第7話 装備一新


 初めてのダンジョン攻略から三日が経過した。

 ダンジョン攻略自体に大きな進捗はなく、最高到達階層が八階層となったぐらい。


 あと視聴者数もかなり増えたようで、今日の配信では400人も見てくれていたらしい。

 それでもまだまだではあり、今現在注目されているのも俺がミノタウロスを倒したという一時的な知名度があるから。


 そろそろ劇的な攻略を行いたいんだが、人間の体というのはそう簡単に変わるものではないからな。

 毎日のダンジョン攻略の後にトレーニングと体力作りを始めたのだが、まだまだ成果の方は出ていない。


 そこで、いち早く十階層に到達するために大事なのは、菊川の体をどうにかするではなく装備品を整えること。

 そう結論付けた俺は、舞と共に装備品を買いに来た。


「ここがホームセンター! 色々なものが安く売っているんだよ!」

「凄い大きな店だな。武器とかも売っているのか?」

「武器は……売ってないかも。ダンジョン用のお店とかもあるんだけど、そっちはめちゃくちゃ高いからね。ホームセンターで武器っぽいものを買うのが無難だと思う」

「なるほど。安いもので代用するって感じか」

「そういうこと! 思えば、菊川さんの装備は初期装備もいいところだもんね。一式揃えるつもりで買い物しよう! 足りない分は私が立て替えるし!」

「いつもすまないな。舞には世話になりっぱなしだ」

「私もダンジョンでは菊川さんに頼りっぱなしだしお互い様! それじゃ手分けして探そう! 電話の仕方はもう完璧だよね?」

「ああ。教えてもらったから電話はできる」

「私は右側から行くから、菊川さんは左側から探して!」

 

 そう言うと、舞は俺の装備品を探しに行った。

 今直接伝えはしたが、全てにおいて本当に世話になりすぎている。


 このスマートフォンという機械も舞に買ってもらったし、今月分の家賃や生活費も出してもらった。

 流石にそろそろ舞のメリットにならないと、若い女の子に世話だけしてもらっている本当のクズとなってしまう。

 そのためにも気合いを入れ、装備品探しを行った。



 それから二人で二時間をほどかけ、ホームセンターなる店で目ぼしいものを何点か見つけた。

 まずは一番大事なものといえる、上下の一式装備。


 防御面はかなり弱いが、動きやすさに特化した質の高い服。

 太った俺でも楽に着られるため、これで大分楽になると思う。


 次は軽さと耐久性に優れた運動靴。

 今はボロボロのスニーカーを履いており、サイズも微妙に合っていなかったせいで靴ズレも酷かった。


 靴底も擦れてなくなっているせいで、無駄に疲れるのも完全にこの靴のせい。

 靴を変えるだけでも大きな変化があると思う。


 後は背負うことのできる登山用リュックサック。

 それから武器になりそうなバールとハンマーを購入した。

 打撃武器は使ったことがないため、ほとんど護身用になると思うがないよりはマシ。

 

「こんなものかな? 他に何か必要なものありそう?」

「いや、十分だと思う。完全にダンジョン攻略装備って感じなった」


 パッと見だけでも大分違うため、ダンジョンも進みやすくなったはず。

 明日は十階層を目指し、ミノタウロスの攻略を確実に行いたい。


「値段は……20000円くらいか! やっぱりホームセンターだと安く済むね!」

「20000円なら自分で払える。ダンジョンで拾ったドロップアイテムで34000円稼げているからな」

「なら、自分で払ってもらおうかな! ……ふふ、なんか一気に恰好が探索者っぽくなったね!」

「舞のお陰だな。ちなみに舞はどこで装備を揃えたんだ?」

「私はダンジョン装備の専門店! お金には余裕があったからそっちで買ったんだけど……現状を考えると、絶対にホームセンターで良かったし無駄な出費しちゃってる」

「そんなことはないと思うぞ。明日には十階層を攻略するつもりだし、そこからはドンドンと奥まで攻略するからな。その装備が輝く日も近いと思う」

「なんか……菊川さんが言うと、本当にそうなるんじゃないかと思えるから不思議!」

「いや、本当にそうなるんだけどな」


 この体をどこまで鍛えられるかに懸かっているが、本気で最高到達階層を塗り替えるつもり。

 何なら最下層を目指すつもりでいるし、舞には最後まで付き合ってもらいたいと思っている。


 そんなことを考えながら、ホームセンターでの買い物を終え、俺達はご飯を食べに行くこととなった。

 ダンジョン攻略を行った後、そのままの足でホームセンターに来たため腹が空きまくっている。


 この世界の飯は本当に美味いものが多く、痩せるために節制をしているが……これだけ太ったのも分かってしまうぐらい、どんな料理も非常に美味しい。

 24時間いつでもやっているコンビニという小売店の料理ですら、レベルが高すぎて驚いたからな。


 家に転がっているカップラーメン一つとっても美味しいため、本当は全ての料理を爆食したいところだが、それは痩せてから行うと決めている。

 今はとにかく太らないようにするため、舞が美味しそうなディナープレートを頼んでいる中、俺はサラダのみで済ませた。


 飯を食った後は舞と別れ、家へと一人で戻った。

 後は寝るだけなのだが……スマホとやらの使い方を教わるついでに、家にある機械の使い方についても学んだ。


 この機械はパソコンというものらしく、このスマートフォンの機能を高めたものらしい。

 使い方を教わった日から、俺はこのパソコンを使ってダンジョンの動画を見まくっていた。


 本当にこの世界の技術は凄まじく、ありとあらゆる情報をネットを通じて調べることができる。

 ダンジョン関連のものも映像として残っており、俺達も配信しているサイトではリアルタイムで攻略している様子が見ることができる。


 視聴者目線に立ってどんな情報を欲しているのかを考えながら、ダンジョンの情報についても頭の中に叩き込んでいく。

 これだけ情報が手に入るのであれば、ダンジョン攻略自体はイージー。


 正直、パソコンにかじりついて情報を集める日を設けてもいいぐらいなのだが、今の俺はその日暮らしのため、毎日金を稼がないといけないというのが厳しいところ。

 調べれば調べるだけで情報が見つかるため、程よいところで情報収集を止め、明日に備えて眠ることにした。


 装備品も整ったし、一応オオミヤダンジョンの二十階層までは調べた。

 調べた限りでは今の菊川の体でも攻略可能なため、五日以内に二十階層攻略を目標に動きたい。


 深い階層に潜れば潜るほど出現する魔物が強くなり、ドロップアイテムの買い取り額も上がっていく。

 視聴者の需要も高まるし、良い事尽くめだからな。


 装備を一新したことで、気持ちも新たに明日の攻略に向けて眠るとしよう。

 ワクワクすることなんて久しくなかったため、俺は心地よい胸の高鳴りを子守歌代わりに眠りについた。




―――――――――

菊川 雅紀

レベル12

スキル なし

所持金 12458円

借金 3000万円

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