第5話

「どう?死期を目の当たりにした感想は」

 容赦がないな、と思う。他人の死を覗きにくるやつなんかに人の気持ちなんてわかるわけないか。

「最悪だよ。ままならないね」

「そう言う割には嬉しそうね」

 はっとした。自分では気づかなかった。そうか、ぼくはいま、ひとりじゃないんだ。

「確かにそうかも。会話なんてすごく久しぶりだ」

 言いながら、これまでの全てがたった数時間前に起きたことのように思えておかしな感覚に陥る。最後の会話は数万時間以上前のことだけれど、間違いなく今日の出来事なのだ。交わした会話も声も鮮明に覚えていた。魔女の宣告さえも耳にこびりついて離れない。

「じゃあ君にとってこの最期は、ある意味救いなのかもね」

 救い。それは——。

「……わからない。ぼくは救われたいんだろうか」

 救われていいのか。救いはあるのか。それ以前の問題だった。ぼくは、ぼくの目指すべき死がまだ見えていなかった。

 看取り屋の人の形を見て安心した。例えそれが死神だったとしても、人みたいな姿形にただ安心したんだ。そしてそれを責め立てる自分がいる。安らかに死のうとするなと。苦しんで死ぬべきだと。ぼくの安らぎを許さないぼくがいる。

「知らないよ。勝手に決めな。君はついでなんだから」

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スターリー・ナイト・メーカー 加賀 魅月 @making_your_night

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