第7話
街の外に出たアリーザは、テナに案内されて目的の薬草を採取することができる場所までやってきた。
色とりどりの植物が咲き誇るその場所はまるで花畑のようにも見える。
「さて、今回採取するのは何だったか覚えてる?」
ふふんと鼻を鳴らしながら試すような口調でそう聞いてくるテナに、アリーザはクエストを受けるときに説明された内容を思い出しながらこたえる。
「【スプラッシュハーブ】、【氷結花】、【送風華】がそれぞれ5つずつだったよね」
「正解!それからへトスに渡す分も含めて多めにとっていかないとね。と言ってもやみくもに探しても時間がかかるから」
そう言ってテナは自身のアイテムボックスから3種類の植物を取り出した。
「これがそれぞれ【スプラッシュハーブ】、【氷結花】、【送風華】だよ」
アリーザはテナが持つ植物をよく見る。
【スプラッシュハーブ】はオレンジ色の茎に水色の葉が付いているが、特徴としてその葉にいくつもの気泡のようなものが見える。
【氷結花】は淡い水色と白色の花で、一見すると氷で作られた花のようにも見える。そしてその言葉通りわずかに冷気を放っている。
【送風華】は風が風車のように渦巻いている萌黄色の花で、耳を澄ますと風の音が聞こえてくる。
「これを探せばいいんだね?」
「そう。特徴的な植物ではあるけど、このたくさんの花々の中から探し出すのはそれなりに根気がいるよ。でもここには危険な植物はないし、ほかにも役立つ植物がたくさん生えているから気長に探していこう!」
「見つけた」
「え?」
突然のアリーザの言葉にテナは困惑するが、それを気にすることなくアリーザは迷いなく花畑の中を進む。
そしてそのままいくつもの植物を両手に抱えてテナの元まで戻ってきた。
アリーザは手に抱える植物をテナに見せる。
「これであってるかな?」
そう聞いてくるアリーザにまさかとは思いながらもテナは一つ一つ確認していく。
「【スプラッシュハーブ】、【氷結花】、【送風華】。う、うん。あってる。いったいどうやって見つけたの?」
テナの質問にアリーザは首をかしげる。
「探索魔法を使っただけだよ?それぞれどんな薬草なのかわかったからあとはそれを見つけるだけでしょ?」
「探索魔法?たしかに特定のものを探し出す魔法は聞いたことはあるけど、それは一度に一つまでだったはずだし、何より必要なMPが多いからよほど重要なものを見つけ出す時以外は使用されないって話だけどな。大丈夫?MPすごく減ったりしていない?もしそうだったらMP回復薬の予備があるからあげるけど?」
テナの心配に、アリーザは自分のゲージを確認する。
「大丈夫だよ。へっていないから」
「減ってない⁉嘘でしょ⁉」
「嘘じゃないよ。もともとの20に武器で増えた分が加わって40でしょ?うん。やっぱり40のままだよ」
なんてことないように言うアリーザに、テナは言葉を失う。
実際は消費MPが1にも満たないから減っていないように見えるだけでピッタリ40残っているというわけではないが、それでもその程度の消費ですんでいるのはアリーザが現実でも魔法を使えるからこそである。
もちろんアリーザはそんなことは知らないし、テナもまたアリーザが現実でも魔法が使えるとは思っていない。
互いが互いの反応がよくわからないまましばらく二人は見つめあっていると、突然素早い何かが2人の方にかけてくるような音が聞こえた。
その音に二人はハッと気を取り直す。
「アリーザ!」
テナが腰の剣を引き抜きながらそう呼びかける。
「わかってる」
それにこたえるアリーザもまたいつでも戦うことができるように構える。
音のする方を振り向くと、そこには真っ白な毛並みをした腰の高さまであるようなオオカミの群れが牙をむき出しにしながら迫ってきていた。
『ランダムクエスト『狼姫との遭遇』が発生しました』
二人の前にそう書かれた画面が表示された。
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