第2話 未知の世界
ダンジョンの魔素を使っての魔法で、何とか死なずにダンジョンの外に出ることができたが……一体ここはどこなんだ?
ダンジョンの外は俺の知っている世界とは全くの別世界が広がっており、周囲をキョロキョロしながら呆けてしまう。
王都に初めて訪れた時もその凄さに放心状態となったが、王都とは比べ物にならないほどの近代的な場所。
ダンジョンよりもダンジョンの外の方が未知の場所であり、どうすればいいのか分からず立ち尽くしていると……そんな俺の下に一人の女の子が駆け寄ってきた。
何とも奇妙な服装をしているが、可愛さを前面に押し出したつい見入ってしまう恰好。
黒髪が基本でありながら、赤色が入った奇抜な髪。
小顔ながら目は大きくて鼻筋は高く、口は小さい超美形だ。
俺は首を傾げたまま見とれていると、女の子は俺の前で立ち止まり、凄い勢いで話しかけてきた。
「ねね! さっき配信してたのってあなただよね!?」
「はいしん? 配信って一体なんだ?」
「……えっ? 別人? ……いやいや、そんな訳ない! 特徴的な体型していたし、流石に見間違えないよ! ミノタウロスと戦っていたよね?」
「ん? ああ、ミノタウロスとは戦ったけど……なんで知っているんだ?」
ダンジョン内には誰もいなかったはず。
なんでこの女の子は俺がミノタウロスと戦ったことを知っているんだ?
「やっぱりそうだ! ……でも、何か様子がおかしい? うーん、とりあえず移動しよう! 人が集まる可能性あるし!」
女の子はそう言うと、ズンズンと歩き出して行った。
ついて行くべきなのか分からないが、右も左も分からない今の俺にはついていく以外の選択肢はない。
女の子の後を追って外に出ると、広がっていたのは一面灰色の世界。
歩きやすいように舗装されている――ということなのだろうが、それにしても凄い光景。
そしてそんな道には、物凄い速度の四角い乗り物が無数に走っている。
圧倒されるというよりも、恐怖の気持ちの方が強い。
魔物なんかよりも恐ろしい四角い乗り物にビビっていると、女の子はそんな四角い乗り物を一台呼び止めた。
「ささ、乗って乗って!」
「乗って大丈夫なのか?」
「もちろん!」
俺が乗り物に乗り込んだ瞬間、ドアが自動で閉まった。
魔道具のようにも思えるが、魔力は一切感知できない。
「どちらまで向かいますか?」
「どこにしようかなー? スタダがいいけど、話をするとしたらワックかなぁ! 二丁目のワックまでお願いします!」
「分かりました」
乗り物は動き出し、その速度に最初は震えるほど怖かったが……凄まじいほど快適。
めちゃくちゃなスピードが出ているのにも関わらず、道が完璧に舗装されているお陰で揺れが一切ない。
「……凄いな。この乗り物」
「え? 乗り物? なんかおじさん変わっているね!」
俺は窓に張り付いて外の風景を見ていると、あっという間に目的である店にたどり着いたようだ。
女の子がお金を払ってくれ、そのままの足で店内へと入る。
当たり前のように自動で扉が開き、店の中は美味しそう匂いで充満している。
食欲をそそる匂いだが……いかんせん金がない。
「おじさんはなにか食べる?」
「いや、何もいらない」
「何もいらないは逆に困るんだけど……。なら、コーラとアイスティーでいっか!」
女の子が注文をすると、あっという間にカップに入った飲み物が提供された。
その提供速度に驚くも、ここまでで驚きっぱなしのため色々と慣れてしまっている。
「席は……っと、端の席が空いているから、あそこにしよう!」
俺は女の子と向かい合うように座ったが、未だに俺はどこにいて、そして何をしているのかさっぱり分からない状態。
「まずは名前から聞いてもいい? 私の名前は
「いや、俺の名前は……分からない。記憶が何もないんだ」
本当の名前を言おうとしたのだが、記憶を失くしたと伝える方がいいと思った俺は、咄嗟に記憶が失くなったと伝えた。
別世界の人間と伝えたところで、信じてもらえる可能性は低いと考えた。
「えっ!? 記憶喪失なんですか!」
「ああ。気づいたらダンジョンの中で目を覚ました。自分が誰だか分からない中、君が声をかけてくれたんだ」
「そうだったんですか……。何か持っているものはありませんか? 情報に繋がるかもしれませんよ?」
女の子にそう言われたため、初めて自分の体に何かないか探った。
一目見て分かるぐらいには荷物を持っていないのだが、後ろポケットに極薄の財布が入っていた。
「ポケットに財布が入っていた」
「中を見てみましょう! 身分証が入っているかもしれませんよ!」
俺は財布の中を見てみると、入っていたのは硬貨と身分証。
金貨が一枚に銀貨が三枚。それから銅貨と銭貨が十数枚。
思っている以上に金は持っているようだ。
それから身分証なのだが、顔写真と住所が記載されており、文字が読めるのはかなりありがたい。
というか、これが今の俺の顔なのか。
太っていて油ぎった感じの見た目。
目はくっきりとしていて、顔立ち自体は悪くないとは思うが、体型と年齢が大きなネック。
「身分証が入っていた。名前は……菊川雅紀」
「やっぱり菊川雅紀さんで合ってたのか! なら、色々と聞きたいことがあるんだけど、どうやって魔法を唱えたの? レベル1で間違いないはずだから、魔法は使えないはずだよね!?」
「魔法は空気に含まれている魔素を利用した」
「魔素を利用? なにそれ! 何で記憶ないのにそんなこと知ってるの!?」
「何で知っているのかも……分からない」
「うーん……色々と不思議すぎるけど、逸材なのは絶対に間違いないよねぇ……。あのさ、一つお願いがあるんだけど――私とパーティを組んでくれない?」
女の子が言い出したのは、パーティを組んでくれというお願い。
パーティって言葉は流石に知っている。
俺はずっとソロで活動していて、魔王だって一人で倒せると思っていたし実際に倒してみせた。
ただ……この世界では別。
右も左も分からない中、この未知の世界を一人で行動するのはあまりにも無謀。
俺をこうして導いてくれた訳だし、星野と名乗ったこの子とパーティを組むべきだろう。
……めちゃくちゃ可愛いしな。
「逆に俺なんかでいいのか? 記憶どころか何もない太ったおっさんだぞ?」
「もちろん! あの配信を見て、菊川さんとパーティを組みたいと思ったの私だけじゃないよ!」
「星野がいいと言うなら……ぜひお願いしたい」
「やったー! なら、決まりだね! パーティ結成を祝って乾杯しよう!」
飲み物が入ったカップを軽くぶつけ、一気に飲んだ――のだが、なんだこの飲み物!
ビールのようにシュワッとしていて、甘いのに爽やかで香りがよくて最高に美味い!
「この飲み物、めちゃくちゃ美味しい!」
「えっ!? コーラも忘れちゃっているの? ……これ、本当に大丈夫かな?」
心配そうな表情を浮かべている星野を余所に、俺はコーラなる飲み物を夢中で飲み干したのだった。
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