もしも…もしも…もしもし?

@ristat4410

第1話 空想大好き男「空海幻想」爆誕!!

この世界の人間というものは本当に無力だ。空も飛べなけりゃ、物を浮かせたり人を操ることもできない。


こんなに残念なことが他にこの世の中にあるだろうか?


こういうことを言うとお前らからこんな言葉が返ってきそうだ。


「そんなの当たり前だろ。人間が空を飛んだり人を操ったりなんてできるわけねーよ。」


…まあ大抵のやつ、いや世界中の普通の奴らはそう言うだろうな。


だがな、誰がそんなことを決めたんだ?誰が人は飛ぶことが出来ないと決めつけたんだ?


まあでも確かに現実ではそんな奴は見たことがないかもしれない。


だが俺は違うぞ。空だって飛べるし人を操れたりもする。人が羨ましがることを簡単にこなしてしまうんだ。


空想の世界でな!!


…なんだ?何を呆気にとられている?誰が現実の世界で空を飛んだり人を操ったりできると言ったよ?


当たり前だ。現実ではそんなことできるわけない。


でも落ち込むことはない。現実でそういう力が使えないのであれば、別の世界に行って使えばいいんだ。


それなら俺は本当の俺でいられる!


さあお前ら!俺の様々な偉業をその目でとくと堪能していくがいい!



とある春の風が強い日の夕方に男は歩いていた。


やあみんな。俺は空海幻想というどこにでもいるような冴えない男だ。現在25歳、仕事はろくにしていなくて、日雇いバイトをぽちぽち入れて最低限の生活を送っている。


毎日毎日特にやることもなくゲームや音楽を聞いてダラダラ過ごすのが大体のルーティーンだ。こんな男だからもちろん彼女なんてものはいない。


そんなある日の夕方、仕事からの帰り道でいつも通る公園に少年が一人でポツンと立っていた。


その光景を見たとき俺の頭の中で、ピキーン!!という耳を貫くような甲高い音が鳴り、目の前が真っ白になった。


しかし、しばらくするとさっき見てた光景に戻ってきていた。まるでどこかの世界にワープしたかのような不思議な感覚がまだ微かに残っている。


すると少年は木の前に立っていて、上を見上げている。何があるのか気になって俺は少年に一言声を掛けてみた。


「おいお前、こんな遅い時間に一人で何してんだ?」


すると少年は上半身を仰け反らせ声を上げた。


「わあっ!!お兄さん誰ですか?」


「誰でもいいだろ。それより何してんだって聞いてんだ」


少年は少し困った表情を浮かべながらも、木の上の枝あたりを指指してこう言った。


「さっき風船で遊んでたら、手からスッポ抜けてあの枝に引っかかっちゃったんだ」


そう言われて、俺も上を見上げると確かに木の枝に風船が引っかかっている。それもかなり高いに位置に。これはこの子の身長じゃ取ることは難しいだろう。


そこで俺はこの子にとある提案をした。


「あの風船取ってやるから、その後少しだけ俺と遊べ」


「え?でももう僕そろそろ帰らないとママに怒られちゃう…」


確かにその時はもう既に辺りは暗く、時計の針も午後5時を指していた。


「少しだけでいいから、ホントに少しだけ!!」


これじゃどっちが子どもか分からなくなってくる。


なぜここまで必死になって遊びに誘うのか分かるか?そうさ、うすうす感づいてる奴もいるかもしれないが実は俺…


「友達がいないんだ!!」


「え?それって本当なの?」


おっと、どうやら心の中で思っていたことを知らぬ間に口に出していたようだ。


これはかなり恥ずか……しくはない。なんてったって俺は鋼のメンタルを持った超人だからな。


まあそれはさておき、こんな事実を聞いた少年はやれやれといった感じでため息をつき、意外にもこう言った。


「しょうがないなー、ちょっとだけならいいよ」


数年誰とも遊んでなかったからか、その返答が嬉しすぎて俺は子供みたいに飛び跳ねた。


「マジか!?ホントにいいんだな!?よしじゃああの風船とってやるよ!」


「でもどうやって取るの?何か必要なものある?」


俺は呆れた顔をして、手を横に振った。


「何もいらねーよ。ちょっと一飛びすれば余裕で取れるぜ」


「一飛びって、そんなサルじゃあるまいし…」


少年が俺を小馬鹿にしている間に俺はジャンプの体勢に入る。両膝を少し曲げ、少しカッコつけるために片手をポケットに突っ込み、そのまま軽く上に向かってジャンプをした。


するとジャンプをしたと同時に辺り一体に強い風が巻き上がり、少年の髪や木々の葉などが激しく揺れる。


「わぁっ!!」


少年がすさまじい風圧に驚き、耐えているものの数秒の間に俺は木の上までたどり着き、風船についている白い紐を掴んでそのままゆっくり下に降りた。


まるで背中にパラシュートをつけているかのようにゆっくり降りてくるものだから、少年は下でとても不思議がっている。


そして俺が地面に戻ってきて手に持っている風船を少年に渡した。


「ほらよ」


「……ありがとう……じゃなくて何今の!?」


少年は目をまん丸くしてすごい勢いで俺に質問してきた。


「何って、ただジャンプしただけだろ。こんなことで驚いてんじゃねぇ」


「いやいや!ただジャンプしただけであれだけの飛距離とあの風が巻き上がるのは普通におかしいよ!」


少年は興奮していてかなり早口で俺に詰め寄ってくる。まあ確かに俺が使ったジャンプは普通の人間が使えるような代物じゃない。


だから少年がこのジャンプについて詳しく知りたがるのは当たり前のことだ。


だが俺はこのジャンプについてあまり教えたくなかった。それは何故かって?


早く遊びたいからだ!!


だってこんな話を子供に話したところで絶対理解できるわけないだろ。次々に疑問が生まれていって止まることのない質問攻めに合うに決まってる。


そうなると遊ぶ時間はどうなる?塵となって消えていくのが関の山だ。 


だから俺は少年を何とか上手く言いくるめるために必死で少年が納得しそうな説明を考える。そして絞り出した言い訳が、


「俺さー、実は妖精なんだよね」


まずい。なんで俺はこんなクソみたいな言い訳を口走ってるんだ?

今すぐにでも自分をぶん殴りたいほどに苛立ちが湧き上がってくる。


さすがに少年といえども、もうある程度の分別はついている年頃だ。こんな説明を信じるわけがない…と思っていたが、意外にも少年はキラキラと目を輝かせて俺にこう言ってきた。


「妖精…妖精ってあの妖精だよね!飛んだり自由に空を動き回れるあの!」


あれ?意外と信じられてる?予想外の反応だ。

少年は足をバタバタさせさらに一人で喋っていく。


「だからあんなに高くジャンプできるんだ!風が起きたのも妖精の力だよね!アニメでみたことある!」


うんうん、この調子で気持ちよく喋らせておけば上手く信じてくれるぞ!

少年がめちゃくちゃ楽しそうにしてるから俺も何だか楽しくなってきてしまった。


「そうだ!よく知ってるな!その妖精のことだ!俺はこの世の中でもかなりレアな人種だ」


「うわー、自分でそれ言う〜?まあ確かにすごいけど…」


微かにだが少年のテンションがさっきより下がってきた。今だと思い、俺は咄嗟に話を本題に切り替えた。


「まあなにはともあれ、風船は取ってやったぞ!これで思う存分俺と遊んでもらおうか!」


「えーまださっきの力について教えてもらいたいのに〜」


少年はしょんぼりとした表情を浮かべたが、すぐに元の顔に戻り俺に質問してきた。


「しょーがないなー。約束は約束だしいいよ。ところで何をして遊ぶ気なの?」


「うーんそうだなー……よし!鬼ごっこでもしよう!」


「嘘でしょ!?2人で鬼ごっこなんてやっても絶対つまらないよ!」


少年は怒り混じりの声で反論してきた。だが俺もここで引き下がるわけにはいかない。今はただひたすらに走りたい気分なのだ!


「そんなもんやってみなきゃ分からねーだろ!」


「やんなくたって分かるよ!」


「分からない!」


「分かる!」


……かれこれこんなようなやりとりを数十分した後に少年が先に折れて、やれやれといった表情を浮かべ言った。


「はぁ…もう分かったよ。その代わり一回だけね!僕もすぐに帰らなきゃいけないから」


「ふん、ようやく折れたか。じゃあ早速じゃんけんで鬼を決めるとするか」


「はいはい、負けたほうが鬼ね」


この時点で鬼ごっこに対する少年と俺の温度差がえげつないほど違うのが朗らかに感じとれるが、俺は構わず掛け声を掛けた。


「じゃーんケーン…ポン!」


俺はチョキを出そうとしたが、少年が強く拳を握りしめてるのが見えたから咄嗟にグーに変えた。案の定俺がじゃんけんに勝って少年が鬼になった。


少し後出しっぽくなってしまったが、少年が何も気にしてなかったから俺も全く気にしなかった。


「よしじゃあ俺は逃げるからな!お前は何秒か数えたら追ってこいよ!」


「わかった、じゃあ3秒だけ数えるよ。いーち、にー…」


「おまっ、それはせこっ…」


そう言ってる間にもカウントは刻々と進んでいくから、俺は全力で少年から距離をとるように走った。


しかし相手はまだまだひよっこの小学生。大人の俺の走りについてこれるわけはなく、数十分の間、少年から俺に鬼が変わることはなかった。


当然少年は、泣きそうな表情を浮かべながら俺に不平不満を吐いてきたが、全力で無視した。


そんな状態が続いたからか、俺はとうとう心の中で思いたくもないことを思ってしまった。それは…


(つまんな……これ……)


そう思った瞬間、またピキーンという甲高い音が頭の中で鳴り、目の前が真っ白になる。眩しくて目が開けられない。  


しばらく経って目が慣れてくると、俺はまた公園の前にいた。その公園の中には少年が一人木の前に立っていて、その木の枝の部分には風船が引っ掛かっている。


どうやら俺は少し前の時間に戻ってきたらしい。
































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