第8話 再戦


 翌日。

 いつものように配信を行いながらダンジョンへと潜り、今日は絶対に十階層まで進むという強い意思を持って歩みを進めていく。


 装備を整えた影響は思っていた以上に大きく、まず靴を新しくしたことで足が痛くならない。

 服も動きやすいものに変えたことで擦れて痛くなることもないし、登山用リュックサックのお陰で荷物の重さを感じない。


 意外とリュックが一番効果があり、様々な箇所にベルトがついているため体にピッタリと固定することができる。

 そのお陰で肩で背負うではなく、体全部で背負っている感覚。

 これが数千円で買えるのだから、この世界の技術の高さを改めて感じた。

 

「今日は中々のハイペースで来れてる! もう最高階層の九階層だよ!」

「装備を新調したのが本当に大きい。まだ体のどこも痛くなっていない」


:ダンジョンにいるのに普通の恰好だったから、縛りプレイしてんのかと思った

:そりゃあの恰好じゃ疲れるでしょ

:でも、ようやくミノタウロス戦。もうレベル1じゃないけど



 俺が有名になったのはミノタウロス戦から。

 視聴者の大半がミノタウロス戦を求めているため、ここは完勝といきたいところ。


 九階層もこれまでと同じように魔法を放って倒していく。

 低階層は弱い魔物しかいないため、初級魔法で倒せているのが大きい。


 敵が強くなるにつれて中級魔法を使わないとならず、恐らく中級魔法だと魔力の消費が大きいためワンフロアでの使用制限がある。

 上級魔法なら三発が限度だろうし、自分の魔力で魔法を使えるようになっておきたいんだが……レベルが上がっても魔力が増えている感じがしない。

 

 目標として定めた20階層くらいまでは大丈夫だろうが、それ以降の攻略を行うとなると魔法頼りの戦い方は難しくなる。

 その辺りのことも考えながら、しっかりと体を鍛え上げていきたい。


 そんなことを考えながらダンジョンを進んでいると、ようやく十階層へと続く階段が見えた。

 この階段を下ればミノタウロスがおり、五日ぶりにその顔を拝むことができる。


:階段キター

:やっと十階層

;余裕なのに大分かかったな


「いよいよだね! ミノタウロスと戦うの……怖いような楽しみなような半々の気持ち」

「怖がる必要はないぞ。ミノタウロスに負けることは絶対にない」

「菊川さんは本当に頼りになる! なら、サクッと倒して十一階層に行こっか!」

「ああ。こんなところで立ち止まっていられないしな」


:菊川がイケメンに見えてくる

:太ったおっさんなのにな

:実際戦っている姿はかっこいい


 割と好意的なコメントが流れているのを見てニヤけつつ、俺を先頭に十階層へと降りた。

 降りた先に広がっていたのは見覚えのあるフロア。

 

 これまでの入り組んだダンジョンとは違い、十階層は大きなワンフロアとなっている。

 今はまだ何もいないが……この間と同じようにミノタウロスの頭がフロアの真ん中から這い出るように現れた。


「み、ミノタウロス! え、映像を撮っておかないと」

「……せっかくだし一発で倒そうか」

「一発で? 何か特別な魔法を使うんですか?」

「ああ。上級魔法で仕留めるつもり」


:上級魔法?

:いや、使えないだろ

:中級魔法も見てないしな


 十階層はこのミノタウロスしか出現しないため、上級魔法を使うにはもってこいの場面。

 俺の魔力が増えない限り、上級魔法はこれからの探索では使う場面が限られているため、ここが使いどころと判断した。


 レベル1で倒したミノタウロスを、今度は日を置かずに上級魔法で倒したとなれば話題にもなるだろうし、話題になれば視聴者数も一気に増える。

 この数日間で視聴者から貰える投げ銭や、広告料にサブスク代は馬鹿にできないと気づいたし、ここで一気に注目を集める。


「菊川さん、私は何をしてればいいの?」

「後ろで見ているだけでいい。いずれは舞にもミノタウロスを倒してもらいたいけどな」


:本当に上級魔法使うの?

:レベル1で中級魔法も驚いたけど、レベル12で上級魔法のがヤバくね?

:マジで使えるならバグだろ!


 コメントは大半が疑っているようだが、本当だったら面白いという期待感のようなものを感じる。

 視聴者数も500人を超えており、十分すぎるぐらいの人が見てくれている。


 地中から顔を出したミノタウロスが這い出て、全身が姿を現した。

 見た目は相変わらず強そうではあるが、上級魔法なら一瞬で消し炭にできるだろう。


:これマジで上級魔法?

:使えないに100万ペリカ

:なんか使えそうな雰囲気あるけど


 コメントが盛り上がっているのを横目で見つつ、俺はミノタウロスに向けて手を向けた。

 後は周囲の魔素を魔力に変え――魔法を唱える。


「【クリムゾンエクスプロージョン】」


 真紅の火の球がミノタウロスに向かって飛び、そして範囲内に入った瞬間に魔法を起動。

 火の球は大爆発を起こし、フロア全体が真紅の光に包まれた。

 

:ファッ!?

:マジで?

:本当に上級魔法じゃん

:てか、マイちゃん生きてるの?

:画面が真っ赤で何も見えん


 熱気は俺のところまで届いているが、ちゃんとダメージが負うことがないように調整を行っている。

 俺の背後にいる舞には絶対に被害は及んでいない。


 真っ赤な光が次第に落ち着き始め、それと同時にフロアが見えてくる。

 先ほどまで立っていたミノタウロスの姿はどこにもなく、魔法の威力を物語る大きなクレーターだけ。


「…………す、凄すぎて言葉が出なかった」

「威力も調節したんだが怪我はないよな?」

「うん、若干熱かっただけで何もない。――って菊川さん、本当に凄すぎでしょ!? 何なの今の魔法!」

「さっきも言ったが上級魔法だって」

「上級魔法を使える意味が理解できない!」


:マイちゃん無事で良かった!

:菊川、マジで何者だよ!

:本当に上級魔法使いやがった!

:ミノタウロス消し炭。化け物で草

:隠れてる他の誰かが使ったとかじゃないのか?

:ドッキリにしか見えん


 魔法を使った後でも疑いの声は消えておらず、一応舞にフロア全体を映してもらった。

 まぁこれでも疑われるなら仕方がないし、使おうと思えばいつでも使える。


 それと……やはり予想していた通り、上級魔法を使うと一気にフロア内の魔素が薄れる。

 ワンフロアで上級魔法は使えて、二回が限度だということが分かった。


「ドロップアイテムが見当たらないな。もしかしたら消失してしまってるかもしれない」

「威力凄かったもんね! さっきの魔法でなんか結構投げ銭されてるし、ドロップアイテム分くらいは稼げてると思う!」

「なら、気にしなくていいか。それで、このまま次の階層に向かうか?」

「うん! 次の階層にワープゲートがあるから、そこから帰れるし、次はそのワープゲートから探索が可能になるんだ!」

「へー、そうなのか。初めて知った」


:なんで上級魔法使えるのに知らないんだよ

:菊川、本当に謎すぎる

:タイムリーパーとか? それぐらいしかあり得ない

:タイムリーパーってwww

:タイムリーパーも現実的じゃないけど、レベル12で上級魔法も現実的じゃないからな


 困惑しているコメント欄を見てニヤけつつ、俺達は十一階層へと降りた。

 このまま行けるところまで攻略してから、ワープゲートなるもので帰還するとしよう。


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