第13話 狂気に支配される
私「あ‥、こっちです‥。」
私は警察や救急隊に合図した。
水辺から引き上げられ、ぐったりと横になる少女のところへ大勢の人員が足早に迫ってくる。
私は女子のそばに立ち、集まってきた人たちに向かい、おそらくもう彼女が絶命していることを伝えようした。
しかし、その時である。
女子「ごふぇ‥!!」
さっきまでぴくりとも動かなかった女子が、突然口から大量の水を吐き出した。なんとか一命を取り留めたようである。
そして、吐き出した生暖かい水は、不幸にも私の靴にかかった。予期していなかった事態に、思わず顔が引き
女子「ごほっ!ごほっ!!」
彼女は咳き込んでいる。救急隊が意識を確認すると、そのまま女子は救急車に担ぎ込まれた。
私「‥いやぁ、よかった‥。生きていたのか‥。」
私は急いで川の方へ行き、ジョボジョボと音を立てて靴を洗った。
すると、後ろから河原の石を踏む音が近づいてくる。振り返ると、警察の一人がすぐそばに立っていた。
警察「えっと、あなたが通報した方ですよね。」
私「あ‥はい。」
警察「ちょっと、事件の様子を詳しく聞かせてください。」
それから、私は河原に特設されたテントへ連れてゆかれ、事情聴取を受けた。
警察「‥えっと、つまり、被害者の女性をこの川に投げ捨てたのは、二人組の男だったということですか‥。」
私「はい。暗くて顔はよく見えなかったんですが、二人の男性だったのは間違いありません。そして、私が近くにいることを知った彼らは、すぐに走って逃げてゆきました。彼女に危害を加えたのは、間違い無いでしょう。」
警察はそれを聞いて、納得したような表情をした。
私もほっとする。自分が犯人だと警察に疑われている様子がなかったからだ。そして、気を落ち着かせるとともに、気になっていた点を彼に尋ねた。
私「あの‥、被害者は「タイヤ公園」に住んでいる女性なんでしょうか‥。」
警察「ええ。それで間違いないと思います。そして、実は犯人も大体絞れていますよ。」
私「え‥本当ですか‥。それは、一体‥。」
すると、私たちの会話に突然女性の声が割り込んできた。
「それはねぇ!「妖怪衆」の仕業だよ!」
声の方を振り向くと、なんと、そこに私服姿の毛利が立っている。そうか、彼女は公安の調査員である。「妖怪衆」や大崎市長の動向を追跡している彼女は、この事件の調査にも参加しているようだ。
若干酔っ払っているのか、イライラした表情で私たちを睨む。多分、酒によって眠っているところを叩き起こされ、ここへ連れて来られたのだろう。
また、彼女は私服も独特だった。小柄でガリガリの体型にも関わらず、LLサイズの海外ロックバンドのTシャツを着ている。
毛利「絶対にあいつらの仕業だ!だって、私、被害者の子は知っている人だよ。「タイヤ公園」のメンバーの一人、それも去年の12月に入った新人さん!
そして、あの子は「妖怪衆」の一人と交際している子なんだ。だから、絶対に何かトラブルに巻き込まれたんだよ!
‥まぁ、命は無事だったから、よかったけど‥。これ以上、あの子たちが「妖怪衆」の奴らの犠牲者になるのは我慢できないよ!」
私は先日、大崎が「妖怪衆」と人間のカップルが成立していると得意げに話していたことを思いだす。確か、「タイヤ公園」の女子からは、交際相手が「妖怪衆」だと明かされていなかったんだっけ‥。
警察「そうですね。「妖怪衆」の仕業がどうか、早く調べて欲しいですね。」
毛利「まぁ、すぐに分かることだよ。ほら、
ここで、気になる人物の名前が出てきた。
黒萩とは、誰なのか。そして、なぜ、彼が到着することで、「妖怪衆」の仕業と判別できるのだろうか。
そんな疑問を抱きなら、私は彼女が指差す方向を見る。
すると、黒い高級車が山道から姿を現し、パトカーの隣へ乱暴に駐車した。
そして、中からは長身の老人がヌッと現れる。彼の頭の頂上は禿げているが、側面と後部からは肩にかかるほどの白髪が伸びており、日本人とは思えないほどの長い鼻に丸メガネを引っ掛けている。
毛利「黒萩さーん。」
どうやら、あの変な見た目の老人が、黒萩という人物らしい。
毛利の声に気づくと、老人はのっしのっしとこちらへ向かってくる。そして、その見た目からは想像がつかないほどの、穏やかで紳士的な声をかけてきた。
老人「これは、ごきげんよう、毛利様。」
失礼だと思うが、私はその見た目で、彼が「妖怪衆」の一員だと確信した。明らかに妖怪らしい異様な姿である。早速、小声で毛利に耳打ちした。
私「ついに現れたな。この黒萩って男は「妖怪衆」の一人だろ?」
しかし、返ってきたのは、意外な答えだった。
毛利「え、いや‥。黒萩さんは普通の人間だよ‥。どう見てもそうじゃない?」
なんと、黒萩は「妖怪衆」の一員ではなかった。やはり、見た目で判断するのはよくないと反省する。確かに早計だった。だって、毛利も「妖怪衆」の一員っぽい見た目をしているではないか。
しかも、私たちの会話は黒萩に聞こえていたようだ。彼は私の顔をゆっくりと見下ろす。
私「‥すいません‥。」
しかし、彼はそれを気にしていないようだった。やはり丁寧に私に挨拶をする。
黒萩「いえいえ‥。そして、申し遅れました。私、黒萩と申します。
確かに、私を初めて見た方は驚かれることが多いですね‥。しかし、ご安心を。私は紛れもなく、日本で生まれた人間でございます。」
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