第3話

 “星狩りの丘”はある日突然地図から消えた。誰の記憶からも消え、やがて名も無い暗がりになった。古くは魔女たちの集落があった場所らしい。少なくとも四千年以上前の戦争で焼け野原となり、以来草の根も張らないだだっ広い土地だけが残された。あるのは魔女が気まぐれに建てた時計の城だけで、それももう機能を失いつつある。男がいるのはそんな土地だ。

 それから、この土地についてもうひとつ。

 “星狩りの丘”は今から六十年ほど前の十月三十一日にある。百年に一度行われる魔女の儀式――“星流し”の日だ。その日を境に、丘に朝日は昇らず、永劫そこに留まり続けている。丘に未来はない。“星狩りの丘”は、いまや男のための牢獄だ。

 男は孤独を生きている。止まった時の中で、明日を迎えることすらできずに。明日への希望が死に、未来への期待が死んだ世界で。ただ、生きることのみを許された世界で。十一月一日の朝日を見ることはないと知りながら。それでも生きることが、自分への正しい罰なのだ。

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