第21話 強くなる為には?

 少年少女よ学べ、手にする力の在り様を

――――――


『双龍の力を使い熟すまでは此処に居ると良い。歓迎するよ』


 ワープケイプに帰る前に雪山での特訓を提案するウィリアム。暴発して周りに被害が及ぶより雪山で特訓し使い熟せるようになった方が安全だと判断したからだ。シルヴァとケミストも彼に同意し、少しの間宿を借り特訓を始める。


「いくぜッ〈法術 水龍斬〉!!!」

「コッチだって…〈法術 火龍弾〉!!」


「コピーは出来そうか?」

「余裕だね…!」

「法術に慣れてきたら盾を出しながら本格的に修行していくぞ」

「とっくに慣れてるぜ俺は…!?」

「強がんなー。雪は砂浜とは違うだろ」

「雪の方が足が取られる…!あとこの格好はすげぇ動きにくい!!」

「双龍の力って凄いなぁ」


 修行始めから望んでいた必殺技の撃ち合いを遂に叶える事が出来、心無しか技にもキレがかかりシルヴァが教えなくとも威力も精度も自然と増していった。ただ、双龍の力に対して少年の身体は追い付いていないので彼等が調子に乗らないように適宜調整が必要だ。


 足元以上に動きにくいと言い厚着コートを脱ぎ捨てるアレン。防寒対策の為に着ていた衣服だったが修行中の火照った身体には少々着心地が悪い。リオンもアレンに触発されてボアジャケットを脱ぎ捨てる。身軽となった二人は更に技を出し合う。無論、寒がりで常識あるシオンは修行中であろうとも衣服は脱いだりしない、脱ぎ捨てるなんて真似も絶対にしないのだ。


「行くよリオン〈法術 火龍弾〉!」

「ほんとにコピーできんだな」

「アレンよか強いんじゃね!?」

「あぁ!?そんなわけ無いだろ!!?リオン、シオン勝負だ!!喰らえっっ!」


 双龍の力と言っても扱う人間が育ち盛りの子供なので止めるのも容易い。加えて前の人を知っているシルヴァから見ればまだまだ遠く及ばない。完全に使い熟せるようになるにはまだまだ時間が掛かりそうだと踏んでいた。


――――――

―――


 其の日も雪山で修行を続けていた。法術の扱いを学び、盾組手と合わせて実践形式で勝ったり負けたりを繰り返していたのだが、ふと天候の雲行きが怪しくなり消化不良のまま下山を余儀なくされた。小屋の鍵を返す為にドラグ家を訪れ、事件に気付く。


「シルヴァさん…!鍵、受け取りますね」

「…どうかしたのか?」


「イリヤ?なんで泣いてんだ…?」

(髪が短くなってる?)

「実は……」

「髪を切られたの!!」

「ウィル、…」

「許さない!あの悪ガキ共…!!」


 居間には泣いているイリヤとイリヤを慰めようとするアロマとオリヴィア。釣られて、泣きそうなエリサーナが居た。カグヤは何日もドラグ家には滞在出来ず数日置きにメトロポリスとドラグ家を出入りし、今日は偶々居ない日だった。


 イリヤの髪はロングからショートに変わっており只事ではない雰囲気に思わずシルヴァはケミストに尋ねてしまった。言い淀む母親に代わって怒りを顕にして割って入って来たのはウィルだった。


 ウィルによると、自分とイリヤとエリサーナで町まで出掛けた際に近所の悪ガキに絡まれ、イリヤの髪がバッサリ切られたと言う。瞬間的に飛び出したウィルだったが、流石に彼女では自分より一回り大きい男子に敵う筈もなくエリサーナに止められ、急いで帰宅したとの事だった。何とも気分が悪くなるような不愉快極まりない事件にリアクションを取れず三人は無言になる。


「せっかく…せっかく好きになれたのに、青色…出掛けなきゃ良かった……」

「ごめん、私止められなかった…」

「イリヤ…私もイリアの髪色きれいで好き」

「よしよし大丈夫。髪整えてあげるからね。エリサーナ、オリヴィア心配してくれてありがとう。ウィル怒ってくれてありがとう…。後はパパに任せよ?」

「でも!私の気が収まらない!!」


 ウィリアムはケミストから報告を受け、イリヤの髪を切った悪ガキの家を訪ね相応の措置を取るつもりだ。ウィルは五姉妹で一番、活発的で好戦的な性格なので幾ら父親が対処すると言っても自分で断罪しなければ納得など出来ない。


「リオン…せっかくお揃いって言ってくれたのにごめん……髪の毛短くなっちゃった」

「え、あ、おお…?」

(お揃いなんて言ったっけか?)

「…リオン、慰めてやって」

「なんて、なんて言えばいい…?」

「そのままでも似合ってるって…お願い!」

「おう。い、…リヤ!」

「?」


 無言で佇むリオンらに気付いたイリヤは目を擦りながら近寄り謝るが、リオン本人は女の子に泣かれた経験も無いなく対処法も思い付かず扱いに困っていた。

 そんな頼りないリオンに長女のアロマは耳元で囁いた。慰めてほしいと。手を合わせ依頼するアロマに応えようと、リオンなりの言葉を伝えた。…ほんの少しで良かった。好意を寄せる相手に似合ってると言ってもらえればイリヤの心も落ち着くだろうとアロマは考えたのだが。


「その…、短くても似合ってるぞ」

「えっ…!」

「それにアレだ…。短い方がお揃いなんじゃねぇのか?俺の髪も短い…だろ?」

「っ!?…リオン……あり、がとう」

「これでいいのか…」

「よく、やった…けど」

「リオンが成長してるだと!?」

「うん。天然タラシは恐ろしい」

「…責任取れ」

「なんの責任だよ!?」


 落ちた、音がした。リオン以外に伝わる音。泣き腫らした赤い顔はリオンのお揃いの一言で更に赤く、熱く、なり涙が引っ込む。モジモジとお礼を伝えるイリヤの瞳は恋色に染まっていた。


 イリヤの心が少しでも楽になればとお願いした身として申し分無い励まし具合にアロマはお礼を伝えた。同時にリオンの肩に手を乗せイリヤの初恋を掻っ攫った責任を求める程度には動揺しているアロマだった。


「短い…のも可愛いかも……」


 すっかり涙は止まり短くなった髪をくるくる指で巻きながら元気になった青髪のイリヤは芽生えた感情に初々しい微笑みを見せた。


 重い雰囲気から一変したドラグ家は通常運転に戻りつつあった。ただ一人、リオンだけが理解出来ずに疑問符を浮かべていた。色んな意味でこの場にカグヤが居なくて良かった。


――――――


「えっ〜〜?!何それ!?酷すぎる!!お父様に言いつけてやるわ!」

「それは流石に止めておいた方が……」

「今はイリヤも元気そうだから私も嬉しい」


 翌日、何も知らないカグヤがイリヤの変化についての真実を知り、憤りの余り国王に言い付けるなどと飛躍した発想を生み出していた。悪ガキには妥当だとカグヤは言うが国王陛下降臨は流石に阻止するシオン。


 オリヴィア、カグヤ、シオンの三人は本好きの観点で意気投合し雨で修行取り止めになった今日、オリヴィアが神話時代の双龍の話が載っている本を持ち出し三人で仲良く読んでいた。



 …その付近で怪しい動きが一つ、二つ、三つと玄関先に移動していた。


 更にその背後から怪しい動きを見つめる幼い影が一つ。


―――


「アレンとリオン、私は敵を討ちたい…。協力してほしい」

「かたき?って誰の」

「もしかしてイリヤの事か?」


 修行中止になり暇していたアレンとリオンはウィリアムの提案兼依頼で木製の収納家具を自作していた。物作りも修行の一環と念押しされ仕方無く作っていたが徐々にノリに乗りオリジナル性ある家具を制作していた。

 八割方作り終え、完成の目処がたった所で三女のウィルがノックもせず扉を開けるなりいきなり二人に話しかける。


「絶対許さないし舐められたままなのもいやだ。そう思わない?」

「…舐められてんのは俺もムカつくけど」

「過ぎた事だろ」

「『龍なんているわけ無いだろ。バァカ』双龍も馬鹿にされたんだよ!!何がいるわけ無いだろ。だ!居るに決まってるでしょ!!出してやろうか?!」


「火龍を…」

「水龍を…」

「協力してくれるよね?」


 アレンは火龍と、リオンは水龍と。水晶石にて双龍の畏怖を、身を持って知ったからこそ名前も知らぬ人間に馬鹿にされた事が耐えられなかった。ウィルの問い掛けに答えは不要だった。


 アレン、リオン、ウィルの三人はバレないようにコッソリ外出する。誰に見られているとも知らずに。


「…」


――――――


(…どうしよう。止めないと。でも私には出来ない……まだ怪我も治ってないのに……)


 ウィル達の様子を影から観察していたのは、四女エリサーナだった。彼女はとうとう声を掛けられずに三人を見送ってしまった。自分に足りない勇気を持つウィルが羨ましいけれど怪我が増えるのは見過ごせない。


 大人達は積もる話でもしているのだろう、子供達の行動に気付いていなかった。そしてアロマは自分の部屋の掃除に夢中、オリヴィアとシオンとカグヤは神話時代の話に夢中、エリサーナだけが気付いていた。


「…一人で外に出るの初めて」


 ポンポン付きのベレー帽を深く被りウィル達の後を追いかけに勇気を振り絞った。



「ったいへん…!」


 時既に遅し。

 決断に時間がかかりエリサーナが街に下りた時にはちょっとしたお祭り騒ぎになっていた。子供同士の喧嘩を街の人は制止するどころか野次を飛ばし催促する。悪ガキの近頃の行いに街の人も迷惑していたのだ。だから誰もがウィル達に加担する。


 エリサーナにはそれが恐かった。恐ろしかった。喧嘩の様子も周りの様子も直視出来ない。殴打の音を聞く度、心臓が苦しく締め付ける。彼女は優しすぎた。



「やめ、…させなきゃ。だれか、止めて」


 傘を放り投げ踵を返す。雨と涙が重なり音も無く地面に落ちた。


―――


「こんな話は知ってる?その昔、雪山に雪はなくて、火山だったって話!」

「聞いたことあるわ」

「その火山に居たのが火龍で…」


「わっ…えと、エリサーナ?どうしたの」

「とめて…みんな怪我が増えちゃう……」

「!」


 大人達に話しかけるにはまだ勇気が足らず、同年代で且つアレンとリオンと一緒に行動しているシオンの衣服を引っ張り、エリサーナは必死に訴えた。


 突然バタバタと現れ雨と涙、両方に濡れたエリサーナの様子に事件の匂いを察したシオンは彼女を一旦落ち着かせてからゆっくり情報を確認した。

 全てを聞き取ったシオンは動揺しながらも指示を出す。オリヴィアにはアロマをカグヤには大人を、其々呼びに行かせ自分はエリサーナと町まで駆け出した。


―――


「テメェがバカにした水龍の力思い知れ!!法術……」

「リオンっ!!!」

「シオン止めんな!!」

「そりゃ止めるに決まってるって!?」


 相手に法術を喰らわせようとするリオンを間一髪、羽交い締めで止めた。尚も抵抗しシオンの拘束から逃れようと暴れるリオンに更に力を込める。


「何やって…!!」

「何やってんだお前ら!」

「「い゛っっ!!?!」」

「シルヴァ…」

「ウィル!」

「げっパパ…それにみんなも」


 シオンの言葉を引き継いだのはシルヴァだ。数分遅く外に出たにも関わらずあっと言う間にシオンに追いつき追い越した。痛々しい拳骨がアレンとリオンに下り思わず悪ガキを掴んでいた手を離しジリジリ痛む頭を押さえる。


 遠くからウィリアムとケミストも駆けつけて好戦的な三女を制す。両親を見つけたウィルは悪戯がバレた子供のようにバツが悪そうに後退りするも父親ににガッツリ腕を掴まれ逃走を諦めた。悪戯以上に悪い事をしたと、彼女は自覚していた。


「ウィル何をしていたか、言えるね?」

「……イリヤの敵討ちたかった。だからアレンとリオンと一緒に急襲した……パパにはわかんないよ。髪切られる怖さと屈辱が」


「…ウィル」

「!」

「説教は家に帰ってからだ」

「帰ろうね」

「…うん」


「お前達もだッ!!」

「ヘー…イ」

(猫みたい)


 ウィリアムは決して怒鳴る事なく平静に諭す。この状態に見に覚えがあるウィルは目線を合わせにしゃがむ父親を見れずに俯き加減でキュロットパンツをギュッと握った。雨に打たれる二人に傘を差し出し微笑むのが母親であるケミストの役目だった。


 一方、強引に首根っこを掴み強制的に抵抗不可能にしたシルヴァは掴んだ状態のまま、アレンとリオンを連れ出す。


――――――


「アイツらは私が巻き込んだから怒らないで私の勝手に付き合っただけだ!」

「…アレン達はシルヴァさんに任せるよ」

「確かに嬢ちゃんの言う事も一理あるが……結局、決断したのは二人の意思だ」


 家に着くなり開口一番、指差す相手を庇う。急襲した理由もイリヤの為だったので根は他人思いの良い子なのだ。サイドテールを解き、濡れた髪をアロマに乾かしてもらいながら父親の言葉を聴く。


「ウィル…パパはウィルに怪我をしてほしく無い。イリヤの事は話し合いで解決したんだ我慢しろとは言わないけど、手を出せば話が余計に拗れる。何でもかんでも暴力で解決は出来ない」

「わかるけど…、目の前で切られたんだよ。私が悪ガキよりすごく強かったらイリヤを守れたのに…」


「力には種類がある。守る為の力は私怨の道具じゃない…。ウィルの手が本当に家族を守りたいのであればパパと一緒に力の使い方を学ぼう。パパの手は、ずっと前から家族を守る力を知ってるからね」

「ごめん、…なさい。私、学ぶ。守りたい」


 鼻を啜り少女は守りたい家族の為に力の使い方を学ぶ決意を固めた。擦傷が雨に滲みて痛い痛い。



「双龍を馬鹿にされたんだっけ?」

「確かめたらアイツ滅茶苦茶、下に見ててカッとなって……手が出た」

「…法術は使ってない」

「使いかけてた」

「シオンは龍に遭った事無いからそんなに冷静で居られるんだ」

「…ぼくは二人と違って頭良いからね!」


 シルヴァは道中で訊いた理由を再度確かめた。言い訳がましいリオンの主張を隣に居座るシオンがぶった切る。二人に対して怒っているのはシルヴァだけじゃない。シオンだって身勝手な行動に怒っていた。


「あんなぁ……お前達は今まで何をしてきたんだ?アレン、言ってみろ」

「今まで…騎士になる為の修行……」

「騎士は感情捨てろって言いたいのか!」


「違う。アレン、リオン、それからシオン、お前達は修行をしてんだ。相手の体格が自分達より一回りデカかったから見えてなかったのかも知れんが修行してる奴とそうで無い奴の実力差は明白。リオン、強いのは何方だ?」

「っ!…俺たち」


「お前達は十分強い。力無きものに力を振るその行為はお前達を認めた双龍の株を下げてる事に気付け。それこそ双龍を馬鹿にしたと言う連中とやってる事は変わらん。騎士になりたい理由強くなりたい理由を、改めて良く考えろッ!格好いいから、面白いから、だけじゃ誰も守れんぞ」


 悪ガキと言っても暴言暴力を振るうだけの子供だ。対してアレン達は騎士を目指し法術を学び始めた雛鳥だ。何方の力が危険か、解らない少年達では無かろうとシルヴァは伝える。強くなる為には、時として立ち止まり保護者の話に耳を傾ける行為も必要である。


「そーよ!私は三人に騎士になってほしいそうすれば皆と過ごせる時間が増えるわ!!皆が笑顔で居られるように喧嘩っ早い性格治してね!」

「イテッ」

「我慢して。心配かけた罰!」

「……」


 カグヤは怒ると言うよりは心配の方が大きく怪我をして帰ってきた二人に包帯を巻く。特にリオンにはキツく縛る。好意の裏返しだ。


「私も……包帯巻く。巻き方教えてほしい」

「いいわよ。キツ〜く!縛ってあげてね」

「私、恐かった…」

「んー…悪かった。今度は無傷で勝つ!」

(反省してないな)


 エリサーナは包帯の巻き方をカグヤに教わりアレンの手首に丁寧に巻く。大人しく包帯を巻かれるアレンは暫く気恥ずかしさで目を逸らしていたがエリサーナの沈んだ表情を見て元気付けようとし、全く反省していない事を吐露してしまう。


「ふわぁ〜…。皆何してるの?」

「イリヤおはよう。色々あったけど全部解決したの」

「?そう、…」


 一連の事件のキッカケとなったイリヤが長い眠りから目を覚ます。欠伸をしながら階段を下り全員が集まってる様子に違和感を覚えたが解決したとオリヴィアが言ったのでその後は特に追求せずに受け流した。


「イリヤ!少しだけ目瞑ってて!」

「?」

「ジャーン!どう?鏡見てみて」

「!これ…コサージュ?」


「外に居る騎士団の人達に取ってきて貰ったの。私の髪色じゃ似合わないかなって思ってずっと付けずにいたけれど…やっぱり思った通りイリヤの明るい髪色に合うわ。私が持っていても意味ないからイリヤにあげる」


「良かったわねイリヤ」

「うん…!でもどうして」

「だって私達、ライバルでしょ?」

「あ、…フフッそうだね。私が勝つから」

「勝つのは私よ」


 鏡に映るイリヤは戸惑っていた。白色の睡蓮を模ったコサージュがサイドの髪に飾られていたのだ。上質そうなコサージュはイリヤの青髪とマッチし、家主を見つけた宝石のように輝いていた。


 誰にも聞こえないよう理由を耳元で話したカグヤの顔は自信に満ち満ちていた。同じ

"勝負"でも年頃の女の子達の方が怪我もなく安全だ。…バチバチの目線は他人から見れば少し怖い。


――――――

―――

――――――

―――

 時の流れは疾風の如く、浮足立つ星の民は今日、この日を待ち望んでいた。


「この服、襟がキツくね?」

「我慢しろ。そんで今日からお前らが着る服だ。堂々と背筋伸ばせ」

「シルヴァは似合ってないな」

「似合ってないのもそうだけど、それより昨日近所の人達と遅くまで呑みまくってたけど大丈夫?」


「似合ってないは余計だ。祝い酒で酔ったら縁起悪いだろ。心配ない。酒はお友達だ」

「意味わかんねぇよ」

「さぁて、そろそろ家を出ないと間に合わん行くぞ!」



 背伸びした煌びやかな衣服を身に纏い最後の支度を整える。少年三名、本日より騎士団の一員となりメトロジア王国に忠誠を誓う。


 騎士叙任式挙行まである程度の時間は残されているが、王国の姫君に謁見する為に彼等は一足早くワープケイプを出た。

―――


「とお!しゅた!」

「よお!久しぶりだな」


「お前達は!?」

「誰だっけ?」

「リリックとライム!!」

「あぁ〜…あの二人」


 ワープケイプからポスポロス向かう道中の街中で、真上から飛び降りポージングを決める二人の少年が現れた。アレン達とは少々違ったデザインの衣服を着る彼等を一部を除いて忘れてなどいなかった。


「今ここでケリをつけたいが…今日のところは勘弁しておいてやる」

「有難く思え…!」

「俺はすぐにでもケリつけてもいいぜ!」

「リリックもライムも全っ然、騎士ぽくねぇな!それじゃあ服を着てるじゃなくて服に着せられてる、だ!」


「あぁ?やんのか!?」

「ぶっかぶっかの服着てる奴がなんかいってらぁ!」

「そっちこそぶかぶかだろ!?」

「やるって言ってんだよ!」

「ちょっと待っって!ぼくたち先急いでるから闘ってる暇ないよね?」


「ククッ俺は先にメトロポリスで用事済ませてくっから遅れるんじゃねぇぞ〜!」


 別れる前と比べて確実に強くなっている事を何も言わずともお互い察していた。身長も伸びた。最低限の勉強もした。頭の良さでは寄宿学校に通っていた二人の方が勝っているかもしれない。しかし、少年の心は変わらず目が合ったら即バトルになりかけていた。


 四人を引き離したのはシオンだ。ポスポロスのシンボルである鐘時計を指差し確認させ時間が無い事を知らせる。


「マジか…俺達やっぱ先行くな〜!」

「カグヤに会う時間なくなっちまう」


 シルヴァは薄情にも子供達を置いていき、三人もリリック&ライムを置き去りにした。残された二人に冷風が吹き抜ける。


「?カグヤ…て姫様の名前じゃ……」

「聞き間違いだ…そんな訳無い」

「皆の所に居ないと思ったらまた単独行動かよ…お前達何をしていたぁ?目撃者によると屋根の上に登っていたようだが?!」

「やっべ」

「先生だ!逃げろ!!」


――――――


 首都ポスポロスの活気は他の街の比では無い。王都付近ともなると美味たる香りが街中に漂い、ついつい立ち寄りたくなる店が大勢並んでいた。

 普段、ポスポロスとメトロポリスの境界線である城壁は閉じられているが今日こんにちのような国を上げての祝祭、儀礼式典の日は開放されている。


 騎士団の制服を着ている所為か、至る所で声援を贈られ一口サイズの試食品が振る舞われる。立ち止まりたい欲を取っ払い彼等は先へ進む。

 城門の門番には話を通してあるのでスルリと難なく潜り抜ける。先程貰ったチーズを飲み込み城内へと入った。



「お待たせっ。みんな格好いいね!」

「カグヤも最高に似合ってるよ」

「ほんと?リオンもそう思う?」

「…まぁまぁ、…まぁまぁじゃねぇの?」

「動揺してやんの!」

「動揺なんか…」

「この格好、意外と大変なのよね〜。ヒールに慣れてないからゆっくりでないと動けないのがストレスかも」


 城の一室に案内され暫くの後カグヤと付添のギルが入室する。ギルの一言で周りにいた護衛の人が場を離れた。彼の気遣いにカグヤは心の中で感謝して三人と他愛ない話を始めた。


 姫君の纏う式典の礼服ともなれば今まで以上に別格なドレス姿でカグヤの可憐な見た目と相まって青臭いリオンは直視出来ずに動揺していた。



「……でね、それ以来ギルったら髪伸ばしてるの」

「カグヤ様、時間です」

「はやっ叙任式が終わったら皆と話す時間ある?」

「残念ながら公務が詰まってますので…」

「そっかぁ。…よしっ頑張ろ!!また後でね」


「またな!」

「じゃあね」

「…おう」


 楽しい時間は一瞬で過ぎ去った。街が一層賑やかさを増した日和に騎士三人と姫様は一旦別れを告げる。

 青髪の騎士は赤眼の姫と一時の別れを惜しみ執事にエスコートされる後ろ姿を何時までも眺め両隣の騎士仲間に誂われてるのだった。



      叙任式まで、後半刻。

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