第3話

それから日は過ぎていき、私は高校へ上がった。

県内でまぁまぁ有名な進学校


絶対部活に入らないといけないらしく、

中学では帰宅部だった私は初めて部活動見学というものを体験した。


最初は運動部、そのあと文化部の見学をした。

どの部活も新入生の部員をゲットするべく、とてもやさしく接してくれていた。


進学への有利さを考えるように両親には言われていたけれど、

私は軽音部に入部届を出した。


部員は2人。

部活というよりは愛好会に近かったけれど、

居心地がよさそうだった。




「ただいま。」

いつもと同じように挨拶をし

いつもと同じように部屋へ向かう


5畳の洋室は私にとって強固なシェルターのようなものだった。

何度怒鳴られても、侮辱されても、殴られても、蹴られても

私を守ってくれて鍵付きで私の大好きなものであふれている

この場所を気に入っていた。


私の部屋には、

高校入学の際にプログラミングの勉強をしたいからと言って自腹で買った

デスクトップパソコンのおいてある机と勉強用の机とシングルベットがある。

どちらもそこそこの大きさなので部屋のゆとりはないけれど

パソコンが買えたのはうれしかった。

夢に少しだけ手を伸ばしてもいいと思えるような気がしたから、

クソゲーみたいな人生を少しだけ忘れられるような気がしたから、

私は誰かから慰められたいわけでも同情されたいわけでもない。

ただ、この地獄みたいな状況から一刻も早く逃れることを願っているだけだ。

殴られたり蹴られたりするときは、

直接当たらないようにわざと手で1センチほど隙間を作ってかばう。

こんなこと知りたくもなかったけど、

こうすると手の痛みだけで済むような気がした。

こんなことばかり知って、大人になったとき何があってもある程度は生きていけるなと思った。

笑えて来た。



こんなことを考える自分が一番気色悪く感じた。



聞き慣れない音楽に起こされて目を覚ます。

音のなるほうへ目をやると

大きく「岸辺」と書かれていた。


「なに。」


「一言目それかよ(笑)今外出れる?」


「うん。」


シェルターを出て、階段を降り

ゆっくり玄関の扉を開ける。



「よっ。お前寝ぐせすごいな。」


「うるさいな。何の用?あんま時間ないんだけど。」


「これ。姉ちゃんから、飴に」


「ありがとう。何?」


「お菓子。作りすぎたんだって。食べてやって。」


「ありがとう。お菓子嫌いじゃない。」


「そっか。じゃあ帰るわ。」


「うん。」


岸辺の後ろ姿を見送りながら、家の中に入る。



{何のお菓子だろ?}

そんなことを考えつつ、またシェルターに戻る。


袋を開けると

小さな封筒とカップケーキが一つ入っていた。


封筒の中には手紙が入ってて

「お菓子言葉って知ってる?カップケーキのお菓子言葉調べてみて、」

と書かれていた。


すぐに調べてみた。

花言葉と同じようにどのお菓子にもお菓子言葉というものがあるようで

カップケーキのお菓子言葉は{あなたは特別な人}だった。


岸辺の双子の姉の千秋ちゃんは私のことをとても気にかけてくれた。

それが同情されているようで嫌だったときもあったけど、

今この瞬間だけは幸せな気持ちになれた。





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