第2話 「《ぬこ》のこと 」前編
《ぬこ》が我が家へやってきたのはそろそろ梅雨が始まろうかという頃であった。
《主》が知人数名と出かけようとした時、知人の一人の車のあたりから猫の鳴き声が聞こえた。これは近くに猫がいるぞということで、周囲を見回したが何もいない。おそらく近く塀の向こうあたりで鳴いているのだろうとそのまま車に乗り10分ほどの場所まで移動した。ところが、車から降りるとなお猫の声がしている。これはきっと車の内部にいるに違いないとボンネットを開け中を探ってみた。
しかしいない。
どこにいるのか。
その時、車の下をほぼ土下座のスタイルでのぞき込んでいた知人が叫んだ。
「いた!!」
その知人は地面に寝転ぶ形で車の下に手を伸ばした。筋金入りの猫好きの知人は大の大人が街なかの地面に寝転ぶという、他の通行人から見れば珍奇な体勢も何のためらいもなく、引き出した手には掌に乗るほどの小さな、それは小さな子猫を掴んでいたのだ。
《主》はそれまで、どちらかと言えば犬派であった。「この猫…どうする?」「子猫だし、このまま放しても生きていけるのか…」そんな会話の中、「あ、じゃあ、うちに連れて帰るわ」
そんなまぁ言ってしまえば「ノリ」で連れて帰ることにしたのだった。
12年ほど前の話である。
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