第13話 雨宿りの小屋

 約束が解かれる、君はもう迷わない。

――――――

―回想―


 和睦を結んだ数十間と言っても此の世界の月巡りでは数年足らず。男女が出逢い、惹かれ合い、子を授かる、程度の日数、星の民と霊族は争いを止め交流していた。


「ねぇ!!」

「わっ!!」


 雀斑の少女は何時ものように何時もの小屋で時間を潰していた。が、その日は何時もと違った。唐突に後ろから話し掛けられ驚いた拍子に手に持っていたトランプを落とす。


「ここで何してるの?」

「えっと…トランプで遊んでる」

「一人で?」

「うん。一人で」


 活発そうな蜜柑色の髪の女の子だった。二つ結びのおさげが風に揺れる。雲一つない空と蜜柑色は一人っきりの雀斑の少女には眩しくて、目を合わせるのに数秒掛かった。二人の少女は背丈が然程変わらず、歳も変わらない。雀斑の子はトランプを拾い奥ゆかしそうに笑った。


「私と遊ぼうよ!!一人より楽しいよ!」

「!…良いの?」

「もちろんっ!当たり前じゃん!」

「あ、でももうすぐお母さん帰ってくるから遊べないかも…」

「そっか…じゃあもうすぐが来るまで遊ぼう?ここでも良いや」


 雀斑の子はぽつりぽつりと身の上話を始めた。両親が共働きだと言う事、家での留守番は詰まらないと言う事、独りぼっちの家は広くて嫌いだと言う事。だから開放感のある小屋で見つけてこっそり過ごしているのだとか。


「…ありがとう。トランプで遊ぼ…」

「トランプってどうやって遊ぶの?」

「えっとね…」


 それから少女達は、もうすぐが来るまで遊んだ。只のトランプ遊びが少女達にとって一番の思い出となった瞬間だった。もうすぐは当たり前に来て一緒に居られたのは僅かな時間のみだが、あっという間に意気投合し満面の笑みが咲いた。


「そろそろ帰らなきゃ」

「もっと遊びたかったなぁ。また明日ね!」

「うん…また明日…」

「あ!忘れてた…!」

「なに?」


「私と友達になろうよ!」

「うんっ!」


 急いでトランプを片付け解散した。また明日ねと手を振り合い約束した。これが最初の約束だ。帰路へと向かう足は自然と軽くなる。

―――


「ほんとに居る…」

「約束したでしょ!」


 翌日、雀斑の子は小屋の手前で中の様子を窺い両目を光らせた。足をパタパタさせて蜜柑色の髪の子が待っていた。待人を見つけるとパッと笑って近寄る。


「…うん。あ、名前…」


「あ!そうだった。私はジャンヌ、ジャンヌ・コールド霊族だよ!」

「よろしくねジャンヌ。私はマリー・ウォーム星の民!」


「よろしくマリーちゃん!」


 次の日も、次の日も、そのまた次の日もマリーとジャンヌは沢山遊んだ。小屋の中だけでなく少し遠出してみたりジャンヌの知り合いの子供とも遊んだりした。二人は掛け替えのない友達となっていた。


 独りぼっちのマリー心は何時しか鮮やかな蜜柑色に彩られていた。ジャンヌもまた心の底から笑い会える友達に出会え毎日楽しそうだ。楽しくてつい、時間を忘れた。


 とある日。突発的な豪雨が降り出し二人は気付く、マリーの両親はとっくに家に帰ってる時間帯だ。


「どうしよ…今日は帰る…ね」

「マリーちゃん気を付けてねー!」


―――

 雨の日からマリーは三日間来なかった。小屋に来れなくなるほど叱られたのだろうか。家庭の事情を鑑みれば出しゃばるべきじゃなかった、とジャンヌは後悔した。

 友達が家庭の事情で去って行ってしまうのではとジャンヌは一抹の不安を覚える。


(悪い事しちゃったかな)

「……良かった。ここにいた」

「マリーちゃん!大丈夫なの!?」


 小屋で、来てくれるかも知れないマリーを待つ。ただじーっと待つのは性に合わない。

 早々に飽き寝転がった矢先、声が聞こえた。すぐさま弾き起き彼女の元へ向かう。


「えへ…あの後家に帰ったら凄く怒られちゃった」

「私のせいだ。ごめん…」


「そんな事ないよ!!それにもう大丈夫!お母さんとお父さんを説得したから!!説得するのに三日掛かっちゃった。…待った?」

「マリーちゃん…うん待った暇だった。いっぱい身体動かしたい気分!」


 初めて会ったときの印象は大人しそうな子だったのに何時の間にか元気いっぱいの笑顔が目印になったマリーを、ジャンヌは柑橘果実が弾けるように口角を上げ歓迎した。


 楽しい時間は長くは続かない。

―――

 澄み渡る空が妬ましい。


 友達と遊んでいただけの日常に異変が混じる。

 其の日、突如メトロジア城から爆発が起こった。


「何が起こってるの!?」

「わかんない…怖いよ」


 末端の少女達が唯一知る事が出来たのは、城にいた霊族の反逆、戦争開始の合図だけだ。混乱する街中を走り抜け小屋に辿り着く。兎に角誰も居ない場所へ行きたかった。霊族も星の民も居ない場所まで。


「今日お城にいたのは…霊族の王様だよね?」

「あの優しいアース様が戦いなんてするワケない!!…霊族なら誰でもわかるよ」

「何があったんだろう……」

「私、確かめに行ってくる!」


 暗い空は満月の明かりを際立たせる。立ち止まる事が苦手なジャンヌが確かめに行くと言い、当然のように外に出ようとした。


「待って!行かないで殺されちゃう…!!」

「でも何が起きてるか確かめないと」

「そんなの私達が知っても意味ないよ。何も出来ないって…落ち着くまで待ってよ」


「そう、だね。いつ落ち着くんだろうね」

「わかんない」


 星の民と霊族、敵と味方、誰かに見つかれば"誰か"が二種族の内どちらであっても片方は死ぬ運命にある。だからこそ人気のない小屋に友達と二人籠もるしかなかった。



「ーっ!マリーちゃん…」

「ジャンヌ!?」


 月明かりが一層美しく残酷に照らす夜、隣に居た霊族の友達が予兆もなく淡く光りだす。徐々に全身を覆う光は強くなり彼女を攫う。此れが封印の証だと、当時の二人が知り得る筈も無く光に恐怖した。


「やだ、何これ私の身体が消えてく…!?」

「そんな、ジャンヌ!」

「マリーちゃんっ!!」


 手を繋いだ。離れたくない、消えないで。いつかの雨の日のように私は頬を濡らした。視界が滲む。消えていく。独りにしないで。


「や、く…」

「?」

「やく、そく…しよ」

「…え」


「また友達になろう……約束だよ」

「うん。約束」

「もう一度会えたら友達になろう」



《目元から溢れる雫が、地に触れる前に君は光の粒子に覆われ深い眠りについた》


―回想終了―

――――――

―――

 濡れた熱がマリーの背に掛かる。待人来たり。


「ジャンヌ…!!」

「っ振り返らないで!私は雨宿りに立ち寄っただけだから…」

「…うん。ありがとう」


 沈黙が流れる。背中合わせでもジャンヌが、何か言いたげに口を開いては閉じるを繰り返しているのが伝わった。


「約束…私と、!友達になって…ください」

「…うんっ!」


「うっ…マリーちゃん……ヒドイこと言ってごめんねぇぇ…〜!!!本当は…っずっと会いたかったよ、…ごめんね…ありがとう…」


「何年待ったと思ってるの?あれくらいで傷付く訳ないよ…ジャンヌにどうしても伝えたかった事がある。…でもその前に子供の時みたいに色んな話をしたい…!」


 ポタポタ大粒の涙が溢れ落ちる。拭っても拭っても止まることを知らない涙は彼女の正直な感情でもあった。ジャンヌに釣られてマリーまで涙ぐむ。

 雨宿りの小屋に水音が弾く。


 年齢も背丈も何もかも変わってしまった二人は失った時間を取り戻すように、其々の身に起こった出来事を振り返らずに話した。


「私ね…お付き合いさせてもらってる人が居るの。カルムさんって言うんだけど最初は苦手だった…。どうして私に構うのか不思議で理解出来なかった。でもあの人と過ごしていると…私は笑えているような気がした。温かい気持ちで居させてくれる。初めて抱いた感情だから扱いづらくて突き放したりもした…」


 雨音に雑じる泣き笑いは、変わらずに繋がる友情と言う名の絆の証明だった。離れている間のお互いの思い出話を沢山、喉が枯れるまで続けた。


「…あくまで任務で来ているから私がマリーちゃんの知り合いを傷付けてしまう可能性もその逆もあるかも知れない。…ごめん」


「謝らないで。ジャンヌが決めた道なら何も言わないよ。話してくれてありがとう。最後に一つ良い?について」


――――――


へは行かなかったんだね』

『止めてくれる人がいたから』


(体力無いのは昔から変わらないな…)


 マリーは自身の伝えたい事を余す事なく伝えると途端に倒れ込んだ。ジャンヌが咄嗟に受け止めたお陰で床に衝突せず事無きを得る。このまま放置しても良かったが戦闘の巻き添えになる可能性もゼロでは無いので家まで運ぶ事にした。



「貴方は…?もしかして」

「倒れていたから運んだだけ。直ぐに消えます」

(この人がカルムさん…)


 雨が未だ降っている所為で玄関に置き去りが出来ない。家主を呼び出しマリーを預けてジャンヌは直ぐに消えるつもりでいた。


「それでは」

「待ってください。マリーをありがとうございます。…人違いでしたらすみません。貴方がジャンヌさん、ですか?」

「!…マリーちゃんの事…、お願いします」


 自分の名を呼ばれた瞬間に抑えていた涙が再び込み上げ、カルムの顔を見れずに矢継ぎ早で呟き旧カラットタウンへ戻って行った。


――――――

 戦場は戻ってリオン、リュウシンVSレオナルドへ目を向ける。


「〈法術 風囲い《サークル ストーム》〉」

「〈法術 滾清流〉」

だ)


 リュウシンの法術サークルストームは多少の殺傷力はあるが攻撃用途ではなく相手を逃さない為の技で、ある程度の距離でも発動させる事が出来る。レオナルドの周りに円形状の風が現れると同時にリオンの滾清流が炸裂した。


 サークルストームの弱点は地面に手を置かなければ発動出来ない点。相手に隙を見せる事になるが仲間がいるだけで弱点を上手くカバー出来ていた。


 事前の打ち合わせをする様子も無かった為、意表を突かれた筈だったがレオナルドは大した焦りを見せずに盾でガードした。


「今度はコッチの番だ」

「ぐっ…!!」

「うっ!?」


 接近したリオンを掴まえ逆に返り討ちにし真っ直ぐ投げ飛ばす。リュウシンは反応したものの対処が間に合わずリオンと激突した。


(これで二回目だ。あいつがズレてやがる…行動に対し身体が追いついていない。だから俺から見れば隙だらけだ。その事に気付いていない…どうやってんだ)


 普通の人間は身体の成長に合わせて鍛え、そして実践する。レオナルドのような強者で尚且つ人を育てる立場にある人間の視点から見ればリオンは"異質"だった。仮にも過去に騎士団長の称号を受け取っている男が自分の身体が追いつかないような行動を取るとは思えない。本人が無自覚であってもだ。


(ブランク…じゃねぇなこの感じ。例えるならそう"何かしらの力によって本人の知らぬ内にリミッターがかかってる"…か)


「一つ訊くが騎士団長サマ、突発的な能力の発現、或いは後天的な能力が発現した事あるか?」


「?」

「訊いてどうする」

「どうもしないさ。只の興味だ」


「たとえ、あったとしても教える義理はない。敵なら尚更だろ…!」

「そりゃそうか。悪かった」

(自力で確かめてみるか)


 何度ダウンされてもリオンとリュウシンはレオナルドに立ち向かって足掻く。彼が何を考えているかも知らずに。


 この勝負は言ってしまえば持久戦だ。リオンとリュウシンはレオナルドを倒せば良いが二人がかりでも難易度が高くエネルギー切れを待つ他無かった。

 レオナルドはリュウシンの生死は関係無いがリオンを殺さず生け捕りにしろとの命令なので確実に気絶させてからラルカフスを嵌めたい為、彼もエネルギー切れを待っていた。


 辺りの建物を使いレオナルドの視界から逃れ攻撃をする。片方が相手を引きつけもう片方が死角から飛び出す。縦横無尽に動く二人を何時までも相手にしていれば幾らレオナルドと言えども全てを躱し切るのは不可能だった。僅かながらに掠り傷が増えていく。


 次に局面が動いたのはそれまで打ち合わせすらしていなかった二人がアイコンタクトを交わした直後だった。

 レオナルドが向かい合ったリオンの斬撃を正面からガードした瞬間、背後から威力の高い突風陣を繰り出す。


「〈法術 水龍斬〉」

「〈法術 突風陣〉」

「動けないのは痛いぞ」

「リュウシン!」

「あ゛ぁっ…い、ま……だ!」

「!」

「ここで決める!法術 火箭…」


 背後の人の気配を察して攻撃を予測しサッと避ける。突風陣のインターバル、五秒以内にリュウシンに重い一撃を喰らわす。

 手刀をモロに受け視界がグラつき霞む中で、リュウシンは三人目に合図を送る。レオナルドの頭上から現れたティアナが自身が出せる最大火力を放出し決着をつけようとするが。


「惜しいなぁ〈法術 フレイムシャード〉」

「なに!?」

「く…」


 連日の雨で出来た水溜りに火属性の技を放ち蒸発した水で即興の煙幕紛いを作り、法術の発動を遅らせた上でリオンの視界を遮ると手助け出来ない状態でティアナの腕を掴み、再び遥か先へ投げ飛ばす。一連の流れを見届ける前にリュウシンは力尽き気絶してしまった。


「…今のは完全に死角だっただろうが」

「いやぁ危なかった。印付きも常に警戒しておいて良かった。これで一対一サシになったな」


 レオナルドは先の法術テレポート・アイでアストエネルギーを使い過ぎており、リオンは血を流し過ぎていた。次の一手で全てが終わる。攻防を制した方が勝利だ。


「〈法術 海廻天がいかいてん水龍〉!!!」

「〈法術 ブレイズシャード〉!」


――――――

ティアナSide


(また飛ばされた…、…!?腕が折れて…)


 二度目は何とか受け身は取れたが後方に飛ばされた事に変わりはない。起き上がると同時に腕に違和感を覚えティアナはよろけた。レオナルドに掴まれた時、折られていたようだ。彼女にとって敗北よりも相手にされない事の方が余程、屈辱的だった。痛む腕にストレスが溜まる。



「あんたは…!」

「!」


 傷付いた身体では注意力が散漫になるのも無理はない。エンカウントするまで互いの距離が近付いていた事に互いが気付かなかった。


「星の民…」

(マリーちゃんの知り合い)

(先に向こうを倒そうかと思ったが…)

「計画変更だ。あんた天音の居場所知ってるだろう。天音は何処だ?!」

「教えないって言ったら?」

「吐かせるまでだ!」


 マリーをカルムの元へ届けた後、ティアナの声が聞こえるまでジャンヌは一度たりとも顔を上げれずに雨に打たれていた。雨音しか聞こえていなかった。

 不本意なエンカウントはジャンヌを星の民と友情を育んだ女の子から任務遂行の為に遣われた霊族に戻す。


「その腕、折れているんでしょ。そんな身体で勝てると思ってるの?」

「やってみないと分からんだろう」

(先手必勝…!)


 飛ぶようにして駆け出したティアナは折れた右腕を庇いつつ一撃を入れようと隙を窺う。一方のジャンヌはエトワールを巧みに操り、盾を出すまでも無くティアナの攻撃を躱す。


(チッあの武器、意外と厄介だ)


 此方が攻撃してもエトワールで防がれ、逆に防御に徹したとしてもチェーンの先に繋がれている鋭利なクナイが襲いかかる。右腕が使えない分、不利な状況は変わらない。おまけに雨で視界が悪く調子も上がらない。


(ならば…)

「行かせない」

(姫サマのところへ行こうとしても無駄!)

(そうだ。ついて来い)


 一旦ジャンヌから離れ屋根に乗り上げる。当たり前だがジャンヌもティアナを追う為に屋根に飛び乗る。屋根伝いに二人の女性が、移動しながら攻防を続けた。逃走しながらの戦闘は元盗賊のティアナがやや有利だ。


「見つけた!」

「?!きゃ…!」


 とある建物の屋根の上に足をつけた瞬間、先を走るティアナが身体ごと振り返り屋根に穴を開けた。自分ではなく屋根を狙った事で動作に遅れが生じ、短く悲鳴を上げたジャンヌは屋根と共に建物内へ落下した。


「いっ!…たぁ…。あの星の民はどこに!?」

(隠れている…?)


 二階建ての建物の一階は照明硝子と先程の屋根の残骸が散乱しているがティアナの姿は見当たらない。武器を構えた状態で何時、現れても良いように警戒態勢を取る。


「上…?」


 己の息遣いに紛れ小さな音が二階から聞こえた。建物内を移動する音の正体と出処を確認する為に、階段を上り鍵がかかっていない部屋に侵入する。


「誰も居ない…」


 割られた窓から雨音が聞こえるだけで音の出処と予測した部屋は何も聞こえなかった。音の出処を探るよりティアナを探した方が賢明だと判断し直し窓辺に近付く。


 ミシリとジャンヌの足音が鳴ったと同時に背後でもガタッと盛大な音が鳴りティアナの気配が視界を過ぎった。反射でエトワールを操りクナイを刺す。


「…鏡?そんな筈は」

「引っかかってくれて良かった」

「!!」

(抜けない!?)


 姿見を刺した瞬間、屋根の上に潜んでいたティアナが窓からジャンヌ目掛けて飛び込む。焦るジャンヌは姿見に刺さったエトワールを抜こうとするが力配分を間違え成す術が無い。


(負け…いやまだだ!)

「スペア!?」

(届け!!)

「…そんなに刺したきゃ刺せ!」

「は…折れた右腕を、…!?」

「終わりだ」


 レオナルドに指南されているだけの事はある。直前で冷静さを取り戻したジャンヌは、エトワールを素早く手放し懐からスペアを取り出してチェーンを伸ばす。刃先を防がれる正面ではなく背後に回して拘束と刺傷両方を狙う。


 然しティアナの覚悟が一枚上手だったようで折れた右腕を自らクナイに突き刺しジャンヌの動きを止めた。そのまま、渾身の左ストレートが決定打となりジャンヌは倒れた。


「ゔっっ!」


 唸り声で痛みを軽減しながらクナイを抜く。我慢しているだけで全身が痛みで悲鳴を上げていた。完全勝利とは言えず今の状態のままでリオンに加勢するのは叶いそうにない。


(こんなんでも役に立つんだな。この家には世話になった…血で汚して悪い)


 ティアナVSジャンヌ 勝者ティアナ。


 地の利を制したティアナの勝利だ。彼女が探していた場所とは、かつて盗賊を生業としていた頃に借りていた家だ。此処なら骨折した自分でも勝機があると確信した。


 姿見と床の間に挟んだネックレスを持ち上げネックレスに繋がれた細くて透明な糸を回収する。元の所有者が見つからず返す事が出来なかった金品は今もこの家に眠っていた。彼女はそれを思い出し即席のトラップを仕込んだに過ぎない。

 自分勝手な理由で利用したネックレスと家宅に一声謝り、ジャンヌと向き合う。


「おい、起きろ!天音の居場所を…」

「…」


 ジャンヌに呼び掛けるも反応が無い。気を失ってしまったらしく目的の一つである天音の居場所を聞き出せなくなった。自力で探そうにも負傷した身では真面まともに動けない。


(…っ少し休む……か)


 ジャンヌが起きる事を願いその場で休息を取る。右腕の出血は止まったが痛みは止まず次第に彼女の意識も遠退く。




 雨雲未だ去りず彼、彼女の行方を見守る。

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