第3話

 門から外に出たアリーザはそこに広がっている光景に思わず目を奪われた。

 そこには平原が広がっており、離れたところのは森や山が見え、土が露出した街道が遠くまでが続いている。

 心地よい風が吹き、植物の香りがするその光景はここがゲームの中であることを忘れさせるほどのものだった。

「ほんと、現実にしか見えないな」

 驚きを通り越して苦笑しながらそう言うアリーザ。

(さて、街の近くだと目立つかもだからちょっと離れようかな)

「『エアリアル』」

 アリーザは空に浮かんだ。

「うん。一応魔法は使えるみたいだな。とはいえこれだけじゃまだわからないし」

 アリーザはそのまま空を飛んで街から離れる。

 上空を飛んでいるとたびたび牛や羊のような姿をした生き物と、それと戦っている人の姿が見える。

「あれを倒すことがこのゲームの目的なのかな?」

 今すぐ戦いに行くということもできるが、攻撃魔法はまだ使用可能か確認していない。

 ひとまず無視しておくことにしたアリーザはさらに街から離れる。

 次第にうっそうとした木々が生い茂る森が見えてきた。

 あまり森に近すぎるとそれはそれで被害が拡大するかもしれない。

「このあたりでいいかな」

 アリーザは飛行するのをやめて地面に着地する。

 そのまま歩いていると、周りに人の気配もない、開けた場所に来た。

「ここなら大丈夫そうだね。それじゃあさっそく」

 アリーザは左手を前に突き出す。

「『ブリザードグランド』」

 途端、絶対零度と呼ぶにふさわしいほどの冷気がアリーザを中心に半径100メートルほどの円形に広がる。

 不幸にもアリーザの周りに湧いてしまったモンスターは一瞬にして倒され、魔法の効果範囲でなくともわずかでもその冷気を浴びてしまったものは等しく凍り付いてしまった。

 幸いなことは周辺にほかのプレイヤーがいなかったことだろう。

 しかしこの結果にアリーザは満足のいかないような表情をする。

「やっぱり、威力が落ちている」

 本来この魔法は発動すれば国一つを凍り付かせるほどのものである。

 威力を抑えているとはいえ思っていたよりも威力が下がっていたことにアリーザは困惑した。

「じゃあこれならどうかな。『ボルケーノウェーブ』」

 凍り付いていた大地が一瞬にして灼熱の炎に包まれる。

 地面は溶解し、触れただけで燃え尽きるほどの熱気に包まれる。

「うーん。やっぱりこれも威力が落ちている」

 アリーザは肩を落としたが、アリーザが使用した魔法はすでに一人のプレイヤーが出すことを想定された威力を大幅に超えていた。

 結果、このあたり一帯はあらゆる生き物のHPを即座に刈り取ってしまう即死エリアと化してしまった。

 いつも通りではないとはいえ無事に魔法が使用できたことにひとまずは満足することにしたアリーザは周囲を散策する。

「次は攻撃がこの世界の生き物にどの程度通用するか確かめないと」

 確認するとしても弱すぎても強すぎても確認にならない。

「『サーチ』」

 アリーザは感知魔法で周囲を調べる。

 あたりにはさまざまなモンスターの気配がするが、どれもそれほど強い気配でない。

 さらに範囲を広げると、ひときわ大きな気配を見つけた。

 アリーザの感覚ではそれほど強そうには感じないが、それでもこのあたりにいるモンスターの中では格が違う。

「よし、じゃあ早速行ってみようかな。」

 再び『エアリアル』で宙に浮かぶアリーザ。

 音を置き去りにするスピードで気配のするところまで一気に加速する。

 草原と森の入り口の間に砕けた大きな岩が転がった土がむき出しの場所が姿を現した。

 そしてその奥には森に入るのを妨げるかのようにして、3メートル近くの大きさがある体は赤く、黒い2本の角を持った牛のような見た目をしたモンスターが座っている。

 頭上に表示された名前は【インパクトブル】。

 最初のマップに存在するエリアボスモンスターであった。

 その動きは単調だが、一撃の攻撃力が高く、素早いため、相手の動きをよく見て戦う必要がある。)

「さて、あなたはどれくらい強いのかな」

 アリーザがインパクトブルの目の前に降り立つと、それに気が付いたインパクトブルはゆっくりと体を起こした。

 足が地面に打ち付けるたび、どしんどしんと大きな音が響く。

 動こうとしないアリーザに対し、インパクトブル低くうなった後、角を正面に向けてアリーザにむかって勢いよく突進してくる。

 走るたびに地面が揺れるが、アリーザは慌てるそぶりも、かわすそぶりもみせない

 インパクトブルの突進がアリーザに直撃し、ドーンという大きな音とともに周囲に衝撃波が広がる。

 アリーザのレベルはさっきの魔法によって知らぬ間に倒されたモンスターによる経験値でレベル4まであがっていた。

 しかしこのインパクトブルを倒すための適正レベルは20である。

 そのためレベル4のプレイヤーではあっけなくHPをゼロにしてしまう・・・はずだった。

「うーん。さすがに勇者よりも威力が弱いね。力任せの突進じゃなくてもっと相手をよく見たうえで攻撃しないと」

 インパクトブルの攻撃を左手で受け止めたアリーザはポンポンと諭すようにインパクトブルの頭を軽くたたく。

 自身の攻撃が全く通用していないことにインパクトブルは怒りを通り越して困惑し、すぐに距離をとろうとする。

 しかし、軽く載せているだけのようにしか見えないにもかかわらず、アリーザの左手はインパクトブルを逃がさない。

「じゃあつぎは私の番ね」

 アリーザは空いている左手に魔力を集中する。

 巨大な魔力の流れに対し、インパクトブルは直感的に危険を感じ、必死に逃げだそうとするが叶わない。

「いくよ!『ボルトランス』」

 アリーザが右手を振り下ろすのに合わせて空から巨大な雷の槍がドカーンという雷鳴とともにインパクトブルに突き刺さる。

 辺りに飛び散る雷は周囲を焼き焦がす。

 その身を焼き焦がされ、HPがゼロになったインパクトブルは塵となって消滅してしまった。

 残ったのは戦った後だけ。

 アリーザは「うん」と満足そうに頷く

「この感じだと問題なさそうだな。私の今の能力についてはわかったしひとまずさっきの街まで戻ろう」

 帰りは特に急ぐ必要もないのでアリーザは街まで歩き始めた。

 そのころ街では突如としてマップに異常が見られたうえ、森の方で巨大な雷鳴とともに光の柱が出現したことがプレイヤーたちの間で騒ぎになっていた。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る