もう片方を愛したい · 双子物語

@Siriusburnout

第1話 アイスがない故郷

机の上から起き上がるとまだ眠くてたまらない。どうしたことか分からず、ぼんやりと周りを見回した。


部屋の中は真っ白で、私は後ろから二番目の席に座っていた。光が窓を通して隣の人の顔に落ちていた。露出オーバーで顔がよく見えない。でも彼がイロクじゃないことは確かなので、それ以上の意味はない。


五月の暑さが感じられ、顔や肌に触れる部分と脇の下が少し湿っていた。顔を洗いたくなり立ち上がると、椅子の音が教室中に響き渡り、みんながこちらを見た。先生が何か言ったが、気にせず教室を出て、廊下の角にあるトイレに向かった。


蛇口をひねると、水が手を伝って流れ、冷たさでも心の中の謎を解くことはできなかった。水道の下に頭を入れてようやく少し気分が良くなった。


チクタク、チクタク。


灰色の廊下のタイルには、すぐに乾いてしまう痕跡が残っていた。私はゆっくりと歩きながら周囲を見渡していた。そして、窓の外に黒い影を見つけた。白い制服の中でひときわ目立つイロクの姿だった。


二秒後、彼は振り返り、その漆黒の瞳が私と交わった。彼はすぐにこちらに向かって歩いてきた。人目につかない場所で、彼は私を抱きしめた。一度、いや二度。どれくらいの時間が経ったのかわからないが、確かに暑かった。それでも私たちは気にしなかった。廊下の角の陰に隠れて、離れた後も無造作に手を繋いでいた。


「まだ授業中だよ」と私は言った。自分から勝手に彼を探しに来たくせに、彼はやっぱり私を責める。でも、「授業中の方がいいんだ」と彼は続けた。授業が終わると廊下は人で溢れて、世界はもっと騒がしくなるから。


私たちはそのまましばらく手を繋いで立っていた。イロクの体温が伝わってくる。静かな廊下に、私たちの心音だけが響いていた。


ずっとそばにいてくれる?


君は?


嫌わないで。


そんな無意味な言葉を交わしていた。鞄を取りに戻る必要があるだろうか?でも、誰もあのテスト用紙なんて欲しがらないよね。私みたいな成績の悪い生徒のノートなんて誰も欲しがらないだろう。まあ、いいか。午後の授業はまだ三分の一しか終わっていないけど、私たちは七時間も早く教室を出た。


でも、どこに行こうか?警備員が見張っている。うーん……分からない。二人とも分からないまま、教室の近くの亭子に座り込んで、白い太陽の下でお互いにもたれかかった。本当は他にも解決方法があるけど、私たちはエネルギーを使い果たしてしまって、仮病の届けを出したり、壁を乗り越えたりする気力もなかった。午後五時になれば校門が開いて、喪失(ゾンビ)が出入りする。


私たちは自分たちがゾンビだと思っていた。生命の意味も、見えない未来も失った。ただ、イロクと一緒にいると何もかもがどうでもよくなった。


「この後はどうなるの、兄ちゃん」


「やりたいことをやればいいよ」


「抹茶チョコレート味のアイスが食べたい」


「不由(ふゆ)は小さな町だよ」


うーん。 私たちは、いや、私だけが過去の記憶を失い、4歳を過ぎて何もない『不由』に生まれた。KFCやマクドナルドはバスで30分もかかる街にあるので、抹茶チョコレート味のアイスクリームはここにもないだろう。


舌で唇を舐め、幻想のアイスクリームの味を感じた。イロクは手を離し、人差し指を私の上唇に当てた。


「冷たい」


私は噛みついた。自分の手ではないから痛みを感じない。どんなに強く噛んでもかまわない。イロクは無表情のまま、手を引きながら言った。


「ここで切断したら、治すのが大変だから」


「魔法は使えないの?」


「現実世界には魔法なんてないよ」


二人とも45度向き合って座った。私は足を彼の脚の隙間に伸ばし、同じ黒いジャージが絡み合った。


「生きたくない」


心臓がなぜか痛み、だんだん彼の顔が見えなくなっていった。


「心儀の死に方は何」とイロクが尋ねる。冷たい手が私の首に伸びてくる。蛇が獲物を締め上げるように。私はその質問の答えがわからなかった。人は生きなければならないのだろうか?そうではないことを私は知っていた。やりたいことも、やるべきことも、やってはいけないことも、世界は常に後退していく。私はただ見つめていただけで、今はもう十分に見た気がする。もしできるなら、この星が一瞬で終わり、私の存在を消し去ってほしい、そんなふうに思っていた。


白い夜が流れていく。イロクが私の涙を拭い取ってくれた。天国からの音楽が聞こえてくるような気がした。


「僕は君を離さない」


「それは分かってるよ、だからここにいるんだ」


額をくっつけて無言のまま見つめ合う。イロクの目は何もない漆黒で、瞳の底にわずかな青が見えるだけ。私の目はそれとは対照的に灰白色で、瞳孔や虹彩の模様がはっきりと見える。その瞳が彼の目に映り込んでいた。


四歳から新しい生活が始まり、さらに二年が過ぎた。小学校に入って皆と馴染めず孤立していたとき、イロクが現れた。


私たちは体つきも顔も性別も同じで、表情までそっくりだったので、周りの人たちから怖がられた。しかし、私はもっと病弱で、貧血のせいで唇がほとんど白かった。


イロクは黒く、突然現れた、私の双子だった。


体育の授業では、走るのが遅すぎてみんなに笑われるのが死ぬほど怖かったし、他人のそんな視線を直視できなかった。 怖かったけど、みんなと一対一で戦わなければならなかった。 誰も私を助けに来てはくれなかった。「健康で幸せであればいい」と言う大人たちは、私が健康で幸せであること以上に、私がみんなより良い子であることを望んでいるようだった。


でも、私は役立たずだ。


「走りたくないな」


「そうだよね」


「でも久里(くろい)は背が高いから大丈夫じゃない?」


「そうだといいんだけど」


文句を言っている同級生の琴原に、私も軽い調子で合わせて言った。そうだ、幸いなことに私は他の人より背が高い。母はいつもこのことを誇らしげに話していたけれど、私はその母の態度が嫌だった。あなたは私の外見だけを見ているの?そんなんで、まだ私の家族と言えるの?


お腹が緊張で痛み始めた。


母の気持ちを理解しなければならないのは分かっているけれど、せめて今だけは彼女を愚痴り、逃げ出したい。遠くから聞こえる笛の音を合図に、私は走り出した。走路の長さを考えながら、他の人たちが次々と私を追い越していくのをただ見送るしかなかった。振り返ると、後ろには小柄な女の子が一人だけ残っていた。息ができず、脚はまるで本でいっぱいのリュックサックを背負っているかのように重く、一歩も前に進めない感じだった。それでも、なんとかゴールを越えた。


ここから逃げられない。


自分がどこにいるのかも分からず、無理に平静を装って立ち上がり、子供たちを見下ろした。遠くから琴原が「お前、遅すぎるよ」と言い、私の唇がさらに白くなっているのを見ていた。体育の先生も、私が倒れそうだと心配していた。


「大丈夫です、これは普通のことです」


「少し休んだ方がいいよ」


黒い影が赤いトラックの上に立っていた。それはまるで突然現れたかのようなイロクだった。彼が私のもとに歩み寄り、私を支える前に彼の声が聞こえた。イロクは私の代わりに先生に休むことを伝え、私は初めて会うこの見知らぬ人と一緒に教室へ戻った。


この人を知らない。名前もまだ知らない。でも、間違いなく、私たちの間には何かの『絆』が存在しているのだと感じた。


私たちだけの教室に座ると、彼が黒い小さなリュックサックを背負っていることに気づいた。黒という色は子供には似合わず、小学生の中ではあまり見かけない。彼は銀色の水筒を取り出し、ふたを開けて私に差し出した。私は他人と同じ水筒を共有するのが嫌いで、どんなに喉が渇いていてもその原則を破ることはなかった。しかし、今回は少しだけ飲んでしまった。


これは間接キスではないか。子供でもその意味は分かる。この言葉を頭に浮かべるだけで嫌な感じがしたが、実際にその状況に置かれると不思議と気にしなかった。

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