第29話 水面下の闇



 星海が行方不明となったニュースは、瞬く間に拡散された。

 

 芸能界で彼はまだ大きな存在とはいえないが、どのニュースサイトでも小さく掲載されていた。

 私は何も知らないいフリをして、毛利にそのことをメッセージで伝えたが、彼女からの返信はまだきていない。



 そのまま週が明け、私はまた行政書士事務所に帰ってきた。この職場は芸能人に疎いため、星海の失踪は話題にも上がらない。それが、私の心を過ごしばかり平穏にさせた。



上司「おう、久しぶりだな。‥どうした?元気ないぞ。」


私「いや‥大丈夫です。」



 私は、仕事がどうしても手に付かず、その傍で彼の情報を調べ続けた。


 星海が失踪したのは、金曜日の夜。私が「妖怪衆」へ手紙を出した当日のことである。

 あの時、石像の前で時間を確認したら、確か13時だった。そこから私の手紙が「妖怪衆」のところへ運ばれたとすれば、彼らは手紙を見るなり、すぐ星海を襲撃する行動に出たということが分かる。


 

私「‥。」

 

 私は罪悪感でおかしくなりそうだった。 

 たかぶった気を沈めるため、何度も水を飲んでは、トイレへ駆け込む。


 なんとか仕事がひと段落した時、私は休憩所で、あるネット記事を見つけた。




 「星海 明日葉失踪の謎  交際女性と待ち合わせた公園に謎の人影」




 私はそのタイトルに食いつき、早速内容を見た。どうやらそれは、記者が「タイヤ公園」の女子を取材して得た情報をもとに書かれたようだ。



 「最近、地方局などに顔を出し始め、知名度向上中のタレント、星海 明日葉(28)が土曜日の夜、「亜広川市」の山林で目撃されたのを最後に、行方不明となっていることが分かった。


 彼は、社会問題で有名な「タイヤ公園」の女子と交際しており、失踪当日も、その女性に会うため、公園を訪れていたそうだ。


 しかし、その日は女性の体調が悪く、デートはすぐにお開きとなった。その後、彼は自宅から妊娠検査薬と風邪薬を回収するために公園を後にした。が、そこから、彼は公園へ戻ってくることはなかったという。



 その時、彼は女性とSNSでやり取りをしており、そこに奇妙な内容が残されていた。許可を得たため、その一部を以下に掲載したい。

 (※ここでいう「女子」とは、滝宮のことである。)




星海『俺が帰ってくるまで、遊具の外に出るな。』


女子『なんで?』


星海『いいから。言うこと聞け。』


女子『うん。でも、なんで?』


星海『今、公園から少し離れたところにいる。そこに変な男がいた。』


女子『どんな?』


星海『格好は作業着。林の中にいる。五人。


 今、ずっと俺のことを見ている。だから怒鳴ってやった。』



女子『やめなよ。怖いよ。』



星海『俺だって怖いよ!だって、。』



女子『何が‥?』




 (※ここで星海の返信が途絶える。)



女子『今どこにいるの?』


女子『生きてるかだけ教えて。』



 この後、星海からの返事はなかったという。すぐに女子は警察に連絡し、現在も彼の捜索は行われている。

 このやり取りから、彼が何かのトラブルに巻き込まれたのは間違いない。


 しかし、気になるのは、林の中にいた五人の作業着の男。


 実は、これについて、調査班は奇妙なことを発見した。


 実は、タイヤ公園から南に2km離れたところに、今は使われていない田んぼ跡がある。そこには、五体のカカシが立っているのだ。それも、全員、作業着を着ている。


 おそらく、この田んぼを所有していた住民が立てたものだと思われるが、このカカシのことは誰に聞いても詳細がよく分からなかった。そもそも、この田んぼ自体、荒れてから数年はこのままだという。そんな場所に、朽ち果てることのないカカシがなぜあったのか。謎である。


 まさか、このカカシが勝手に動き出し、彼をどこかへ連れ去ってしまったのだろうか。

 彼の言った「動いている」の言葉が、それを裏付けているような気もする‥。」



 人が失踪したと言うのに、随分オカルトチックなことを書いた記事だと感じざるを得ない。当然、それを見た人から批判コメントが寄せられている。



 だが、犯人はそんな超常的な力を持つカカシではないはず。

 絶対に犯人は「妖怪衆」だ。


 奴らは、星海を襲う明確な動機がある。私のせいなのだが‥。



 そもそも、以前「タイヤ公園」を訪れた時、そんなカカシは無かった。



 つまり、おそらくカカシを設置したのも「妖怪衆」だろう。彼らは、目のつくところに作業着を着たカカシを配置し、「タイヤ公園」へやってくる星海に見せた。



 その後、あえて同じ作業着を身につけて彼を襲うことで、カカシが動き出して彼を襲ったと言う怪異を演出したのだ。星海はそれを見て驚き、恐怖で行動を鈍らせた。


 この心理的に彼を追い詰める作戦は、有効だったようだ。普段は尖っている彼も、お化けには弱かったらしい。いや、誰でもそんな状況に陥れば、恐怖に襲われて普段通り抵抗するのは難しいだろう。少しでも相手の戦力を削ぐ努力を、「妖怪衆」は辞さないようだ。


 

 私は余計に怖くなって、すぐに「妖怪衆」宛ての手紙を書いた。



 「もし、生きているのなら星海を解放してください。彼を殺すのは、あなた達にとっても不都合であります。」



 黒萩の判子付きの手紙でなければ、意味がないことはもちろん理解している。しかし、あの石像に持っていけば、彼らの目に一応は触れるのではないか。まだ、星見が生きていることを願い、私は手紙を届けるため事務所を飛び出す。


上司「ど、どうした?!」


私「すいません。この前の事件のことで、警察からまた調査依頼が入りました!」


上司「やれやれ、またか。できればすぐに戻ってこいよ。」






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