第9話
「こんなところがあるだなんて」
テナが驚きをあらわにしながらそうつぶやく。
二人を乗せたホワイトウルフはそのまま一番大きな穴の中に入っていった。
その穴はほかの簡素な穴とは異なり、植物などで飾り付けられている。
さらに両脇には何体ものホワイトウルフたちが並び、アリーザたちを歓迎しているとともに、この先に待ち受けているものがホワイトウルフたちにとって非常に大切なものであることを感じさせる。
「す、すごい光景だね。これだけたくさんのいるとちょっと怖いな」
「何かあったら私が守るから大丈夫だよ」
一斉に襲い掛かってきたときのためにアリーザはすぐにでも魔法を発動することができるように構えておく。
「たしかに、アリーザの実力なら安心かも」
そう話していると、大きな緑の葉でふさがれた部屋を二匹のホワイトウルフが守っているのが見えた。
襲ってきた個体とは違う、体中についた傷とひときわ大きな体から放たれる威圧感が歴戦の猛者であることを物語っている。
彼らは二人を乗せた仲間の姿を見て両脇に控えて中へはいれるようにする。
ゴクリとテナが息をのむのが聞こえる。
アリーザも警戒しながら中に入る。
しかし二人はそこで見たものに思わず目を見開いた。
そこにいたのは祭壇のような場所に正座した白髪の少女。
狩りでしとめた動物の毛皮で作られた灰色で袖の短い服と黒のハーフパンツを着たその姿は一見すると人間のようにも見えるが、頭についた白い耳と腰からのぞくしっぽが人間でないことを物語っている。
「きれーい」
少女の姿にそうこぼしたテナに、アリーザはこっそりと耳打ちする
「あれって、獣人だよね」
「たぶん。だけどこのゲームで獣人がいるだなんて聞いたことがないよ」
その少女は二人の姿を見て深々と頭を下げる。
「この度はこのような場まで来てくださりありがとうございます。わたくしの名前はホロウ。ホワイトウルフの姫です。どうぞおかけになってください」
ホロウと名乗る少女は自分の前に座るよう促す。
見ると摘み取られたばかりのまだ柔らかい植物が座布団のようにして敷かれている。
いわれるがままに座った二人は、気になっていることについて聞き始めた。
「それで?どんなようで私たちをここに呼んだの?」
「それについて話すにはまずわたくしたちがここまでやってきた理由について話さなくてはなりません。わたくしたちホワイトウルフはもともと第四界で生活しておりました。しかし時の獣王の圧政に反旗を翻したわたくしたちの祖先は敗北し、この第一界へと移り住むこととなったのです」
そのまま説明を続けようとしたホロウに対してアリーザは「ちょっと待って」と話を遮った。
「その第一界とか第四界っていうのは何なの?」
アリーザの疑問に右手に座るテナがこたえる。
「そういえば説明してなかったね。このゲームはいくつかの界層に分かれていてね、いまわたしたちがいるのが第一界。みんなは始まりの世界って呼んでる。そのほかにもいくつもの界層が存在していて、次の界層に行くにはそれぞれを守るゲートキーパー、つまりすごく強いボスモンスターを倒さないといけないんだ」
「なるほど。じゃあその第四界っていうのは四番目の界層っていうこと?」
「たぶんね。だけど今はまだ第三界までしか行けないから確実なことは言えないな」
二人の話が落ち着いたのをみてホロウは「話を続けても大丈夫でしょうか?」と口を開いた。
「あ、うん。続けて」
「なんとかこの界層に移り住んだわたくしたちの祖先でしたが、元の界層とこの界層とでは環境が大きく異なりました。比較的平和なこの地で暮らすうちにその力は少しづつ低下していき、今となっては一族の統率者のみがかつてと同じような姿で力を扱うことができるようになったのです。しかし、それでもかつての一族とは比べ物になりません。ましてわたくしは歴代の統率者の中でも最も力が弱いのです。両親がすでにいない今、このままでは我が一族は滅んでしまいます。そこで、あなた方来訪者の中から信頼できる方を見つけ、その戦いを学ばせていただきたいと考えたのです」
「そのためにわざわざ襲ってきたの?」
「その節は誠に申し訳ございません。しかし・・・」
言いよどむホロウに疑問を抱いていると、ホロウではなく後ろに控えていた二人をここまで連れてきたホワイトウルフの一体が突如として口を開いた。
「姫を任せる以上、しっかり見極めなくてはな」
「しゃ、しゃべった⁉」
テナは驚くが、アリーザは平然としている。
(姫だけ生まれもって人間の言葉を話せるとは思えないからほかにも話せる人がいて当然だよね)
「だからってあれは厳しすぎるって!」
突然ホロウが大きな声でそう告げた。
当然のさっきまでとは違う大きな声と口調にアリーザとテナがぽかんとしているのを見たホロウはしまったという表情で「あ!」と声を漏らす。
顔を赤くするホロウを見ながら、後ろのホワイトウルフは「まったく」と首を振る。
ホロウは顔を赤くしたまま「こほん」と軽く咳払いをして再び落ち着いた表情で2人を見る。
「どうかわたくしをあなた様の旅路に同行させていただけないでしょうか」
「・・・無理にその話し方をしなくてもいいよ」
(さっきのが素なんだろうな。きっと一族の統率者としての威厳を保とうとしているんだろう。私も魔王として幹部や民たちと話す時はなるべく威厳があるように話すからなんとなく共感できるし)
アリーザの言葉にテナもうんうんと頷く。
二人の反応にホロウは「そ、そうですか?」と恥ずかしそうに笑いながら「では」と言い直した。
「あたしをあなたの旅に一緒に連れて行って!」
ホロウの頼みをアリーザは改めてよく考える。
アリーザの世界における獣人は大昔に魔族と人間の間に生まれた種族である。そのため人類の仲間でもあるはずなのだが、人類は自分たち以外の種族を全て敵とみなして攻撃を仕掛けた。
それを見かねた先代の魔王が獣人を受け入れたことにより、獣人はそのほかの種族と同じく魔族の庇護下に置かれた。
そのためアリーザにとって獣人も魔王として守るべき存在であり、この頼みを断るつもりなどなかった。
「いいよ。その頼みを引き受けるよ」
アリーザの返事にホロウはぱぁっと顔を明るくした。
「本当⁉ありがとう!」
ホロウのしっぽが元気に左右に揺れる。
そのとき、アリーザの前にクエスト達成を告げるメッセージとともに新しいジョブが解放されたことを知らせるメッセージが表示された。
『特殊ジョブ『白狼の主』が解放されました』
(『白狼の主』?)
疑問に思うアリーザだったが、その思考はホロウの元気な声にかき消された。
「そうと決まればちょっとまってて!」
ホロウはそう言い残してどこかへとかけていった。
その背中を見ながら残る二体のホワイトウルフは「はぁ」とため息をこぼす。
「まったくお元気なことだ」
「さよう。しかしあの元気さが我々に希望を与えてくださるのもまた事実」
そこまでいって、二体はアリーザの方を向いて頭を下げる。
「どうか姫様のことをよろしくお願いいたします」
「もちろん」
アリーザと二体のホワイトウルフがそうして言葉を交わす中、テナは「あれ?これってわたしがいる意味あったかな?」と首をかしげるのであった。
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