第14話 怪物との戦い
その背中の曲がった男はガーゴイルをチラっと見る。
「この傷はその魔導ガンか。よくもワシの可愛い子供を傷つけてくれたな」
「そのガーゴイルが、可愛い子供だって?」
俺が聞き返した。
「そうだ。ここにいる皆は我が子同然だ」
皆?
その部屋を見回すと、ここは結構大きい部屋で、奥には他にも怪物が二匹程いるようだ。
トロルの様な大きな人型の怪物や、ライオンの背中にヤギの頭、尻尾が蛇のキメラという想像上の魔物もいる。
トロルは身長が二・五メテル程ありそうだし、キメラは本来のライオンの二倍以上の大きさだ。
さらにその怪物たちの足元には、人間の少年が縛られて床に寝かされているのが見えた。
もしかして、彼がピーターか。
しかし、ここでピーターのことを聞くと、彼を探しに来たのがバレて人質として使われかねない。
まずは状況確認と、この檻を抜け出す方法を考えてからだ。
「ここで何をしている?」
俺が聞いた。
「魔法実験だよ」
「魔法実験?」
「動物や魔物を掛け合わせて、新しいものを作る実験をしているのだ」
「さっきエレナ博士が言っていた、二十年前に魔法実験で失敗した学者がいたわよね。たしか……ジェルマンとかいう魔物研究家?」
ユリーが俺に言ってきた。
「ああ、そういうことか」
しかし、それを聞いて彼は少し興奮気味になった。
「あれは被験体が悪かったのだ! 見ての通りその後の実験は成功している! それなのに学会の連中はワシを無視しおって……まあいい。しかし、それが新しい段階に入るのだ。今度は人間と動物を掛け合わせる」
やはりこいつがジェルマンか。
しかし……。
「人間とだって!?」
まさか、それでピーターを実験に使うために
「そうだ。たとえば、人間とゴリラを掛け合わせれば、すごい生き物が生まれることだろう。考えてもみろ、人間の頭脳にゴリラのパワーだ。そして今日、やっと人間と動物の両方が揃ったから、これから偉大な実験をするところだ」
「狂ってる」
「その言葉はさんざん聞かされたよ。でも、最後にはワシが正しいことが分かるに違いない。お前たちもあとで実験に使ってやるが、まずはそこで見ているがいい」
奥には、檻に入った怪物にされる前の普通の動物も数匹いるようだ。
そして、先ほどガーゴイルが公園に来て俺たちを襲おうとしたのは、新しい被験体を探しに来たわけだ。
そんなにいつでも好きな時に人間を
さて、どうするか。
「ねえ、私が話すから、その間に対策を考えて?」
ユリーが小声で俺に言ってきた。
「わかった」
「何をごちゃごちゃ話している?」
ジェルマンが聞いてきた。
「ねえ、あなたはどうしてここにいるの? ここはバロア男爵邸でしょ?」
ユリーが聞いた。
「そうだな」
「実験に使われるのはわかったわ。でも、その前に色々教えてくれてもいいでしょ?」
「よろしい。話してやろう……」
ジェルマンがユリーの話に乗ってきたのはおそらくだが、人間には承認欲求があるからだろう。
それは、世間からつまはじきにされている者ほど欲求が高まっていて、誰かに自分の研究の成果を聞いてもらいたくなったり、注目してもらいたくなるものだ。
ジェルマンが話し始めた。
「……ワシがバロアと知り合ったのはずいぶん昔のことだ。やつがまだ子供の頃、バロアは車に引かれた飼い犬を私の動物病院につれてきた」
「バロアが?」
話が意外だったので、俺が思わず小声をもらした。
「そういえば、バロアはそういうところがあったわね」
と、ユリー。
そうなのか。
でも、話はユリーに任せて、俺はこの檻を出る方法を考えないとな。
魔法は遮断される……か。
その間にも彼が続ける。
「もうその犬は助からなかった。そこでワシは提案したんだ。他の年老いてもうすぐ死にそうな犬の体に、その犬の頭を魔法技術で付け替えることができる。それしか助ける方法はないと。すると、バロアはそれでもいいと言った。ワシはその願いを聞き入れ、魔法手術を行った。それがバロアとの出会いだったな。それ以来バロアはワシの研究を援助している」
「そういえば、バロアは獣医師の免許を持っているとか言っていたわ。あなたの影響だったのね?」
俺はその間も抜け出す方法を考えていた。
待てよ、魔法は遮断されても、オーブの力は遮断できないんじゃないのか?
あれは異質の力みたいだからな。試してみよう。
俺は彼に気づかれないように、紫のオーブの力で檻をほんの
できた。
やはりオーブの力は使えるな。
あとは、タイミングをはかって……。
ジェルマンは話に夢中で、今のに気がついていない。
「そして最近、バロアはヘマをしたらしく、男爵に降格されたらしいな。それで、うつ状態になって、ワシの元を訪れた。ワシは相談にのってやり、こう提案したんだ。ワシのこの技術を使って再び伯爵に戻してやろうと」
「どうやって?」
ユリーがそう聞いた所で奥のドアが開いて、そこに身なりのいい若い男性が入ってきた。
繊細な感じで、弱々しい印象を受ける。髪は金髪で肩の辺りまでのばしていた。
もしかして、彼がバロア男爵か?
「ジェルマン先生?」
その男性が声を掛けた。
「バロア男爵。どうしたのだ?」
やっぱりそうか。
「何か大きな音がしましたが、大丈夫でしたか?」
おそらく俺たちを捕まえる為に、檻が天井から床まで落とされた時に出た音だろう。
金属の重そうな檻だから、上の階まで音や振動が響いたに違いない。
出口のところにあるので、おそらく本来の目的は怪物が勝手に外に出ようとした時のために備えていた物かもしれないが。
「実は、ネズミが入ってきたので、檻に入れたとこだ」
ジェルマンがそう言って俺たちを指した。
「ネズミですか?」
バロア男爵が俺たちの方を見る。
まず俺の顔を見て、次にユリーの顔を見ると、バロア男爵の目が大きく見開かれた。
「ユ、ユリアナ様!?」
「バロア、ここから出すようにその者に言いなさい」
ユリーはもう自分の素性がバレたので、命令をしたわけだ。
「は、はい」
「どうした?」
ジェルマンがバロアに聞いた。
「あ、あの、この女性は公爵家のユリアナ様です」
「ほう?」
「早く出さないと」
「いいではないか」
「え?」
「ここを見られたからには、生きて帰すことはできない。彼女にも実験材料になってもらう」
「し、しかし……」
「何を怖気づいておる。復讐するいい機会ではないか。あの女のせいでお前は降格されて謹慎になったのだ。今日はライオンの他にヘビも入った。その女、人間の上半身にヘビの下半身なんて最高じゃないか」
ジェルマンは復讐と言ったが、もとはと言えばバロアがユリーの誘拐に関与したからじゃないか。
ユリーを見ると、恐れよりも怒りの方が強いみたいだ。
手に拳を作り、目はジェルマンたちを睨みつけている。
「で、でも……」
ジェルマンはそんなバロアを放っておき、俺たちに向き直る。
「話の途中だったな。ちょうどいい。どうやってバロアを伯爵に戻すか。それは、人間と強い動物や魔物をかけ合わせて、最強の軍隊を作るのだ」
「軍隊ですか?」
意外なことにバロアが反応した。
「そうだ」
「先生は、戦場で手足を失った兵士に、新たな人生を与えるために魔法実験をしていると……」
「もちろんそれもある。しかし、それでは数は足りない。人間を攫ってきて動物と掛け合わせ、それを洗脳して世界最強の軍隊を作り上げるのだ。さあバロアよ、一緒に世界を征服しようではないか」
「そ、それは。そんな大それた事は私には……」
おや? 先程からの話を聞いていると、バロアは気は弱いが悪いやつじゃないのかもしれないな。
ただ、人に
だから王様も、処分を降格と謹慎で済ませたのか?
しかし、センテカルドの次はジェルマンと、次々とまあ。
「お前は度胸が足りないな。それではワシが軍隊を率いてまずこの国を支配下に置き、王になる。そうしたらワシがお前を伯爵に戻してやろう」
なんだ。結局それが目的か。自分がこの国を支配したいわけだ。
でも、俺のボタンに仕込まれている録画の魔導具で、今の会話は記録させてもらった。
そろそろ、行動に出てもいいか。
「しかし先生、それは……」
俺はジェルマンとバロア男爵が話しているこの合間を利用して、俺たちを閉じ込めている檻を紫のオーブの力で静かに持ち上げた。
そして脇に降ろす。
「結局、征服欲か? それとも世界に復讐したいということか?」
俺が聞いた。
「ん? なんだと!? どうやった!?」
檻から出ている俺たちを見たジェルマンが驚いている。
「さあ、これで話は振り出しにもどったな。降伏しろ」
俺はそう言って魔導ガンをジェルマンに向けた。
俺たちは傭兵ではないから、できるだけ相手を殺さずに降伏させたい。
しかし彼は、そんな俺たちの考えを見透かしたように、ニヤリとした。
「おまえたち。あの二人をやってしまえ!」
ジェルマンは自分が作り出した怪物たちに命令した。
三匹の怪物が俺たちめがけて襲ってくる。
俺は自分の方に向かってきたトロルのような怪物に魔導ガンを発射したが、あまり効果がないようだ。
効かないのか?
少なくとも、今日俺たちが持ってきている小型の魔導ガンではダメなようだ。
トロルの様な背丈が二・五メテル程の筋肉質の怪物が、俺に巨大なハンマーを振りかぶってくる。
俺はさっと横に飛び退くが、そのハンマーは床を叩きつけて、床の木材が割れ、さらにハンマーは深くめり込む。
俺はその間に、そのトロルの後ろに回り込もうとする。
そこを今度は、トロルがハンマーを横薙ぎに振るってくる。
何か弱点とか無いのか?
他の二匹はユリーに向かったようだが、そのユリーは怪物が怖くて目をつぶって撃っているようだ。
俺の方にも魔弾が飛んできた。
おっと!
まあでも俺たちは、予めオート・シールドを起動しているから、当たっても大丈夫だ。
そういえば、このオート・シールドはあのトロルのハンマーにも耐えるんだろうか。
でも、今ここで試す気にはなれないな。
俺はトロルの攻撃を避けるためにさらに横に飛び退く。
あれ? そういえば、俺ってこんなに飛べたっけ?
もしかしたら、これもどれかのオーブの力なのか?
でもこれじゃあ、らちがあかないな。
俺は何回かトロルのハンマーを避けているうちに、ユリーを襲おうとしていたキメラの横に来ていた。
トロルは仲間のキメラに当たるといけないからか、ハンマーでの攻撃はしてこない。
ところが今度は、キメラが横に来た俺に攻撃をしてくる。ライオンの頭で噛み付いてこようとするが、オート・シールドが起動して歯が通らない。
今度は尻尾の蛇が毒を俺に掛けようとしてくるが、これもシールドで阻まれた。
一方ユリーはメチャクチャに撃っているので、弾がバロア男爵をかすって、バロア男爵は泣きそうな顔になって地面に伏せた。
もう一発がジェルマンのいる上の天井に弾が当たって、木製の天井の一部が割れて木片がジェルマンの頭の上に落ちてくる。
「この! めちゃくちゃに撃ちおって」
ジェルマンは手で頭をかばいながらそう言って、部屋の奥の方へ逃げていく。
俺は今度はガーゴイルを狙うが、学習したのかそう何度も当たってはくれないようだ。
俺が魔導ガンを向けると、サッと避ける。
次に俺はトロルの攻撃を避けながら、ユリーに迫っているキメラを撃った。
ところが、魔弾はキメラに当たるが、火属性に耐性があるのかもしれない、これも大して傷を与えられなかった。
こいつもか。
俺は攻撃を諦めて、ユリーの横に戻った。そしてすぐに、ユリーを含めて大きめにシールドを張る。
シールドは内側からの攻撃は通すので、ユリーが撃ち続けている魔弾は部屋のあちらこちらを傷つけていった。
「ユリー、大丈夫か?」
俺が話しかけるとユリーは少しは冷静になったようだ。
やっと、撃つのをやめた。
「あっ、ショウ?」
「今、大きくシールドを張ったから。怪物たちはこれ以上近づけないから安心して」
「そうだったわね。始めからそうすればよかったわ」
「でも、こいつらには小型の魔導ガンでは効かないみたいだ。唯一効くのは、ガーゴイルの翼の薄い部分ぐらいだが、ガーゴイルも避けるようになったし」
「どうしよう」
「おそらく、俺の土魔法でもダメだろうな」
「あっ。それなら私がやってみる」
「え?」
「私は雷魔法が使えるのよ」
「そうか。雷なら他の魔法と違って、ほとんどの生物に効きそうだな」
ユリーが魔法を唱える。
「雷よ、我が意に従い周りの敵を打て。サンダー・レイン」
雷の範囲魔法だ。
すると、ユリーの頭上から五メテル程の範囲に複数の雷が落ちて怪物たちが感電して倒れていく。
怪物と言えども、生き物である以上感電には耐性がなかったようで、死んではいないが
元々術者本人の周りには雷は落ちない様になっているようだが、それがなくても俺たちはシールドに守られていて、もちろん被害はない。
「ユリーすごいぞ」
「ピーターもいるから狭い範囲にしたけど、うまく出来たわね」
「ちょうどいい範囲だった。よくやったな」
「えへ」
ところがその間に、ジェルマンは奥で何かの準備をしていたようだ。
俺たちに言ってきた。
「これを見ろ!」
ん?
俺とユリーは、そちらを見る。
どうやら、奥の広い床の上に魔法陣が二つあって、片方の魔法陣の上には檻に入ったライオン。もう片方の魔法陣の上には手足を縄で縛られたピーターが寝かされていた。
そして、ジェルマンは何かのレバーに手を掛けている。
「何をする気だ!?」
俺が聞いた。
「ワシのかわいい子どもたちをよくも」
「お前がけしかけたんだろ?」
「うるさい。二人共抵抗をやめろ。どうやら、お前らはこの少年を探しに来たようだな。ワシがこのレバーを下ろせばどうなるか。この少年はライオンと融合し、お前らの言う怪物になる」
今、ピータのことを言ったのを聞かれたか。
しかし、ライオンと人間って……。
たしか伝説で、顔が人間で体がライオンの怪物がいたな。
「伝説のマンティコアか」
「そういうことだ」
ピーターはそれを聞いて泣き叫んでいるようだが、猿ぐつわをされているので声にはなっていない。
頭を必死に振って嫌がっている。
バロア男爵はというと、壁際でしゃがんで震えていた。
俺たちの話もよく聞こえていないようだ。
どうやるか。
まずは相手の要求を受けたふりをして油断させ、紫のオーブの力を使うか。
俺とユリーは顔を見合わせると、一旦床に銃を置く。
ジェルマンはそれを見て油断したようだ、俺はその間に腕輪の付いている左手を少しあげて集中する。
本来は左手を上げる必要もないのだが、この方がイメージがしやすいのだ。
俺はオーブの力でピーターの体を浮かせ、魔法陣の上から彼を俺たちの方へ空中を移動させた。
ジェルマンはあっけに取られている。
「な、何が起きた?」
俺はピーターを俺たちのそばに降ろすと、今度はジェルマンの体を持ち上げた。
「おっ、なっ、なんだこれは!?」
ジェルマンは空中で暴れるが、俺はそのままピーターが先程まで寝かされていた魔法陣の上に彼をおろした。
俺はジェルマンを魔法陣の上に降ろしたが、別に彼を怪物にしようというわけではない。
でも少しは、怪物にされそうになったピーターの恐怖を味合わせることができるだろう。
そして紫のオーブの力を使えば、重力を増やすことによって彼をその場に押し留めておくことが出来るはずだ。
俺はシールドを一旦解除してオート・シールドに戻し、ジェルマンをオーブの力でその場に押さえつけたまま、歩いて彼に近づいていく。
「どうだ? 俺がレバーを操作してやろうか?」
俺はちょっと脅してみた。
「や、やめてくれ!」
「怪物にされそうになった彼の気持ちが分かっただろう?」
俺がジェルマンと会話しているうちに、ユリーはピーターの縄を解いている。
ユリーは念の為に彼を自分のシールドの中に入れてから、縄をほどいているようだ。
すると、いつの間にか怪物たちが麻痺から目覚めていたようだ。
ところが怪物たちは俺たちに襲いかからないで、俺とジェルマンのやりとりをじっと見ていた。
すると、トロルがゆっくりとこちら歩いてくる。
ジェルマンがそれを見て、トロルに言った。
「お前らが簡単にやられるとは思っていなかったぞ。さあ、今度こそこいつをやってしまえ!」
俺はオート・シールドを張っているので、そのままジェルマンをオーブの力で押さえつけながら、トロルの出方をうかがった。
ところがトロルの目は、ジェルマンをじっと見ている。
そして彼の命令を無視して俺の横を通り抜けて、さらにジェルマンの方へ歩いていった。
手に持っていたハンマーも、途中で床の上に落としてしまう。
どうする気だ?
すると、トロルは先程のジェルマンが触っていたレバーを下げた。
え?
「な、何をする! やめろー!」
ジェルマンが叫んだ。
すると魔法陣が起動して、その数秒後ジェルマンの姿が消える。
先程までライオンがいた檻を見れば、その中ではマンティコアが誕生していた。
顔はジェルマン。体はライオンだ。その体の大きさは、ライオンとジェルマンを足した分だけ大きくなったようだ。
ユリーとピーターが俺の横に来た。
「これって、どういうこと?」
ユリーが俺に聞いた。
「もしかしたらだが、この怪物、いや彼らはジェルマンの事を恨んでいたのかもしれないな」
すると、トロルは俺の言葉にうなずいた。
「そういうことなの?」
「どうやら、人間の言葉を理解できるぐらいには知能も上がっているみたいだ。元は何の動物だったかはわからないが、平和に暮らしていたのを捕まえられて、実験で怪物にされたんだろう」
「かわいそう」
するとそこに、奥のドアが開いてリスル少佐と部下の兵士が十五人ほど入ってきた。
「お嬢様、ご無事でしたか!?」
「あっ。リスル」
その後ろからは、エレナ博士とイーサンも入ってきた。
ということは、男爵邸では警察は手出しできないからエレナ博士がリスル少佐を呼んだのだろう。
それにしても少佐たちは早く到着しすぎなので、もしかしたらたまたまこのプリア・シティの近くに来ていたのかもしれない。
あるいは、エレナ博士がこうなることを見越して、リスル少佐たちを呼んでいたのか。
するとリスル少佐と部下は、部屋にいた怪物を見て魔導ガンやライフルを向ける。
「リスル待って。彼らも被害者なのよ。ジェルマンに実験台にされて」
ユリーが言った。
「そうなのですか?」
「みんな、襲わないでね」
今度はユリーが、怪物たちに言った。
すると怪物たちは、抵抗しないという意思表示なのか、その場に座り込んだ。
「それで、ジェルマンは?」
エレナ博士が聞いてきた。
俺が指をさす。
「あの檻の中だ」
エレナ博士やリスル少佐たちが檻の中の怪物を見て驚きの声を上げた。
「これは……」「なんと」「マンティコアか」
俺たちは、ここで何があったのかを話すことにした。
ピーターの捜索依頼でここに来たことはエレナ博士が説明しているだろうから、その後のことだ。
「俺たちがガーゴイルを追ってここに入ると……」
俺がリスル少佐に説明している間、エレナ博士とイーサンは部屋の中を見て回っている。
魔法陣を写真に撮ったり、入口付近の檻を見たり。そして、先程トロルがハンマーで開けた床の穴を見ると、何か興味を示すものがあったのか、今度はそこを調べ始めたようだ。
俺はそのまま説明を続ける。
そして説明が終わると、俺の服のボタンの魔導録画装置をリスル少佐に渡した。
「それで、今の一部始終はこの中に記録されているから」
「この中に?」
「エレナ博士特製の録画の魔導具だ。市販のものよりかなり小さいけど、ちゃんと録画されているから」
「流石だな。それでは、もうかなり遅い時間だ。あとの事は私の方で引き受けよう。ピーター君も私たちがご両親の元へ送り届けておく。お嬢様や君たちはアーム・シティに戻って休んでくれ」
「ありがとう、リスル」
と、ユリー。
「いえ」
俺たちはリスル少佐の言葉に甘えてあとを任せ、プリア・シティの空港に車で戻るとフロンダーの船室で少し仮眠をしてからアーム・シティに戻ってきた。
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