第10話 狂気に支配される
私「いやぁ、本当社会人になって、マジでしんどい。このまま圧死するかと思った。」
毛利「社会人しんどいよねぇ。私も10分に一回ぐらいのペースで怒られてるよぉ。」
私「なんだよ、それ。お前面白いな!」
毛利「怒られた内容はほとんど忘れちゃったけどねー。」
私は久々に笑った気がする。学生時代は毎日笑っていたのに‥。まだ卒業して数ヶ月しか経っていないが、あの日々が懐かしく思う。
私「あ、そうだ。その「妖怪衆」が、あの家出少女で有名な「タイヤ公園」の女子と積極的に交際する動きがあるらしい。
しかも、市がそれを援助するんだって。」
すると、毛利は突然血相を変えて立ち上がる。
毛利「なんだって!?
やっぱり、市は「妖怪衆」と「タイヤ公園」の少女たちを結びつけようとしているの?!噂は本当だったか!」
私「毛利は、このことを調べに来たんだろ。」
彼女は頷く。
毛利「私たちが追っているのは、市長の動きだよ。
「妖怪衆」を「タイヤ公園」の女子に近づけるなんて‥。危険すぎる。」
私「俺、別に仲良くは無いけど、「亜広川市」市長の大崎と知り合いなんだよね。大学時代、いろいろお世話になってさ。
その市長がそう言ってたんだから、マジだよ。」
すると、毛利は机をバンと叩き、真剣な眼差しでこっちを見た。
毛利「許せない‥、許せないよ‥。
「妖怪衆」がどれだけ凶暴な存在か、市長は分かっていない。私の大事な「タイヤ公園」のメンバーに傷でも負わせたら、タダじゃおかないんだからね‥。」
その異常な熱気に、私は
私「‥あ、あのさ。私の大事な「タイヤ公園」のメンバーって‥?」
毛利「私は、いろんなアイドルグループとか応援してて、「タイヤ公園」のファンでもあるんだよ!
だから、絶対に彼女たちを守りたいんだ!」
何度も言うが、「タイヤ公園」は家出少女の集団である。アイドルグループ扱いするのは何か違うと思うが‥。
だが、彼女の目に熱意がこもっており、黒目の中で炎が燃えているようだったため、それを伝えることはできなかった。
私「そ、そうなんだ‥。」
しかし、彼女が「タイヤ公園」の女子に詳しいとなれば、私が密かに思いを寄せている瀧宮について何か知っているのだろうか。
私は、それを聞き出すチャンスを逃すまいと、彼女に早速尋ねてみた。
私「お、俺も実は今日、「タイヤ公園」に行ってきたんだ。
それで‥、白パーカーの子を見かけたんだけど‥。なんか、多分、瀧宮って名前の‥。みんな暗い色の服を着ている中、一人だけ目立つ白色を着ていたから、その子が一番印象的だったなぁ。
毛利はその子のこと、知らない?」
私は、自分が瀧宮に好意を持っていることは、勇気がなくて話せなかった。これでは、彼女の情報を聞き出すのは難しそうか‥。
しかし、毛利はそれに反応し、ペラペラと喋り始める。
毛利「瀧宮ちゃんね。知ってるよ!私は瀧ちゃんって呼んでる!
瀧ちゃんは、なかなか人気の子だよ。握手してくれたり、写真撮ってくれたり、ファンサービスも手厚いからね。でも、シャイだから人前に出てくることは滅多にないし、喋るのが苦手だから会話は弾まないのが難点なんだ!」
私「そうなんだ‥。それにしても、握手や写真撮影。まるでアイドルだね‥。」
毛利「そんなんじゃないよ。あの子たちは、皆、ディープな問題を抱えているんだ。一人残らずね。だから私も含めて、みんな一生懸命応援しているんだよ。
アイドルってよりは、道を外れてしまった子達を応援する感覚かな。私的には。」
私は首を傾げる。
昼間、公園にいたおっさんは、そんな風には見えなかったが‥。
だが、もう少しで、瀧宮の情報を聞き出せそうだ。
私「ディープな問題‥。た、たとえば‥?」
毛利「ああ、それじゃ、一番キツめの「小川」ちゃんてこの話を‥。あれは、もう、悲劇としか言いようがないね‥。」
私「あ、あのさ、瀧宮さんの話を聞かせてよ。」
毛利「え‥?瀧ちゃんの?」
私「ほ、ほら、俺は瀧宮って子しか知らないし、できれば、顔をイメージできる方がいいなと思ってさ。」
毛利「ああ、いいよ。全然。
確かね‥。」
危ない。全然知らない人の話を聞かされるところだった。
毛利「瀧ちゃんは、1年前、「タイヤ公園」へ一番最初に集まったメンバーだね。だから最初は、彼女一人があそこに住んでいたんだよ。
そして、あの子がここにきた理由はね‥。
当時、通っていた塾が原因なんだ。1年前、彼女は大学受験生だった。
両親は離婚していて、大好きなお母さんを楽させるために、難関大学に行くことを決意したらしい。
塾は個別指導方式で、一人の先生が一人の生徒を教えるスタイルだったの。
そして、その先生が大学生のアルバイトで、彼女の2歳上。頭は良かったんだけど、すごい性的な嫌がらせをしてくる奴だった。
瀧ちゃんは、ずっと誰にも見えないところで、その先生から嫌がらせを受けていた。一番後ろの席で固定だったらしいからね。誰も気づかなかったんだ。
「褒美」と言って急に手を握られたり、「罰」として
でも、瀧ちゃんも悪かった。彼女はおとなしい性格だったから、大した抵抗もしなかったし、ずっと誰にも言わなかったらしいの。塾長にも、友達にも。そしたら、男性講師はますます調子に乗って、嫌がらせは加速していったらしい。この嫌がらせについては、心が痛くてこれ以上言えない‥。
そして、受験を目前に控えた1月、事件は起こった‥。彼女は塾帰りに、その男性講師の車に無理やり連れ込まれそうになったんだ。そこは抵抗し、なんとか逃げれたんだけど‥。
『先回りしてお前の家で待ってる!』と脅され、瀧ちゃんは家に帰れなくなってしまったの。
本当なら、すぐに警察へゆくべきなんだけど‥。
瀧ちゃんは世間を知らなさすぎて、本当に帰宅しない選択肢をとったの。男のことが本当に怖かったのかもしれないけどね。
それで、彼女は家出をした。
そうして、一人で山へ向かってゆくと、「タイヤ公園」にたどり着いたというわけ。」
私は、胸が張り裂けそうになった。彼女にそんな過去が‥。私は胸に手を当て、込み上げる熱い気持ちをなんとか抑え込もうとする。
毛利「あれ?熱くなって喋っているうちに、もう夜だ。調査はまた別の日でもいい?」
彼女の言う通り、気がつけば外は真っ暗だ。
私は「ああ‥。」とだけ答えて、彼女と連絡先を交換した。
毛利「いやぁ、雑談で終わっちゃったね。あれ、急にどうしたの?元気が無いような‥‥。」
私は会議室のドアを開く。頭の中は、もう瀧宮のことではち切れそうだった。
私「大丈夫だよ‥。また連絡してな。」
毛利「そうか‥。うん。またねー。」
私は自然な笑顔を浮かべ、毛利を見送った。
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