第7話

 元来た道を進み、途中のわき道にそれる。それまでと打って変わって人気のない細い路地を進んでいくと、カコ―と鳥が鳴く小さなお店が見えてきた。

 アンビルとハンマーが描かれた看板の下には『ヘトスの鍛冶屋』と彫られている。

「ここが?」

 たしかに看板が下がっているのでお店なのだろうが、客の気配はなく、また看板が無ければただの家のようにしか見えない。

 だが、テナは「そうだよ」といいながら扉の取っ手をつかみ。

「やっほー!頼んでいたやつを受け取りに来たよ!」

 勢いよく扉をあけて中に入る。

 テナに続いてアリーザも中に入ると、そこにはぼさぼさの赤毛に青いつなぎを着た少年。テナとさほど変わらないくらいであろうが、その顔立ちにはまだ幼さを感じる。

 少年は突然響いた大きな音にびっくりしながらも、テナの姿を見ると「びっくりした。なんだ、テナか」とほっと息をつく。

その様子にテナは「何だって何よ」と言いながら、「それより」と尋ねる。

「おねがいしたやつはできてる?」

「ああ、それだったら」

 と自分の画面を操作しようとした少年は、テナの後ろに立つ見覚えのない少女の姿に気が付いた。

 その視線に気づいたのか、テナは「あ、そうそう」とアリーザの方を振り向いた。

「紹介するね。このぼさぼさした奴がわたしの友だちのヘトス」

 テナの紹介に、ヘトスは「どうも」とあいさつしたのち、すぐさまテナの顔を覗き込んだ。

「ちょっと、誰か連れてくるなら言ってよ」

 そう言い残して、ヘトスは店の奥へと消えていった。

「普段から誰が来てもいいようにしときなさいよ」

 その姿に「まったく」とため息をついたテナはアリーザに顔を向けた。

「あの通り、変な奴だけどわるいやつじゃないから」

 アリーザは「はぁ」と気の抜けた返事をして店の中に飾られている武具を見る。

 綺麗な装飾が施されたその武具は、見た目だけでなく性能も確かなものであることがうかがえる。

 その丁寧なつくりに感嘆していると、奥から「すみません」といいながらヘトスが戻ってきた。

 アリーザが顔を向けると、そこにはぼさぼさだった髪の毛をヘアバンドでかき上げ、大きな白衣を身にまとったヘトスがたっていた。

「ね、へんでしょ」

 テナの小さなつぶやきにアリーザは「確かに」とこぼす。

 二人のそんなつぶやきは聞こえていないようで、ヘトスは「はいこれ」と剣を取り出してテナに手渡した。

「ありがとう!」

「どういたしまして」

 そう言ったヘトスはアリーザを見てつぶやく。

「珍しいね。テナが誰かを連れてくるなんて。その恰好。初心者でしょ?」

「街の入り口であったんだ。いろいろと紹介した後、一緒にクエストに行こうってなったんだけど、わたしの普段の武器をヘトスに修理してもらってたからこうして受け取りに来たんだ」

 テナの言葉に「なるほど」とヘトスは頷く。

 そして、アリーザの方に体を向けた。

「改めて、ボクの名前はヘトス。テナの友だちで、鍛冶師をやっているよ」

 ヘトスの言葉にアリーザもまた自己紹介をする。

「私はアリーザ。この世界に来たのは今日が初めてで、さっきはテナにいろいろと教えてもらってたんだ」

「テナに振り回されたりしなかった?」

 気の毒そうに言うヘトスにアリーザは「そんなことないよ」と否定する。

 そんな二人の会話に頬をわずかに膨らませているテナは、「そうだ!」と何か思いついたかのような声をあげた。

「ねぇ、ヘトス。せっかくだし、アリーザに何か装備を見繕ってくれない?」

 テナの提案にヘトスは「いいね」と同意する。

「アリーザさん。どんな装備がいいとかある?」

「お金は気にしなくていいからね」

「それをテナが言う?まぁ、そうだけど」

 一方的に進む話に、アリーザは「でも、売り物なんでしょ」と断ろうとする。

 なにより正直な話、アリーザはこの装備のままでもさして問題ない自信があった。

 だが、ヘトスは「きにしないで」という。

「初心者でも装備できるようなものとなると限られるし、なによりテナの知り合いだからね。まぁ、ボクからの餞別とでも思ってもらえたらいいよ」

 ヘトスの言葉にテナも「せっかくだしもらっちゃいなよ」と続く。

 もはやどうしたって断れそうにないことを悟ったアリーザは「まぁそういうことなら」とあきらめて同意した。

(まぁ、怪しくはないからね)

 アリーザの言葉に満足そうに頷くヘトス。

「じゃあ改めて、アリーザはどんな装備が欲しい?大体の人はデザインか、戦い方に合わせた性能で選ぶんだけど」

 ヘトスの質問にアリーザは軽く考える。

 アリーザは長い生の中で様々な服装を着る機会が多かったが、だからこそ特にデザインにこだわりはなかったため、自身の戦い方に合わせた服装を選ぶことにした。

「大体の戦い方はできるけど、魔法を使って戦うことが多いかな」

「なるほど」

 アリーザの言葉に自身の画面を操作しながら「そうだなー」と考えるヘトス。

 しばらくすると「これはどう?」と一着の装備を取り出した。

 コルセットで軽く絞められた灰色のブラウスに赤黒いベスト。ベストの裾は下にはいた黒いショートパンツよりも少し長く膝上まで伸びている。動きを邪魔しない程度にレースとリボンがあしらわれ、アクセントとして金と赤の線が加えられたその服装は

「かわいいけど。なんか、魔法使いを通り越して魔族みたい」

 テナの感想にヘトスは「たしかに」とつぶやく。

「なんかアリーザを見てると不思議とこれがしっくり来たんだよね」

 ヘトスは再度アリーザを見て「どうかな?」と尋ねる。

「一度着てみたら?」

「それもそうだね。ちょっと待っててね」

 ヘトスは画面を操作してアリーザが試着できるようにする。

 それを受けたアリーザはさっそくそれを試着してみる。

 現在着ている初期装備が粒子となって霧散し、入れ替わるようにして渡された服装へと変化する。

「やっぱり!似合ってる!」

「着心地はどう?」

 ヘトスの問いにアリーザは軽く体を動かしてみる。

「うん。さっきの服よりも動きやすい。これにしようかな」

 アリーザの応えにヘトスは「よかった」とこぼした。

「その服には魔法威力上昇の効果がついているんだ。まぁ初心者でも装備できるようなものだからそんなに強くはないんだけど、それでも最初のうちは役に立つはずだよ」

「そんなものもらっていいの?」

「言ったでしょ。餞別だって」

 ヘトスの言葉にアリーザは「ありがとう」と感謝した。

 ヘトスははにかんだのち、「そういえば」とテナの方を見た。

「クエストに行くって話しだったけど、どこに行くの?」

 テナとアリーザはヘトスにクエストの概要について説明した。

「なるほどね。ちょっとまってて」

 そういってヘトスは自身の持ち物から回復薬の瓶を二つ取り出した。

「必要ないかもだけど、一応あげるよ」

「ほんとに⁉ありがとね!」

「ありがとう」

「いいって。じゃあ気を付けて」

 ヘトスに見送られて、二人は依頼へと出発した。

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