!」

「いっ…!?」

「リオン!!」

「ほんで、またぴょーん!!!」


 ティアナは真っ直ぐ老婆に向かって直進し、リオンは大通りに点在する塀の上に乗り進み老婆が逃走できぬように回り込んだ。


 挟み撃ちされた老婆は焦るどころか飄々と笑った。老婆を捕まえようとするティアナ、エトワールを掴まえようとするリオン、老婆は直進する二人を見比べ凡そ老体とは思えない機敏な動きでリオンに迫り彼の間合いに入る直前で左足を軸に真上に飛び上がると数回、くるくると回転しリオンの背を蹴り飛ばして数十メートル上空へ一気に飛ぶ。


「そのまま来い!」

「!そう言う事か」

「空中なら…」

「捕まえられる…!!」


「!」

(次の合流地点は…)

(つか、まえ…!?)

「よっ!」

「ハズレ?」


 蹴り飛ばされた勢いで転がり込むリオンだが片膝付きながらも両手を握り、突き出す。リオンの行動を察したティアナはスピードを落とさずに突っ込むと握り拳に乗った。ティアナの体重と空気抵抗分の重みが拳にのしかかるが構わずに腕を振るってティアナを老婆の居る上空まで持ち上げた。


 空中で相対したティアナは老婆へは一歩届かなかったがエトワールに手を伸ばし取り返す事に成功する。

 …成功したかに見えたが取り戻したエトワールには長方形の白い貼り紙が貼ってあり黒文字で"ハズレ"と書かれていた


「残念、ソッチはハズレじゃよ」

「ーっ!マズイ、…ゔっ!」

「ティアナ!無事か?」

「何とか…あのババア絶対許さん!」


 ハズレのエトワールからバチバチ不穏な音が鳴り出し、次第に光に包まれ咄嗟に手を離して防御の態勢を取る。直後、花火のような音を立て偽エトワールは爆発してしまった。爆風から逃れられなかったティアナを屋根に登ったリオンが受け止め事無きを得るが、


 おちょくられた気分になりティアナの感情は爆発寸前だった。


―――


「見つけたよ、鈴の音」

「星霊の子じゃな」

「鬼ごっことは言え逃げるレディーを追い詰めるなんて辛いなぁ…」


 本物のエトワールをメリーさんから渡され、人気の無いの小道を進行中先回りをしていたスタファノが軽い足取りで現れる。


「追い詰めるか、お主…最初から鬼ごっこに参加する気が無いのバレバレじゃ」

「バレてたんだ。そうオレには別に参加する理由が無い…ティアナ達について行けば丁度良い暇つぶしになると思ったから此処に居る訳だし、お婆様の様子を見るにオレの事も何もかも分かってそうだしね〜」


「全部とはいかないが知っておるぞ。ガーディアンの里にもお邪魔したからのぉ…おおそうじゃった伝言を頼まれていたな!お主の家族からの伝言じゃ」

「っ!!」


「家族の伝言…って言った瞬間逃げた?」

「嘘じゃよ。伝言など預かっておらん……里にお邪魔したのは本当じゃがな」


―――

スタファノSide


(…またオレは)


 老婆は余程自分の事を熟知しているらしい。家族の話題を出され条件反射で踵を返して逃げてしまった。辺りに人が居ない事を確認し汗を拭い、息を吐く。


(伝言なんて嘘っぱちだ。分かってたのに染み付いた動きには逆らえないなぁ)


 心臓が痛い、慣れた痛みだ。痛くて煩い音は聞かない方向で。


――――――


「でね、日没直前まで待ってほしいって」

「確証はあるのか?」

「無いけど…信じてあげようよ」

「直前まで捕まえられなかったら誘導はする。メリーさんの方も考えないとだな」

「出来ればクリスとの連携を早くに崩したい」


「やっほ〜みんな!メリーさんは天音ちゃんが捕まえれば大丈夫じゃない?」

「私が?…私も役に立ちたいけど無理だと思うよ、追いかけても捕まらない気がする」

「大丈夫、大丈夫ちょっと耳貸して」


 老婆におちょくられ沸騰寸前のティアナとギリギリ平常を保っているリオンは天音と合流して作戦会議を始めた。何やら自信策が有りげな彼女は意気揚々と話すがメリーさん対策は想定していなかった為、一緒になって考え込む。


 緩んだ口元のスタファノが手を振りながら三人の近くに駆け寄り、天音とコソコソ話をして笑いかける。


「私に出来るかな…」

「スタファノ、天音から婆さんを追いかけたって聞いたが逃したのか?」

「オレってば才能がゼロの無能だから全然捕まえられなかったよ〜」


「スタファノよか、よっぽどリュウシンのが信用できるな」

「何の話?作戦会議オレも混ぜてよ」

「聞こえてたんだろう。それに終わった」

「ま〜ね〜」


――――――

―――

 その後、幾度となく老婆に挑み続けるが大した成果を得られずに空の色が薄っすらと変わり始めていた。


「た、タオル要る?」

「貰う」


 終いには泥沼に突っ込まされ全身泥まみれに汚れてしまった。鬼ごっこに参加していない天音は若干顔を引き攣りつつポーチから取り出したタオルを差し出す。


「日が落ちる…合図は聞こえたか?」

「聴こえたよ。向こうは準備万端だって」

「最後の賭けだな」


「鈴の音は……西の方からだ」

「出発進行!」


 リオン、ティアナ。天音、スタファノの二手に別れ、別方向から鈴鳴る先へ向かう。

 風向きは良好、最後の賭けは使を信じる事。



「日没まで僅か…仕掛けるなら今しかない。ほぉれ来た来た!!」

「ワタシ、今度は何処に隠れてれば…」

「坂道を駆けて左の曲がり角じゃ」

「はい〈スター・トリック〉」


 猛スピードで正面からリオンとティアナが迫り老婆とメリーさんも二手に別れる。老婆がリオン達を退かせた後に最短で合流する為の一時的な別れだ。


―――

天音Side


「〈法術 荊棘ローザファッシ〉」

「!」


 坂道の途中、スタファノの法術により透明化したメリーさんは足止めを余儀なくされる。スタファノだけなら別の道から合流地点に行けば良いのだがそれも出来そうに無い。


(横道が空いてる)

「天音ちゃん行ったよ〜!」

「うん!」

(天音!?)

「メリーさん見っけ!捕まえたよっ」

「法術が…」


 荊棘で逃げ道を封鎖し、敢えて一つだけ空きを作ったスタファノ。予想通りに空いている横道を通るメリーさんを待ち伏せして天音は彼に手を伸ばす。突然飛び出して来た天音に驚き容易く捕まり法術が解けてしまう。当てずっぽうで両手を伸ばした先にタイミングよくメリーさんが来てくれて助かった。


「天音…離してほしい」

「……」

「天音ちゃん頑張れ〜」


(頑張れ私!)

「メリーさん…」

「?」

「私と手を繋ぐか、私を振り解くかどっちが良い!?」

「う…っ!」

「私は手を繋ぐ方が良いと思う…っ」

「……ワタシも手を繋ぐ方が…好き…」

「ハイ解決〜」


 メリーさんにとって究極とも言えよう二択を突きつけられ困惑する。スタファノに耳打ちされ事前にイメージトレーニングを何度も

熟していたが、いざ行動すると気恥ずかしさが勝って徐々に赤面していく天音。


 赤面が功を奏したのか、メリーさんは天音の手をぎゅっと握り返し無事に無効化する事に成功した。


 二人を残し、独りでにブラブラと散歩する。スタファノは彼らしいと言えば彼らしいが今日だけは独りになりたい意味が違う。


―――


「ぴょーん、ぴょーん。おや行き止まり?」

「追い詰めたぞ、婆さん」

(完全に死角…取れる!)


「メイプル嬢!…ほほっ」

「うわっ何だ!コート!?」

「騎士団長様には此方をプレゼントしよう。そんでもって…またまた特大ぴょーん!」

「っ」


 一定の距離を保ちながら目標位置である行き止まりの壁際まで追い詰めるリオン。自分に注意を向けさせ老婆を追いかける途中で別の道を進んだティアナが死角から現れ、最後の勝負に挑むが老婆の方が一枚上手だった。


 ティアナに向かって身に着けていたコートを投げ、リオンには頭巾を投げて何度か見せていた特大ジャンプで逃げ出した。


「今だ」


―――

リュウシンSide


「見せてみろ」

「エトワールは僕が取り戻す…!〈法術 突風陣〉」


「おやや!?風使いか!」

「ぐっ」

(勝負はここから)


 風見殿屋上、展望台に風使いが三人。ジャオとリョウと…そしてリュウシン。展望台の位置から突風陣で上空の老婆の所まで突き抜ける。突風陣が老婆に当たらぬように細心の注意を払いエトワールを奪取した。


 風向きを調整し、地面に着地したが勝負はまだ着いてはいない。技を出した影響で硬直状態が続くリュウシンから機敏過ぎる動きで老婆がエトワールを強奪する為に近付く。


(1…)

(2…)

(3…!)


「ほっ」

(4…)

「ー!」


 秒数が過ぎる。一秒、二秒、三秒、…四秒。五秒前で身体の硬直から解かれリュウシンが動き出し迫りくる老婆のスピードよりも早く場を離れた。程なくしてリオンとティアナも彼の元に到着し完全に鬼ごっこは終了した。


―――


「っし!リュウシン良くやった!!」

「!…うん、取り戻せた」


「完敗じゃな。まさに一回、一瞬の参加…見事じゃった」

「そうでもないよ。3秒に収めるって宣言しておいて実際は4秒だったんだから」


 律義にコートと頭巾を老婆に返す二人。リュウシンは持ち主に向かって取り戻したエトワールをサッと投げ、リオンは満面の笑みでキャッチした。漸く手元に戻った事が余程嬉しいとみた。


「予言を聴く前に婆さん、名前を…次に会った時教えてくれる約束だったよな?」

「そうじゃったなぁ予言老婆、名はホロ」

「ホロさん、んじゃあ聴くか予言!」

「本名じゃないぞい」

「なっ…」


「もういい、さっさと進めてくれ」

「予言93番目!主達五人はスコアリーズへ向かうべし!!来るフェストに向けて神器を守り抜き真の鏡を開放せし!」

「…は」

「スコアリーズか…」

(吟遊詩の生まれた場所…!)


「これ以上地形が変わってなけりゃ、ここいらで一番デカい街はスコアリーズだな。行くか」

「おい待て!信じるのか予言を」

「ん、まぁ…行ってみれば分かんだろ」

「アハハっリオンらしいね」


 日没だ。ホロさんの予言はスコアリーズに行ってみれば分かると言う何とも行き当たりばったりな予定が決定し、不満そうな彼女を宥め天音達を迎えに赤く染まる道を歩く。



 果たして、スコアリーズとは如何なる街か予言内容の意味とは?リュウシンが知り得る吟遊詩の生まれた場所には何があるのか。

 不敵な笑みを浮かべる老婆を一人置いて、彼等は行く。次なる街へ。

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