第66話 嫁さんのお願いを叶えましょう

「……朝か」

 小鳥のさえずりとうららかな朝の日差しを受け、ゆっくりとまぶたを開き起き上がろうとしたが、

「「……すー……すー」」

 両腕に柔らかい感触を感じ視線を動かすと、右腕に桔梗、左腕にリラが俺の腕を抱きしめたまま眠っているのが目に入った。当然二人共全裸だ。更に周りを見ると、見目麗しい美女の裸体が幾つも散見された。毎晩の事だが凄まじい光景だな。

暫くの間、そのまま起きずに腕に感じる心地よい柔らかさを堪能していると、両隣の二人がゆっくりと目覚め始めた。

「ん……あさ~?」

「……おきる」

 桔梗は大きな欠伸をし、リラは目元を擦り徐々に意識を覚醒させていく。そして周囲の惨状を目の当たりにし、顔を引きつらせる。

「……だーりん、体は大丈夫?」

「ああ、大丈夫さ」

 これは若さの賜物だな。神に若返りの提案をしたのは英断だったな。

「……レオンは凄い……奥さんが……百人いても……大丈夫……」

「……流石に百人は無理だと思うぞ?」

 体力的にも時間的にもな……。百歩、いや千歩譲って体力は何とかなったとして、時間ばかりはどうしようもない。百人も妻を愛していたら、朝を通り越して昼になってしまうよ。

 ん? だったら人数を分ければ良いって? それは俺の矜持が許さない。

『妻を分け隔てる事なく平等に愛する』

 これは、俺がこの世界に来ると決めた時に俺自身に課した制約……いや誓約だ。

 それが出来ないのであれば、ハーレムなど望むべきでは無い。まあ、俺のちっぽけなプライドさ。

 そうして他愛もない話を二人としていると、寝ていた嫁達が続々と置き始めた。全員で身支度を整え、朝食を取る為一階へと降りて行った。




 朝食を取り終わり、上級ダンジョンへ向かった。桔梗の実力の確認の為、再び一階層から攻略を開始した。その結果はと言うと、驚くべき能力の持ち主だったよ。

「あ、そこに罠があるね。壊しちゃうよ♪」

 遠くからでも罠に気付き、あっという間に破壊してしまう。

「う~ん、あれは壊すのがめんどーだね。こっちから進んで無視しちゃおうか♪」

 危険な罠を察知して安全な道を見つけ進行を先導したりと、足を止めることなく進めた為、前回攻略した時の速度を遥かに上回っていた。それこそ「圧倒的」と言って差し支えないレベルでね。

因みに戦闘に関しては特に語る事は無い。苦戦していたのはトラップの存在だ。人数が増えた事で、余裕すら感じられたな。

 そのままあれよあれよという間に十階層に到達し、ボスも難無く撃破してダンジョンを脱出した。すると太陽が頭上で煌々と輝いていた。恐らく正午頃かな? つまり三時間程で十階層を攻略したという事だ。桔梗の加入でこれ程変わるとは……。

 その後、ギルドにて魔石の換金を済ませ王都へと移動して来た。目的は桔梗の願いを叶える為だな。




例の服屋に到着し、中に入るとユニス店長が笑顔で出迎えてくれた。

「いらっしゃいませレオン様。本日はどの様な御要件で?」

「はい。実は嫁の一人が服飾に興味を持っていまして、少しユニスさんに話を聞ければと思って来た次第です。それと彼女の下着一式をお願いしたいです」

「どーもー、嫁の桔梗でーす」

 俺の紹介で前に出て来る桔梗。彼女の下着は、俺の世界で売られていた物と比べても遜色ないレベルの質であった。だが彼女だけにプレゼントしないのも不公平だろう。よって新しく作ってもらう事にした。

「まあ! そうなのですか。勿論、喜んでお話をさせて頂きます。それでは、先に採寸をしてしまいましょう。店の奥へどうぞ」

「よろしくおねがいしまーす」

 そう言うと、ユニスと桔梗は店の奥へと消えていった。

 残された俺と他の嫁達は店内を色々と見て回って時間を潰していた。以前にも同じ様に店を見て回ったが、こういった服装やアクセサリー等の「オシャレ」に関する物は何度見ても楽しめるのだろうな。そこは全異世界共通なのだろうね。

 暫くした後、話を終えた桔梗とユニス店長がこちらへやって来た。

「いや、素晴らしい話を聞けました。色々と参考になりましたよ、キキョウさん」

「それはあーしもだよ、ユニスっち」

 うむ、二人の仲も深まった様で何よりだよ。

「沢山のアイデアが浮かんできて今すぐにでも作りたいのですが……」

 笑顔で会話していたユニスだが、一転して表情を曇らせてしまった。

「何か問題があるのですか?」

「はい……。作りたい服は沢山あるのですが、人手が足りず作れる数に限りがあるのが現状です」

 成程ね。悩み自体はシンプルな物だ。だがそれ故に解決策も少なく、難しい悩みだな……だが、俺ならばその程度の問題など造作も無い。

「僭越ですが、私ならその問題を解決する事が出来ると思います」

「! 本当ですか⁉」

「はい、期待していて下さい。近日中に解決してみせましょう」

 この問題を解決する方法は大きく分けて二つ。一つ目は「働き手を増やす」事。人出が増えれば、それだけ多くの服を作れる事になる。しかし、現実はそう簡単にはいかない。二倍の人数がいれば二倍の商品を作れるのか? 恐らく不可能だろう。手作りという事は、その製品の「質」はその人間のスキルによって大きく上下してしまう。職歴5年の人間と半年の人間が同じクオリティの品を作れる訳がない。職人の育成に長い時間と莫大な金が必要となる。元の世界の大企業ならいざ知らず、この服屋は個人商店だ、そんな長期的投資に大金をつぎ込むのは不可能だ。ならば二つ目の方法を使うのが良いだろう。

 その二つ目の方法は「生産スピードを上げる」だ。職人一人で一日一着だったのを三着作れれば、単純計算だが三倍の生産量になる。

 では、どうやって生産数を増やすかだが……それは「文明の利器」を使用する方法。衣服を作る時に使う「アレ」だな。

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