ゼファロ編
第25話 名残り風
風色の故郷にて、旅路の羽休めと行こう。
――――――
レオナルドSide
「報告は以上です」
「…」
王都、メトロジア城にて王に頭を垂れる。カラットタウンを去り傷も癒えぬままに報告を終えたレオナルドは下げた頭の下で王に決意を隠す。ほんの十分前に吸い込んだ煙草の匂いが愛しく口寂しい。
因みに城に入れないジャンヌは外で待ちぼうけだ。
「御苦労です。下がっていいですよ」
「…いや、下がるのはグライシスだ。少し、レオと二人で話す」
「…」
「はっ」
(自らお訊きになるのですね…)
アースには常に側近であるグライシスが付き添っている。彼はアースの言葉で即刻下がり謁見の間にはアースとレオナルドの二人だけとなった。玉座から降り、コツコツと靴音を立てレオナルドに近付く。
「面を上げろ。無様だな、レオ程の男がその様に深手を負うとは。まるで雑魚兵だ」
「何時から遠回しがお好きになられたので?ハッキリ言ったらどうですか?」
「ははっ。レオ、
「……エトワールですよ。奴のエトワールはガラクタなんかじゃ無かった。それだけだ」
「レオナルド・ヴィンス。貴様……王に隠し立てしている自覚はあるのか?……包み隠さず全て話せ」
「何も見ちゃいない。アース様こそ、何か知った風な物言いだ。貴方は270年前のあの日から変わられた。…
「弔い?寧ろ此度の戦は祝の準備さ。かつての騎士長リオン。王女の生まれ変わりアマネ。その他の仲間…蹴散らせ」
「容姿が判明しただけでもお釣りがきます。今は十分でしょう。奴等は強かった」
一歩言葉を違えれば首を飛ばしかねない。睨む訳でも大声を出す訳でも無い、ただその場に存在し質問するだけで圧倒的な威圧感が生まれる。生まれながらの王、メトロジアの姫君にはまだ辿り着けない高みの壁だとレオナルドは密かに思った。
隠し事をしていると断言するならば向こうも自分が知らない事実を手にしている可能性が高い。訊き出そうにも相手が悪い、此方側の情報…リオンと天音とその仲間達の容姿を伝え、悟られない様にしなくてはならない。リオンの変貌を口にすれば駆け引き材料が減り不利になる。
レオナルドは王に対し探りを入れようとしているのだから。
「レオ、追及はよそう。大体予想はついている。確認がしたかった。下がってよい」
「…失礼します」
――――――
「レオナルドさん、どうでした?」
「なんとも。何かあるって事しか、な…」
「…そうですか」
城外へ出て雨上がりの日差しを浴びる。煙草ケースから一本取り出し咥えた直後、ジャンヌが駆け寄る。カラットタウンへ行く前より表情に明るさが見えレオナルドは無意識にホッとした。随分と情が移り保護者の気分になったものだ。
「騎士長の変化…アース様は知ってるから姫サマだけじゃなく騎士長のリオンも生け捕りに…?」
「知っているなら伝える筈だが…何故、隠す必要がある?伝えられない、もしくは伝えたく無い事情があるのか…。どうにもアース様らしくない遣り口だ」
レオナルドはアルカディアの前王から仕える古参だ。アースについても幼少期から認知し見守ってきた。昔とは性格や態度が恐ろしくガラリと変わってしまったアースの思考を読み解く事は古参であろうと最早不可能に近い。
王族である天音だけでなくリオンまでも生け捕りにする理由を戦闘最中の例の変化だと仮定しても、確実に捕らえる為の有利な情報は事前に開示する筈だ。末端であろうと古参であろうとそれは変わりない。然し、アースは開示をするどころか秘匿しているではないか。例の変化はアースにとって重要であり、出来れば秘密裏に捕らえたいと仮定してもそれこそ
「あの、話を変えます。ネズミには会えました?私はお城には入れ ないので…でも何処かには居る筈です」
「そういえば見掛けなかった。メトロジアの城は意外と広いな」
「私達と目的は一致してるから早めに会って色々訊かないと」
「アルカディアに帰れるのは何時頃になるやら」
(さて、調べるか)
ジャンヌは一方的に話を変え、毛色の違うネズミの所在について訊く。彼女は目的の一致と情報共有だけが理由で会いたいと話すのではないのだとレオナルドは知っているが、敢えて何も訊かずに煙草の匂いを楽しむ。
星の民と霊族の軌道が交差し始めた―。
――――――
―――
「天音、起きろ」
「…あと5分…だけ」
「天音…起きろ」
「!」
「っ」
「痛っったぁ…!」
昨晩、話も半ばに電池が切れた天音を運んだリオンは夜遅くだった事もありリュウシンらと最低限の会話をし床に就いた。
スタファノは女の子に会いに行くからと緊張感の無い巫山戯た理由でこの家には居ない。恐らく彼が戻ってくる事は無いだろう。別れの挨拶が出来なかったと分ればまた天音はしょぼしょぼ悲しむのだろうか。
早朝、漸く日が昇りかけた時間帯に出立の準備を終えたリオン、リュウシン、ティアナ。じゃんけんに負けたリオンが天音を起こしに扉付近で呼び掛ける。天音も天音で緊張感が無い寝惚けた回答で見事、リオンの怒りのボルテージを知らぬ内に上げた。一度目の呼び掛けで目覚めない彼女を起こす為に近寄り覗き込んで肩を揺さぶる。
二回目は無事、天音の耳に声が届き夢見状態から起きれたのは良いものの勢いよく上半身を起こした拍子に覗き込んでいたリオンとお互いの額が激突し天音は痛みで額を押さえ蹲る。
「てめぇ…何しやがる」
「ご…め、ん」
(いたい…)
「早く起きろ。そんで出発するぞ」
「えっもう出ちゃうの?」
「何日か俺の所為で損してんだ。ゆっくりはしてられん」
「それも…そうだね。うん!行こう!!」
「…」
自分の所為だと少々自虐的になるリオンに対して特に引っ掛かりを抱かない天音。
寝起き早々通常運転で何よりだが、ポーチを腰につけ一人で先行する天音に心の中で盛大に溜息をつく。初めて出会った時の呆れではなく彼女らしいなと思う安心の溜息だった。
「来たか」
「?おでこどうかしたの、またデコピンでもされた?」
「ちょっとぶつかっただけ…デコピンの方が痛かったから大丈夫」
「この家は放っておいていいんだな?」
「いいよ。スタファノが借りてきた家だけど本人は何処かに消えて…代わりに家の事はカルムさん達が引き継いでくれるらしいから問題無いって」
「カルムさん、マリーさんありがとう…!」
赤くなった額を控えめに擦りながら登場する天音に冗談めかしに笑うリュウシン。狐族のヤシロじぃのデコピンは額同士の激突よりも痛覚を刺激するので二度と喰らいたくはない。
家の引き継ぎを率先して頼まれてくれるカルムとマリーにお礼を言い扉を開けた。当にその瞬間、彼が来た。
?「やっほ〜〜っ!!」
「きゃ!」
「!!ハッ!」
?「わっ危ないなぁー…」
「正当防衛だ。文句あるか?」
「スタファノ…忘れ物でもしたの?」
「文句も忘れ物もないない!キミ達に会いに来たんだ」
先頭に居たリュウシンが扉を開けた瞬間、スタファノが視界全体に飛び出して来た。呑気な声に一番に反応したのがティアナだ。彼の緩んだ顔面に向かって一切の躊躇いなく拳を振り上げたがゆるりと躱される。
「会いに?」
「そ!オレも色々考えたんだ。で!キミ達について行こうかな〜って。理由は特に無いけどキミ達と居れば何だか楽しそうだなって良いでしょ?一人くらい増えても」
「あたしは反対だ!」
「そんなぁ〜酷いこと言うね?でもホラさヒーラー役必要じゃない?それにオレの耳は役立つと思うけど?どう、ティアナ!」
「む…」
「確かに一理ある」
「私は賛成!多い方が楽しいもんね」
「天音ちゃん…!」
「どうする?リオン。決定権は君だ」
「好きにしろ」
開口一番、同行を宣言したスタファノに対し断固拒否するティアナ。彼女の気持ちは良く分かるが彼の持ち前のコミュ力で揺さぶる。彼の施した治癒は完璧、彼の超聴力はいざと言うとき必ず役に立つだろう。
五人の中で一番年上のリオンに決定権を振るリュウシンは妥当の判断と言えよう。リオンが居てこそのチームだ。スタファノの同行に肯定的な理由は勿論、治癒や超聴力が貴重だからと言うのもあるだろうが本音は単純明快で只々会話を面倒臭がったからである。
「オッケーだって!」
「やったね!ね〜?ティアナっ!」
「それ以上あたしに近付いてみろ。容赦はしない」
「こわ〜っい。ティアナももっと笑ってよそっちの方が楽しいし可愛いよ。あ、今のままでも十分可愛いからね」
「…可愛くなど無い!!」
「このままポスポロスまで直通で行くかい?と言ってもまともな交通機関は停止してるから徒歩しかないけど」
「道中、幾つかの街を経由するしか無さそうだな」
(世話になったなカラットタウン…)
賛成多数で可決!スタファノと天音は両手でハイタッチを交わし和気藹々と移動を始める。ティアナは不満を漏らしつつも、そう言えば自分も勝手に付いてきた身だと思い出し受け入れる。傍から見ても相性の悪さは歴然なので二人の間にはリュウシンが挟まっていた。何となく居心地が悪そうだ。
新たに加わった頼もしい?仲間スタファノ。風変わりな風は何を齎すのか、五人は先を急ぐ。其々の思いを胸に仕舞って。
――――――
―――
「全っ然!街らしき場所に着かない!!」
「ここら辺も旧カラットタウンと同じだ。人が住めなくなってる」
「そろそろ着いても良い頃何だけど…」
「おい。勝手に休憩してるが良いのか」
「ちょっと休ませて…」
「少しだけな」
(…何人くらいかなぁ)
既にカラットタウンも旧カラットタウンも出てる筈だが人気が無く閑散した風景のみが広がるばかりで体力が乏しい天音が最初に脱落し近くのベンチに腰掛けた。
ちゃっかりスタファノも天音の隣に座り休憩モードに入っていた。早く進みたいティアナは数歩先を歩きヤレヤレと言った感じで両手を上下させ肩を竦める。
「スタファノ、何人だ」
「三人は確定してる。でも五、六人は居ると思ったほうがいいよ」
「だいたい予想通りだな」
「えっ何の話?」
「視られてる」
「!敵!?」
「チッ囲まれてるのか…」
「天音下がってて」
(こ、こう言うときは盾を…!)
「まだ慣れてねぇだろ。止めとけ無駄にアストエネルギーを消費するだけだ」
「う、…」
辺りの微妙な異変に気付き、確信を得る為に早速スタファノの耳に頼った。何処からか取り出した飲料を口に含み平常時と変わらぬ口調で答えるスタファノ。彼等と一歩遅れて気付いたティアナとリュウシンは戦闘態勢に入り警戒を強める。
ベンチからぴょんと立ち上がった天音は両手を突き出し三角形のポーズを作ると教わった盾変化を試す。一人になっても自分の身を守ると言う強い意志の表れだったが、盾変化を習得し切れていない点と敵と思しき者達の素性が分からない内は無理にアストを消費する必要は無いと、オブラートに包む事を知らないリオンがぶった切る。
「出てこい!!何モンだ!」
―――
?
?「…どうします?長…」
?「威勢が良いな。このまま闘っても良いが疲れさせるのも得策じゃない。そもそも、敵では無いからな。実力は街に戻ってからでも確認は出来る。後、わたしは長ではない。長の代理だ」
?「それにしても覚えていますかね?彼は。知ったら驚くだろうなぁ」
?「覚えていなくてもこの名を聞けば嫌でも思い出す。あいつは街が…好きだったから」
?「ですね!」
―――
?「…」
「お前達はどっちだ。敵か、それ以外か」
全員が警戒態勢の中、一人スタファノだけはのんびりベンチで背伸びをしていた。彼の耳は会話も正確に聞き取れるのだ。敵意が無いと分かるとのんびりもしたくなる。
閑話休題、スタファノの事はさておき彼の 言葉通り三人から六人の男女がリオン達の前に現れた。霊族急襲から数日しか経過しておらずピリリとした緊迫感に固唾を飲む天音。
?「驚かせて済まない。わたし達も確信が無くてね、少し遠目で観察したかったのさ。敵意は無いから安心してくれ」
「証拠は?!」
?「証拠はそこの彼が証明してくれる」
「僕?」
?「まだ分からんか?…覚えているだろう」
「!!?」
(彼ってリュウシンの事だったんだ)
「リュウ、…シン?」
リーダーと思われる女性が一歩前へ出る。彼女は両手を上げながら落ち着いた口調で敵意は無いと語る。戦闘準備をしていた三人と狼狽えていた天音は予想外の言葉に警戒を緩めた。当然だが敵の罠の可能性もあるので証拠を要求するティアナ、彼女の機嫌を損ねないようにリュウシンを指差し正体を明かす為、羽織りを脱ぐ。
「そんな…まさか、?!その紋章は…!"ゼファロ"
の、風使いの証だ!!…っ君はもしかしてジャオなのか?!」
「大当たり。ほら思い出した」
「ゼファロだと!?」
「それってリュウシンの出身地…じゃあ敵じゃない……?」
「敵じゃないよ」
「あんた最初っから分かってたな!?何故知らせなかった」
「え〜訊かれてないし?でもでもゼファロの人間だって事は知らなかったってホント!オレが聞いたのは誰かを見つけて懐かしんでる声だけだよ」
重苦しい羽織りを脱ぎ去った事で羽織りの下の衣服が顕になる。後方の数名もリーダー格の女性に合わせ、似通った衣服を曝け出す。
女性の名はジャオ。彼女の衣服のみに装飾を施された紋章とは風使いをイメージしたものだ。螺旋状に吹き抜ける風と中心で風を操る羽ばたく成鳥。
かつての知人に再会し突き付けられた事実に呆然とするリュウシンに対して、拳の収めどころを失ったティアナはスタファノに八つ当たりをする。悪びれる様子は全くと言って無いスタファノにギリギリのところで何とか手を出すのを抑えているティアナ。
「信頼していただけたかな?騎士長」
「俺の事もバレてんのか。嘘は…ついて無いな。取り敢えず信じてやるよ」
「ジャオ、どうして…だってゼファロの人達はもう……」
「リュウシン…此処だと誰が盗み聞きしてるか分からん。立ち話も疲れるだけ。そこでだ。わたし達が暮らす街に是非、案内したい」
「ゼファロが…壊滅状態だった筈だ…。それに街はもっと遠くにあった!!」
「付いて来い。新生ゼファロを見せてやろう。全て話すから落ち着けリュウシン」
「…うん」
取り乱すリュウシンの態度に彼女等の言葉の裏付けが取れたリオンは警戒を解く。序でに自分の正体にも気付かれているので取り繕う必要も無くなった。
「何の真似だ?」
「女性をエスコートするのは紳士の役目だよ。さぁお手を麗しきクレマチス。君に似合う花は緑鮮やかなクレマチス……路頭に迷う旅人に導きを示してくれた…」
「くくっ面白い男だな。偶にはエスコートされるのも悪くない」
(いつの間に…)
(路頭には迷ってねぇぞ)
(勝手な奴だ)
ベンチに座っていた筈のスタファノは何時の間にかジャオに手を差し伸べると緑色の一輪の花を彼女に差し出す。満更でも無さそうなジャオはクレマチスを受け取ると自らの髪に挿しスタファノにエスコートされる。後方に待機していたジャオの部下らしき者達はスタファノの行動に若干、苛ついていたが可笑しそうに笑うジャオの手前怒りを表に出す事は無かった。
「此処だ。結界を解くぞ」
「なるほど…結界を使えば外からは見えない、安全って訳だ」
「結界術なんて使えたっけ、…?」
「とある人に習った…とだけ言っておこう」
暫くして到着した場所は先程までの人気の無い閑散地と変化なしだったがどうやら街は結界法術で隠してあるらしかった。ジャオが小さく手を上げ合図すると黄色髪の男性が結界法術を使い、"鍵"を開けた。
全員が結界の先へ行くと戸締まりをして、彼も最後尾を追いかけた。"視認出来無い者達"がコッソリ忍び込んだ事に気付かずに…。
?「…」
――――――
「此処が新生ゼファロ!まだまだ再興途中だ。昔とは少々地形が異なるが風色は変わらない何か事情があるんだろう?暫く此処で過ごすといい」
「人っ子一人居なかったのに…!」
「ああ…助かる。訳は話せねぇが」
「構わん。興味もない」
「ゼファロのみんな…!!」
結界を潜ると真っ白な空間が立所に現れ、次第に視界全体が世界を映す。かつての活気溢れる賑やかな街とまではいかないが確かに風使いの街、ゼファロは再興していた。
行き交う人々の中には幼い頃に世話になった近所の住人らがチラホラと垣間見え思わず感極まる。翠緑の瞳に風色変わらぬゼファロが映る。
「ジャオさん巡回お疲れ様です!」
「うん。名簿リストを更新しておけ」
「はいっ!俺の今の生き甲斐です!この瞬間が一番好きなんですよ」
「わたしもだ。さて静かに話せる所、風見殿に行くとしようかな」
「風見殿?」
「長の住んでる屋敷だよ…」
(クラールハイトのお屋敷みたいな感じかな?)
(…?)
「スタファノ?早く行くぞ」
「今行く…」
(気のせい…?)
「ティ〜アナ!お待たせ。オレが居なくて寂しかった?」
「はぁ?!どうしたらそんな返事が返ってくるんだ!」
街へ戻るなりジャオに近寄る人影。リュウシンと同じふわふわ天然パーマを揺らし小躍りする勢いでジャンピングガッツポーズを決め嬉々として名簿リストとやらを更新しに行った。
"全てを話す"為に長の住む風見殿へ向かう。長耳がピクリと動きスタファノだけ足を止め明後日の方向へ目を向けた。聞き取った音の方角には誰も居なかったが、凝視していると先を歩くティアナに催促され振り返る。気のせいだと心の隅に留め彼女の隣に並んだ。
――――――
「改めて自己紹介をしようか。わたしの名はジャオ長代理だ」
「代理って事は君のお父さん、バオ様は生きて…!!」
「一応、生きてはいる…病を患い、寝たきりでな。殆ど昏睡状態だ。何とか延命してるが何時、事切れても可笑しくない……」
「…!あのタフ親父の事か?」
「はははっそうだ。そのタフで頑丈な親父だ。騎士長は一度ゼファロを訪れた事があったなあんな丈夫な形でも病には勝てなかった」
「色々トラブルが重なった視察だった。覚えてるぜ」
「トラブルって?」
「!そ、それは今は関係ないからさ?次の話に進もうよ!!」
「?分かった…」
(何焦ってんだ?)
(リュウシン言ってなかったのか)
ゼファロの長、バオは強靭な肉体を持つタフな大男だった。騎士団長時代に一度、視察に赴いただけのリオンでも印象に残る存在感であった。更にちょっとしたトラブルも起きて余計に記憶に根付いていたのだ。トラブルについて興味本位で天音が訊くと何やら焦った様子のリュウシンが反れ掛けた話の本筋を元に戻し有耶無耶にする。
然し、鬼の
「恥ずかしがり屋め。わたしが代わりに言ってやろうか」
「言わなくていいよ!早く進めて!」
「?」
「真面目に話すか…。リュウシンは停戦協定が締結され、直ぐに街を出て行ってしまったからその後を知らないだけだ。ゼファロは、霊族に蹂躙され一度滅んだ。…滅んでも尚、諦めなかった男が居た。それがバオ。わたしの父だ。父は辛うじて生き残った者達と共にゼファロの地を移し、名簿リストを作った」
「名簿リスト…さっき話してた物だね」
「そうだ。父はゼファロに住んでいた全ての住人を一人残らず覚えていた。だから氏名を記載した名簿リストを作り散り散りになった風使い達の行方を追っていた。また昔の様な活気を求めて……残念ながら、志半ばで父は倒れわたしが引き継いだ。父は必ず病に打ち勝ち立ち上がる…その日までの間、わたしが代理を務めているに過ぎない」
「街の人達全員を覚えてるなんて…凄い」
「流石だね〜。上に立つ人って感じだ!」
「バオ様…僕はそうとは知らずに…!!滅んだとばかり思い込んで、っ…」
「結界張ってたらそりゃ噂も流れねぇな」
軽く咳払いをし、ジャオは語りだした。彼女の表情を見るに如何に長であったバオを尊敬していたのかが伝わる。滅び消えた街に再び風を起こす、途方も無い零歩目を歩んだバオが倒れても彼の意志を継ぐ者が大勢居るのも理解出来る。ジャオの話を聞き、リュウシンは自分が如何に狭まった視界の中で生きてきたか痛感し涙ぐむ。
ゼファロを愛していたから、ゼファロの民を愛していたから、成せる偉業を五人の中で天音だけが別の視点から聴いていた。クラールハイトの主、マホロはトップとしてはスタート地点に立ったばかりで天音にとって"上に立つ人間"とは如何なる存在か初めて感じ取った。自分では、到底成せない所業に素直に感嘆の声を漏らした。
「…わたしは父に報告しに行ってくる。リョウ後は頼んだ」
「頼まれました!」
「思ったんだがスタファノの治癒で病をも何とかならないのか?」
「!」
「う〜〜…ん。オレは怪我の治癒は得意だけど病気は専門じゃないから、無理だと思うよ…。病気も怪我も完璧に治せる人なんて一人しか知らないしその人も自由に歩き回ってる人だから今は何処にいるのか…あんまり、会いたくないし……て感じでご期待には添えそうに無い。ゴメンね」
「いや、全然大丈夫…考えてくれただけでも嬉しいよ」
「ジャオさんは自分は長の代理だと何時も言ってます。最初の命令は様付けで呼ぶな!でした。相当嬉しかったと思いますよ?…長代理の立場関係なく気軽に話せる友人と再会出来て」
「友人…?友人かなぁ」
(家来ごっこに付き合わされてただけのような気が…)
リョウと呼ばれた男性は先程見せた結界法術の使い手であり、バオ時代からの配下だった。彼はリュウシンの事を昔から知っていたがリュウシン自体とは関わりがなかったので、覚えられていないのも無理はない。
ティアナの何気ない言葉に今回ばかりは消極的なスタファノ。治癒法術の力を間近で見て認めているから出てきた言葉とも言える。彼にも人の心は在るので申し訳無さそうに、しゅん…とした。
(あ、な〜んだやっぱり気のせいじゃないじゃん。誰かは知らないけど、言わなくても問題無さそうだから放っておこ!)
しゅんとした直後に耳がピクリと動く。ゼファロの何処かで聞こえた会話は彼にしか伝わらない。一体何者が紛れたのか、それが動き出すのはもう少し先の話である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます