第22話 異物への手紙
私は、星海のSNSアカウントにアップされた過去の投稿をどんどん掘削し、とにかく自分が気に入らないものを発掘し続けた。そのたび、彼への怒りがどんどん燃え広がってゆく。理由はうまく説明できないが、私はこの苦しいばかりで何の意味もない行為を、どうしても中止することができなかった。
そして、「大型バイクのを自慢するため、あえてマフラーを改造し、爆音で住宅地を周回した。」、「後輩を恫喝し、スタジオの廊下で暴力を振るったことをなぜか自慢げに自白する」などの投稿から、彼は単に「ヤンチャ」なのではなく、人一倍承認欲に枯渇したような、人間の弱い部分が濃い性格だったのが、どんどん浮き彫りになる。
それがまた、無性に腹が立った。私は彼がその陰湿な内面を隠すように「ヤンチャ」な行為をしていると思ったからだ。私個人的には、楽しくて迷惑行為をしているのは当然許せないが、それ以上に、自分の弱い内面を隠すためにそのような行為をすることのほうが許せなかった。
気がつけば、過去半年分の彼の投稿全てに目を通していた。頭は疲れ果て、ついに吐き気を催す。
すると、ある投稿に目が止まった。
それはこれまでとは違う雰囲気のものだった。一緒に添付された写真を見ると、彼が地味な格好をし、さらに穏やかな表情で、大勢の年配の人と接している。
一体、何をしているのだろうと記事に目を通すと、それは彼の意外な一面を知るものだった。
なんと、彼はボランティア活動に参加していたのだ。
写真は、過疎化が進む超田舎の学校へ給食を届けたり、土砂崩れなどが勃発した場所で除石を手伝う様子を写したものだ。
それは、普段はオラついている彼の意外な一面を知るものだった。ボランティア活動報告の数は少なかったけど、確かに彼はこれ以外にも複数回、自主的な貢献活動をしているようだ。
私「‥。」
この時私は、初めて少し冷静になり、自分がした行動に疑問を持ち始めた。
星海とは一度も直接的に対面したことがない。私が目の敵にしているのは、主にインターネットから得た悪い情報のみを
だから、実際に接してみると、思いの外、彼が懐が深い人物だということも考えられるだろう。ボランティア活動に参加するなら、完全な悪人であるはずがない。もし、彼がメディアで演じている悪人のイメージを壊さないために、あえて自らの悪行をSNSで暴露してるのだとすれば‥。
私「‥。」
結局、「妖怪衆」へ彼の抹殺を促す手紙を書いたのは、いささか早計だったのではという思いが強くなった。
悪人であろうと、そうでなかろうと、その真偽をろくに調べず、感情にまかせていき過ぎた行動をしてしまったような気がする。
私「やっぱり、だめだ。流石に‥。」
私は、ついに自分の行動を反省した。
確かに彼のことは憎いけど、流石に命の危険にさらすような手段に出るのはやりすぎだと思う。
彼らを引き離す策は講じるとしても、別の方法を取るべきだろう。
そう思って、再び石像に向かった。そして、その像の裏側を見る。
しかし、何と、そこには私の手紙は無かった。
私「う、嘘だ!」
私は狼狽して、その場にへたり込んだ。
私は手紙を石像の裏に置いてから、ずっとその近くにいた。誰かが手紙を回収しに来たのであれば、当然気づくはずだ。しかし、そんな気配などは一切しなかった。それなのに、手紙はいつのまにか無くなっていたのだ。
私は、手紙が風で吹き飛ばされたのかもしれないと考え、石像近くの林を散策する。手紙を包んでいたジッパーは封入口が目立つ青色だったから、その場合はすぐに見つかるはずである。
が、やはり何度探しても、手紙はどこにも無かった。
やはり、私が気づかないうちに「妖怪衆」が回収していったと考えるほかないようだ。
すると、ついさっきまで考え事をしていた私のすぐ背後を、手紙を回収しに来た彼らが通ったということになる。
でも、足音などは一つも聞こえなかった。もう一度当たりを見渡すが、近くに人が隠れるような場所はない。さすがに、この辺りを人が通れば、アスファルトを靴底が滑るジャリジャリという音や、木々の枝を踏み締めるバキバキなどという音が耳に届くはずだ。
私は、黒萩の話を聞いて、これまで「妖怪衆」は、妖怪の末裔を自称するただの人間だと思っていた。しかし、今はその考えが変わりつつある。
彼らは、「妖怪」のように超常的な能力を身につけているのではないか。それか、毛利の考えるように、人間ですらないのか‥。
私は得体のしれない恐怖に支配された。そして、後退りしながら、石像がゆっくりと離れ、車に戻る。
エンジンをかけた。まだ、あの奇妙な石像が気になっている。車を旋回させながら、何度もチラチラと像の方を見た。そして、帰り道の方向を向いた私の車はスピードを上げた。
私「‥‥。」
石像の奥には杉の林が広がっている。私は車を方向転換する時、その中にひとりの小柄な人間が体育座りのような格好で身を隠しているのを見た気がした。いや、一瞬それを視界にとらえただけだから、ただの切り株がそのように見えただけかもしれない。
しかし私は、車を停めてもう一度それを確認する勇気はなかった。
彼が仮に人間で、さらに「妖怪衆」の一人だったとすれば、私が手紙を石像の裏に置いてからしばらく考え事をしている間、その様子を10m程離れた場所から伺っていたことになる。
すると、先ほど手紙を探していたとき、偶然彼に近づいてしまったら、私はどうなっていたのだろうか。
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