第28話 水面下の闇


私「違和感‥?」

 


 黒萩は封筒から手紙を取り出す。

 


黒萩「普段なら、彼らは私の手紙に対して、一枚の用紙に全ての内容を書いて送ってくるのですが‥。


 ‥今回は二枚、手紙が入っていたんです。


 一枚目は、先ほど私がみなさまの前で発表した内容が書かれています。そして、奇妙なのは二枚目なんです。」



 黒萩は二枚目の手紙を私の前に広げた。

 相変わらず、大量の指印がベタベタと貼られている。そしてそこには、余白を大量に残し、かなり短い文が綴られている。

 いくら字が汚いとはいえ、私でもすぐに内容を解読できた。



 

 「かしこまりました。すぐに対処いたします。」



 内容はこれだけだった。


 私はどんどん顔が青ざめる。間違いなく、この二名目の手紙は、私が「妖怪衆」で宛てた手紙の返信だ。


 私の手紙には、星海が「妖怪衆」を見下しているという嘘の情報、そして、彼を抹殺してほしいという内容が書かれている。彼への嫉妬で感情的になったからとはいえ、今考えると、なんでこんなものを出したのか分からない。



 やはり、それは「妖怪衆」のもとへ届いていた。そして、彼らはわざわざそれを了解したと言う返信までよこしている。星海の身に危険が迫っていることを、私はこの時、強烈に認識した。




私「は‥はぁ‥‥。そうですか。でもそれは、たまたま一枚の紙に書ききれなかったから、二枚の手紙を用意したんじゃないですかね。」



 とにかく、知らないふりをする。


 すると、私たちの会話を横で聞いていた大内が、会話に入ってきた。



大内「彼らからの返信が二つある。と言うことは、こちらから「妖怪衆」へ二つの手紙を出したんじゃないですか?」



黒萩「いいえ。私は今回、一枚しか手紙を出しておりません。」



大内「あれ、変ですね。


 すると、誰かが、黒萩さんの手紙と一緒に、こっそり彼らへ手紙を出したとでも言うんですかね。」



 私は、大内のカンの鋭さに、汗が止まらなくなった。



黒萩「いや、あの石像が「妖怪衆」へ手紙を送る目印になっていることは、ごく一部の人間にしか知られていないはずです。もしそうなら、私の知っている人間が犯人ということになりますね‥。」


 黒萩はそう言って、まず私を見た。私は下を向いたまま、何も話すことができない。



大内「それにしても、『かしこまりました。すぐに対処します。』‥。


  一体彼らは、何を了解したんでしょうか‥。なんだか怖いですね。」



黒萩「うーーん。彼らに何か依頼するなんて、聞いたことがないですよ。そもそも簡単に要求を聞いてくれる感じじゃないでしょうからね。」



大内「でも、手紙を見る限り、彼らは了承しているみたいですよ。」



黒萩「もしかしたら、私以外にも「妖怪衆」へ手紙を出しているメッセンジャーがいて、その方への返信が混同しているのかもしれませんね。」



大内「それか、黒萩さんの封筒に、誰かが別の手紙を忍ばせたかですね‥。」



 私はその場にいられなくなって、毛利のいる喫煙所へ歩き出した。


私「失礼します。ちょっとタバコを‥。」


 明らかに不自然な態度の私を、二人はじっと見ていた。







 喫煙所は屋外に設置されており、組み立て式灰皿とベンチが二つあるだけの簡素な作りだった。そこには毛利しかおらず、遠くから彼女の背中がポツンと見えた。



私「毛利‥。」


 彼女はスンスンと泣いている。


私「大丈夫か‥?」




 毛利は顔を下に向けてまま、右手でグッドポーズを作った。




私「全然、「グッド」じゃないだろ。

 俺も泣きたいよ‥。色々、やらかしちゃってさ‥。実は、お前には見抜かれていたかもしれないけど、


 「タイヤ公園」の瀧宮のことが、好きなんだよ‥。」



 すると、彼女は顔をガバッと上げ、涙で目元の化粧を崩し、黒い縦線の跡を残したホラーな顔で言った。



毛利「ええっ!!!やっぱり、瀧ちゃんのファンだったの?!!気づかなかったぁぁああ!!

 あ、そういえば、なんか怪しいと思ったことがあったね!え、でも、ファンであることを私に隠す必要なくない?

 言ってよぉ!歓迎するからさぁ!」


私「いや、ファンというか‥。」


 そう言いかけた私に被せるように、毛利はベラベラ喋る。


毛利「それなら、憎むべきはあの「妖怪衆」どもだよ!


 ぜっったいに、彼女らを幸せにはできない。絶対に。


 想像してごらんよ、ファンなら誰もが知っているぐらい押しに弱い瀧ちゃんが、野蛮なあいつらに暴力を振られ、好き勝手されるのをさ!まぁ、‥瀧ちゃんには彼氏がいるけどぉ。


 ‥。


 私の推している小川ちゃんに「妖怪衆」が近づこうものなら、絶対許さない!というか、「タイヤ公園」の誰にも、近づくのは許さないよ!!」




私「毛利‥。彼氏がいるから、瀧宮は大丈夫だよな。名前は星海 明日葉君だっけ?羨ましいから覚えちゃったよ。」



 私はスマートフォンをポケットから出し、それをいじりながら言った。



毛利「そうだよ。だから瀧ちゃんのことはあんまり私は心配してないんだ!」



 私が握るスマートフォンは、インターネットのあるページを開いていた。ニュースを扱うウェブサイトだ。そこには、たった今更新されたばかりの、以下のようなタイトルの記事があった。



「昨夜から、タレントとして活躍している星海 明日葉さん(28)が行方不明。交際相手の住む「亜広川市」へ向かう途中に失踪か。」



私「‥そうだよな。大丈夫だよな!!」



 それを見た私は、目の前に起きた現実を直視できず、疲れた表情でケラケラと笑った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る