第5話 「《主》のこと」 《ぬこ》
小生のような猫を生業としている者としては、人間という生き物は実に不思議な生き物だと思う。まず身体能力が絶望的に低い。他にも全体的に毛皮がなくて寒そうだ。
うちの《主》も、ちょっと跳んだら乗れるような所でもわざわざ箱のような物を持ってきてそれに乗らなくては上の物が取れない。しかも
「アイタタタタ…」
と言いながら手を目一杯伸ばしている。
朝は決まった時間にいそいそと出かけていき、帰るのは夕方だ。何処へ行っているかは知らない。そして帰るなり
「はぁ〜疲れたぁ〜」
などと言いながら椅子に座り込み、暫く何をするでもなく宙を眺めている。
小生だって1日中家の警備をしているのだからして、労ってもらわねばならぬ。だから当然の権利として玄関前で尻を叩いてくれと要求する。
ところがその呼びかけに《主》は動かないどころか
「何〜?」
と白々しいことを言う。
「だから、尻を叩いてくれ!」
とまた要求すると、言うに事欠いて
「用があるならそっちから来てよ」
などとふざけた事をぬかしてくる。しかし、ここで諦めてはいけない。玄関前で尻を叩いて欲しい小生と、椅子のところから動きたくない《主》との心理戦が始まるのだ。
しかし小生は、《主》の心理を完璧に把握しているので、勝率は実に9割超えを誇っている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます