第5話 突然の襲来

 学校を終え、友達と一緒に帰る。

 あの後友達はずっと僕に野球部に入るよう勧めてくるが正直野球部のアツい雰囲気は僕好みじゃないし、何よりまだ影のことについて不安が完全に無くなった訳じゃない。

 だからさっきからずっと断っているのに友達は全く聞く耳を持たない。都合の良い耳だ。


「それじゃ、俺こっちだから。ちゃんと考えといてくれよ〜!カネヤ!」

「だから僕はやらないって言ってるだろ…」

 友達の家はこの先の右に曲がった通路の先にある。この後すぐに部活らしい。友達は走って家に向かっていった。

 僕はその背中をじっと見ている。右手がまともに使えなかった時もちゃんと一人の人間として接してくれた。決して友達が多い方では無かったけれど本当に良い友達を持った。


(あれ?あいつ今あっち曲がったか?)

 友達は今確かに左に、この通路に曲がっていった。こっちにあいつの家は無い。

 不思議に思って僕は友達が曲がったであろう通路まで行く。建物の間に挟まれた通路は薄暗く、人がいそうな雰囲気がない。


 先に泉さんに事情を説明するためにメールを送っておき、少しずつ通路の奥に歩いていく。


 ほんの数m歩いた頃、後ろから足音が聞こえ、咄嗟に後ろを振り返る。


 いつの間にかさっき通ってきた道には何十人もの人が立っていた。そして前にも同じように何十人もの人がいる。

 全員の目にはクマができていて表情も暗く、まるで生きているように感じなかった。

 通路の奥を見ると友達が眠ったまま敵に捕まっているのも見える。


「…アナタが、金谷君、でスね?少し…おハなしヲ、しませんカ?」

 まるでロボットが出したかのような声で一人の人間が少しずつ僕に近づいてくる。全員の敵手にはバットやナイフ、刀などそれぞれ凶器を持っていてとてもではないが太刀打ち出来無さそうだ。


 少しずつジリジリと距離を詰められ、壁に追い詰められる。

 相手がバットを振りかざす。僕は咄嗟に目を閉じ、頭を腕で守った。

 その瞬間、ドガッという打撃音が聞こえる。

 だが、どこからも痛みを感じない。


「よし、間にあった」

 目を開くと相手のバットをはじき飛ばしている泉さんがいた。相手はすぐにバットを持ち直し、全員泉さんから少し距離を取る。


「泉さん!ありがとうございます!」

「面倒事に巻き込まれるのは好きじゃない。そこにいてて。あたしが全員やる」

 それを言い終わった瞬間、敵の一人が手に持った鉄パイプをこっちに投げつける。常人には出せないようなとんでもない速さで彼女の右腕をかすめ、壁に深く突き刺さるも、それを彼女は全く気にもとめないように僕をちらっと見た後、


「こいつら、雑魚だし。5分以内に終わらせよう」

 それを言い終わった瞬間、その場からサッと姿を消し、敵の目の前に移動していた。

 敵の足元で体を一気に下げて足を畳み、グッと力を溜めた後、バネのように高く高く舞い上がる。


 そして空中で体を上手く使って、上昇した力を弱めること無く腰を捻り、足をムチのようにしならせながら蹴りを敵の顔面に叩き込む。

 これまでに聞いたことのない、打撃音と骨の折れる音が混ざったような音がした後、近くにいた敵を巻き込んで壁に激突した。


 そして彼女が地面に着地する瞬間、3人の敵が彼女の死角から飛びかかるも彼女は全て見えていたかのようにまたその場から姿を消す。その後は先程と同じような流れだった。敵の目の前にいたはずの彼女は既に敵の後ろに回り込んでいる。


 その後は数の差を感じさせない一方的な狩りだった。泉さんは無表情のままただ体を殺戮のために動かし、泉さんに触れることの出来る敵は一人もおらず、誰一人として逃げることが出来なかった。

 さっきまで数十人もいた敵も5分もかからない内に全滅した。

 今最後の獲物を仕留め終わった。泉さんはふぅ、と深く息を吐き、返り血で染まった顔を拭いながら僕に向かって


「予想よりも1分13秒早かったか。雑魚って言ったでしょ。でも今後は一人でこんなところに行かないで。今回はギリギリ間に合ったけどもしも間に合ってなかったらあんたもこいつと同じ運命だった」


 そう言って泉さんは友達に目を向ける。

 今回はなんとか助かったけど今後泉さんが助けられる確証はない。


「ごめんなさい…でもどうしても友達を助けてやりたくて」

 まだ友達は眠ったままでしばらくは起きそうにない。泉さんは敵の荷物から出てきた財布を漁り始めた。


「それと、やっぱりあんたの顔も学校も割れてるしやっぱり危険すぎる。暫くはうちで身を隠しといた方が良いんじゃない?あんたに何かあると護衛役のあたしも怒られちゃうし」

「で、でも母さんにどう伝えろって言うんですか。こんなこと聞いたら母さん驚きすぎて心臓止まっちゃいますよ」

「…母さん、か。そんなにあんたにとってその人…母親ってのは大切なの?」

 泉さんが敵の荷物を漁りながらそう聞いてくる。なんだか少し声色が寂しそうな気がした。


「そりゃあそうじゃないですか。今は影のお陰か右手がちゃんと使えるようになりました。でもそれまでは母さんにずっと生活を助けてもらってたんですよ。今回のことで絶対に母さんを不安にさせたくはないです」

 それを聞いた泉さんは少しつまらなそうな顔になる。僕にはそれが何故だか分からなかった。


「ふーん。そう。もういいや。この後のことは宇に聞いてからまた連絡する。ほら、もう早く帰れば?こいつも連れて行って」

 そう言うと泉さんはその場から姿を消した。もう帰ったのだろう。僕は急いで友達を背負って友達の家の前で置いておき、そのまま家に帰った。

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