第8話

 距離が近くなったことで迫ってくるオオカミの名前が表示される。

「ホワイトウルフ?」

 その名前を見てテナは苦笑いを浮かべる。

「どうかしたの?」

「前に街でこのランダムクエストについて聞いたことがあってね。ホワイトウルフはレアなモンスターで経験値やドロップアイテムがすごく多いんだ。でも、その分すごく強い。攻撃力は高いから近づいてくると厄介だし、魔法への耐性も高い。何より必ず相手よりも多い数で襲ってくるんだ」

 二人が話している間にオオカミが前に立つテナめがけてとびかかる。

 迫りくるオオカミの鋭い爪による攻撃をテナは剣で受け止めて後ろへとはじき返す。

 テナはそのまま何匹かの攻撃を引き受けるが、残るオオカミがアリーザへと迫る。

「気を付けて!」

「大丈夫」

 アリーザはかわすそぶりを見せることなく手を軽く上にあげる。そしてそのまま襲ってきたホワイトウルフを地面にたたきつけた。

 ドカンッ!という爆発音のようにも聞こえる音を立てて地面にめり込んで消滅したホワイトウルフ。

 それを見た残りのホワイトウルフたちは連続で攻めてくるのをやめて、アリーザを囲むようにして距離をとる。

(一斉に襲ってくるつもりみたいだな。一対一での戦いは分が悪いと判断したのかも。群れで襲ってくる分統率が取れているみたい)

 しかし、アリーザの戦い方は本来魔法が主力である。

 アリーザがあえて隙を見せると、ホワイトウルフたちは一斉にアリーザに向かって攻めてきた。

 焦ることなくアリーザは右手に構えた杖を振り下ろす。

 ドーンという音とともに、ホワイトウルフたちめがけて黒い雷が落下する。

 その攻撃はホワイトウルフの魔法耐性をものともしないで塵となって消滅させる。

 一方的ともいえるその攻撃にいまだテナと交戦しているホワイトウルフたちだけでなく、離れたところから様子をうかがっていた残りのホワイトウルフたちも動揺し動きが止まる。

 その様子を見ながら、ゆっくりと歩を進めるアリーザは淡々と口を開いた。

「さて、私としては別に無理に戦うつもりはない」

 その威圧感にホワイトウルフたちは思わず後ろへとじりじりと後退する。テナもまた、先ほどまでとは違うアリーザの雰囲気に圧倒され、自身が相手にしているわけでもないのに自然の身体に緊張が走り、呼吸が荒くなる。

 アリーザは杖を上へと掲げる。

「ただし、これ以上戦いを続けるのなら、容赦はしない」

 その言葉とともに、アリーザの魔法によって出現した白い火球が、まるで太陽がもう一つ出現したかのようなまぶしい光であたり一帯を照らす。

 熱の放出は抑えられているが、それでもみればこのあたり一帯を跡形の幕燃やし尽くしてしまうだろうことは容易に想像ができるほどの大きさと魔力量を持っている。

「さあ、どうする?」

 アリーザは変わらない口調でそう尋ねる。

 別にアリーザとしてはホワイトウルフたちをこの場で倒してしまおうとは考えていない。

 しかし、返答次第ではテナは防御魔法で守って、ホワイトウルフたちは殲滅しようとしていた。

(さて、これでもまだ攻めてくるか、あるいは逃げ出すか)

 しかし、ホワイトウルフたちの反応はアリーザの予想に反するものだった。

 突然オオカミたちがアリーザに対して首を垂れたのだ。

 クウンとさっきまで威嚇していたとは思えないような声をだす。

 その様子にアリーザはあっけにとられるが、戦う意思がないことは理解したため魔法を解除する。

 同時にそれまでの威圧感もなくなったことで、ハッと気を取り直したテナがアリーザのもとに駆け寄ってくる。

「ちょ、い、今の何?」

 動揺からかその口調はいつもよりも早い。。

「あんな魔法があるだなんて聞いたことがないよ。ううん。何ならどんなボスモンスターすらもあんなに強大な魔法を使ってるのなんて見たことがないよ。アリーザっていったい何者?」

「何者って言われても。私は」

 魔王だよと言いかけた時、テナが「ストップ」とアリーザの口を手で覆う。

「ごめん。リアルのことを聞くのはマナー違反だよね」

 そういって謝ったテナにアリーザは「いいよ気にしなくて」という。

 「へトスの武器の能力かな。でもいくら何でも強すぎるような」と一人でつぶやくテナに対してアリーザは「ところで」といまだに首を垂れているオオカミたちを見る。

「これってどういう状況?」

「わからない。なにしろ今までこのクエストを受けてきた人たちはみんな全滅させるか逆に自分たちが全滅するかだったから。こんな状況はたぶん初めてなんじゃないかな」

「ねぇ。君たちは一体何がしたいの?」

 アリーザの質問にホワイトウルフたちは体を起こして後ろを見る。

 その中でも最も体の大きな二頭がそれぞれ二人の方を見た。

「乗れっていってるのかな」

「そうかもしれないね」

 二人はオオカミの背中にまたがる。

 二人がしっかりと乗ったのを確認したオオカミたちは来た道を勢いよく駆け出した。

 突風のような速さにテナは「うわ!」と驚くが、アリーザは(飛んだ方が速いけど言わない方がいいかもな)と考える。

 二人がそれぞれ違うリアクションをしている間に、ホワイトウルフたちは森の中へと入る。

 次第に霧が立ち込めてきた道をホワイトウルフたちは迷いなく右へ左へと進む。

 しばらく走った後、だんだんと霧が晴れてきた。

 そしてそこに映った光景にテナだけでなくアリーザも思わず目を見開いた。

 巨大な崖が両脇を囲い、いくつもの洞窟があるその場所には何体ものホワイトウルフがアリーザたちの様子をうかがっていた。

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