第67話 レアイベントに遭遇しました

 日に日に起床する時間が遅くなっている気がするのだが……気のせいでは無いよなぁ。

 とは言え、起きてしまえばやる事は同じだ。朝食を取り、身支度を整えダンジョンに向かう。それだけさ。

 上級ダンジョンのギルドを訪れたが、中が妙に騒がしいな。どうやら何かトラブルがあった様だ。

「すみませんが、何があったのですか?」

「は、はい。実はダンジョンに入った冒険者パーティが三日経っても戻って来ないので捜索隊を編成する事になったんです」

 近くの職員を呼び止めて事情を聞いた。成程、行方不明者の捜索か。慌ただしいのも納得だ……いや? ここでは「そんな事」は日常茶飯事なはずだ。それだけで騒ぐのは不自然、他に理由がありそうだ。そう思い職員に詳細を尋ねると、

「その行方不明のパーティなのですが、高ランクの冒険者が多数在籍していまして、ギルドとして今回の件を『非常事態』が発生したと結論付けました」

『非常事態』。上級ダンジョンでこの言葉を表す意味はただ一つ。

「『異階種いかいしゅ』が現れたと?」

「はい。異階種が現れたとし、現在ダンジョンを封鎖しているのです」

『異階種』。それはダンジョン内において、文字通り異なる階層の魔物が突如現れる現象を指す。

 俺が好きなRPGゲームで例えるとだ、さっきまでレベル1の敵と戦っていたのに、突然レベル50の敵と遭遇する。それも何の前触れも無くね。当然そんな事になれば、ゲームなら「ゲームオーバー」でセーブポイントからやり直しになるだけで済むが、現実であるこの世界で起これば、待っているのは「死」である。

 そんな「災害」と言うべき『異階種』だが、対処方法は皆無というわけではない。数日経てば自然と居なくなるらしい。その話を聞いた俺はゲームの「バグ」あるいは「病原菌」を想像した。恐らく俺のこの考えは正解に限りなく近いはずだ。

 ダンジョンが異常を検知して、それを治す為に行動を起こす。ダンジョンが生物ならばそれも納得出来るというものだ。数日あれば風邪くらいなら治るしな。まあ、ダンジョンが風邪をひくのかは知らんがね。

「それで、捜索隊は何時向かうのですか?」

 いかんな、肝心な事を聞いていなかった。

「……それが、今ここに『異階種』を倒せる高ランクのパーティがいないのです。その為、行方不明者の捜索が出来ない状態です」

 この国に高ランクの冒険者が少ない弊害がここにも表れたか。それに先程から嫌な予感と言えばよいのか? それが頭をよぎって離れないのだ……これは一体?




 さて、どうするか……。

 そう思案していた俺の腕を引く感触を感じそちらに目を向けると、

「……あなた様」

 真剣な表情をしたプリムラが、俺の事をじっと見つめていた。何かを訴えかける瞳だ。

「ふふ、安心しろ。最初から「そのつもり」だよ」

 そう言ってプリムラを安心させる様に、頭を優しくポンポンと撫でた。

「はいっ!」

 俺の言葉を聞いて、プリムラは溢れんばかりの笑顔を浮かべた。ああ、任せておけ。

 何はともあれ、先ずは情報収集だ。何の情報も無しに向かうのは無謀だからな。

「そのパーティが何人で、どの階層に向かったかは判明しているので?」

「ええ。人数は五人で、十五層に向かうと言っていたのを聞いていた方が居て……もしかして、あなた方が?」

「はい。私達が救援に向かいます。十一階層にワープも可能ですから」

 嫁に悲しい顔をさせる訳にはいかないさ。それに……何故だか分からんが、このダンジョンに来る時に出会った弓使いのエルフの顔が思い浮かんだ……まさかとは思うのだが……。




 その後、一悶着あったがアリスのギルドカードを見せて強引に押し切った。今は一分一秒が惜しい、特権を使ってゴリ押しさせてもらった。

 ダンジョンの入り口に到着し、嫁達に今回の作戦を説明する。

「目的は行方不明パーティを発見する事。よって道中の魔物は基本的に無視をする」

「仕方ないねぇ……」

 セフィラは少々不満そうだが、ひとまずは納得したようだな。頼むぞ? 本当に。

「桔梗を先頭に配置してその後ろを少し横に広がる感じで隊列を組む。罠も無視して進む、桔梗が頼りだ、宜しく頼む」

「おっけー。あーしに任せなさい♪」

 横ピースをして元気いっぱいに答える桔梗。お前がこの作戦の要だ。どんな小さな痕跡も逃すな。

「怪我人がいるやもしれん。その時は俺とアリスが治療をする」

「はい。お任せ下さい」

 力強く頷くアリス。頼もしいな。努力の成果を見せてやれ。

「プリムラ、ローリエは行方不明パーティが戦闘中だった場合、魔物から守る様に展開してくれ。マリー、リラ、ソニア、セフィラは周りの魔物の掃討を頼む。恐らく『異階種』と戦闘になるが、何とか行方不明パーティに近付けない様に戦ってくれ」

「お任せあれ」「我が盾に誓って守り抜きます」

「異階種とはどれ程の強さなのでしょうか」「……倒しても……いい?」「そうねぇ、おねぇさん達で倒しちゃいましょう」「アタイが一撃で決めてやるさね」

 未知の強敵と戦うかもしれないのに、誰一人として臆した様子は無く軽口を言える余裕すらある。頼もしい限りだ。全員、気合は十分だ。それでは、ミッションを開始する!

「行くぞっ!」

 俺達は十一階層へとワープした。

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