第25話 異物への手紙
私はむくりと体を起こし、時刻を確認する。昼の12時だ。
しばらくボーーっと天井の角を見つめていた私は、さっき見た夢のことを思い出しながら想いにふけっている。
私「俺が見たのは、まさか‥。過去の瀧宮なのか。」
ファンタジーな世界観が大好きだった私は、夢は真実を私に語りかけているように思えてならなかった。
つまり、毛利から聞いた話は間違いで、実は学生時代の瀧宮が、一方的に塾講師に好意を抱き、様々な嫌がらせをしている加害者なのではないかと思ったのだ。
それが、どうしたわけか、彼女が塾講師から嫌がらせを受けていたという話が広まっている。そのような予想を立てた。
それにしても、私は、なんとか講師を繋ぎ止めようとする、純粋で猟奇的な彼女の姿に惚れ直してしまった。夢で私は講師の視点を借りていたのだから、まるで彼女は私に好意を抱いていると錯覚させるような幸せな夢だった。
私「もしかして、瀧宮は俺のことを‥。」
私は勝手に照れだす。
そして、また彼女の顔を見たくなり、インターネット検索しようとスマートフォンを確認する。
すると、10分前に毛利からメッセージが来ていた。
毛利「大変大変!「妖怪衆」から黒萩さんに返信が届いたみたいだよ!
こんな早く返ってくるなんて異例中の異例。早速内容を確認するから、君もおいで!時間は今日の18時から。場所は市内の居酒屋ね!
これは歴史に残る瞬間かもしれないよ。「タイヤ公園」の女子が被害者になった今回事件の犯人が「妖怪衆」のメンバーだとすれば、今後、行政が彼らに対して取る態度も大きく変わってくるはず。
これまで人間と融和する動きを見せていた奴らと、今度は戦うことになるかもしれない。つまり、かなり重要な瞬間になるんだ。
だから、絶対来てね!」
まるで彼女は、こんな片田舎で「妖怪大戦争」でもおっ始めるかのような雰囲気である。私のような、彼らを少し目撃しただけの参考人すら招集するのだから、かなり本気に動いているのだろう。
私は今、瀧宮のことで頭がいっぱいなのだが、やはり行政職員としての毛利の招集は無視できず、参加を承諾した。
そして、18時。
私は市街地の中心にある、アパレルショップの前で毛利と待ち合わせていた。
今日見た夢のこともあって、すっかり頭の中は瀧宮のことばかり。星海への罪悪感的なものは全て消え去っていた。昼に起きてから夕方まで、彼女との様々なシチュエーションを妄想していた。
あの夢の中は、多分ただの夢ではない。きっと現実に起きた過去の世界を映し出しているのだ。
しかし、だとすれば、なぜ私はそのような不思議な夢を見たのだろうという疑問が浮かぶ。さっきから私は雑踏を見つめながら、夢を見た原因を考えていた。
そして、思い当たる節は一つある。夢の導入部分に映像として現れた、あの石像が何か関係していそうな気がした。あれは確か、「妖怪衆」の祖である謎の存在、「
それが不思議な力を有しており、私に瀧宮の過去を見せたということになるのだろうか‥。
しかし、それならばなぜ、一見すれば「妖怪衆」と無関係な瀧宮の過去を?
芋蔓式にどんどん疑問が浮上する。
下を向いて考え込んでいると、遠くから私を呼ぶ声が聞こえた気がした。
顔を上げると、前方から小柄な女性が近づいてくる。結構、可愛い子だ。
その子は化粧で目元を濃く縁取っており、耳には大量のピアスをしている。おとなしい瀧宮とは違い、なんとも強烈な魅力を備えている感じだ。当然、私はこんな女性と面識などないはずだ。
しかし見ず知らずの彼女は、私の前で立ち止まり、話しかけてきた。
毛利「やぁ。待った?」
なんと、それは毛利だった。彼女は黒いマスクで口元を覆っており、それがうまい具合にサラサラの長髪に似合っていた。失礼かもしれないが、マスクで人はここまで変わるのかと驚く。
私「なんだ、お前か。」
毛利「シシシ‥。そうだよ。」
歯に矯正具をはめ込んでいるため、彼女は唾を啜るような音を立てて笑う。その音を聞いて、やはりこれはあの毛利だと確信する。
私は毛利に夢の相談をした。
私「なぁ、毛利。お前はこれまで、不思議な夢を見たことってないか?」
毛利「はぁ‥、ないこともないかな。」
そもそも、普段彼女はどんな夢を見るのだろう。それも気になったが、とにかく私は話を続けた。
私「俺が今日見た夢は、なんというか、実際に起きた過去の出来事を体験するような感じだったんだ。」
毛利「自分が過去に経験した事をもう一度追体験する感じ?」
私「いや、それが、俺の過去の出来事じゃないんだ。全然他人の体験した出来事だよ。」
毛利「ど、どういうこと?」
私と毛利はしばらく無言で歩く。
私「ああ、もう言ってしまうか。実は、「タイヤ公園」の瀧宮って子がいるだろ?それで、お前は、彼女が少し前、担当の個別指導塾の講師に性的な嫌がらせを受けて、それが原因で公園に逃げてきたって言ってたよな?
俺が夢で見たのはさ、多分、その瀧宮が担当塾講師の授業を受けている映像だった。それも、塾講師の目線でね。
でも、その夢、お前が話してた内容と全然違ったんだ。瀧宮は塾講師から性的な嫌がらせを受けていたんだろ?
でも夢では、瀧宮の方が塾講師に一方的な恋心を抱いていて、迷惑で猟奇的な猛アタックを仕掛けていたんだ。
俺は、夢で見た内容こそが、実は真実を映し出しているのではないかと思っている。何か根拠があるわけではないけど‥。なんかそんな感じがするんだよ。」
毛利は「おー。」という感じで頷く。相変わらず妙に許容範囲が広い彼女らしい反応だが、適当に聞き流しているようにも聞こえた。
私「正直な意見を聞かせてほしい。お前は、この夢の内容が正しいと思う?」
すると毛利はゴキゴキと首を左右に振り、少し間を置いてから返事をした。
毛利「さすがに夢の内容が間違っているんじゃないかな。だって、ただの夢だし‥。」
彼女はその見た目とは反し、なんとも現実的で、面白くない見解をぶつけてきた。しかも、以下のような嫌なおまけまでついて来た。
毛利「それより、気になったことがあるね。え、夢に瀧ちゃんが出てきたの?ふーーん‥。」
私「な、なんだよ。」
毛利「夢に出てくるってことは、瀧ちゃんのことが随分印象的に残っているようだね。私は、よく応援している人とか、とにかく強い思い入れがある人がよく夢に出てくるよ。」
私「いや、俺はそんな‥。」
毛利「さては瀧ちゃんのことを、もしかして‥。」
私「違う!
‥だって、俺は、瀧宮の性格をほとんど知らないんだ。実際に言葉を交わしたことなんて一度もない。そんな俺が見た夢の中で、瀧宮は普通に喋っていたんだ。
夢ってのはな、記憶を元に夢が創り出されるんだよ、多分。だから、面識のない瀧宮の性格を俺は頭の中で再現できない。だから、彼女が夢にできて、しかもあんなにペラペラ喋るなんて、ありえないんだよ。」
毛利「‥あー。それもそうか。
もしそうなら、一緒に「タイヤ公園」を応援できると思ったのにね‥。」
私「お前だって、自分が性格をよく知らない人物が夢に出てきて、喋るなんてことはないだろ?」
毛利「うーん、私は変わっているのかな‥。時々、出てくるんだよ。全く性格を知らないアイドルとかね。
そういう場合は、私の理想的な性格をしている場合が多いかな。
でも、振り返ってみると、なんだか私の性格をそのまま反映したようなキャラクターで、夢の中のその人は喋っているよ。
まぁ、夢だからうろ覚えではあるけどね。」
私は立ち止まった。
夢の中の瀧宮は、私の性格を映し出した存在なのか‥。あんな猟奇的な性格を、私は心のうちに宿しているとでもいうのだろうか。
毛利「何をしているの?ほら、もう目的地は目の前だよ。」
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