第16話 新たなオーブ
朝になり、俺たちは朝食をフロンダーのダイニングキッチンでとる。
今日はなんと、アデル教授が皆の朝食を作ってくれた。思ったより手際がいいのは、一人で暮らしているので、いつも自分の食事を作っているからだろう。
といっても、ベーコンエッグとサラダにパンというシンプルなものだったが。
食事を済ませたあと、俺たちは機材を乗せたトラックと探査車をフロンダーから降ろし、二台に分乗してバロア男爵邸へ向かった。
探査車を俺が運転し、トラックの方はイーサンに任せる。
俺の横にはユリーが座り、後ろの席ではエレナ博士とアデル教授が居眠りをしていた。
空港から街の中心に向かって走らせていると、やがて遠くに男爵邸が見えてきた。
男爵邸は丘の上に立っているので、昼間なら離れたところからでも目に入る。
「あそこ。男爵邸が見えてきた」
俺は隣のユリーに話しかけた。
「リスルに聞いたら、今は男爵邸内には誰もいないらしいわ」
そういえば発掘許可はもらったけど、男爵邸に誰かがいるとかまでは気にしていなかったな。
「使用人もいないのか。解雇されたのならちょっと可愛そうだな」
「男爵の処遇が決まるまでの、一時的な休暇扱いじゃないかしら」
それならいいのか。
「そういえば、バロア男爵は結局どうなったんだ?」
俺はちょっと気になって、聞いてみた。
「今は王宮に軟禁されているみたいよ」
「ふーん?」
「結局今回の事件ではまだ死者が出ていなかったし、ピーター君にはバロア男爵から賠償するらしいから、もしかすると処分は軽くなるかもしれないわ」
ジェルマンの研究に資金や場所を提供して、そのジェルマンがピーターを誘拐したわけだが、実験台にされる前に俺たちが救い出したので、まだ死亡した者や大きな被害は出ていなかった。
「そうなんだ? まあでもそれは、俺たちが未然に防いだおかげだけどな」
「そうね」
あとは、あの怪物に変えられた動物たちの扱いだな。
「そういえば、あの魔法生物たちは?」
「マンティコアになったジェルマンも含めて、国の研究所に引き取られたわ」
「そうか……。あのガーゴイルやトロルも元は普通のサルとかゴリラだったんだろうし、ジェルマンに造られたあいつらも被害者だから、寛大な措置になればいいけどな」
「おそらくだけど、魔法で合成された魔法生物だから、その反対の分離する魔法をジェルマンに研究させて戻すんじゃないかしら」
「あーなるほど。ジェルマンも自分が元に戻れるかもしれないから協力は惜しまないだろうな」
男爵邸の裏門に着くと、門は閉ざされ、委託を受けた民間の警備員がそこを守っていた。
話が通っていたので、俺がレリック・ハンターのギルド証を提示すると、すぐに中に入ることができた。
俺たちはまず、レンタルしてきた魔導掘削機などをトラックから降ろす。
魔導掘削機は、キャタピラが付いた車台の上に直径二メテルほどの筒状の掘削装置が載っているような形状だ。
次に測量をして、掘削を開始する場所の地面に印を付けた。
そこに掘削機を持ってきて、掘削機の掘削角度を設定し、いよいよ掘削開始する。
その魔導掘削機は土魔法を利用しているために、静かに土を掘り進めていく。一分で一メテルほどの掘削スピードだ。
まずは斜めに掘り始め、十度ぐらいの傾斜のスロープを作っていく。そして地上から十メテルほどの深さに達した所で一旦停止して、今度は水平に横穴を掘り始めた。
掘削機のコントロールはイーサンが受け持ち、距離と方向を常に計測しながら掘り進んでいく。適当に掘り進むと、上にある屋敷の土台を破壊してしまったり、遺跡の扉を傷つけてしう可能性があるからだ。
また、掘削機は最近発売された最新の物を借りてきたので、掘るのと同時に土魔法でトンネルの内側を固め、補強もしてくれる。これで上に立つ男爵邸が傾いたりする心配は無いだろう。
一時間もすると、直径二メテルほどのトンネルを、五十メテルほど掘ることが出来た。
遺跡の扉を傷つけるといけないので、扉があると思われる少し手前で止め、掘削機をバックさせて外に出す。
「さあ、後は手堀りだ」
俺がそう言って、イーサンとともにスコップを手に、出来たばかりのトンネルに入った。
ここには元々小さな空洞があったので、掘削機をどけるとすでに遺跡の扉の上部が見えていた。
写真に映っていたのは、この部分だ。
よし、計算通りだ。
あとは、その手前に崩れている土砂をスコップでどけるだけだな。
でも、ちょっと暗いか。
「イーサンは先に作業を始めていてくれ。俺は投光器を持ってくる」
「はい」
そのトンネル奥へは入口からわずかに光が届いているが、それだけでは薄暗いので魔導投光器を持ってきて照すことにした。
その後、俺とイーサンで手前の土を崩していき、アデル教授やエレナ博士、ユリーはその様子を後ろで見ていた。
「わかっていると思うけど、遺跡の扉を傷つけないでよね」
と、後ろからアデル教授。
「大丈夫。慎重にやるから」
扉は金属でできているようだが、普通の鉄や銅などではなく見たことがない材質で、もちろん錆びてはいない。
簡単に傷つくような金属ではなさそうだが、後ろでアデル教授が怖い顔で見張っているので、俺たちは最後の仕上げはハケなどを使って扉の土を丁寧に取り除いていく。
そして三十分後、金属製の扉の全体が
その扉の表面には植物をかたどったような装飾があり、上部には古代文字のレリーフがある。
両開きと思われるその扉の中央には円形の出っ張りがあり、そこにも装飾のようなレリーフがある。それは何かの紋章のようで、まるで手紙に施す封印の様に見えた。
俺は扉の土を落とし終わると、アデル教授に聞く。
「こんなもんでいいか?」
アデル教授は俺たちのすぐ後ろまでやってきて覗き込む。
「まあまあだけど、いいわ」
「ところで、ほかの遺跡にもこんな扉があったのか?」
前回行った七号遺跡の入口には、魔物などが入り込まないように後から付けられた檻のような鉄製の扉があったが、こういう扉は無かった。
「あったらしいんだけど、みんな無理やり壊して、扉自体も未知の金属として売られてしまったわ」
「昔のレリック・ハンターは、無茶くちゃやってたんだな?」
「そのころはまだ、レリック・ハンターっていう呼び名は定着してない頃で、金儲けで集まった胡散臭(うさんくさ)い連中が多かったと聞いているわ」
その後遺跡の発見が少なくなって来ると、国はレリック・ハンター・ギルドを作って、仕事にあぶれた連中に仕事を与えて国の治安を守った。
輸送の仕事や土木作業のような仕事も多かったので、単に金儲けのような感覚でステイシアに来ていた連中は旧大陸に帰り、こつこつと地味な仕事でもこなせる連中だけが残って、今のレリック・ハンターになっているそうだ。
「じゃあ、そこのヒューマノイド」
アデル教授がイーサンに声を掛けた。
「なんでしょう?」
とうとうイーサンは、アデル教授に名前を覚えてもらうのを諦めたようだ。
「どいてちょうだい」
「あ、はい」
アデル教授がイーサンと場所を入れ替わって扉に近づく。
そして、扉の古代文字を読み始めた。
「マスターオーブがカギとなる。癒しの力を求めるものはオーブをかざせ、されば扉は開かれん」
「まさか、マスターオーブって、これ?」
俺は腕輪のはまった左腕を持ち上げて、アデル教授を見た。
「そうかもしれないわ。かざしてみて」
さて、どこにかざせばいいのか。この中央の紋章のようなところかな?
俺は左腕の腕輪をその紋章に近づけてみる。
すると、その紋章が一瞬光り「カチャ」という音がして、目の前の扉に隙間が生まれた。
さらに扉の奥の方から、カチャンという音がした。さらにその奥でも、音がしたような気がした。
開いた。
ん? まてよ。
「ということは、このマスターオーブは親父が作ったわけではなく、レムル文明の遺産ということか?」
「理由はわからないけど、あなたのお父様は過去に飛ばされた後、レムルでその腕輪を自由にできる立場になったって事みたいね」
あのスフィンクスの仕組みを作れたり、マスターオーブを俺のために残したり。
親父は、レムルの高官に登用されたってことか?
それとも……。
俺がそんなことを考えていると、アデル教授が催促してくる。
「じゃあ、扉を大きく開けてみてよ」
「念のために聞くけど、これでトラップは解除できたんだよな?」
「心配なら、こないだ教えたオート・シールドがあるじゃない」
そうか。オート・シールドは戦闘以外でも、危害が及びそうになると反応してくれるんだっけ。
「オート・シールド」
俺は念の為にオート・シールドを起動してから、手で扉をそっと開けてみる。他の皆は後ろに下がってその様子を見ていた。トラップがあった場合に巻き込まれないためだ。
開いた扉から、ライトで奥を照らしてみると、その先にあった扉も開いているのが見えた。
「これって……やはりトラップも解除されたって事みたいだな」
俺がそう言うと、アデル教授が横にやって来て、いっしょに奥を覗く。
「そういうことなんじゃない? 今まで扉を無理やりこじ開けたから、トラップが作動したのね」
なんということだ。
過去のレリックハンターたちは、このマスターオーブがなかったせいで何人もが重軽傷を負い、命を失った人までいたらしい。
なにか、やるせないな。
「さあ、入ってみましょ?」
アデル教授が、俺を急かす。
俺が先頭に立ち、皆でゆっくりと遺跡の中に足を踏み入れた。
この遺跡の中も他の遺跡と同じように、精巧な石作りだ。カミソリの刃一枚入りそうにない。
二千年以上経っているとは思えない様に、しっかりとしていた。
俺は先に進み、少し開いていた次のドアもゆっくりと開けてみる。
やはりすんなり開いて、何も起こらない。心配してたトラップを本当に解除できたようだ。
「なんか、拍子抜けしてしまったな」
俺が言った。
「いいことじゃない?」
と、ユリー。
その扉の奥を覗くと、この先は階段になって下に続いている。
そこからは、念の為にオート・シールドを起動したユリーと俺が先頭になり、ゆっくりと皆で降りて行った。
「なぜレムル人たちは、遺跡をここに作ったのかしら」
ユリーが疑問を口にした。
エレナ博士がそれに答える。
「先日ユウタのメッセージで、レムルの人々は未来視で災害が来るのを分かっていたと言っていたんでしょ? だから、いざというときのために、予め非常備蓄倉庫のようなものを、各大陸に分散してつくっておいたのかもね」
「でも、こういう遺跡からは食料みたいな物は見つかっていないんだろ? それに、多くの遺跡は封印された状態で発掘されているってことは、結局それらを使わなかったってことか?」
俺が聞いた。
「直前になったら、このステイシアや旧大陸に避難することをやめたんじゃない?」
と、アデル教授
「そういえば、親父は結局レムル人の避難先は言わなかったな。どこに避難したんだろう」
「古代レムル文字とアシハラの古代文字が似ていることを考えれば、一部の人はアシハラ王国のあたりに逃げたのかもね」
通路が水平になったところでライトを奥に向けると、先の通路が二股に分かれているのが見えた。
アデル教授が通路の先をライトで照らして、目を凝らす。
「この遺跡の形は、『銀のオーブ』が見つかった第二号遺跡と似てるわね。ということは……」
アデル教授はそう言って、右の壁の方を向いて、壁を調べ始める。
「……もし、二号遺跡と同じなら、この辺りに隠し通路があるかもしれないわ」
そして、ライトで壁を照らしながらゆっくりと壁に沿って移動し、何かを探した。
「……ほら、ここにさっきの紋章と同じ形のものがある」
「じゃあ、腕輪をかざしてみるよ」
俺がその紋章に腕輪を近づけると、壁の一部が音を立てて下に沈んでいき、通路が現れた。
「さすが、研究者ね」
エレナ博士が褒めた。
「この先の二股の通路は、だましってとこね。一応後で調べるけど、たいしたものはないはずよ」
アデル教授はちょっと誇らしげだ。
俺たちは、隠されていた横道に入っていった。
そこから三十メテルほど進むと奥には部屋があり、部屋の中央には台座の上に丸いオーブが並んでいるのが見える。
「キャー! やったー!」
アデル教授がうれしさのあまり、小さく飛び上がりながらはしゃいでいる。
台座の上には、白いオーブが二十ほどあった。
入口の扉にも書いてあったが、以前に俺の腕輪から出た癒しの光が出るのだと思われる。
「まず写真を撮るから、ちょっと下がっていてね」
アデル教授は、まず発見したままの状態の写真を撮った。
その後、オーブを個別に番号札とともに写真にとりながら、丁寧に保護袋に入れていく。
直接手では触れることもしないようだ。トングのような、先端にゴムのような柔らかいものがついた器具で取り扱っている。
すべてを保護袋に入れると、クッションのついたケースの中に、丁寧に並べてしまっていった。
その時だ。
「後ろの通路の方から、足音がします」
イーサンが、人間の何倍もある聴覚で察知したようだ。
え!?
「変ね。この館は無人のはずだし、きっと盗賊ね」
と、エレナ博士。
俺は魔導ガンを抜いた。
「ユリーは、博士と教授をシールドで包んで。イーサンは俺と一緒に……」
最後まで言わないうちに、瓶が投げ込まれて割れ、その中からガスが吹き出てきた。
「キャッ」
アデル教授がいきなりのことで、小さく悲鳴をあげた。
俺は一瞬口に手を当てて、すぐにシールドを張る。
「これは、催眠性のガスです」
イーサンが、ガスの分析をした。
ユリーは、エレナ博士とアデル教授をシールドで包んで、すでに部屋の隅の方へ移動している。
俺は部屋の入り口の脇に隠れて立ち、魔導ガンをかまえた。反対側にはイーサンが、同じく魔導ガンをかまえて隠れている。
やがて通路から、こちらの部屋を照らすライトが見え、足音も聞こえてきた。
六、七人ぐらいか?
俺たちがもう寝ているだろうと思って、警戒を緩めているのだろう。
このまま不意を突いて攻撃してもよかったが、こちらから魔導ガンを撃ったら後で厄介だ。正当防衛にならない可能性もある。
もしこのガスが毒ガスなら正当防衛の条件が成立するが、催眠ガスではちょっと弱い。
「そこで止まれ!」
俺が叫んだ。
すると、相手はいきなり魔導ガンを撃ってきた。
「これで正当防衛成立だな」
俺はそう言って魔導ガンを撃ち返す。
イーサンも反対側の壁の陰から、時々腕だけ出して魔導ガンを撃ち返した。
俺はシールドを張っているから、このまま出て行ってもよかったが、六、七人の一斉射撃にシールドがどこまで耐えられるのかわからない。
銀のオーブは世の中に二十ぐらいは出回っていると思うが、死ぬリスクを犯してまで限界を試した人はいないだろう。
時間があるときに、少しぐらいは試しておけばよかったなと思う。
相手の人数が多いだけに、このままではらちがあかない。
背後に回れたらな、と強く思った瞬間だ。
突然視界が変わり、俺はこの遺跡の外に立っていた。
え? これって……?
だが、あれこれ考えている暇はなかった。目の前には、盗賊の見張りと思われる男が、急に現れた俺を見て驚いた顔をして突っ立っている。
俺はそいつをすぐに殴り倒した。
うっかりシールドを張ったまま殴ったが、殴れた。シールドのおかげで俺の手は痛くならない。
俺は、シールドは自分の周りを球形に取り囲んでいると思っていたが、指定しなければ体の形でピッタリと囲んでいるらしい。
でも、とりあえず一人目を倒した。
すぐさま俺は遺跡の中に戻り、なるべく音を立てない様に奥に進んで盗賊たちの背後に迫る。
盗賊たちは、イーサンが撃ってきている魔導ガンに当たらない様に、端に寄って背を低くして撃ち返している。前の方のやつは、床に寝そべって撃っていた。
俺はそこを、手前のやつから片付けていく。魔導ガンのグリップで頭の後ろを強打して気絶させていった。
二人目、三人目。
「ん?」
横にいた仲間が倒れたのに気が付いたやつが、こちらを振り向く。
こいつらは殴り倒した。
四人目、そして五人目。
イーサンの魔導ガンが、一人を片付けた。
六人目。
さらに俺が、最後の一人を眠らせた。
よし、これで終わりだ。
でもまだイーサンが撃って来ていた。
イーサンが撃った魔弾が俺に当たったが、シールドに吸収される。
「イーサン、俺だ! もう撃つなよ!」
「盗賊かと思いました」
イーサンがしれっと答えた。
こいつ、わかっててやったんじゃないだろうな?
俺は、皆がいる奥の部屋に戻ってきた。
すると、エレナ博士が少し興奮気味に聞いてきた。
「あなた、さっき消えたわよ。何したの?」
「自分でもよくわからないけど、こいつらの背後に回りたいと思った瞬間にこの遺跡の外に立っていたんだ。きっと、このオーブの機能なんだろうな?」
俺は左腕のマスターオーブを見せながら言った。
「すごいじゃない。大発見よ。これはテレポートということね? 何色のオーブの機能なのかしら」
アデル教授が、またもや目を輝かせている。
テレポートは伝説のユニーク魔法だ。離れた場所に一瞬で移動することができる。
しかし、現在では出来る人間はいないとされている。
その後、俺とイーサンで襲ってきた奴らを縛り上げていると、その中に男爵邸の入口で警備員をしていたやつが混ざっているのを見つけた。
「こいつが手引きしたんだな?」
俺が言った。
「警備員が門を守っていると思っていたので、油断してしまったわね」
と、エレナ博士。
「待てよ。そういえば、このプリア・シティで窃盗団が出没しているってギルドの指名手配の掲示板にあったが、もしかしたらこいつらなのか?」
「それって、賞金が出る?」
「たしか、捕まえたら一千万ギルだった」
「やったわ!」
「まあでも、本当にこいつらが賞金がかかっている窃盗団かどうかわからないからな」
「悪そうな顔をしてるから、きっとそうに違いないわ」
俺はイーサンが魔導ガンで撃って倒したやつを、白の癒しの光で治してから、警察を呼んで引き渡すことにした。
人道的見地ということもあるが、一人でも死んでると、いくら正当防衛でも事情聴取やら手続きが面倒ということもある。
その後、俺が警察の相手をしている間に、アデル教授たちが二股に分かれていた先にある奥の部屋も調べていたが、特にめぼしいものはなかったようだ。
警察が帰ると、俺たちは昼食を取り、最後に遺跡の内部の測量をする。これは、あとで考古庁に提出する書類に必要だからだ。
下手すると二、三日かかると思っていたが、トラップが簡単に解除できたため、早く調査が終わった。
俺たちは機材を片付け、夜にはアーム・シティへ向けて帰ることができた。
翌日アデル教授と俺は、発見したオーブを今回のスポンサー、つまり王様側に渡すために王宮に届けに行った。
アデル教授は、対応した侍従に図面や写真を見せながら、詳しい報告をしていた。
また、プリア・シティの警察から連絡があり、俺たちが捕まえた七人は、やはり例の賞金が出ていた窃盗団だと分かって、一千万ギルが振り込まれた。
そういうこともあり、このところエレナ博士の機嫌がいい。
それから一週間後、俺たちは王宮に呼ばれた。
正装で来てくれという連絡が来たので、俺はモーニング、ユリーとエレナ博士はローブ・モンタントというものを着ていくことにしたようだ。イーサンは呼ばれていない。
もちろん正装なんて物はユリー以外は持っていなかったので、俺たちはレンタルだ。
正装をするということは、王様に謁見するということなのだろう。できればそんな型苦しい場所に行きたくはないのだが、階級社会に住んでいる以上これは拒むことも出来ない。
ユリーが、モーニングを着た俺を見て、
「よく似合っているわ」
と言ってくれたが、俺はどうもこういうのは苦手だ。
なんか、むずむずしてくる。
「『馬子にも衣装』ということわざは、こういうときに使うんですね?」
またイーサンがからかってきた。
俺をからかうことに、生きがいを感じているみたいだ。ヒューマノイドだから、生きがいというのも変か。
ユリーは、薄いピンクのドレスを着ている。着慣れているせいか、やはりしっくりとしていた。
エレナ博士はというと、
「白衣型のドレスが無いか?」
なんて言っていたが、やはり白を選んだ。
そしてその上から、コート代わりに白衣を宮殿の控室まで着ていた。
控室で少し待っていると、侍従が呼びにきたので俺たちは後について謁見室に入り、王様の前に並んで挨拶をする。
ユリーは、
「伯父様、お久しぶりでございます」
と言って、片足を後ろに引いて、貴族らしい挨拶をしていた。
挨拶が終わると、王様が玉座から話を切りだす。
「今回の新しいオーブの発見の功績。さらにバロアの一連の事件を解決した功績をもって、そなたらに勲章を授与することにした」
えっ!? 勲章!?
俺は、ユリーとエレナ博士を見る。するとユリーやエレナ博士も、ニコっと笑顔を返してくれた。
今度は王様の斜め前に立っていた侍従長が、口を開く。
「さらに、賞金が授与されます」
王様が玉座から降りて、俺たちの方に歩みよってきた。斜め後ろには侍従長がついて、勲章と賞金の小切手らしきものを乗せたトレイを持っている。
そして、王様が俺たち一人一人に勲章を手渡していった。
俺の番になると、王様が小さい声で、
「我が国の遺跡から転移した先でマスター・オーブなるものを発見したらしいが、それには目をつぶろう。その代わりと言ってはなんだが、姪を守ってやってくれ。泣かせるなよ」
と言って、ウインクした。
えー!? ちょっと、なにか勘違いしてるんじゃないか?
隣ではユリーが、こちらを見て顔を赤らめている。
エレナ博士はというと、小切手の金額を見てニコニコしていた。
後で聞いた話だが、王様は白のオーブを王宮と公爵家用に一つずつ残し、残りの十八個はステイシアにいくつかある王立病院に貸し出すことにしたということだ。
そして、オーブを貸し出す為の法律を作って、管理の方法や紛失した場合の罰則などを制定することにしたらしい。
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