第6話 腕輪の検証

 次の日。俺とエレナ博士、イーサンの三人はアデル教授を訪ねて、首都の南地区にある王立アーム大学へやってきた。

 大学の門で守衛にアデル教授に会う約束があることを伝え、そこでもらった簡単な案内図を見ながら広い大学の敷地内を車で進む。


 アーム大学の敷地は広く、端から端までの距離は二ケメテルほど。

 今向かっているアデル教授の研究室がある研究棟は敷地の中ほどに在り、正門から約一ケメテルほど進んだ所にあるらしい。


 助手席に座っているイーサンが、もらった地図を見てナビゲーションをしてくれる。

「そこを左に曲がってください……正面に見えるあの建物が研究棟のようです」


 目的の研究棟は、レンガ造りのしゃれた建物だった。


 俺はその建物の前に車を停める。

「ここでいいのか?」


「はい」

 

 車から降りると、俺たちは入口にあった部屋の案内図を見ながら、その建物の中をアデル教授の研究室へと向かった。

 

 コンコン。

 

 研究室のドアをノックするとすぐに扉が開き、アデル教授が中に招き入れてくれる。

「待ってたわ。どうぞー」 


 アデル教授は、昨日は大層しょげているようだったが、今日は見た感じでは元に戻っているようだ。


 入口を入って見回すと、アデル教授の研究室はけっこう大きな部屋だった。

 ところが、その部屋の大部分は本棚と遺物を収める収納棚で埋め尽くされている。

 部屋の入り口付近には小さめの応接セットがあり、その隣には事務机が四つほど固めて置いてある。その机の上には何も置いていないので、作業台を兼ねているのかもしれない。


 俺たちは勧められて応接ソファに座ると、アデル教授が俺とエレナ博士にお茶を出してくれた。


 最後にアデル教授が、自分のお茶を持ってきて対面のソファに座る。

「それじゃあ、詳しい話を聞かせてくれない?」


「転移した先は洞窟で、その先に扉があったんだが……」


 俺はまず、スフィンクスの門番とのやり取りを話した。 

 

「スフィンクスの門番か。あいつなら考えそうだわ」

と、エレナ博士。


 あいつとは、もちろん俺の親父≪おやじ≫のことだ。


「そうなのか?」

「四階のあいつの部屋に入ると、スフィンクスの資料や置物がたくさんあるのを見たことない?」


 親父の部屋は、いつか帰ってくるかもしれないからと思って、そのままになっている。


 そういえば、最近は親父の部屋に入ったことはなかったな。

 でも、スフィンクスの門番は親父の趣味ということか。

 まったく。


「でも趣味にしては、やりすぎだ。もうちょっとで死ぬところだったんだ。昔読み聞かされたなぞなぞを思い出さなかったら、本当にやばかった」

「ということは、ショウ以外の誰かがあの洞窟にやってくる可能性があったのかしらね」 

「あの転移の部屋は俺しか開けられなかったのに?」

「なぞなぞも、オリジナルだったことを考えるとね」

「あのなぞなぞはオリジナルなのか? 昔親父に本を読み聞かせられたから、本に書いてあったんだと思うけどな」

「ショウも聞いたことが有るでしょ? 朝は一本足、昼は二本足、夜は三本足、これはなんだ、というなぞなぞ」

「ああ」 

「あれが一般に知られているなぞなぞだから。将来何かあったときのために、自分とショウにしかわからない合言葉のようなものとして、話を変えていたのかも」

「ふーん?」


「それを今回使ったのは、もしかしたらだけど未来視というのはそんなにはっきり見えるわけではないのかもしれないわ。たぶん、あの誘拐犯たちも見えたから、念のために仕掛けを作ったのかもしれないけどね」


 あーそうか。

 昨日は誘拐犯に監禁されてそこにいたユリアナを救い出し、軍を呼んで最後に遺跡の調査をするという目まぐるしい一日だった。

 未来視というものが未来の情景を時間の流れに関係なく部分的に切り取られたように見えるものだとしたら、俺たちが転移の部屋を開けたらあの誘拐犯たちがやってきて、俺たちが捕まったように解釈できるかもしれない。

 だから、念のために俺にしか解けないなぞなぞでスフィンクスの仕掛けを作った可能性もある。


「なるほど」

「それで、その後はどうなったの?」

「ああ。それで、扉が開いたので俺はその中に入ると部屋の中央付近に台座があって、その台座に近づくと幻影が現れたんだ……」


 俺は親父のメッセージの内容を詳しく話していく。


「その光というのは、おそらく時空の裂け目ってやつなんだろうが、それに吸い込まれて二千年前のレムルの浮遊大陸に飛ばされたなんて……」


「待って、その時空の裂け目ってまだあるのかしら!」

アデル教授が身を乗り出して聞いてきた。


「あるかもしれないけど、まさかそれで二千年前に行きたいなんて言うんじゃないだろうな」

俺が言った。


「レムル文明をこの目で見てみたいわ」


「でも、時空の裂け目なんて不安定だろうから、二千年前のレムルの浮遊大陸に飛ばされるとは限らないわ。ユウタは単に運が良かっただけの可能性もある。それに、もし行けたとしても戻ってこれないわよ」

と、エレナ博士。


「うーん」

アデル教授は再びソファにもたれかかる。


「それで、私に来いって?」

エレナ博士が話を戻して、俺に聞いてきた。


「そうなんだ。期限とかは言ってなかったから、何かのついででもいいかもしれないけど」 

「それならまあ、そのうち行くか」 

「いいのか? 何かいい物でも残してあるかもしれないぞ」

「どうせ大した物じゃないだろう。まったく、ローンだけ残して一人で二千年前に行くなんて。どうせなら、お金を残してほしいわ」


 アデル教授が反応する。

「もしお金だったら、私の研究室への寄付はいつでも受け付けているからね」


 アデル教授も研究費が削られて、大変だとか言ってたからな。


「あいつのことだから、お金じゃないことは確かだわ」


「エレナ博士がいいって言うなら、行くのはそのうちでいいか」

と、俺。


「それより、その腕輪だけど、何か言ってなかったの?」

アデル教授が俺に聞いた。


「この腕輪やオーブの説明は無かったよ。外し方も言ってなかった」

 

「あいつは、そういうところがアバウトなのよね」

エレナ博士が言った。


「それは同感だ」

と、俺。


「そうなのね。それじゃあ、せめてあの転移魔法を学会に発表したいわ。魔法陣だったのよね?」

アデル教授が聞いてきた。


 古代レムル文明の遺跡から出土した魔導具などが、古代世界でどう使われていたかなどを探るところまでが考古学の分野でアデル教授の仕事だ。

 新しい魔導具や、新しい魔法陣の発見も考古学者の功績になる。 


 それと少しは重なる部分があるが、見つかった魔導具や魔法陣の仕組みを解析して応用するのが魔導工学の分野になる。

 それはエレナ博士の専門分野だ。


「あれか……光が強くて魔法陣の文字や図形はよくわからなかったな」


「そのヒューマノイド。あの部屋であったことはすべて記憶してるわよね?」

アデル教授がイーサンを指さし、それが当然のように尋ねた。


 アデル教授は、あいかわらずイーサンを名前で呼ばないな。


「私の名前は、イーサンです」

「じゃあ教えて頂戴」

「『我が子孫は手を触れて、先に進め』という文字のことですか?」

「違うわよ。このポンコツ!」


 イーサンが肩を落とす。

「ポンコツとは、ひどい」


 俺はそれを聞いて、思わずニヤッとした。

「ポンコツがポンコツと言われて、何を落ち込んでいるんだ?」


「私がポンコツなら、社長は天然……」


「まあ、まあ」

エレナ博士が間に入った。


「だから、ショウがどこかに飛ばされたのは、転移魔法陣かなにかが起動したんでしょ? その魔法陣の図柄のことよ」

アデル教授がイーサンに催促した。


「魔法陣ですか?」


 俺もイーサンに確かめる。

「奥の部屋に入ったら、足元が光って俺が飛ばされただろ?」


「それは記憶しています」


「俺たちには光が強くてよく魔法陣の詳細は見えなかったが、お前なら光を調節して見えたんじゃないか?」

「こう言ってはなんですが、あの光は魔法陣ではないと思います」

「そうなのか?」


 俺たちは顔を見合わせた。


「少なくとも、図柄はありませんでした」


「ということは、なにかの魔導具による転移?」

エレナ博士がそう言って、少し考える。


「それじゃあ、何かの魔導具があの部屋に仕込まれていたの?」

アデル教授が聞いた。


「かもしれないわ」

「あの部屋を掘り起こして調べてみようかしら……」


「でも、遺跡を破壊したり傷つけるのは、法律で禁止されているんだろ?」

と、俺。


「うっ。そうなんだけど……あきらめるしかないか……」

アデル教授がそう言って、今度は俺の腕にはまっているオーブを覗き込んだ。

「しょうがないわ。それじゃあ次。今日はその腕輪を詳しく調べてみましょ。その腕輪に付いているのが本物のオーブだとすれば、まだ発見されていないオーブの色も入っているわ。まずは、現在わかっているオーブの色と、その機能が一致するか実験してみましょ?」


 オーブは発見されている数が少ないので、発掘されて一度売られた物は市場に出てくる事はほとんど無い。

 だから、アデル教授も見ただけでは鑑定できないので、これから実際に機能を試してみるわけだ。



 俺たちはアデル教授に案内されて、大学の敷地の片隅(かたすみ)にやってきた。


 そこには土がむき出しの丘のようなものがあり、裾(すそ)の部分には頑丈そうな扉がある。

 アデル教授がその扉を開けて、俺たちは皆で中に入った。

 扉の向こうはトンネルになっていて、突き当りにもう一つの扉がある。さらに、その扉を開けると再び外に出た。

 そこは直径百メテルぐらいのカルデラのような地形になっていて、その中央には頑丈そうな低い建物が立っている。


「ここは、危険な実験や爆発物などを試すための施設よ」

アデル教授が説明した。


 つまり、この丘に見えていたものは、土でできた円状の土手だったわけだ。

 むき出しの土でできているのは、その方が衝撃を吸収してくれるからだろう。

 その中で爆発が起きても、他の校舎に被害が出ないようにしているわけだ。


「ちょっと、大げさじゃないか?」

俺が聞いた。


「以前に院生が爆発事故を起こして以来、被害が出る可能性がある実験は、この中で行う決まりができたらしいわ」

「ちょっと待て。ということは、これから行うのは危険なことなのか?」

「大丈夫よ。念のためだから」


 本当に大丈夫なんだろうな? 何かあったら、まっさきに被害を受けるのは俺だ。


 中央の建物の頑丈な扉を開けて中に入ると、その奥には大きめな窓がついている実験室があり、その手前に制御盤や計測器などが並んでいる。


「じゃああなた、ここに一人で入って」

アデル教授が、俺にその実験室に入るように促した。


 扉は二重になっていて、壁も分厚そうだ。

 戸口に立って実験室の中を見回すと、中央に頑丈そうな金属の台が置いてある。

 あと俺が気がついたのは、壁に何箇所か小さい穴が開いていることぐらい。それ以外は特に何もない殺風景な部屋だった。


 俺が部屋の中に入ると、後ろで扉を閉ざす音がした。

 その直後にこの部屋の気圧が少し下がったようで、耳に違和感を覚える。

 窓の向こう側を見ると、皆が実験動物を見るかのように俺を見ていた。


 なんか、いやな感じだ。


 すると部屋の角にある拡声魔導具から、教授の声が流れてくる。

「ではまず銀のオーブの機能から。腕輪に触って少し魔力を流し、心の中で自分の周りにドーム状の壁ができるのを想像してみて。そして、口に出して『シールド』と言ったほうが確実に起動するはず」


「シールド」

俺がその通りにすると、昨日ユリアナがシールドを張ったときのような感覚を覚えた。


「どう?」


 アデル教授が聞いてきたので、俺は首を縦に振った。


「うまく張れたみたいだ」


「本当は、オーブには触れなくてもいいけど、触れたほうが頭の切り替えができて起動しやすくなるのよ。口に出すのも同じ理由ね」


 アデル教授はそう言うと、手元のコンソールで何かを操作した。

 するといきなり、壁から炎が吹き出した。

 先程の壁に空いていた穴は、壁に埋め込まれた火炎放射器の穴だったわけだ。


「わっ! おい! こら! いきなりは危ないだろ!」


「でも大丈夫だったでしょ? やはり、銀のオーブの力もあったわね」

アデル教授の目が据≪す≫わっている。


 まったく。

 まあでも、確かに何でもない。シールドのおかげで熱さも感じなかった。


「でも、なんでこんな火炎放射器なんかついてるんだ?」


「細菌などが漏れた時の焼却用じゃない?」

エレナ博士が言った。


「ああ、そういうことか」

 

「社長はゴミだと思ったら、ばい菌だったわけですね?」

イーサンが言ってきた。


「おまえな。さっきポンコツと言ったのを、まだ根に持っているのか?」 

「私はヒューマノイドです。根に持つなんてありえません。からかっているだけです」


 くっ。


 アデル教授が俺たちの会話を無視して進める。

「じゃあ次は、紫のオーブの力よ」


 紫のオーブの力、つまり重力を操る力をテストするわけだ。


 すでに見つかっている紫のオーブは飛空艇などに組み込まれていて、魔力を流し込めば物を浮かすことができる。

 おそらく、この力を人で試すのは俺が初めてのはずだ。


 いや、どこにでも物好きな人はいるから、試した人はいるかもしれないな。


「この紫のオーブの力を人間が発動した場合、どういう状況になるかしら?」

アデル教授が、魔導工学博士であり物理学博士でもあるエレナ博士に意見を求めた。


「腕輪に加工してあることを考えると、他のオーブと同じように所持者の意志で浮かせる範囲をコントロールできるんだと思うわ。つまり正しくイメージすれば、自分の体全体を浮かせたりできそうね」


 飛空艇で使っているオーブの動作から想像するに、単に魔力を流すだけではオーブが直接触れている腕輪だけが浮いて腕が持ち上がり、俺は腕輪にぶら下がるような形になるはずだ。

 それを避けて体全体が浮くようにするには、銀のオーブのシールドの範囲を指定するときと同じように、体全体をイメージをして発動すればいいということだろう。


「いいですねー、タコが凧ですか?」

イーサンが、わけのわからないことを言った。


「誰がタコだ?」

俺は窓の向こうのイーサンをにらむ。


 アデル教授が再び俺たちの会話を無視して進める。

「それじゃあ魔力を流して、自分の体が浮くイメージとともに『浮け』と思ったり『フライ』とか言ってみて」


 本当に、腕輪だけ浮き上がったりしないのか?

 まあ、やってみるしかないか。


「フライ」


 おっ! 体が浮きあがった。でも変な感覚でバランスが取りにくい。

 重力を調整しているらしいから、それもそうか。慣れるには時間がかかりそうだ。


「じゃあ魔力を遮断して、一旦降りて」

と、アデル教授。


 俺は意識的に腕輪の紫のオーブに送っていた魔力を止めてみる。

 すると、体に重力が戻って、床にストンと落ちた。


 おっと。


 俺は無重力状態で空中で体が斜めに浮いていたので、急いで体をひねって両足で着地した。


 うまく着地できたぞ。

 でも、誰も褒めてくれないか。


「でも浮くだけじゃ飛空艇があれば事足りるわ。……そこの台を念じて持ち上げることはできる?」

エレナ博士が聞いてきた。


 おっ。その発想は無かったな。


 今までは紫のオーブの力はオーブとそれに直接触れているもの浮かす、という発想しか無かった。


 俺はその台に向けてオーブがはまっている方の左手を伸ばし、「浮け」と念じてみる。

 するとその台が、ふわりと浮いた。

 おっ! 


「できたぞ。自分以外にも使えるんだな」


 俺がちょっと感動していると、エレナ博士がさらに指示してくる。


「今度は、その台を浮かせたまま横に移動することはできる?」

「やってみる」


 俺はその台を浮かせたまま、右へ左へと動かした。


「もう、クレーンをレンタルしなくて済むじゃない?」

エレナ博士がそう言って、ニヤリとした。


「まさか今後、俺をクレーン代わりにこき使おうと思っているんじゃないだろうな?」

「クレーン車を借りるの、結構お金が掛かるのよ」


 くっ。やっぱりそうか。


「遺跡の巨石はこの力で積んだのかしらね? ……だいたいOKよ、出てきていいわ」

今度はアデル教授。


 すでに発見されている黄のオーブの検証も残っているが、これは相手が必要だし、銀と紫が他のオーブと同じ力であった以上、黄色も同じだと推測できるから省略するのだろう。


 俺は台を元に戻し、部屋を出て皆の所に戻る。


「これで正真正銘オーブだと分かったわ。あとは、まだ発見されていない色は何の機能があるのかしら」

アデル教授がそう言って、俺のオーブをのぞき込んだ。


「今の机を左右に移動させた力は、紫の力だけじゃ説明がつかないわ。残りのどれかがその力なのかもしれないわね」

と、エレナ博士。


 この腕輪には、金、銀、白、紫、赤、青、黄の七色のオーブが混ざっている。

 今まで遺跡から発見されているのは、このうちの銀のシールド、紫の重力、黄色の精神干渉の三つだ。


「もっと研究したいけど、あなたしか使えないんじゃ……」

と、アデル教授が俺をジト目で見てくる。

「……まあいいわ。今日のところはこれぐらいにしておきましょう」


 俺たちは実験室を出て、アデル教授の研究室に戻りはじめる。

 

「そういえば、このオーブだけど、どれぐらいの範囲に影響をおよぼせるんだ?」

歩きながら、俺がアデル教授に聞いた。


「そうね。過去の実験では、銀のオーブなら最大で直径百メテルぐらいまでの範囲を安定して包むことができるのが確認されているわ」 

「結構大きいんだな」

 

「百メテルというと、中型飛空艇の大きさだから、私たちのフロンダーを丸ごと包むことができるわね」

と、エレナ博士。

 

「ということは、紫のオーブも同様に、フロンダー程度の物が持ち上げられると?」


「おそらく、そういうことね」

アデル教授が答えた。


 これは、レリック・ハンターの仕事で十分役立ちそうだ。


「それで、紫、銀、黄色以外の色のオーブについての手がかりは?」

「全然よ。他の色は、オーブがまだ出てきてない遺跡を調べてみるしかないかしらね」

「その時はまた協力するよ」

「ぜひね」


「でも遺跡からは、オーブはそれぞれ二十個ぐらいしか出てこないんだろ?」

「そう」

「もっと出てきても良さそうなのにな」


「やはり、残しすぎると社会に与える影響が大きすぎるからじゃないかしらね」

と、エレナ博士。


「残しすぎる? ああつまり、レムル人はわざわざ未来の人々のためにオーブや魔導具を少しずつ残してくれたということか?」

「ユウタの話では、レムル人たちは未来を視ることができたんでしょ? ということは、そう考えた方がいいんじゃないかと思うわ」

「なるほど」


「でも、その数が少ないから、途方もない値段になってしまうのよ」

アデル教授が言った。


「この腕輪に値段をつけるとすれば?」


「いくら値が着くかわからないわ。五年前にオークションに出品された銀のオーブは、五百億ギルの値段がついたから。昔はもっと高かったみたいだけどね。でもそう考えると、数千億ぐらい?」


「売ろう」

エレナ博士がぽつりと言った。


 俺はそれを無視して、アデル教授に聞く。

「値段が下がったのか?」


「前にどこかの魔導工学の学者が、いずれ近いうちにオーブの機能はすべて魔導機械装置により代替できるようになるだろう、なんてコメントしたものだから」


 しかし、エレナ博士がアデル教授の話を聞いて、ギクリとしたように見えた。

 俺がエレナ博士を見ると、彼女は目をそらす。

 

 まさか、それを言った本人なのか?

 まあでも、エレナ博士のことだから、本当に工夫してシールド装置とか作ってしまいそうだけどな。

 

「それで、マスターオーブというのはどういう意味だろう」

俺が聞いた。


「今はまだわからないわ。とにかく、これは貴重な物よ。レムル文明の技術を利用してあなたのお父様が作られたのかもしれないけど。使っているうちに何か気が付いたことがあったら、すぐに報告してよね」

「……わかった」

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