4‐1

 わたしは串刺公ブラドって呼ばれてた毒々しい人ともども救出された。


 ようせいしたやみまで飛んできてくれたかけはしくんが、じゅく<ばんゆういんりょく>のじゅもんで地中深くから引っ張り上げてくれたおかげだ。


 当のかけはしくんは倒れた大木に腰かけたまま、じろりと目を細めてるけど。


「……えっとぉ」


 わたしは苔むした地面にへたり込んだまま口を開く。


 だけど言葉が続かなかった。


 なんて話せばいいかわかんないよ。


 かけはしくん、見るからに不機嫌そうだし。


「味方を信じろとは言ったけど、無茶しろだなんて言ってないぞ」


「ごめんなさい……」


 ほんとは『助けてくれてありがとう』ってつけ足すべきなんだと思う。


 できっこない。


 ふたを開けるとかけはしくんを都合よく利用した感じで、なんだか気が引けちゃうよ。


 助けてもらえてこんなに嬉しいのに。


「ったく」


 かけはしくんがわたしから顔をそらす。


 わたしは彼の視線を目で追った。


 すると、倒れてる不良男子と法務官の男性が視界に入ってきた。


 ふたりともおだやかな呼吸をしている。


 ぞうじゅもんかいじゅされて、赤い毒煙の影響もきれいさっぱりなくなったようだ。


 でもかけはしくんが見てるのは彼らじゃなかった。


 彼らの近くで両手を後ろについて座ってる毒々しい人のほうだ。


「で、おまえがうるみに無茶させた元凶ってわけだな」


「ハッ、煮るなり焼くなり好きにしろよ」


 威勢が感じられるのは口調だけ。


 毒々しい人はどっと疲れた様子だった。


「オレはここまでよ。見ろよ女、<ランケンシュイン>がただの棒きれに戻っちまってるよ」


「魔力切れってこと?」


「……言わせんなよ」


「よしとりあえず聞くぞ。おまえは何者だ?」


ぶすじま串刺公ブラド。一七歳。チーム・終末日ウィークエンドの――ハッ、今じゃとんだ面汚しの腐れよ」


「そんな言い方ないだろ。女がすたるぞ」


 かけはしくんの言葉にわたしは目を丸くしてしまった。


 言われた本人もびっくりしたようだ。


 もう一度口を開くまでしばらくぽかんとしていた。


「……ふざけんなよ。おまえ、オレが女だってわかんのかよ?」


「秒でわかるぞ」


 かけはしくんは平然と答えた。


「細かいしぐさに魔力の雰囲気、加えて――っと、その格好にまどわされたら判断に困りそうだな」


かけはしくんすっごぉ……」


「なんだうるみ、気づいてなかったのか?」


「しょ、しょうがないじゃんっ」


「人を見かけで判断するな。赤点」


「採点しないでよぉ」


「じゃあ追試」


「悪化した!?」


「ハッ、フフ……」


 毒々しい人はまるで毒気を抜かれたかのように笑いだした。


「んだよ、強えやつの味方は見る目からしてとんでもねえのかよ。こんなの勝てるわけねえだろがよ」


串刺公ブラドだったな。おまえもチーム・終末日ウィークエンドとやらの一員で間違いないな?」


「ああ」


「なら百獣王ライオと一緒にセントラリオンまで来てもらうぞ。いろいろと話を聞く必要がありそうだからな」


「異論はねえよ」


 わたしの予想よりも話がスムーズに進んでる。


『煮るなり焼くなり好きにしろよ』なんて言ってたけど本気みたい。


百獣王ライオが起きたらオレからも伝えてやるよ。なんならすぐにでもたたき起こすかよ?」


「いや、寝ててもらったほうが運びやすい」


「<ばんゆういんりょく>で運ぶの?」


「さあてな。あいつのやる気次第だ」


 かけはしくんはわたしに耳をすますよう手振りで示す。


 いざ試してみると、木々がかさかさする音の向こう側にリズミカルな遠鳴りが聞こえてくる。


 やがてわたしの名前を呼ぶパワフルな女子の声が駆けてきたことで、わたしはその遠鳴りの正体を知った。


 よりちゃんを乗せた<びゃっ>の足音だ。


 確かに彼女ならかけはしくんに負けじと活躍したがるだろう。


「そうだ、<びゃっ>にもお礼言わなくちゃ」


 それとできればかけはしくんにも、ちゃんとした形で伝えられたらなぁ……。


「うるみ」


「ひゃっ。な、なに?」


「よくやったな」


「ぇ」


「この調子で頑張れよ」


 ほめてくれた?


 人のことをアホって言いがちな、あのかけはしくんが。


 さりげなく顔をほころばせて――。


「…………うひひ」


<とう>のじゅもん、もっと真剣にみがいてみようかな。


 味方してくれる人にまたこうして、笑いかけてもらえるんだったら。


 変なそわそわ感。

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じゅくじゅくメンタル魔熟字使いは粛々たらざる塾通い 水白 建人 @misirowo

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