第5話

「さて、気を取り直してギルド会館を案内するね。まず正面に見えるのが冒険者ギルドの受付だよ。わたしたちプレイヤーはあそこでクエストを受けたり討伐したモンスターのドロップアイテムの買取をしてもらえるよ。あとは基礎ジョブにつく時もあそこで手続きをするんだ。クエストはここ以外にも街中でNPCからだったりいろいろなところで受けることもできるよ」

「基礎ジョブ?」

「ざっくりいうと最初から無条件でつける職業のこと。無条件だからどれも簡単なものだけど、それでも受けられる恩恵はあるからここで初めからジョブにつく人もいるよ」

「NPCっていうのは?」

 アリーザの問いにテナは驚いたような表情を浮かべたが、「本当にこういうゲームは初めてなんだね」と笑いながらこたえた。

「ノンプレイヤーキャラ。つまりはわたしたちプレイヤーとは違ってこの世界に初めから存在している人たちのことだよ。わたしたちプレイヤーは死んでもよみがえることができるけど、NPCは一度死んだらよみがえることが基本的にないんだ」 

「ふつうは死んだらそれまでなんだけどね」

 アリーザは何気なくつぶやいただけだったが、テナはその言葉にわずかに驚いた。

 それに気づいたアリーザは焦りながら「次に行こう次に」と促した。

「そ、そうだね。冒険者ギルドの横にボードがあるのが見える?あれはプレイヤーたちが自由に使える掲示板になっていて、あそこで情報交換やプレイヤーによる依頼がなされていたりするよ。有益な情報もあったりするから定期的に見てみるといいよ」

 続いてテナは左の受付を指さす。

「あっちは農工業ギルド。街にある食べ物のお店や武器屋や防具屋を統括しているギルドで、その手のジョブにつくときはあそこで手続きをするよ。ほかにもあそこで受けられるクエストをこなしたらお店で割引が効いたりもするからちょっと手間がかかるけど受けるといいかも」

 最後にテナは右の受付を指さした。

「あそこは商業ギルド。さっき見た商店とかを統括しているギルドだね。商人を目指すのならあそこで手続きをするよ。商業ギルドの依頼もこなしたらいろいろと特典があるほかに、あそこでは外で採取した薬草だったり鉱石の買取をしてくれるよ」

「なるほど、入って正面にあるのが冒険者ギルド、左にあるのが農工業ギルド、右にあるのが商業ギルドね」

「そうそう。どうする?いまからジョブを決める?」

「うーん。そういえば基礎ジョブって言っていたけど、何か条件をこなしたらほかのジョブにもつけるの?」

「うん。例えば魔獣を傷つけずにテイムし続けると【魔獣使い】っていうジョブが解放されたり、なにか条件を達成したら解放されるジョブもあるよ。ジョブは無数にあるって話で、まだ発見されてないものも多いんだ。そういったジョブは条件が難しい代わりに基礎ジョブよりも大きな恩恵があるんだ」

 テナの説明にアリーザはなるほどと考える。

「ジョブは一つしかつけないの?」

「最初はそうだね。でもレベルアップだったりでつけるジョブは増えてくよ。もしも迷っているなら無理につく必要もないと思うな。恩恵は受けられないけど、プレイに大きな影響はないから最初から頑張って強いジョブを探す人もいるくらいだし」

 テナの説明にアリーザは考える。

(さっきの感じだとそれほど困ることはないだろうから無理に今すぐジョブにつかなくてもあえて難しい条件のジョブを探すのも面白いかもしれないな)

 もっとも今のアリーザが苦戦するようなモンスターは現状ゲーム内に存在していないのだが。

「それなら私も今はつかなくていいかな」

 アリーザはの言葉にテナは「それもいいと思うよ」と頷いた。

「ああ、そうだ。買取ができるのならこれも買い取ってもらえるかな」

「ん?なにか持ってるの?」

 アリーザはステータス画面のアイテムボックスからさっき手に入れたドロップアイテムを取り出す。

「これなんだけど」

 そういってアリーザが差し出した首飾りをみたテナは信じられないという表情でアリーザを見る。

「『猛牛の首飾り』じゃん!!」

「そんなに驚くものなの?」

 テナの大きな反応にアリーザは首をかしげながら訪ねると、テナは興奮冷めやらぬ様子で話した。

「これはエリアボス【インパクトブル】のレアドロップだよ!いったいいつ手に入れたの⁉」

「このゲームに来て、自分の能力を試してみるためにちょっと」

 テナが目を丸くしていることを気が】りに思ったアリーザは『牛王の首飾り』を詳しく見てみた。

  『猛牛の首飾り』:STR+20 VIT+10

   『衝撃波』自身の攻撃に衝撃波を加える          

(衝撃波というとあいつが使っていたあれか。でもあれはそんなに強くなかったけどな)

 テナは信じられないという表情を浮かべながら恐る恐る口を開いた。

「これ、本当に売っていいの?」

「うん。私には不要なものだから」

「そ、そうなんだ。ところでアリーザはこれをどうやって手に入れたの?」

「そのインパクトブルとかいうやつを倒したら出てきたんだ」

「そ、そう」

 もはや半ば放心状態のテナを置いてアリーザは買い取りを行ってもらうために冒険者ギルドの受付へと向かった。

「ようこそ。今日はどのような用件でしょうか」

 受付にいる男性がアリーザに対してそう話しかけてきた。

(おそらくこの人間もNPCなんだろうな。どこからどう見ても生きている人間にしか見えないけど)

「これの買取をお願いしたいんだけど」

 そういってアリーザはカウンターに首飾りを置く

「かしこまりました。ってこれは!本当にこれをお売りになるおつもりですか?」

「そうだけど」

「そ、そうですか。かしこまりました。えー、こちらは7000コインになります」

 受付の男性がそう言うとアリーザの目の前に『7000コインを獲得しました』という通知が来る。

「ありがとうございました」

 アリーザは男性に見送られながらテナのもとに戻る。

「戻ったよ」

「おかえり。どうする?せっかくだしこのまま薬草採取のクエストにでも一緒に行かない?」

「いいの?」

「うん。ちょうど、わたしも受けようと持っていたところだから」

「それならお願いしようかな」

「よーし!じゃあ決まり!」

 アリーザはテナと一緒に冒険者ギルドの受付で薬草採取のクエストを受けたあと、ギルド会館を後にした。

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