第9話 宝箱
ミノタウロスを倒し、十一階層へと降りた。
すると、上の階層への階段が閉ざされて戻れなくなった。
「あれ? 上の階層への階段が消えた」
:上の階層へは戻れないよ
:入口から十一階層まではワープできるし、そこにあるワープ石で入口まで戻れるからな。
:十一階層にワープした後、十階層に戻ってミノタウロス狩りをされない対策だって言われてる。人が運営しているとは思えないダンジョンで、対策されてるってのはよく分からんけど
なるほど。
確かに対策と言われると人為的な何かを感じるが、とりあえずボスであるミノタウロス狩りが簡単にできないようになっているのか。
ミノタウロスを狩りたいのであれば、一階層から攻略して十階層まで降りなくてはいけない。
手順をしっかりと踏まないといけないようだ。
「菊川さんどうする? このまま進む? それとも今日は戻る?」
「このまま進もう。まだ体力は残ってるから、どんな魔物がいるのかも見てみたい」
「了解! それじゃレッツゴー!」
テンションの高い舞についていき、十一階層の攻略へと向かう。
十一階層で最初に現れた魔物はパラライズフロッグ。
体を覆う粘液には毒があり、触れると体が麻痺してしまう結構面倒くさい魔物。
前世では毒に対して完全耐性を持っていたため、毒持ちの魔物は何てことなかったのだが、この体は普通に毒を食らうからな。
毒への対策も何も講じていないし、触れないようにだけ十分気を付ける。
「うわっ! 色味の気持ち悪いカエル!」
「黄色と黒で見るからに危険な色をしていて不気味だよな」
「あのカエルの魔物についても何か知っているの?」
「ああ。パラライズフロッグといって麻痺性の毒を持っている魔物だな。ちなみにカエル系の魔物総じての弱点は動かないこと」
「動かないこと……?」
「そう。動いている獲物には超反応を見せるが、止まっている獲物には逆に何もできない」
「へー、止まってる相手のが苦手ってなんか変わってるね!」
「その特性を利用して、立ち止まって魔法を放つだけで簡単に狩ることができる」
俺は弱点である火属性の魔法を使い、あっという間にパラライズフロッグを仕留めてみせた。
――うん。まだ初級魔法で対応できそうだな。
……ただ、魔力がないだけでなく攻撃魔力の能力も低いようで、魔法の威力がかなり弱い。
【クリムゾンエクスプロージョン】を使った時に気づいたが、前世の中級魔法の威力と菊川の体で放つ上級魔法の威力が同等。
魔法が問題なく使えるからといって、前世と同じ感覚で戦っていたら駄目だということをしっかりと頭に叩き込まないといけない。
:菊川さん本当に博学
:てか、知識の偏りがエグい
:生物博士とかだったりしてな
:てか、マイちゃんが戦うところ見せろ
生物博士はあたらずとも遠からずって感じだな。
コメントを流し見しながら、俺は次々と現れる魔物を狩っていく。
十一階層からは虫系の魔物が多く出現し始め、ポイズンモスやブラックフライなどの飛行系の魔物に加え、下の階層にもいたヨロイアリや爆弾ダンゴムシなどの地を這う魔物も多く出現した。
「な、なんかこの階層嫌だ! めちゃくちゃ虫の魔物が出るじゃん!」
「苦手なのか?」
「うん……。虫ってなんか見た目が気持ち悪くない?」
「まぁ直接手で触れたくはないな」
:20階層までは虫型の魔物多いよ
:てことは、マイちゃんの戦闘はしばらく見れないのか
:Gの魔物がいないのがまだ救いだね
舞が虫を嫌い、戦闘を行わないことを残念に思うコメントが寄せられながらも、視聴者数はあまり減っておらず500人前後で安定している。
時折、お金もくれるし本当にありがたい。
「虫型の魔物のドロップアイテムは似通ってるな。それに高く売れなさそうだ」
「玉みたいなのだよね? 売れないのかな?」
:基本的に100円買い取りだったはず
:虫の命塊は人気ないもんな
:そういえばマイちゃんと菊川ってずっとダンジョン配信してるけど、他に仕事してないの?
「俺はしてない」
「私もしてないよ! 半年前まではバリバリ働いてたけど!」
:菊川は予想通りだけど、マイちゃんは意外!
:このご時世に配信一本は大変そう
:二人で配信ってことは報酬も半分だろうしね
:ちなみに菊川はダンジョン配信する前は何してたの?
俺と舞を憐れんでか、お金が結構投げられている。
ありがたいが、理由が理由だけに少しだけ悲しくなるな。
「俺は何もしてなかった。舞にダンジョン攻略を誘われなきゃ、一生働いていなかったかもしれない」
:ずっとニートは菊川っぽいwww
:でも、探索者としての才能があったんだから人生何が起こるか分からんね
:菊川にとってはマイちゃんが救世主なんだ
コメントとそんな和やか会話をしながら進んでいると、あっという間に15階層まで辿り着いた。
装備を整えたとはいえど、流石に体力の限界が近づいてきている。
ドロップアイテムもかなり順調に集められているし、今日はこの辺りで戻った方がいいだろう。
そう思って先を進んでいる舞を呼び止めようとしたその時――前を歩いていた舞が大きな声を上げた。
「あっ! 菊川さん、ちょっとこっち来て!」
「どうしたんだ? 急に大きな声を上げて」
「いいから早く!!」
俺はすぐに舞の下へと駆けつける。
疲労も溜まっている上、ただでさえ体が重くて走るのも大変だが、舞が指さしている方向にあるものを見て一瞬で疲れが吹き飛んだ。
ダンジョンには似つかわしくない、宝箱のようなものが乱雑に置かれていた。
宝箱に似た魔物であるミミックはいたが、前世のダンジョンでは宝箱なんてものはなかった。
:うおおおおおおお!
:宝箱きたああああ!!
:木の宝箱だけど、初なら何でもOKでしょ
コメントも一気に盛り上がっており、見た目通り宝箱のようだ。
中に何が入っているのか、一切見当もつかないこともあって非常にワクワクする。
「ど、どうする? 菊川さんが開ける?」
「舞が見つけたんだし、舞が開けていいぞ」
「わ、分かった。中身はお互いのものってことで!」
そう言ってから、舞はゆっくりと木の宝箱を開けた。
中に入っていたのは――小さな銀色の指輪。
箱の大きさがそれなりだっただけに、出てきた小さな指輪に思わずため息をついてしまう。
……ただ、何かしらの効果が付与されているアクセサリーなら大きい。
「指輪だった! ……ただの銀の指輪なのかな?」
「分からない。身に着けてみたらどうだ?」
「呪いの装備とかじゃないよね?」
「いや、分からん」
:アクセすげええええ!
:木の宝箱からアクセは大当たりでしょ
:指輪の裏に何か書いてない?
:効果付きなら刻まれてるよ
コメントで色々と教えてくれており、少し落胆していたが大当たりらしい。
舞は早速指輪の裏に何か刻まれていないか確認すると、どうやら刻まれていたようで満面の笑みを見せた。
「敏捷って書かれてた!」
「敏捷? ってことは、敏捷の指輪か?」
:敏捷は当たり!
:ベルカリで50万で取引されてる
:一気に当てたな。やっぱダンジョンは夢あるわ
コメントを読んで、俺と舞は手を取り合って喜ぶ。
こんなちっさい指輪が50万で取引されているのか。
まぁ前世でも効果付きのアクセサリーは希少ではあったが。
それにしても、いきなり50万のアイテムを拾うなんてことがあるんだな。
俺があと数十秒早く帰還することを提案していたら、敏捷の指輪が手に入っていなかったと思うとめちゃくちゃ怖い。
ダンジョンはダンジョンでも俺のいた世界のダンジョンとは大きく違い、かなりエンタメに特化しているように思える。
最後の最後で大きなアイテムを拾えてホクホクの俺と舞は、ルンルン気分で帰還することにしたのだった。
―――――――――
菊川 雅紀
レベル14
スキル 火属性魔法
アイテム 敏捷の指輪
所持金 12458円
借金 3000万円
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