第65話 新しい嫁とコミュニケーション(物理)を図ろう

「……程々で頼むぞ?」

「モチロンさね」

 どうせ止めろと言っても聞かないだろう。ならば釘をさす程度がベターだな。

「?」

 そして当事者の一人である桔梗はというと、首を横にコテンと傾けていた。頭の上に?マークが浮かんでいるのが容易に想像出来るな。

「な~に、アタイと一緒に「軽く」運動をしようってお誘いさね」

 そう言うとセフィラは、桔梗の前に移動し獲物である戦追を構え満面の笑みを浮かべる。これで理解出来るだろ? と言わんばかりに。

「な~る……おけおけ~。これから一緒に肩を並べて戦うんだもんね、実力を把握しておきたいって思うのは当然だよね」

 と言うと彼女はその場でクルリと一回転をした。すると驚くことに、一瞬で服装が変化しているではないか。あの回転した一瞬で着替えたのか? 恐るべき早業だ。

 そんな桔梗の新たな装いは、体を覆う黒の網目状のレオタード服の様なものに、胸と股間部を辛うじて隠している布があるだけ……と、俺がイメージする「くのいち」に近しい服装だ。うむ、彼女の魅力的な肌が透けて見えるな。当然そんな格好をしていれば、彼女の抜群のスタイルがはっきりと視認出来るし、少し動くだけで爆乳がブルンブルンと揺れて思わず「それ」に目が行ってしまう。

 しかし、それらよりも目に付くのが彼女の腰にある「刀」の存在だろう。より正確に言えば、通常の刀よりも短い所謂「忍者刀」と呼ばれる部類の物だろう。刀を見ると意味も無く心が沸き立ってしまうな。男なら仕方がない。

「準備はいいかい?」

「いつでもおっけーだよ」

「それじゃあ……遠慮なく行くさねっ!」 

 どうでもいい事を俺が考えている中、二人の手合わせが開始される。先手はセフィラ。

「そらっ!」

 セフィラの戦追が唸りを上げて桔梗に襲い掛かる……が、既にその場所に桔梗の姿は存在しなかった。

「ざ~んねん。あーしはここだよ!」

 何時の間にかセフィラの背後に移動していた桔梗がお返しとばかりに刀で切りつけようとするが、

「いいね~、そうこなくっちゃ!」

 だが、セフィラはその反撃を予測していたようで、その場を飛び退き難無く回避に成功する。

 ううむ……集中して見ていた訳では無いとは言え、回避の動きがまるで見えなかったぞ。恐ろしい程の俊敏しゅんびんさだな。

 その後も二人の手合わせは続いたが、お互い見事な回避を見せる。その様子はまるでダンスを踊っているかのようだ。まあ、お互い本気を出している訳ではないだろうしな。それにしてもだ、実に良い笑顔でやり合っているな……。そしてそれは数分間続いた。

「それじゃあ、そろそろ切り上げるとするかね」

「そうだね。とても楽しかったわ」

 おっ? 終わりか? 今回は随分と大人しい終わり方だな。

「よし! 最後に本気の一撃をアタイに放って来な」

 そんな事だろうと思ったよ……少しでも期待した俺が悪かった。

「よ~し、遠慮なくド派手な一発をお見舞いしちゃうよ!」

 桔梗の方もノリノリだな……いや……まあ、いいんだがね。

「それじゃあ……いっくわよっ!」

 威勢の良い掛け声と共に桔梗が眼前で両の掌を勢い良く合わせ「パンッ」という小気味よい乾いた音が辺りに響き渡る。

「むっ?」

 それを合図として桔梗の魔力が高まり始めた。魔法を使うつもりか? それと魔力の高まりを察して、セフィラも警戒を強めたな。

「しっかりと防御しないと火傷しちゃうよ? 頑張って防いでね……『忍法・焔鳥ほむらちょう』!」

 桔梗の魔力の高まりが最高潮に達したその時、彼女の周囲に無数の炎が浮かび上がる。そしてその炎が瞬時に形を変えて「鳥」の姿となる。その無数の火の鳥が凄まじい速度でセフィラに襲い掛かる!

「はっはっは! 随分とド派手な技じゃあないか……いいねぇ、燃えてきたさねっ!」

 その攻撃に対しセフィラは、戦追を水平に構えその場で「独楽こま」の様に回転し始めた。成程、そうくるか。

「うおぉぉぉりゃあぁぁぁっ!」

 そのまま回転速度を上げ、姿が視認出来なくなるまでに至った。

 そして独楽になったセフィラへ火鳥の群れが襲い掛かる。だがそれらはセフィラに近付くと次々と戦追に撃ち落されていく。

 やがて全ての火の鳥を撃ち落したセフィラが、回転の速度を下げていく。そしてピタリと止まり桔梗の方を向き満面の笑みを見せた。

「いい攻撃だったねぇ、面白いモン見せてもらったよ」

「あーしも。あんな風に防がれたのは初めてだよ、凄かったね~」

 そう言って二人は笑顔で握手を交わした。取り敢えず無事に終わったようで何よりだ。

「それじゃ、次は誰が手合わせするんだい?」

 いや、あの……さも当たり前の様に次の対戦をうながすのは止めませんか?

 しかし、俺の心配は杞憂に終わり次戦が行われる事は無かった。理由は単純、誰も名乗り上げなかったからだ。

「勿体無いねぇ」

 セフィラはそう一言呟いただけで、それ以上は何も言わなかった。皆が戦闘大好き人間だと思ってないよな?

「では、戻るとしようか」

 新たな嫁を連れ、俺達は我が家へと帰還するのであった。




「直ぐに夕飯の準備をしますね」

 そう言ってマリーがキッチンへと向かい夕飯を作り始める。その手伝いにソニアとアリスが名乗り出る。そして残りのリラ、ローリエ、セフィラは無言で中庭へと向かった。まだ動かすというのか? 元気が有り余っているな。

「え~と……あーしはどうしたら?」

 そして残ったのは俺と新入りの桔梗のみ。ふむ、ここは俺がフォローしなければなるまいな。

「俺が家の中を案内しよう。これからここで暮らすのだ、何処に何があるか分からないと不便だろう」

「うん、ヨロシク♪」

 というわけで、桔梗と共に家の中を散策した。

 まあしかし、いくら広い家と言っても10分もあれば隅々まで案内するには十分だ。他にする事も無いので大人しくリビングに戻るが、当然夕飯の支度は未だ終わっていなかった。

 暫くの間は俺との雑談に興じていたが、慣れない環境で落ち着かなかったのか、それとも何もしてない事がいたたまれなかったのか、

「あーしも手伝うね」

 と言って夕飯準備組に合流した。今は楽しそうに談笑しながら仲良く料理を作っているよ。




 暫くすると、俺の嗅覚に反応が。食欲を刺激される良い匂いだ……そろそろ準備が終わるかな?

 そんな良い匂いに誘われたのか、中庭に居たメンバーも足早に戻って来たな。

「お待たせしました、支度が出来ましたよ」

 夕飯の準備をしていた面々が料理を持ってやって来た。今日のメインディッシュは魔物の肉を使ったステーキだ。それとサラダとパンもあるな。惜しむらくはステーキがダッシュバードの肉ではない事か。アイテムボックス内の在庫は全て吐き出してしまったからな、その内狩りに行くとしよう。

「いただきます」

「「「いただきます」」」

 普段の癖で俺が食事の時に「いただきます」と言っていたら、嫁達に「何それ?」と問われたので、小難しい事は教えず「食事をする時の合図」とだけ教えておいた。それだけ分かれば十分さ。それ以降嫁達も一緒に「いただきます」と言うようになったわけだ。因みに新しく嫁になった桔梗は俺と似た文化圏で暮らしていた事もあって「いただきます」について何の問題もなかったよ。

 皆でおしゃべりしながら夕飯を食べる。話の内容は今日戦った魔物やトラップの事で、中々に物騒な話が中心だったがそれでも桔梗は、楽しそうに終始にこやかな表情で会話に加わっていたのが、何故か印象に残った。

 食事の後は全員で風呂に入る事にした。戦闘での疲れを癒さねばな。意外だったのは、桔梗が特に恥じらう訳でもなく手早く服を脱ぎ他の嫁達と仲良く風呂場に向かって行った。俺の裸を見て多少なりとも恥じらうかと思ったのだが……。

「えへへ、背中洗ってあげるね、だーりん♪」

「では、お返しに俺も洗ってあげよう」

 そして二人仲良く背中を洗い合う。終始和やかな雰囲気で入浴タイムを終え、寝室へと向かいその時を迎える。

「やっぱり、ちょっと恥ずかしいね」

 特注の巨大ベッドの上にちょこんと座り、頬を赤く染めているのは本日の主役である桔梗。その頬を赤く染めている理由は、可愛らしい下着姿を俺に見られているからなのか、それともこれから行う行為を、周りにいる他の嫁達に見られる未来を想像してなのか。或いはその両方か。

「まあ、なんだ。周りの事は気にするな……と言っても難しいか。数日もすれば慣れるさ」

「そ、そうなんだ……」

 実際俺も含めて全員「それ」が当たり前になっているからな。慣れとは実に恐ろしい。

「あのね……だーりん。あーしね……こーゆーことは初めてでね……」

「ああ、分かっているさ。安心して俺に任せてくれ」

 不安な顔をした桔梗を優しく抱き寄せ、ゆっくりと口付けを交わした。そして俺と桔梗は一つに繋がっていくのであった……。

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