第2話

 意識が戻り、目を開けようとしたとき、突然差し込んだ白い光に思わず目を瞑る。

 次第に目が慣れ、目を開けるとそこには白い雲が漂う青い空が広がっていた。

(これは、日差し?それにこの空の色)

 ありえないとアリーザは驚く。

 魔族たちの中には日の光が苦手なものもいるため、魔族の支配領域はアリーザの魔力によって常に闇夜に包まれている。

 人類を滅ぼした後はそれがすべての場所にまで及んだため、アリーザは長らく日の光を見ていなかった。

(本当にここは異世界のゲームの中なんだ。でも、この風景、とてもゲームだなんて思えない)

 アリーザの知るゲームというと模擬戦やボードゲームといったもの。

 しかしアリーザの目の前に広がるのは緑にあふれた街並み。

 アリーザが今いる場所は広場のようなところだった。真ん中には大きな噴水があり、四方に石造りの道が広がっている。

 街の周囲は城壁で囲まれているようで、正面には外へとつながる門が見える。

 左右後ろにも建物が見えるが、今はそれを気にしている場合ではない。

「まずは現状を確認しないと」

 アリーザは自分の服装を確かめ、そして驚いた。

 最上級の布で作られたの黒い部屋着はどこへやら、身に着けているのは明らかに性能が低そうな白い半そでのシャツに黒の長ズボン。腰には革製の小さなポーチがつけられている。

 ゲームで言うところの初期装備であるが、自分の服装が突然貧相なものになっていることにアリーザは困惑する。

(ここに来る前に盗られた?いや、そんな気配はなかった。だとするとこれもゲームの仕様なの?)

 幸い麻のように見えるが着心地は悪くない。

 それにゲームのしようということであれば現実に戻れば元に戻っているだろうからそれほど気にするようなことでもない

 それよりも、とアリーザは噴水から流れる水面を覗き込んだ。

 濁りが一切ない透き通った水面に映っているのはわずかに赤みのかかった黒い長髪を後ろで一つむすびにした赤い瞳の少女。日焼けを知らない血液が通っているかも怪しいほどの白い肌。開けた口からは白い二本の牙が顔をのぞかせる。

「よかった。容姿に変化はないみたい」

 服装が変わったとしてもあまり大きな問題はないが、容姿まで変わってしまうと行動に支障が発生してしまうかもしれない。

 そのため変化がなくて良かったと胸をなでおろすアリーザであったが、それはアリーザが特殊な方法でこのゲームにログインしているからである。

 素顔をさらすとなるとプライバシーの問題が生じかねない。そのため基本的に始める前にキャラクター作成を行うが、おそらくそんなことを言われても混乱するだけだろうとアリーザがゲームを始める前にユグネルがその過程をスキップするように細工しておいたのである。

 とはいえ異世界に住むアリーザの素顔を知ったところでどうにかできるわけもない。そもそも人間離れしたアリーザの容姿を素顔だと思うものの方が少ないだろう。

 アリーザは次に自身の力は問題なく使うことができるかについて確かめるために軽く体を動かしてみる。

「体は、問題なく動くね。ちょっと力が制限されているような気もするけど、それでも大きな問題はなさそう。魔力もいつも通り流れている感覚があるから問題なく使えるのかな?」

 しばらくの間うーんと考えたアリーザは「よし」と頭をあげる。

「このままここにいるわけにもいかないしどこかで魔法がちゃんと使えるかどうかを確認しよう」

(とはいえさすがに意味なく街中で使うわけにはいかないよね)

 そう考えたアリーザは外へと通じる門の方へ歩き始めた。

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