第3話 行き場のない女子


大崎「君がどんな目的でここへ来たかわからないけどね、折角だから私が案内しよう。ほら、こっちだ。」



 そういうと、大崎は頼まれてもいないのに、公園の案内を始めた。一人で見物したかった私は、嫌々ながら彼の後をついてゆく。




 すると、まもなく公園は姿を現した。その名前の由来にもなった大きなタイヤの遊具が姿を現す。積み上げられたタイヤは100個以上、そして遊具全体の大きさはだいたい7mぐらいで、まるで雪室かまくらのように中へ入り込むことができる。


 家出少女たちは、その遊具内部を生活スペースとしているのだろう。こちらからはその内部の状況はあまりよく見えない。



 また、遊具の前数mの場所には、バリケードのような金網が設置されており、見物客が近づけるのはそこまでのようだ。集まった男性客が金網ギリギリのところで人だかりを形成している。


 私は見物人たちの頭の間から、よくその金網の中を見ようとした。


 しかし、奇妙なことに、家出女子たちの姿は一つもない。タイヤの遊具の前には無人の砂地が広がっているだけだ。



私「あの‥、大崎さん。肝心な女の子が一人もいませんよ。」


大崎「暑いから、遊具の中に隠れているんだろ。今日は雲一つない晴れだからなぁ‥。」



 確かに、今日は日差しが強く、気温も26℃と高めである。


私「はぁ、なるほど。でも、女子らは皆、あの遊具の中で何をしているんですか?こんな電気も通っていない公園ですよ。することなんて、何かあります?」



大崎「多分、一般人と変わらんよ。スマートフォンをずっといじって、SNSや動画鑑賞でもしているんだろ。ほら、あれが見えるか?」



 大崎は観客の最前列を指差した。するとそこには、50代ぐらいの男が、何かを天高く振り上げている。

 よく見ると、彼の手に握られているのは、ポケットWi-Fiであった。男はそれを握ったまま、石像のように動かない。



私「彼は、さっきから何をしているんでしょう‥。」


大崎「見ての通り、公園で暮らす彼女らに電波を供給しているのさ。慈善活動でな。私にはなんであんなに熱心に彼女らを応援できるのかわからんが、公園で暮らす女子たちに強い思い入れがあるんだろうな。」





私「し‥しかし、スマートフォンを使おうにも、ここは屋外。充電はどこでするんですかね‥。」



 私はそう言って遊具周辺を見渡す。すると、使い古された単三電池が、少なくとも数百個、遊具のそばで砂を被っていた。遠目から見れば、まるで河原の石のようである。


 なるほど、電池を利用してスマートフォンを充電しているのか。私は納得した。しかし、あんな大量の電池はどこから手に入れたのだろう‥。



 すると、一人の見物人が声を上げた。


 「あっ!出てきたぞ!!」



 その声を皮切りに、どんどん客席は騒がしくなる。


 「本当だ!!」


 「おーーい!!」


 「タイヤ公園」の女子たちがようやく姿を現したみたいだ。


 私も、その姿を一目見ようと、人の群れをかき分けるように進む。そして、汗の匂いを感じながら、前列に押し出された。



私「おお‥、あれが‥。」



 私の視界に飛び込んできたのは、タイヤ遊具からひっこりと顔を出した、多分年齢は高校生ぐらいの幼い女性である。彼女は警戒するように私たちを見回し、ゆっくりとそこからい出てくる。


 暗い色のパーカーが特徴的で、下は短いズボンを着用していた。


「おおおぉぉ!!」


 となりのおじさんが歓喜して叫ぶ。しかし、私はなんというか、彼女を見て、悪い意味で予想通りだと感じた。


 インターネットでもてはやされるほど、彼女の顔は抜群に可愛い訳ではなかた。化粧もしておらず、一般的な女子の顔である。少なくとも、私はそう感じた。

 やはり、アイドルのように可愛い子が、ここへ都合よく集まるなど、ありえないことなのだ。



 そして、最初の一人に続き、遊具からゾロゾロと若い女子が姿を現した。皆同じような暗いパーカーを着ており、観客の方へ近づいてくる。


 すると、女子らを目の前にした観客は、大きなビニール袋を取り出して、彼女らに手渡しているのが見えた。



私「‥あれは、なんだ‥。」


 私は気になって、うっすら見えるビニール袋の中身に注目する。



 すると、それは大量の単三電池だった。


 つまり、彼女らの電力源は、ここへやってくる観客から得ていたのだ。


「ありがとうございます!」



 それを受け取った女子の声が聞こえる。また、渡した男性は満足そうな表情を浮かべた。そして、女子はスマートフォンを取り出し、彼に連絡先を教えているようだった。どうやら、彼女らとより深い関係になることが、単三電池の対価であるようだ。



 他にも食料品や、日用品など、ビニール袋に梱包された物資が、次々に彼女らの手に渡る。

 そして、対価もさまざまで、連絡先の他には、握手や手紙などが男性にいた。



 私は、狂気に満ち溢れたこの非日常的な光景に興奮する。あまりに衝撃的だったため、スマートフォンのカメラを起動して、女子と観客のやり取りを写真に残した。



私「うわぁ‥。これはすごい。」



 私の写真フォルダに、この時代の社会問題をここまで間近とらえた、価値ある写真が溜まってゆく。それがなんとも言えない幸福感をもたらした。



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