第6話

 ギルド会館を後にして街の外に出ようと歩いていると、「そういえば」とアリーザの前を歩くテナは振り返った。

「アリーザってまだ装備とか整ってないでしょ?せっかくだしさっきの買取で得たお金で武器とかを買いに行かない?」

「え?でもさっき武器屋の武器はそこまでいい性能じゃないって」

 疑問に思うアリーザにテナは「よく覚えているね」と頷いた。

「そう。だけどそれはあくまでNPCが経営している武器屋の話。ちょっと値が張るけど、プレイヤーが経営しているお店ならその限りじゃないよ。わたしの幼馴染で鍛冶屋をやっている子がいるんだけどせっかくだし行ってみない?」

「そういうことならぜひ」

 もちろんこれが詐欺の可能性があることもアリーザは考えていたが、仮にそうだったとしたらこのまま街でその友だちもろとも消し飛ばしてしまえばいいと考えていた。

 実際は街の中でのプレイヤーの一方的な戦闘はシステム的にできないようになっているため、アリーザであっても、ほかのプレイヤーに攻撃することができないからそんなことはできないわけだが。

「決まりだね。こっちだよ!」

 そういってテナが連れてきたのは街の大通りからは離れた、路地裏にある小さなお店。

 看板が掲げられているけれど、客が多いようには見えない。

 本当にここであっているのかと疑問に思うアリーザを他所に、『OPEN』と書かれたドアをテナは勢い良く開けた。

「やっほーー!へトスー!いるーー?」

 テナが大きく呼びかけると、店の中から少年のような声がする。

「僕ならいるよ。相変わらずお客さんはいないけどね」

「そんなへトスに朗報です!」

「朗報?」

「ほら、入って」

 テナに手招きされてアリーザも店の中に入る。

 そこにいたのはボロボロのつなぎにを着た、癖のあるぼさぼさの赤い髪の毛をした少年。

 まだ幼さの残る顔立ちとテナとそれほど変わらないむしろ少し低い身長から、テナよりも幼い印象を受ける。

「この子はアリーザ。武器を探しているんだけどへトス、なにかいいのない?」

 テナの言葉にへトスと呼ばれた少年は目を丸くする。

「お、お客さん⁉ちょ、ちょっとお待ちください」

 へトスは大慌てで店の奥に行く。

「まったく。そんな風に油断しているからお客さんが来ないのよ」

 隣でテナがそう愚痴を言うのを聞きながらアリーザはお店の中を見渡す。

 それほど大きくはないが所狭しとさまざまな武具が並べれられている。

 よく見ると壁に飾られているものはその中でもかなりの出来に見える。

 もちろんアリーザが現実で使う武器の方が優れているが、その出来は丁寧で十分兵士たちの武器の鍛造を依頼できそうなほどのものだった。

「こんなにすごいものをつくれるのに客は来ないんだね」

「まぁいかんせんここは人通りが少ないからね。大通りは物価が高いから仕方ないんだけど。それにしたってもう少し熱心に売り込んだらいいと思うんだけどな~」

 二人でそうはなしていると、奥から「うるさいな」とぼやきながらへトスが戻ってきた。

 先ほどまでのぼさぼさだった赤い髪の毛はヘアバンドで強引にまとめられ、ボロボロのつなぎは白衣に代わっている。丸い眼鏡も相まって鍛冶師というよりも科学者のようにも見える。

「あんた。その恰好おかしいよ」

 テナの突込みにへトスは「そうかな?」と首をかしげながら、「それよりも」とアリーザの方を見た。

「お客さんですよね。どのようなものをお求めですか?」

 へトスの言葉にアリーザは「そうね」と考える。

 アリーザは近距離でも十分に戦うことはできるが、本来は魔法使いだ。

 そのことを予算と一緒にへトスに伝え、そのうえで買うことができる魔法使い向けの装備を紹介してもらうことにした。

 アリーザの話を聞いたへトスは「なるほど」と頷いて説明を始めた。

「まず、強い武器であればあるほど要求されるステータスも高くなります。もちろんそれだけのメリットもあるんですが、無理に装備するとかえってデバフがかかってしまうので基本的に自分のステータスにあった武器や防具を装備することをお勧めします。また、ここで大切なのはこの時要求されるステータスというのはゲームでステータス画面で確認できるステータスのことをさします。テナが説明したかもしれませんが、このゲームでは現実での自分の能力が裏ステータスのような形で反映されます。つまり、現実でものすごく強い人であればただの木の枝であっても聖剣を使うような人相手に勝つことも理論上可能なんです」

「つまりこのゲームにおける武具というのはあくまでステータスを底上げする要素でしかないということ?」

「大体そんな感じです。たださっき言った例は実際には不可能でしょうし、何より武具にはそれぞれ能力がついていることがあります。そういった能力はステータス以上の強さを発揮することもあるので、どれほど力に自信があっても何かしら装備をすることをお勧めします」

 そこまで話してへトスは自身のステータス画面を操作する。

「いまある中で初心者でも装備することができてなおかつ性能のいいものですと・・・これですかね」

 そういってカウンターに出現したのは持ち手の下に青い宝石がつけられただけのシンプルな杖。

「持ってみてください」

 へトスにそう言われてアリーザは杖を手に取ると、目の前に杖の性能が表示された。

  『魔導を志す者』:MP+20 INT+10

   『向上心』:魔法の威力がわずかに上がる

「へー、たしかに魔法使いが最初に使う武器としてはいいかもしれないね」

 隣から覗き込んだテナはそういった。

「これはあなたが作ったの?」

「はい。これでも一応鍛冶師ですから」

「一応も何も、あんたゲームを始めてから鍛冶しかやってないじゃない」

「それってそんなに珍しいことなの?」

「そりゃそうよ。ほかにも鍛冶師をやっているプレイヤーは何人かいるけどそんな人たちもモンスターと戦うためにある程度戦闘は行うものだもの。なのにへトスときたら。モンスターから採れる素材は全部わたしに依頼しているのよ」

「でも、そのおかげで特殊なジョブが解放されたから悪いことばかりじゃなかったよ」

「『クラフトマスター』だっけ?解放条件がプレイ開始から鍛冶以外を行うことなく鍛冶系統スキルのレベルを上限まで上げるだなんてあんた以外誰が解放できるんだか」

 テナのぼやきにへトスは「ははは」と乾いた笑いをこぼしたあと、切り替えてアリーザの帆を再び見た。

「それで、こちらの商品を買いますか?よければ他のもお見せしますけど」

「いいえ。これでいいよ」

「かしこまりました。こちらは3000コインになります」

 へトスから来た請求画面にアリーザが3000コインを振り込むとアリーザの持ち物に杖が追加された。

 その時、へトスが「あ、そうだ!」と言って自分の持ち物から緑色の宝石を銀で装飾した首飾りを取り出した。

「これもよかったらどうぞ」

「へトス、これなんなの?」

 テナがその首飾りを見てそう聞いた。

「ボクが前に作った経験値を多くもらえる効果を持った装備だよ。効果は強力だけど適応されるレベルに上限があるから初心者の人にしか使えないんだ。でもアリーザさんにはちょうどいいかなと思って」

 そういってへトスは首飾りをアリーザに譲渡する。

「ありがとう。でもこれの値段は?」

「気にしないで。テナの紹介ということと初心者に向けたボクからのおまけみたいなものだと思ってくれればいいから」

「そうはいっても」

 アリーザは恩を受けたら必ず返すようにしており、借りを作ることが嫌いである。

 そのためこの装備に見合った金額を払おうと食い下がらないのをみて、へトスは「そうだな~」と考えたのち口を開いた。

「テナたちはこれからどこに行くつもりなの?」

「薬草採取のクエストを達成するために街の裏側まで行こうと思ってるよ」

 アリーザの回答にへトスは「だったら」といって話し始める。

「そこで採れる薬草をいくつか持ってきてもらってもいいですか?それとその装備の使い心地を教えてもらえると助かります」

「そんなことでいいのならまかせて」

「よろしくお願いします」

 感謝するへトスに見送られながらアリーザとテナはお店を後にした。

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