第19話 双龍の一族

 海風翻して少年少女、お次は何方へ?

――――――

「シオンは風属性か」

「ゼファロ出身なのかもな」

「ゼファロか〜…」


 翌日、少年等は目隠し組手の前に基本属性の確認を行っていた。リオンは水、アレンは火、シオンは風、と言った具合に見事全員バラバラの属性を持ち合わせていた。愈々修行に入るぞと言う時に後方から元気いっぱいの声が飛んで来て振り返る。


「おーっい!!みんな!」

「カグヤ!」

「えへへ来ちゃった」

「…フン」

「アイツもいるのかよ」

「仕方ないのよ。お父様はギルを信頼しているから」


 前回会った時よりナチュラルで清楚な服装のカグヤと無愛想なギルが立っていた。

 ギルはシルヴァを一瞥すると小岩の上に座り手持ちの本を読み始めた。互いが擦れ違う瞬間にシルヴァの耳元で何かしらを呟いていたが子供の身長では聞き取れなかった。


「改めてギルを紹介するね。私の世話係であり執事の"ギルポット・ルーカス"。お父様とお母様と私以外で笑っている所を見たことがないの。でも真面目で良い人よ」


「あの辺に居るのは騎士団の連中か?」

「ええ。護衛ですって。私はシルヴァさんもギルも居るから必要ないって言ったのに、お父様ったら心配性なんだから」

「暇なのか。騎士団…」

「どの辺にいるんだ?」

「お前達にはまだ分からんか。ハハッ」

「ぐっ…直ぐに見つけてやる…!!」


 ギルポット・ルーカス。姫様の世話係、つまり姫付き執事を一任されるだけの実力が彼には備わっているに違いないが、子供達が見えない実力を理解出来るようになるにはもう少し時間が掛かりそうだ。


 前回ギルと共に現れた騎士団のメンバーが護衛としてカグヤを見守っているのだが流石騎士団を名乗るだけはある。カグヤの負担にならぬように気配を完全に消し、有事の際には即駆けつけられる位置を把握している。

 位置把握はこれまた子供達には備わっていない技術でシルヴァは此れ見よがしにおちょくり、ムキになったリオンは意地でも探し出そうと辺りを見渡し見当外れの方向を指差しては笑われていた。


「それより今日は何をするの。また組手?それとも法術を扱うのかしら?」

「法術…?」

「今日は目隠し組手だ。法術はその後の後、危ないからギルさんの居る位置まで離れてな」

「分かったわ。みんな頑張ってね」


 巻き込まれないようにカグヤは三人に手を振ると砂浜で器用にスキップしながらギルの元へ行き、小岩にちょこんと座る。


「なんで目隠しする必要があるんだ?」

「今説明してやるから…。戦闘に於いて視覚がどんだけ大事かは分かるな?」

「あぁ」


「戦闘中、その大事な視覚情報が消える事も考慮しなきゃいかん。例えば暗闇の中だったり、相手の能力次第では視覚が奪われる事も有り得る。そんなとき、お前ならどうする?シオン」

「!……視覚に頼らずに相手の気配だけで闘う?…視覚以外の感覚を研ぎ澄ます!」


「半分正解。その他の感覚だけで倒せれば苦労しないが中々上手くいかない。そこでだ、相手のアストエネルギーを感知しながら闘うアスト感知が必要になってくる。一度コツを掴めば後は簡単だ。取得出来れば戦闘中に限らず離れた場所でも感知が出来、仲間の動向だって分かる」

「おう。そんで取得する方法は?!」


「相手のアストエネルギーを感知する。さっき属性を確認したろ、あれを視覚ではなく己のアストで相手のアストの流れを汲む。兎に角神経を集中して特訓あるのみ!!」

「シルヴァが騎士団の人達を見つけられたのも、そのアストを感知したからって事?」

「大正解。そ~ゆうこった」


「何か燃えてきたぜ!早くやろう!!」

「一番乗りで覚えんのは俺だ!」


 断言しよう。アレンとリオンは五割ほどしか説明を理解していない。シオンのみが、体操座りでしっかり聴いていた。ともあれ感覚派の二人には説明よりも実践の方が飲み込みが早いのも事実なので、さっさと目隠し組手を開始する。


「目ぇ瞑れ。取得が一番遅かった奴は飯抜きな」

「んだと!?」

「負けられない…!」


 やる気と言う名の灯火がメラメラと燃え上がり、普段冷静なシオンも熱く漲っていた。飯抜きの言葉は食べ盛りの少年たちのやる気を増長させるには効果的だ。

 アレンとリオンは向かい合い、目を瞑る。布で覆う手もあったが動けば動くほど布ズレが起きやすく意識が疎らになる恐れがあるので敢えて布は付けなかった。決してシルヴァが布を忘れてきたからと言う訳ではない。



「見ていて楽しいですか?」

「楽しいわよ。だってもしかしたらもっと早くに出会えていたかも知れないし、何より将来は私を守ってくれる騎士になるのよ。興味あるじゃない?」


「稽古の予定もあります。時間になったら文句を言わずに帰りましょう」

「延長しちゃ駄目?」

「また発熱されても困ります。カグヤ様、自覚してください。お身体が弱い事を」

「…はーい」

(ギルはもっと皆の前で笑えばいいのに)


 実はシルヴァ達と別れた後、カグヤは高熱を出して寝込んでいたのだ。十中八九、海水に濡れた事が原因で昨日まで調子が戻らず部屋で休んでいた。心配性の両親にこっぴどく叱られてもシルヴァ達の元へ遊びに行きたいと何度も何度も説得し結局、両親とギルが先に折れ代わりに時間制限を設ける次第となった。定位置で見守る騎士の中には医療のスペシャリストまで居る徹底振りである。



(己のアストで相手のアストを汲む…!)

「……っ!?」

「お、一番乗りはシオンだな」

「はぁはぁ………結構疲れる」

「上出来、上出来!」

「負けてられねぇ!!次は俺とだシオン」

「えへへっ受けて立つよ」


 空振り続きで無駄に体力を消費するだけの目隠し組手を一番乗りで攻略したのはシオンだった。体格はアレンやリオンにやや劣るが自前の知力で切り抜ける。と言うか、説明を全て理解していたのがシオンしかいなかったので必然の結果とも言える。



 リオンVSシオン。シオンの蹴りが見事入りリオンに一撃を加え打破した。砂浜に倒れ悔しそうに頬を膨らませるリオンは差し出された手を握り返し立ち上がった。負けたリオンはアレンとシオンの勝負を眺め次こそはと闘志を燃やす。


「このっ…!」

「ーえっ!!」

(急にアストの流れが変わった!?)

「わ…わわ」

「なんだ?どうなったんだ!?」

「!早いな。アスト能力の目覚め」

「アスト…能力?」

「アレン!シオン!一旦戻って来い」


 力を込めた拳がシオンに迫る。アストを感知した訳ではなく当てずっぽうなので回避は容易だったが、拳の勢いが瞬間的に鋭くなった為にシオンの体勢が傾きヨロヨロと尻もちをつく。シルヴァの掛け声で三人はそれぞれ、横並びになり説明を聴く準備をした。


「後に説明する予定だったがまぁいいか。さっきアレンが無意識に出したものはアスト能力。属性の他に先天的に身に着けている能力の一種だ。恐らくアレンのアスト能力は肉体強化のようなもの…。さっきの威力はノーマルな状態で受ければ骨の一つや二つ折れていただろうな、避けて正解だ」

「!」

「…危なかった。悪かったなシオン」

「ううん。大丈夫」


「俺にはどんなアスト能力が…!」

「誰しもが備わってる訳じゃねぇから期待は程々にな。アレン、シオン、それを踏まえた上でもう一度やってみろ。但しやるのはあくまで目隠し組手だ。能力は使うなよ」


「…もしかして。ねぇアレン!さっきの肉体強化でぼくを撃ってみて」

「は?何言ってだ。話聴いてなかったのか!?能力は使うなって。それに骨折れるかもしれないだろ」


「勿論避けるよ。…だけど試したい事があるんだ」

「シルヴァ?」

「シオン、考えが有るんだな。やってみろ」

「了解!絶対避けろよ。左にだ!」


 長ったらしい説明はさておき、アスト能力について閃いたらしいシオンは、再度アレンに能力の発動を頼む。彼が積極的に行動するのは珍しいが危ない事に変わりはない。一応、シルヴァに許可を取ってから慣れない能力の発動を試みる。


「とりゃっ」

(やっぱり…!!)

「ハッ!」

「うおっ!?」

「なるほど。それがシオンのアスト能力か」

(シオンがアレンと同じ技を撃った?!)

「うん、確証は余り無かったけど」


 シオンの考えを試すだけなので目隠しでなく普通の組手で対面する。先程と同じ要領で拳を振り上げた。アレンはコツさえ掴めれば立所に初見の技でも覚えてしまえるので既に"法術の取得"に一歩リードしていた。


 アレンの攻撃を予定通り身体を捻らせ躱すシオンは確信めいた笑みを浮かべ左拳に力を込める。別段、左利きと言う訳ではなくただ威力調整がし易いから左を選んだだけだ。

 そんなシオンはアレンと同じような技未満を放とうとしていた。超絶スローなので此方も回避は容易いがそれ以上に驚きを覚え数秒、理解が追いつかなかった。


「つまりどう言う事だ!!」

「ぼくは相手の技をコピーできるみたい」

「俺の技コピーしたって事か!?」

「うん」

(ちょっと待て……俺だけ何も無い!?)

「シルヴァ…俺には…!?」

「お前にはエトワールがあるだろ。さぁ、アスト能力の確認はその辺にして目隠し組手の続き始めるぞ」



「カグヤ様、そろそろお時間です」

「もうそんな時間…?全然遊べなかったわ。明日こそ!」

「同い年の遊び相手ならルイス様がいましょう」

「ルイスは子供らしくないので嫌です。アレン、リオン、シオン!また明日ね、明日こそ遊びましょー!!」


 懐中時計を確認してからパタリと本を閉じカグヤに知らせる。発熱の前科があり逆らえない彼女は素直に小岩から降りて皆に別れを告げた。


「またな〜!」

「目隠し組手が一段落したら今日は終わりだ。簡単だろ」

「カンタン!カンタン!!」


―――


「そんなに落ち込むな」

「ちぇっ」


 昼休憩を挟みつつ一日中、目隠し組手を行い見事、日を跨がずにアストエネルギーを感知する事に成功した三人だが一番最後まで苦戦していたのはアレンだった。コツさえ掴めば、はコツが掴めなければの対義でもあった。アレンは不貞腐れながら帰路をトボトボ歩いた。尚、ちゃっかり夕飯は頂いていた。


 実のところ、アスト能力に引っ張られて実力の半分も出せなかった。が真実だがシルヴァは真実を話す気はなかった。理由は特に無い。


「いっつもその本読んでるよな。面白いか?て言うか読めんのか?」

「全然。でも開かずには要られない。いつか何かわかるかもしれない……」

「本と言えばシルヴァの家ってけっこー揃ってるよな。読んでる姿見た事ないのに」

「偶々、譲り受けた物だ。気にするな」


 就寝前の自由時間、決まってシオンは読書を欠かさない。手当たり次第にシルヴァの家の本棚を漁るが、必ず最後の一冊はカグヤから貰った背の文様と類似した表紙絵が特徴的な古本をパラパラと捲る。


「王都にある王立図書館はここじゃ比にならないくらい膨大な量の本が収納されてる。本好きにはあの場所は夢があるよな」

「へぇ〜。騎士になって今以上に沢山の本を読みたいなぁ…!」

(なんでシルヴァが知ってんだ?)


 疑問を口に出さないのは然程興味が無いから。リオンは活字を読み込むより外で活動した方が向いており、シルヴァの家の本棚など勿論素通りだ。


――――――


「もうアストエネルギーの感知出来たの?凄いね!!私は感知方法を聞いても全っ然、分からなかったわ」

「凄いだろ!へへっ」

「カンタンだったぜ!」

(アレン…)


 修行開始時間より早めに海に来てシルヴァらを待つのが日課となりつつあるカグヤは三人と話す時、年相応の満開の反応を見せるのでギルも一概に海へ行く事を否定出来ないでいた。カグヤの主張通り部屋に籠もりっきりの生活よりも外へ出て見識を広める方が彼女の為になるかも知れないなどと思い始めていた。


「今日の修行内容だが、お待ちかねの…」

「遂に…!」

「必殺技を…!」

「盾組手だ」

「必殺技じゃない!?」

「またまた組手かよっ!!」

「たて…?」


 溜めに溜めて期待を上げてから、誂う様な笑顔で下げるのでアレンもリオンもテンションはだだ下がりだ。盾組手の言葉に僅かながら、反応したギルは視線を本からシルヴァに移しジッと見つめる。何も反応したのはギルだけでは無い、カグヤも同様に表情が変わりシルヴァが説明するより先に言葉を発した。


「知ってるわ!盾組手。騎士団の人達が演習場でよく行っているもの。私も組手はしないけれど盾を出す練習はしてるの!」

「騎士団の人もやってる訓練をぼくたちも今日から始めるんだ…」


「「!…へぇー」」

「面白そうじゃねぇか」

「早くやろう!!」

(単純な奴等め)

「お前達なら盾ぐらい、すぐに出せる筈だ。説明すっぞ」


 不満そうにしていた二人はシオンの一言でやる気を漲らせた。シオンは二人を焚き付けるのが徐々に上手くなっていた。さて、盾について説明を受けた三人は大凡の見解通り円形状の盾を出し組手前の盾変化をクリアした。


「俺が言わなくても分かるよな?」

「この盾を出しながらの組手が盾組手…」

「誰からやる?」

「手本が見てぇな〜!シオンも思うだろ」

「へ?あぁうん。思わなくはないけど…」

「例えば、シルヴァとそこにいる澄まし顔のギルって奴との盾組手なんか見てぇな」

「手本なんか無くたって…」

「私も見てみたい…!ねぇギルお願い!」

「…幾らカグヤ様の頼みだとしてもこの男と組手など了承しかねます」


 演技力ド下手の白々しい台詞がリオンの口から溢れる。本気で盾組手の手本が見たい訳では無く実力が定かでないシルヴァと、いけ好かないギル両方にちょっとした意地悪をしたかっただけに過ぎない。然し、リオンとは打って変わってカグヤは盾組手を本気で見たいらしい。


「お願い?」

「何も自分である必要はございません。盾組手の相手なら騎士団の方がいますよ」

「ギルがいいの!断ったらテンセン術のお稽古サボりますよ!?」


「"テンセイ"です、カグヤ様。転生術だけは必ず覚えなければいけません。分かりました。一度しか行いませんがそれでも?」

「ほんとっ!?ありがとうギル!」

「ったく、しゃあねぇ…そっちがその気なら手合わせしてやるよ。どっからでも来い!」


 ぷくっと膨らませた頬が了承と共に落ち着く。子供達から離れシルヴァとギルが構えの姿勢を取る。この時、カグヤには分からなかったが修行中の三人はピリピリとした空気を肌で感じていた。


「どっちが勝つと思う?」

「どっちが勝っても面白くねぇ…」

「え?リオンが提案したんじゃ無かったっけ」

「シルヴァのがマシだ」

「案外ギルだったりして、ね!」

「俺もギルかな」


「いけーっシルヴァさん!ギルなんかボコボコにしちゃえ!!」

「カグヤ様!?そのような言葉遣いは、…!余所見した瞬間に……不意打ちですか……」

「戦場で余所見なんて言い訳、通用する方が可笑しい。だろ?」

「フン。余り服は汚したくないのですが…」


 カグヤの言葉遣いに苦言を呈してる最中にシルヴァが先制を仕掛ける。振り上げた拳は真っ直ぐ喉元へ伸びていき、直前で攻撃気配を察したギルは盾を出現させ防ぐ。鳴らした銅鑼のように揺れる盾に零細なヒビが一つ、シルヴァの一撃の重さを暗に語っていた。


「次は此方から行かせていただきます」

「姫君の執事なだけある。無駄が無い」

「随分と上からモノを言うのが好きな様だ」

「認めたって事だ」


「ギルもシルヴァさんも凄い…」

「凄すぎて見えねぇ」

「参考にならないぞ…コレ」

「二人とも強いね。二人の様に強くなれる自信無いや」


 一撃の先からは速かった。速すぎた。見本となる為に互いの攻撃は躱さずに盾で受け止めていたがアレンの話す通り参考になる訳が無かった。何故なら攻防スピードが目で追える範疇を超えていたから。桁違いの入れ代わり立ち代わりは数分後唐突に終了した。


 目晦まし用途として舞い上げた砂にサッと蹴りを入れ即座に砂を落とし視界を戻したギルは流石の所業だったが、シルヴァは一歩先にいた。砂に気を取られている内に跳躍してギルの背後へ着地すると勢いを落とさず肘で顔面を狙った。咄嗟に右腕で庇ったので無傷で済んだが盾変化が間に合ってなかったのでシルヴァの勝利だ。


「…どうやら噂に違わぬ実力を持ち合わせているらしい。ワープケイプに居る理由がよく分かりました」

「海を眺めるのが好きだからこの街を選んだ。それ以外に理由はねぇさ。さぁお前達こんな感じで盾組手やってみろ」

「できるかぁ!?」

「ゆっくりで良い。徐々に慣らしてけ」


 当たり前のように同レベルをやってみせろと言い出すシルヴァにリオンがツッコむ。叫びはしないもののアレンとシオンも同様の気持ちで苦笑いし冗談である事を願った。


「カグヤ様、満足ですか?帰りますよ」

「大満足!ギルはどうして騎士ではなくて執事になったの?」

「家系だからに過ぎません。それに騎士には向かない性格ですので」

「騎士に向かない性格?」


 興奮冷めやらぬと言った面持ちでギルに問うカグヤ。初めて見た彼の実力は騎士を目指せるレベルに余裕で達しており、執事で在り続ける姿に一石を投げてみるが平静に躱されてしまった。

 騎士に向かない性格とはこれ如何に。


――――――

―――

 其れは、とある日の昼下り。


「水斬り!」

「焦炎弾!」


 カグヤがお忍びで出掛け、買い物をしたりアレンとリオンと巻き込まれたシオンが寄宿学校に忍び込んだり紆余曲折様々な出来事を経験して絆が深まっていた頃、漸く組手から法術修行の段階へ進み励んでいた。


「法術と言えば"ドラグ一族の双龍"の処へは行かないの?」

「ドラグ?」

「双龍?」

「カグヤ様……一族の秘法術をそう易易と口にしてはいけませんよ」

「でもシルヴァさんは知っているでしょ」

「昔の知り合いが世話になってたからな。一応知ってるが…、コイツらにはまだ早え」


 "秘法術、ドラグ一族の双龍"。てんで話が見えて来ず、脳内を疑問符で埋め尽くす三人に仕方なく掻い摘んで説明した。説明後の反応はシルヴァの想像通り。同時に先の展開を察して苦笑し頭をポリポリ掻く。


「行きてぇーっ!!!」

「今すぐ龍の力、手に入れてぇ!!」

「なんで今まで黙ってたんだよシルヴァ」

「そうなるからだ。めんどくせぇ」

「ぼくも興味あるかも」

「シオンまで…」

「コホン…えー、私も一緒に行っても?」

「カグヤも行くのか?もちろん来いよ!!」

「!…嬉しい」

「勝手に決めんな」

「俺らは行く気満々だ。学校に忍び込んだ時みたく実行すると言ったら必ずする!」

「は、はは…あのときは大変だった……」

「粋がんな。と言っても遅いって顔だな…」

「へへっ」


 今すぐにでも走って行きそうな表情でリオン等はシルヴァに訴えかける。中々どうして、この顔には弱い自分がいる事を自覚してしまっていた。子供達もまた、自覚している事を自覚してるのでシルヴァが折れる他ない。


「自分は野暮用があるので同行は出来ません。暫くカグヤ様の側を離れなければなりませんが、まぁドラグの所ならば安全でしょう。ところで騎士となる為には知力も必要です。修行ばかりに気を取られ座学をおろそかにしては元も子もありません」


「手厳しいねぇ」

「勉強は……ボチボチ、な?」

「お、おう。もう完璧だ。俺らにはシオンが居るからなっ」

「シオン一人で俺らの分まで頭良いし、忍び込んだ罰として学校で出された問題とか余裕に解いてたし」

「忍び…?」

「あああ何でも、何でも無いです。ほんとぼくが二人の分カバーするんで!元々、勉強は大好きだから…!」


 冷淡な態度には変わりないが少しずつ会話の量も増え表情筋が動いていた。盾組手の見本を見せた事でギルはアレン達から"凄い奴"認定され不本意ながら好感度を上げていた。凄い奴には素直に懐く三人も三人で単純だ。


 寄宿学校へ潜入した事をギルは知らないので口を滑らしたリオンを怪訝そうに見下ろす。慌ててシオンがガバッとリオンの口を塞ぎなんて事無いように振る舞うが。


「し…おん、締まって…息が、…しぬ」

「うわっ!?ごめん。大丈夫?」

「てめ…」

「フフッ賑やかで楽しい」

「そーりゅー捕まえに早く行こうぜ!」

「捕まえに行く訳じゃねぇぞ」


「二、三人ほど護衛は継続するので何か有れば彼らをお頼りください。くれぐれも無茶はしないと約束できますか?」

「当ったり前よ!約束するわ。ギルも気を付けて無茶はしたら嫌よ」

「カグヤ様のお心遣い痛み入ります。ご安心を、人と会うだけですので」


 必死な余り、口を塞ぐだけではなく力一杯に頸動脈をも締めるので苦し紛れに声を上げシオンに訴える。リオンの声にハッと気付き手を離して、アセアセ謝るがシオンは何一つ悪くないのである。



 淋しげに揺れていた海原も、賑やかな声にかつての活気を重ね満足している事だろう。


―――――― ―――

―――


「此処が龍の遣い手が住む家…!!」

「モコモコでも寒い!」

「本当に気温が低くなってる」



「お待ちしておりました。どうぞ此方へ」



 秘法術を求め、ドラグ家に赴く一行。高峰にチラチラ降り積もり雪は気紛れに身体の熱を奪う。果たして彼等は双龍に会えるのか?

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