あるネット記事


 H県北部。


 ここは、深刻な過疎かそ化に悩まされていた。山地に点在する村々の人口はどんどん減少し、無人集落などと呼ばれるエリアが増えてきている。



 そして、人がいなくなれば、自然は手足のように根やつたを伸ばし、次々と家を飲み込んでいった。こうして緑一色に変わった屋根や壁が、そこらじゅうにあるのだ。




 そんな誰も立ち入らない山林に、ポツリと公園があった。そして今、この公園が世間から注目を浴びている。

 県内外を問わず多くの観光客が連日訪れ、日中はお祭り状態なのだ。




 しかし、ここはタイヤが沢山積み上げられた大きなアスレチック遊具がたった一つあるだけの公園である。名前も「タイヤ公園」と極めてシンプルだ。

 どんな純粋な心を持った子供でも、このような遊具が一つあるだけの公園では、30分も時間を潰すことができないだろう。


 一体なぜ、こんな簡素な作りの、しかも山奥に位置する公園へわざわざ大勢の人が足を運んでいるのだろう。








 きっかけは、去年の1月頃。ここにある人々が住み始めたことだった。



 それは、10代後半から20代ぐらいの、若い女性である。彼女らは家庭や学校、友人などの環境に恵まれず、家出をしてここへ流れ着いたのだと考えられている。


 そして、ここで家族のような共同生活を営んでいるのだ。


 彼女らの多くはアルバイトで生計を立てているが、今はSNSを利用した広告による収益や、支援を受けるなどしてより多くの生活のかてを得ている。 



 つまり、観光客が目的としているのは、この「タイヤ公園」に住み着く少女らと触れ合うことだ。彼女らに物資を供給すれば、その見返りに連絡先を交換してもらえたり、握手などができるらしい。


 

 こうして寂しい田舎町に、かつてない華やかな雰囲気と、欲望の香りが立ち込めている。



 が、これは「社会問題」として、早急に解決しなければならない。


 彼女らをこのまま放っておけば、犯罪に手を染める可能性もある。さらに、不安定な状況から栄養失調などを引き起こす可能性もゼロではないからだ。



 しかし、「タイヤ公園」を管轄する市は、この問題の対応が十分に出来ているとは言えない状況だった。市は何度か彼女らに帰宅勧告をしたが、それも不徹底で、再び彼女らがそこへ集まってくる。



 噂だが、市はあえて公園の女子たちを放っているのではないかとも言われる。



 彼女らを求めてやってくる男性の観光客がもたらす経済効果や、ゆくゆくは女子らがそこへ定着して子供を産む事で、市が抱えている少子化問題を解決しようとする意図があるのではないかと言われている。






 さて、この大きな問題を抱えているのは「亜広川あこうがわ市」という。県内北部の山間地域に位置する場所である。果たして、この状況を改善する画期的な方法が打ち出されるのか。今後の動きに注目したい。





 

 






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